米国の中国攻勢→ファーウエイ副会長逮捕の衝撃5

結局は中国自身が経済原理に応じた投資に戻るしかないのですが、現在では国内企業債務膨張が限界にきているだけではなく、失業率増加に直面しているはずですがそれらが報道規制で表に出ません。
中国の債務問題は過剰設備→過剰生産→国外出血輸出→世界中の生産秩序破壊(漁業で言えば、乱獲と同じ)あるいは南沙諸島の埋め立てなど中国が「のたうち回る」のに追われて世界は鉄鋼の出血輸出規制とか領土侵害対応など目先の対応に追われてきました。
本来震源地の中国が経済不振を正視しないで目先を変えて誤魔化そうとしていたことが原因ですから、(鉄鋼出血輸出の場合、一定期間続けばその企業が倒産しますので国際圧力で縮小したのではありません・・政府が赤字補填を続ければ続きますが、その分国内で債務が累積していきます)内部的には倒産や債務超過が拡大の一途をたどっているはずです。
たとえば以下の通りです。
https://forbesjapan.com/articles/detail/24130#

2018/11/29 06:30
中国の債務問題、対米貿易戦争より重大な理由
米中の貿易戦争は、金融市場に大きな不安をもたらした。だが、この問題もいずれは収束を迎えることになるだろう。メキシコとカナダとの貿易問題と同じように、米政府が終わらせることになると考えられる。
一方、中国の債務問題は、米国には終わらせることができない。この問題は中国、そして世界の経済に大きな問題をもたらす可能性がある。つまり、中国にとって最大の問題は、貿易戦争ではない。国内外にバブル経済の危険を招きかねない、自国の債務の増加だ。
中国の政府債務の対GDP比は、公式には47.60%という低い比率だ。だが、その数値を“非公式に”把握するのは簡単ではない。それは、政府が貸し手であり、同時に借り手でもあるためだ。国有企業(SOE)と郷鎮企業(TVE)が国有銀行から借り入れをしているように、政府の一部門が別の部門に融資をしている。
それでも、いくつかの非公式な推計は発表されている。例えば、国際金融協会(IIF)は先ごろ、中国の政府債務の対GDP比は300%に達するとの見方を示した。
ギリシャとの類似点

以下省略しますが、先進国と違い貸し手が国であり、借り手も国有企業等であることから、最終的に債務カットと言っても市場原理的処理が難しいことが紹介されています。
いつ経済破綻してもおかしくない国際常識下にある中国が目くらまし的に今度は対日紛争激化させること自体が、ストップ安の引き金・・経済大混乱の引き金になる時代です。
習近平政権は自国が率先して大混乱の引き金を引く勇気がないが、国内経済の行き詰まりから目を背けるために南沙諸島の強行埋め立てや尖閣諸島侵犯行為、あるいは一帯一路計画→2025年製造強国計画など矢継ぎ早に行い国威発揚に舵を切ってしまったのですが、これが世界中の反発を受けてうまくいかず困りきっている状態でしょう。
地域大国は周辺小国相手に脅したり見栄をきっているうちは「花」ですが、世界大国の虎の尾を踏んでしまうとナチスのように限界が生じます。
習近平は政権維持のために苦し紛れの国威発揚政策の繰り返しですから、本気で米国の覇権に挑戦するまともな世界戦略があってのことではないので、いきなりトランプ氏にドスを突きつけられても、これに対する慎重な手当を用意しているはずがありません。
ここでアメリカと一騎打ちの勝負に出る蛮勇があるか?ですが、トランプ氏に25%関税を課された当初すぐにアメリカからの輸入品に同額の関税をかけるなど、一見強気に行動していたのですが、実はこけ脅しに過ぎなかったので、12月1日の首脳会談で全面降伏・・90日間猶予申し出になったように読めます。
90日間猶予の内容については、
https://ameblo.jp/katsumatahisayoshi/day-20181206.html

2018-12-06 05:00:00によれば
この休戦条件は中国にとって極めて厳しい内容です。これまで、中国が問題の存在自体を認めなかった5つの分野が検討課題に挙がり、結論を出すことが求められました。
5分野は、下記の通りです。
1.米企業への技術移転の強要
2.知的財産権の保護
3.非関税障壁
4.サイバー攻撃
5.サービスと農業の市場開放

