労働分配率1(韓国民の悲劇)

前回労働分配率を少し書きましたが、ここで労働分配率や所得分配について少し触れておきます。
労働分配率が高い・低いと一口で言っても大方の傾向を見ることが出来るだけであって、経済学者の意見を読むと付加価値=何を母数にするか(金融収支も加えるかなど)の意見も違う上に、他方でそのときの雇用数は年々変わる・・失業者数や求職を諦めている人の数等による面もあって、たとえば景気が良くなって少し遅れて労働分配率が上がってもその多くは雇用数の増加によるものであって、個人個人で見れば給与が上がっている訳ではないなど複雑です。
労働分配率の議論は企業の経常利益総計とそこに従事する労働者総数の統計によるので、一人当たり賃金とは関係がないのです。
我が国では戦後労働分配率は一貫して上がり続けるトレンドで、最近は大方7割前後らしいですが(石油ショック直後とリーマンショック直後は例外)韓国の統計を見ると5割前後で推移していて、それが98年の通貨危機以降IMFの指導下で人件費比率の引き下げを断行して来たことから、1割くらい下がったままになっている様子です。
(一般的には、非正規雇用や下請けの悲惨さが報じられていますが・・私の知識では韓国のことは正確にはまだよく分ってません)
ただし、個人金融資産の内株式等有価証券の保有率が仮に高ければ、株主としての分配もあるので労働分配率だけが国民所得の分配の指標にはならないし、(最近の我が国では所得階層5分類の内下位から第2位の階層の株保有率が上位2番目に浮上しているそうですから、金持ちだけが株をやる時代ではありません)税による再配分や高齢化社会では年金制度の充実度(若年層から高齢層への所得移転)にも絡んで来るので、国民総所得の分配としては労働分配率だけで議論しても意味がはっきりしない印象です。
ちなみに韓国では以下の通りになっているので、労働分配率が下がっている外に、資本利益の半数が外国に持って行かれると国民は???となって不満がたまりはけ口としての日本攻撃や国外脱出熱が盛んになる訳です。
韓国ではウオンの急激な下落で通貨危機の再来が心配されるようになったので、今頃いきなり慰安婦問題を韓国が持ち出して来たこともこうした背景があるのでしょう。
以下は、るいネットに掲載されている吉国幹雄 ( 53 鹿児島 講師 )氏によるデータです。
4大銀行の外人持ち株比率は以下の通り。
1 国民銀行     78%
2 ハナ銀行     72%
3 外換銀行     72%
4 新韓銀行     63%
さらに、韓国の主要上場企業の外人持ち株比率は以下の通り。
1 サムスン     54%
2 現代自動車    49%
3 LG       37%
4 SK       49%
5 KT       49%
6 ポスコ      67%

ちなみに日本ではトヨタや東芝などの外国人株主比率は2006年頃には25〜26%だったらしいですが、最新の統計がないのですが一般的には約3割前後ではないかと言われているらしいです。
外国の年金その他がその名で買うのではなく、日本の◯◯トラストを通じて買うので、外国人比率は株主名簿だけでは正確には分りません。

増税と景気効果1

仮に外貨準備が足りなくなっても純債権国の場合、海外に買ってある土地や工場売却・・・投下資本の売却などで資金回収が可能ですから、更に厚みがあることになります。
(実際には投資してしまった工場や店舗・採掘権などを直ぐ売るわけにはいかないので、実際には簡単ではないですが、そう言う厚みがあるという意味です)
今回の大地震直後イキナリ円高が進んだのはこの連想作用によるものでした。
すなわち、日本は復興資金需要のために海外投資を引き上げるのではないか、そうなると海外資産を売って円に両替する→円高の連想作用・単なる思惑で急激な円高になったのです。
このように純債権国の場合、危機になってもギリシャなどの純債務国のように(海外から借りる必要がないので)その国の通貨が暴落するのではなく逆に円高になります。
日本は今のところ国内金融資産自体が部厚いので、(国内で国債発行すれば間に合う・・国内で殆ど消化出来る実力があります)海外から資産を引き上げる必要すらないことが分って、投機家の思惑が間違いであったことが分り、春先の円高が一旦収まっていました。
復興資金として東京メトロの政府株を売却すると言えば、直ぐに都知事が買いたいと名乗り出たことからも分るように国内でまだ資金余裕があります。
海外にまでメトロ株を売りに行く・海外勢に購入してもらう必要がありません。
ただし、本来は復興需要が始まるとインフラの被害で輸出が停滞する上に無資源国日本では復興用に輸入が増える→貿易黒字の減少または赤字転落ですから、短期的には円安傾向になるべき局面に戻っていました。
これがギリシャ問題で日本の安定性が見直されて再び円高局面になって来たのです。
東京メトロ株の売却の話題が出たついでに、復興資金用に増税あるいは国有資産売却をするのと赤字国債で賄うことの違いをこの際書いておきましょう。
巨額の災害対策・復興資金が必要ですが、これ以上赤字国債発行ばかりでは大変だという常識・大震災後急に日本の国債は国内総生産の何倍だとか言ってマスコミが騒ぎ始めました。(財務省のお先棒担ぎでしょう・・?)
このマスコミのムードに乗って国の借金を余り増やさないために増税で賄うべきだと言う議論・野田政権が出て来たかと思ったら、(増税に対する反対論を和らげるために、)最近では政府の保有株や不動産を売って復興資金の一部に当てる話になって来ました。
どこかの資金の出方次第で節操なく報道するマスコミに惑わされないように、災害復旧資金源として増税・国債発行、国有資産売却の功罪を考えておきましょう。
(幸い私は弁護士業の収入で書いているのでスポンサーが不要なので気楽です)
今回は災害によって、被災した分の資産が減少していて、これを政府が何らかの補填・復旧をすることになるのですが、その補填・復旧資金を仮に100%増税で賄えば、復旧後の政府の総資産は被災前と同額まで復活します。
復旧費用100%を借金(国債)で賄えば、復旧前後を通じて資産は(被災によって政府資産が減損したまま)同じです。
(1000億円掛けて復旧しても1000億円の借金が増えているとプラスマイナス零です)
復旧資金全額を国有財産の売却で準備した場合・・橋や道路の回復に1000億円掛けて完成しても同額分の国有財産を売却していれば、借金した場合と同様一方で資産の喪失があるので資産の増減はありません。
不要・遊休資産を売却して被災地の復旧資材等に置き換えただけです。
いずれの方法も市中から紙幣を必要額だけ吸収してしまう点は、同じです。
企業施設が被災した場合、増資して復旧すれば資産が回復しますが、増資しないで、どこかの施設を売って資金を作り、それで被災施設を復旧すれば、企業の総資産は、被災のよって痛んだままです。
政府の場合、企業の増資あるいは売上増に対応するのが増税による増収です。
増税による増収がない限り、借金で賄っても国有資産を売り払っても、政府資産の増減は同じです。

