アメリカの自治体6

アメリカの自治体の実態そのものを調査研究した人の意見が以下に出ています。
以下引用するhttp://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/ronbun/jichius.htmlに詳しく出ていますが、アメリカではたった3人から10数人クラスの自治体があるし、有料の橋だけ管理する自治体や警察署だけ設置する自治体もあるなど機能的にもいろいろらしいです。

岡部一明 (『東邦学誌』第30巻第1号、2001年6月)7
「憲法には地方自治の規定はまったくない。したがって地方自治法はすべて州法。自治体を設立するのも州の権限だ。したがって自治体制度は州によってまったく異なり、本稿で詳述するような複雑さを呈する。「アメリカの自治体は・・・」と一括りにはできない。別の例をあげれば教育である。日本の教育基本法や学校教育法にあたるのはアメリカでは各州の州法である。したがって州により小学校が4年だったり5年だったり6年だったり、小学校に幼稚園が付いていたりいなかったり、高校が3年だったり4年だったり6年だったり、とばらばらである。
「郡
アメリカの地方自治制度は、概略的に言えば、まず州全土が数十の郡(County)に分割され、その中に自治体が形成される形だ。無自治体地域には郡が公共サービスを提供する。自治体がない地域はあるが、郡はあらゆる地を被っている。」
上記によると州政府は州をいくつかの郡に地域割りして出張所みたいに郡庁を設置していて、そこから自治体の設置されていない地域への警察や道路水道学校等のサービスをする仕組みのようです。
もうちょっと学校をよくしたいとか道路をよくしたいと思えば、地域の住民多数で自治体を結成すれば自分たちで警察を持てば(3〜40分離れた郡庁所在地から駆けつけるのではなく、地元警察署が欲しいという理由で自治体を作ると)治安が良くなるとか道路を綺麗にできるなどメリットがありますが、その代わりそれまで州政府・郡庁がやってくれていた分が地元負担になります。
地元負担が増えることの兼ね合いで自治体結成したりしなかったりになるようです。
貧しい地域は平均的サービスを州政府の負担で受けた方がトクでないかという発想で、貧しい地域ほどいつまでも自治体のない地域が残る仕組みのようです。
以下引用の通りアメリカの面積では大半、人口比では38%では自治体のない地域に住んでいるという実態を抑える必要があるでしょう。
「(序)市民が設立する自治体
アメリカでは自治体は市民がつくる。住民が住民投票で自治体をつくると決議してから初めて自治体ができる。決議しなければ自治体はない。だから、アメリカには自治体のない地域(非法人地域、Unincorporated Area)が面積の大半を占め、約1億人(総人口の38%)が自治体なしの生活をしている[ 1]。無自治体地域では、行政サービスは通常、州の下部機関である郡によって提供される。それでも最低のサービスは保証されるが、警察や消防が遠くの街(郡庁所在都市)から提供されるのは不安だし、地域の発展を直接自分たちでコントロールしたいということで、自治体をつくる運動が生まれ、住民投票などを経て自治体が設立される。」
警察保護区を設置した自治体の様子は上記引用記事によれば以下の通りです。
「ブロードムア警察保護区(BPPD、Broadmoor Police Protection District)委員会のピエール・パレンガットが語る[10]。サンフランシスコ市の南辺、面積1.4平方キロほどのブロードムア地区(人口5000人)は通常自治体のない非法人化地域だが、警察だけは必要だということから、自治警察だけの特別区自治体BPPDを設置している。1948年に郡議会に嘆願し、州法に定められた警察保護区の規定にのっとりを設置した。「自治体がない地域は通常、郡が行政サービスを提供する。ここでも最初は、郡警察(シェリフ)の管轄下にあった。」とパレンガットが説明する。「しかし、郡警察本部は、車で約3-40分かかるレッドウッド市(郡庁所在地)。事件があっても警察官が遠くから駆けつけることになる。地域で警察保護区をつくればサービスも迅速になるし、心配や問題があった時いつでも来れて、署長や警察官と話ができる。」
「このBPPDについて詳しくは別稿に譲るが[11]、彼らは、「迷いネコの捜索や病気の住民の様子を見に行ったり、高齢者のために郵便を出したり」もして、コミュニティー・ポリーシング(地域に根ざした警察)を実践している。住民から選挙で選ばれた3人にからなるコミッション(委員会。パレンガット氏が委員長)が運営に責任をもち、その下に11人の警察官が雇われている。戦国時代、住民が侍をやとって村を守る話(黒沢明監督『七人の侍』)という話があるが、警察保護区はまさにその現代版だ。警察署は民間住宅を改造した建物。そこに11人の侍だけでなく、延べ10人以上のボランティア市民が詰め月600時間以上の労力を提供する。」
ブロードムアの警察保護区はいわゆる特別区(Special District)のひとつだ。アメリカの自治体には日本のいわゆる市町村型の総合型自治体ばかりでなく、こうした専門サービス型の自治体がある。代表的なのは学校区(教育委員会に相当)だが、後述するように水道区、大気汚染監視区、交通区、蚊駆除区、その他多様な分野の特別区自治体がある。
道路などよくしたいと自治体を結成した地域もあります。」

アメリカには自治体のない地域が面積の過半を占め、人口比で38%が自治体のない地域に住んでいる事実をまず知るべきです。
アメリカは自治の本場というイメージがありますが、そもそもその前提にある基礎集落社会・自治の主体に関する大きな誤解があることが分かります。
もともと日本のように自然発生的に集落があって、何千年の経過でそれが育って〇〇郷や・〇〇の庄〜ムラ社会〜明治以降のムラ〜町〜市〜大都会になってきた社会とは成り立ちが違っています。江戸時代・・特に房総地域では旗本領が入り組んでいて一つの部落野中が何人もの旗本の領地に分けている(ひどい例では、一人の農地の内この農地は誰それ領地と複数領主に分かれていることもあったようです)状態であったことが、千葉県では知られていますが、こういう土着社会に領主がいてもまるで相手にされない・ムラの寄り合いで「こういう決まりになりました」と領主に届ける仕組でしかありませんでした。
領主といっても、結果報告を承認するしかない・事実上領民の決めたことを強制される社会でした。

 

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