このテーマについて90日間以内に解決策を提案できない・米国が納得するような提案がない限り、追加関税やむなしということですから、勝俣氏の指摘によれば、これまで技術移転強要などないとしていた中国が上記5点の解決策を提案するしかないと追い詰められたようです。
この首脳会談時点では、習近平は知らされていなかったのですが、ファーウエイの副会長逮捕が同時に行われていたのです。
米国を「適当にごまかして先延ばしするのは許さないぞ!」というトランプの意思表示にもなったでしょう。
習近平は「国内政治の矛盾をごまかすための対外違法行為やり放題ができなくなる・・」と、国内矛盾が、まともに迫ってきます。
もともと苦しかったから国民不満を外に向けるために国威発揚政策を始めたのですが、これが逆にアメリカの逆鱗に触れて経済制裁を受けると国内威信が下落する上に国威発揚政策発動前よりも もっと国内経済が難しくなるので、二乗倍になって矛盾激化します。
国内政治的にどうにもならない結果、1日も早くアメリカと手打ちしなければ、ファーウエイその他企業製品採用禁止などの制裁効果が効いてきますので、ほぼアメリカの主張を丸飲みしてでも(・・・例によって、約束だけして結局うやむやして守らない伝統的手法)合意に漕ぎつけるのが当面の目的でしょう。
謝り謝って?米国の制裁解除あるいは先送りをさせられればさしあたり表向き成功ですが、実際の譲歩を伴う(例えば対米輸出削減を飲まされると)以上は、今でも国内経済が苦しいのに謝り続けた挙句に今よりもっと経済が苦しくなっていくと政権を維持できるのでしょうか?
傷ついた習近平の威信をどう回復するかを考えるでしょう。
北朝鮮が現支配体制(金一族の専制支配)維持の保証が対米交渉の最優先事項であるように、彼らにとっては国民のための政治よりは、権力維持・・保身が最優先事項です。

スラップ訴訟の法原理5

スラップ訴訟については、「ネット炎上とスラップ訴訟・言論封じ2」で16年4月26日に書き初めていましたが、そのまネット炎上に戻ったママになっています。
スラップ訴訟に関する本日現在のウイキペデイアの記事を紹介しておきます。
ウイキペデイア

スラップは、社会的地位や経済的な余裕のある比較強者が原告となり、比較弱者を被告とすることで恫喝的に訴訟を提起することが多い。
実際に比較強者が訴訟を提起した場合、被告側たる比較弱者には、法廷準備費用や時間的拘束[2]などの負担を強いられるため、訴えられた本人だけでなく、訴えられることを恐れ、被告以外の市民・被害者やメディアの言論や行動等の委縮、さらには被害者の泣き寝入りを誘発すること、証人の確保さえ難しくなる。したがって原告は、仮に敗訴してもスラップの主目的たる嫌がらせを容易に達成できる。

上記はまさに、私が「ネット炎上とスラップ訴訟・言論封じ2」で16年4月26日に具体的な想定例を挙げた通りの内容です。

・・・アメリカ合衆国カリフォルニア州では、「反SLAPP法」という州法に基づき、被告側が原告側の提訴をスラップであると反論して認められれば公訴は棄却され、訴訟費用の負担義務は原告側に課される[3]。
日本では反スラップ法はありませんが、上記ウイキペでイアでは以下の事例が紹介されています。
スラップであると報じられた実例。
日本
幸福の科学事件[5][6][7]
2011年6月、甘利明が週刊ニュース新書に対し取材記者、キャスター、プロデューサーを名誉毀損で提訴した[8]。
オリコン・烏賀陽裁判
2012年、明治大学教授野中郁江の学術論文などに対し、関連投資ファンドの経営陣が5500万円の損害賠償を求めた名誉毀損訴訟[9]。
弁護士澤藤統一郎からブログで批判されたことに対し、DHCと会長吉田嘉明が名誉毀損であるとして、損害賠償を求めて提訴したが、請求を棄却した事例[10]。
2012年、大渕愛子対My News Japan記事削除仮処分申請事件。原告が訴訟を、被告が記事をそれぞれ取り下げたことで和解が成立した[11]。
ユニクロ(ファーストリテイリング)がユニクロの過酷な労働環境を告発した文藝春秋社『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生著)に対し、2億2千万円の損害賠償、出版差し止め、発行済み書籍の回収を求めた裁判[12][13]。一審、二審、最高裁全て「真実」「真実相当性がある」としてユニクロの全面敗訴。
読売新聞が押し紙の問題を載せた週刊新潮とジャーナリストに対して行った訴訟[14]。
NHK受信料支払い拒否問題に関連して、日本放送協会に対して裁判を起こすようアドバイスした「NHKから国民を守る党」に対して日本放送協会が起こした訴訟[15