損害賠償準備金(円高の原因1)

8月16日に紹介した原発賠償法では、1200億円以内の積み立てまたは保険契約ですが、現在ギリシャ国債・アメリカ国債の支払など先進国を覆う金融不安と同様の問題ですが、1200億円以内・・いくらか知りませんが積み立てていたのは現金ではなく、日本国債が中心だったとすれば、仮に1000億円でもこれを市中で短期に一度に売却・換金すると国債の大暴落になります。
トヨタや銀行の株で納めていても同じことになります。
と言うことは、債券や株式で納付するのでは、イザとなれば抜けない宝刀のようなもので、担保価値がゼロに等しかったと言えるでしょうか?
中国が頭に来たからとアメリカ国債を大量に売る訳に行かないのと同じです。
ついでに最近のドル安円高の流れを書いておきますと、日本国内の金融資産が1450兆円(2009年時点)と言っても、国内の貸し借りは花見酒の経済みたいですから、ローンなどの負債を引き、さらに国債発行分を差し引いたものが、実質真水の金融資産と言えるでしょう。
裏返せば、発行済み国債が年間国民総所得の何倍あろうとも、国内金融資産の範囲内である限り対外的には本来(イレギュラーな動きは別として)問題が起きません。
一家の総預金が1400万円あって、その内1000万円を息子がお父さんに貸している場合、実質預金が400万円がまだ残っているのと同じで、お父さんの子供に対する借金が一家の総所得の何倍かは問題になりません。
年収300万しかない一家が30年かけて1400万円貯めている場合、対外借金総額(車のローンやリフォームローン)が一家の年収300万円を越えても問題がありません。
日本の場合で言えば、対外純債権額・これの一部を反映している外貨準備高は経済大国化して何十年も貯めた結果(この間に海外で買い求めた土地や工場設備・資源採掘権などの投資残高もあります)ですから、(今も経常収支は黒字です)1年分の所得を基準にその何倍かの議論しても始まらないでしょう。
まして政府資産には、鉱物採掘権や土地所有権その他いろんな資産(国有企業)があって、イザとなればこれらの売却も可能です。
(過去にも国鉄や電電公社の民営化などで巨額の資金が国に入っています)
ちなみに我が国の2010年3月現在の外貨準備は、ウイキペデイア9月27日の記事によれば、1兆0427億1500万ドルです。
この辺の仕組みに関しては、リーマンショックの始まる数ヶ月前から、07/18/08「アメリカの累積赤字額1(外貨準備率)」以下で、軍事力等の経済外要因でドルを維持しているものの何時かは経済実力に合わせるしかない・・1割〜2割どころか何分の1に下がっても理論的にはおかしくないと書きました。
長期的には理論どおりでしょうが、短期的にいろんな思惑や政治力で、上がったり(持ち直したり)下がったりしながらも結果的には長期トレンドとしては純債務国になっているアメリカドルは下落一方ですから、あるときには勢いで1ドル40円程度まで落ちることもあるのではないかとその年の秋頃に書きました。
年収・・CDPを基準にする議論はギリシャなど貯蓄のない国・・個人で言えばサラ金債務などに当てはめるべき議論に過ぎません。
国内金融資産は企業で言えば、手元流動資産みたいなものに過ぎず手元流動資産が借金よりも少なくても、それ以上に外貨準備が豊富にあれば、それの取り崩しでイザとなればどうにでもなります。