日本では革新系によって、政治で負けたことの蒸し返しのための訴訟提起の頻発・・司法が政治に介入しすぎないかの不満・イメージが増幅されてきました。
しかし、厳密に言えば、国会や市議会等で政治で決めたことの蒸し返しではなく、議会等で決めたルール違反を指摘する・司法はその有無を認定しているに過ぎないのであって左翼系に対する批判が当たりません。
(ネット等では司法・法律家の左傾化などを煽っていますが、非合理な感情的批判をあおっているにすぎないように見えます。)
例えば、原発の運転再開訴訟その他では多くが政治決定に不満な勢力中心に粗探し的に訴訟提起する印象ですので、結果からみると政治決定に司法が介入しているような印象ですが、訴訟テーマは政治で決めた運転基準に違反していないかのチェック訴訟です。
イラク派兵問題では国会で決まったことの蒸し返しではなく、特措法の適用範囲であったかどうか・・戦闘地域であったかどうか・現地実態はどうであったかの事後検証審議のための日誌の開示を国会で問題にしていたにすぎません。
沖縄基地の政府と県との訴訟は、埋め立て許可基準に合致しているかどうかの争いです。
結果だけ見ると、左翼系による訴訟戦術で政策実現妨害を受けているイメージが強いので、不満を持つようになった右翼系がイメージだけ学んで「それならば!」とばかりに追いかけ的訴訟提起することがこの数年多くなっていますが、(NHK訴訟など多くの事件が敗訴になっているようですが、)訴訟に馴染むものとなじまないものがあるというあたり前のことに気をつける必要があります。
日本の左翼系も政府施策に反対するために同じように何でも訴訟する傾向があるように思い込んでいる人が多い(ネットでは不満が溢れていますが・・)のですが、(長崎の諫早水門開門訴訟や、原発運転停止や空港騒音による運行差し止め・・沖縄基地移転などなど政治問題の多くが国会で決めるのではなく?裁判闘争に訴えるのが普通です)ここ数年では、日本民族系も逆に訴訟に訴える戦術を取り始めました。
ところが、アメリカ社会や日本の左翼系は長年の訴訟経験で訴訟戦術に長けているので、訴訟経験のない右翼・民族系がモノマネ的訴訟をすると却って返り討ちにあうリスクが高まります。
粗暴な相手があまり暴力を振るうので、日頃やられっぱなしの柔弱な男が殴り返したら半殺しに遭うようなものです。
相手のやり方で対抗するならば、相応の鍛錬が必要です。
素人が鍛錬しても意味がないので、、やはりアメリカ式の訴訟ルールに日本法律家も習熟していく必要があるでしょう。
17年10月5日「言論の自由(国家民族や集団のため1)」で自由主義・人権保障や金融資本の本家アメリカで、独占禁止法違反や不正競争違反あるいは金融規制など、権利行使の限界に対する規制が厳しくなっていると紹介しましたが、なんとなく日本では訴訟天国と言われているアメリカでは、逆にそれだからこそ訴訟の分野でも「乱用は許さない」という厳しい運用・・スラップ訴訟法理が発達していることがわかります。
3権分立の原理もどちらかというと形式的理解ではなく、「政治分野に司法は介入しない」という厳格な運用を垣間見ることができます。
トランプ氏の移民規制は、大統領令であって議会意思を反映したものではないから単純な司法審査に馴染んでしまった可能性があります。

アメリカの自治体10(草の根民主主義の妥当領域3)

http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col517.htmlによれば、サンフランシスコ市議は十一人しかいないようです。
町内会のように防犯灯をどこにつける廃止するか、ゴミ回収場所の新設程度のテーマの場合、ボランテイアなので、「今日は仕事が遅くなっていけないのでよろしく」程度の挨拶ですむのでしょう。
「市民の代表として市議同士が議論をして市民が傍聴するだけの日本と違い、この方式だと市議同士の議論というより市議と住民との対話集会のようで、住民意見開陳が終わると開陳されたその場の意見を参考に即座に出席市議が評決するので市議同士の密室の議論もないと解説されています。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/ronbun/jichius.htmlの続きですが、

「多様な役職者が選挙で選ばれる一方、市議の数自体は少なくなる。アメリカの市議会は通常5、6人、大都市でも10人前後である(表3参照)日本の市議会が「議員が話し合う」機関なのに対してアメリカの市議会が「市民の話を聞く場」であることと関係している。参加市民とのやりとりを通じて物事を決めていくのであれば、市議はある意味で裁判官のような役割を果たし、何十人もの議員は必要でなくなる。」

いわば、体操やフィギアスケートなどの採点者のような雰囲気ですから、市議が5〜10人もいれば十分・・何十人もいらないという原理らしいです。
日本の公聴会は型式的進行ですが、アメリカの住民自治というのはこうした直接的な意見表明で行われている・・まさに草の根の対話で物ごとが進んで行くらしいのには驚きます。
裁判でも有名な陪審制度の基礎がここにあります。
政治であれ裁判であれ、「内心の意向を汲み取るのではなく、はっきり言ってくれたらそれを参考に結論を出す」と言う単純な社会構造です。
上記論文を読んでいると我が国の町内会運営よりも直接的なイメージです。
私のいる自治会の場合、ゴミステーションをどこにするかとか防犯灯設置または廃止についての議論でさえ利害関係者一人も出てきません・・。
出て来ないで「悪いようにはしないだろうと言う」お任せ方式で不利だったら後で不満を言う方法です。
ですから、町内会役員や市議は後で不満が起きないように意見を聞いて歩くサービスが要請されていてこれをしないで独断でやってしまうとあとで恨まれます。
二者択一の選択しかない場合、一方当事者の意に反した結果になるのは当然ですがその時には、意に沿うように努力したが他の役員や市議におし切られたとかの言い訳が必要ですから(これを繰り返すと今後投票しないと言われます)その前提として自分の意見を聞きにも来なかったと言うのは最悪になります。
日本では会議に出てこない人や発言しないひとの意見を重視する社会ですから、市議・県議に限らず上に立つ人はすべからず御用聞きみたいになるゆえんです。
これが日本のボトムアップ・忖度政治の原型ですし、市議等が市民の意向を聞いて歩くために忙しく動く必要のある原因です。
例によってアメリカはこうだ・・・「夕方から議会を開け、議員定数を減らせ、議員はボランテイアにしろ」という乱暴な意見がトキおりメデイアを賑わせますが、日本では自治レベルが高く議会で論じるべき自治権の範囲が違うし、これに比例して議論レベルがアメリカとは違う・自治体といっても数十人規模の自治体数十万人規模の自治体と一緒にする無理な意見です。
このあとで紹介しますが、アメリカでは数十人規模の自治体などがかなり多くを占めていますし、単純目的だけ(自前の警察がほしいとか「蚊の駆除」や学校をつくるなど)の自治体もいっぱいあります。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/ronbun/jichius.htmlによれば以下の通りです。

「日本には人口1000人を割る自治体はほとんどないが、アメリカの自治体の半数は1000人以下である[12]。人口数十人、数人というところもまれではなく、1997年の調査では、全米19,373の市(Municipal Government)のうち905、の町(Township)のうちが人口99人以下である[13]。そうした小自治体を紹介した貴重な資料にデニス・キッチン『我らの最も小さい町々』[14]がある。自治体研究の必読書とも言える同書からそうしたマイクロ自治体の事例をいくつか紹介してみよう。」
*ノース・カロライナ州のデルビューは人口16人の町。1925年に設立されて以来「3家族以上の家があったことがなく、これからもないだろう」と言うのはバン・デリンジャー町長だ。彼の祖父とその2人の弟がここで養鶏場を経営していたが、野犬がニワトリを食べてしまうという問題があった。州法は野犬を撃つことを禁じていた。そこで彼らは独自自治体を結成し、野犬刈りができるようにした。「野犬を撃つ権利だけを規定した憲章をもつ自治体を結成した」ということだ[15]。
*ネブラスカ州モノウィは人口8人の村。だが、1990年の国勢調査の結果が6人と出た。各戸に調査表も回り、国勢調査局からの電話確認も入った。なのに結果は人口6人。政府調査の信頼性なさの好例とされ、全国に流布された[17]。
*ユタ州オーファーは1906年設立の町。かつて銀鉱山の町としてさかえたが、廃坑後衰え、現在人口22人となった。「この町には常に(馬車型の)消防車はあったが、それを置いておく消防署の建物がなかったので、車がすぐ老朽化してしまっていた」と言うのは現町長のウォールト・シューバート。「それで最新の消防車を買った時、今度こそはと消防署兼市役所の建物をたてた。町の商店、団体、住民が寄付をしてくれた」。何かNPOの運営を語るかのような口調である[20]。
*小さい町では町長がボランティアですべてをこなす。人口30人のニューメキシコ州グレンヴィルで町長をつとめるミグニョン・サエドリスが言う。「男たちが日中仕事に出ている間、(女の)ルースと私があとを引き受ける。消防車を運転し、ブルドーザーを動かし、救急隊を組織する。サラリーはなく、すべてボランティアだ。時々、夫の郵便配達の代わりもする。200キロを車で走り35の家に止まり全行程5時間かかる。」[21]
*テキサス州マスタングは、現在人口27人の町。ダンスクラブ経営者のマック・アルヘニーの主導で1969年につくられた町だ。ハイウェイ沿いのこ地域は、野生の馬が生息する草原地帯だった。アルヘニーはここに450シートのカントリーウェスタン・ダンスクラブをつくる計画をたてた。州の土地規制を回避するにはそこを自治体化する必要があったという。しかし、テキサス州政府は200人以上の住民がいなければ自治体結成の要件は満たさないと言ってきた。そこでアルヘニーは急きょトレーラーハウス場をつくり、臨時住人を集めた。見事200人以上の住民が確保し、自治体を結成。クラブもオープンすることができた[22]。

アメリカの自治体6

アメリカの自治体の実態そのものを調査研究した人の意見が以下に出ています。
以下引用するhttp://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/ronbun/jichius.htmlに詳しく出ていますが、アメリカではたった3人から10数人クラスの自治体があるし、有料の橋だけ管理する自治体や警察署だけ設置する自治体もあるなど機能的にもいろいろらしいです。

岡部一明 (『東邦学誌』第30巻第1号、2001年6月)7
「憲法には地方自治の規定はまったくない。したがって地方自治法はすべて州法。自治体を設立するのも州の権限だ。したがって自治体制度は州によってまったく異なり、本稿で詳述するような複雑さを呈する。「アメリカの自治体は・・・」と一括りにはできない。別の例をあげれば教育である。日本の教育基本法や学校教育法にあたるのはアメリカでは各州の州法である。したがって州により小学校が4年だったり5年だったり6年だったり、小学校に幼稚園が付いていたりいなかったり、高校が3年だったり4年だったり6年だったり、とばらばらである。
「郡
アメリカの地方自治制度は、概略的に言えば、まず州全土が数十の郡(County)に分割され、その中に自治体が形成される形だ。無自治体地域には郡が公共サービスを提供する。自治体がない地域はあるが、郡はあらゆる地を被っている。」
上記によると州政府は州をいくつかの郡に地域割りして出張所みたいに郡庁を設置していて、そこから自治体の設置されていない地域への警察や道路水道学校等のサービスをする仕組みのようです。
もうちょっと学校をよくしたいとか道路をよくしたいと思えば、地域の住民多数で自治体を結成すれば自分たちで警察を持てば(3〜40分離れた郡庁所在地から駆けつけるのではなく、地元警察署が欲しいという理由で自治体を作ると)治安が良くなるとか道路を綺麗にできるなどメリットがありますが、その代わりそれまで州政府・郡庁がやってくれていた分が地元負担になります。
地元負担が増えることの兼ね合いで自治体結成したりしなかったりになるようです。
貧しい地域は平均的サービスを州政府の負担で受けた方がトクでないかという発想で、貧しい地域ほどいつまでも自治体のない地域が残る仕組みのようです。
以下引用の通りアメリカの面積では大半、人口比では38%では自治体のない地域に住んでいるという実態を抑える必要があるでしょう。
「(序)市民が設立する自治体
アメリカでは自治体は市民がつくる。住民が住民投票で自治体をつくると決議してから初めて自治体ができる。決議しなければ自治体はない。だから、アメリカには自治体のない地域(非法人地域、Unincorporated Area)が面積の大半を占め、約1億人(総人口の38%)が自治体なしの生活をしている[ 1]。無自治体地域では、行政サービスは通常、州の下部機関である郡によって提供される。それでも最低のサービスは保証されるが、警察や消防が遠くの街(郡庁所在都市)から提供されるのは不安だし、地域の発展を直接自分たちでコントロールしたいということで、自治体をつくる運動が生まれ、住民投票などを経て自治体が設立される。」
警察保護区を設置した自治体の様子は上記引用記事によれば以下の通りです。
「ブロードムア警察保護区(BPPD、Broadmoor Police Protection District)委員会のピエール・パレンガットが語る[10]。サンフランシスコ市の南辺、面積1.4平方キロほどのブロードムア地区(人口5000人)は通常自治体のない非法人化地域だが、警察だけは必要だということから、自治警察だけの特別区自治体BPPDを設置している。1948年に郡議会に嘆願し、州法に定められた警察保護区の規定にのっとりを設置した。「自治体がない地域は通常、郡が行政サービスを提供する。ここでも最初は、郡警察(シェリフ)の管轄下にあった。」とパレンガットが説明する。「しかし、郡警察本部は、車で約3-40分かかるレッドウッド市(郡庁所在地)。事件があっても警察官が遠くから駆けつけることになる。地域で警察保護区をつくればサービスも迅速になるし、心配や問題があった時いつでも来れて、署長や警察官と話ができる。」
「このBPPDについて詳しくは別稿に譲るが[11]、彼らは、「迷いネコの捜索や病気の住民の様子を見に行ったり、高齢者のために郵便を出したり」もして、コミュニティー・ポリーシング(地域に根ざした警察)を実践している。住民から選挙で選ばれた3人にからなるコミッション(委員会。パレンガット氏が委員長)が運営に責任をもち、その下に11人の警察官が雇われている。戦国時代、住民が侍をやとって村を守る話(黒沢明監督『七人の侍』)という話があるが、警察保護区はまさにその現代版だ。警察署は民間住宅を改造した建物。そこに11人の侍だけでなく、延べ10人以上のボランティア市民が詰め月600時間以上の労力を提供する。」
ブロードムアの警察保護区はいわゆる特別区(Special District)のひとつだ。アメリカの自治体には日本のいわゆる市町村型の総合型自治体ばかりでなく、こうした専門サービス型の自治体がある。代表的なのは学校区(教育委員会に相当)だが、後述するように水道区、大気汚染監視区、交通区、蚊駆除区、その他多様な分野の特別区自治体がある。
道路などよくしたいと自治体を結成した地域もあります。」

アメリカには自治体のない地域が面積の過半を占め、人口比で38%が自治体のない地域に住んでいる事実をまず知るべきです。
アメリカは自治の本場というイメージがありますが、そもそもその前提にある基礎集落社会・自治の主体に関する大きな誤解があることが分かります。
もともと日本のように自然発生的に集落があって、何千年の経過でそれが育って〇〇郷や・〇〇の庄〜ムラ社会〜明治以降のムラ〜町〜市〜大都会になってきた社会とは成り立ちが違っています。江戸時代・・特に房総地域では旗本領が入り組んでいて一つの部落野中が何人もの旗本の領地に分けている(ひどい例では、一人の農地の内この農地は誰それ領地と複数領主に分かれていることもあったようです)状態であったことが、千葉県では知られていますが、こういう土着社会に領主がいてもまるで相手にされない・ムラの寄り合いで「こういう決まりになりました」と領主に届ける仕組でしかありませんでした。
領主といっても、結果報告を承認するしかない・事実上領民の決めたことを強制される社会でした。

 

アメリカの自治体5(地方政府の権能)

アメリカの自治体5(地方政府の権能)

在庫(書きだめ先送り原稿)整理の続きでテーマを2017/10/15「アメリカの自治体4」の続き・・アメリカの自治体の発展過程〜現状に戻します。
アメリカでの自治体が原発立地や自衛隊基地設置の同意権があるのか?に関しては、我々法律家に関心のある法的文言や条文が不明です。
(条文はいくらでも検索できるでしょうが、カリフォルニア州憲法だけで110ページもあると言われていますので専門家が抜き出した翻訳文がないとピンとこないという意味です)
州憲法に関するウィキペデアによれば以下の通りです。

「カリフォルニア州憲法は世界でも最大級に長い法の集積であり、110頁がある[1]。この長さの原因の一部は憲法修正条項という形を採る有権者発議が多いことによっている。」

これでまで見てきたところによると、各種許認可あるいは同意権・・権力的権限は、州政府の権限であって、自治体は設立目的に応じた各種契約やサービス供給権を持っているだけのようなイメージですが、正確にはまだわかりません。
日本でもhttp://www.seikatsuken.or.jp/database/files/n201209-188-001.pdfによると、地元自治体というだけで同意権→拒否権があるかどうか微妙な書き方です。
迷惑施設だから地元同意が必要という立論ですが、権利義務関係でははっきりしません。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82986520Z00C15A2KE8000/によれば以下の通りです。

原発と地域(1)再稼働の同意範囲 法的根拠あいまい
2015/2/10付日本経済新聞 朝刊
九州電力の川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)に続き、関西電力の高浜原発(福井県高浜町)が原子力規制委員会の安全審査に近く合格する。再稼働に必要な同意を得る「地元」の範囲が議論になっている。
再稼働に必要な法的手続きは安全審査の合格だけ。ただ立地する自治体は電力会社と「原子力安全協定」を結び、増設の際の事前協議

ただアメリカの自治体の例では以下のような事務分掌があることから逆算すると市の権能が見えてくる面があるので・・これを一応紹介しておきましょう。
17年10月12日から引用しているhttp://www.clair.or.jp/j/forum/series/pdf/h18-1.pdfによればカリフォルニア州の地方政府の権限・事務分掌は以下の通りです。

1 カリフォルニア州の地方自治体について
東海大学政治経済学部政治学科教授牧田 義輝29
第 1 節 州南部の都市トーランス市(City of Torrance)
1 トーランス市はどのような自治体か
(1)トーランス市のはじまり
トーランスは、デベロッパーの個人名で、アメリカの地方自治体がどのように形成されるのかが、日本の場合と比較しても大変面白いので、次に紹介しましよう。・・・・
1921 年には、自治化され、ほぼ 1,800 人が住むようになった。最初のトーランス市の憲章が、1946 年8月 20 日に投票の結果、批准され、次いで 1947 年1月7日に州の総務長官によって受けつけられた。
同市の初期の発展は、石油の発見、産業拡大、およびいく度かの併合によって特徴づけられている。これらの結果、ロスアンジェルス・カウンティのうちで最も大きな自治体のひとつとなり、今日では人口は、146,204 人となっている。
2)完全サービス自治体の意味
同市は、理事会・支配人制政府形態として統治される憲章市である。このことは、自治
体としての統治の仕方に確固とした方針を持ち、「完全サービス自治体」であると宣言している。
トーランス市は、他の多くの自治体のように主要なサービスを「契約」によっていない。つまり、トーランス市は、自らの警察、消防署、図書館システム、公共事業、およびコミュニティ・サービス部を持っている。
このように、通常市政府によって提供されるサービスに加えて、同市は、自ら経営して
いる多数の「企業」を持っている。
これらには、空港、ごみ処理システム、水道会社、ケーブルテレビ・システム、および交通システムを含んでいる。
・・・同市は、産業の中心地となっており、昼間人口は、約 50 万人に達している。
2 市民自治の仕組み・市民意思反映のシステムはどのようになっているか
(1)市理事会
(a)市理事会の機能は、条例を通過させ、政策と予算を決定し、課税し、収入を確保
し、支出を決定する。
(b)市理事会は、毎火曜日夕
(c)<報酬>非常勤 月給 100 ドル
<経費>理事―月 250 ドル(市長―月 350 ドル)+交通費+交通費+保険給付+公
務職員退職制度+会議などへの旅費
(d)市議会事務局長(市書記)任期なし。常勤。
3 住民の意思を直接吸収するためのシステムはどのように作られているか
〔市民委員会〕
市理事会に対して一般市民の意思反映は、どのようにして行われているのであろうか。
まず、同市の場合、注目されるのは、市民から成る常設の委員会(Commission)、評議会(Board)、理事会(Council)と呼ばれる諮問委員会が作られ、市理事会、および関連機関に対して助言を行なう。
これらの機関は、課題ごとに設置され、常時一般の市民の意見を吸収するようにしている。

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