原発コスト21(安全対策の範囲1)

関係者が本気で原発事故が起きた場合を心配していれば、事故が起きた場合の手順についてどのようにするかについて予め検討することになるし、その検討の過程で、事故防止策・・事故があった場合の補完策が逆に提案されるメリットあったでしょう。
たとえばジーゼル発電の担当者にしてみれば自分の担当する発電機が故障すれば一定時間内で直せるか、修理部品が足りているかなどに気を配るでしょうし、送電ルートの発電所が故障で停止したり、送電線が切れたらどうするなど持ち場持ち場で対処法を予め検討していた筈です。
また、巨額交付金を貰っていた自治体では、「事前準備6(用地取得)」June 25, 2011までのコラムで連載したように、村ごとにまとまって避難するための用地取得など、事故の程度(ABCDのランク付け)に応じてどの程度の避難と言う、ランク別の避難方法を予め策定しておいて、そのランクに応じた避難方法・避難用車両の準備などを決めて、時には訓練しておけた筈です。
どこの自治体も具体的な避難訓練どころか計画すらなく、政府ももちろん何の予定もなく、ムヤミに避難勧告するだけで、避難先の指示もないし避難方法も準備しないので車のない人はどうして良いか分らないような無茶な避難指示でした。
これが今になって非難されているのですが、こうした避難訓練や非難先・避難手段の準備は巨額交付金をもらっていた自治体が、地域の特性を踏まえて住民の安全を図るべく事前研究・準備しておくべきものであって、中央政府が地域特性を踏まえて各地域ごとの避難経路まで考えておく必要はないでしょう。
政府も自治体・地方政治家も業者もみんな先ず原発を推進することに積極的すぎて、安全性に疑問を呈すると「(何でも)反対派」というレッテルを貼って、その矛先さえカワせれば良いという発想で終始し、(地元政治家は反対運動を利用して交付金増額要求の材料にするくらいで)事故が起きた場合の危険性に関する真摯な対応を考えていなかったことが今回の事故で明るみに出ました。
広大な敷地内にある周辺の燃料タンクやパイプ配管や配電設備など、どれが壊れても直ぐに全体の機能が停止してしまう点では同じ(必要だから設備がある以上)重要性があるのに格納容器だけ頑丈に造っていた(その他は普通の建築や工場の設置基準であった)ことも、今回の大事故で分りました。
原子炉格納容器だけ特別な耐震基準で頑丈にしておいても、地震の結果冷却水循環用に必要な配管が壊れてしまうと電源があっても安定的に冷却水の循環が出来ず、冷却停止が3時間半続くと原子炉内が過熱して燃料棒の溶融(メルトダウン)が始まるというのが原子炉関係のイロハらしいことが一般に分ってきました。
電源喪失は冷却装置停止の一原因に過ぎず、電源が仮にあっても冷却装置全体が壊れてれば冷却出来ない点は同じです。
東電・マスコミは何故こんな簡単な原理を無視して、電源喪失が原因であるかのごとく報道していたのでしょうか?

原発のコスト15(問答無用1)

伝統的勢力・再開派は言論を封じてはいないというのでしょうが、これに関するマトモな学者の研究発表がないことや、マトモな議論がないまま結論を押し付けようとしていること自体が言論弾圧状態と言うべきです。
現在はカントやヘーゲル・ニーチェの時代のように書斎で思索すれば意見を書けるのではなく、データ収集その他巨額のコストがかるので自費での研究は不可能な時代ですから、研究費がどこかから出ない限り誰もマトモな研究発表が出来ない仕組みです。
ウェブに出てる情報をかき集めた意見・・私のこのコラムもそうですが、ムードの域を出ないので専門家の意見とまでは行きません。
言わば原書を読まないで、その翻訳文を読んだだけで研究発表しているような感じですから、プロの意見としては恥ずかしくって発表出来ないでしょう。
資本家からその方面への研究費が出ないこと自体で、気になっているが誰も研究をすることが出来ない・・一種の言論圧迫状態になっていて、伝統的支配勢力に都合の良い意見やデータしかマスコミに出て来ない状態になっています。
我が国では刑事処罰こそされませんが、・・思想表現の事実上の自由がなく政府のプロパガンダしか出て来ない可哀想な中国人民の思想状況と似ています。
現在の学問の自由・思想信条の自由と言ってもその程度のことに過ぎないことは、August 16, 2011「学問の自由と社会の利益」のコラムで書きました。
多くの国民は、原発の方が損害賠償やきちんとした安全対策をすれば総コストが高いのではないかと思っているのに、これにマトモに応えずに、問答無用式に運転停止中の原発再開反対者を非国民・小児病扱いする今のマスコミはどうかしています。
言論の自由があるとは言うものの、(山本太郎とか言う俳優がちょっとでも原発再開反対論をマスコミで口にすると直ぐ所属事務所から出されてテレビドラマからおろされたということですし)マトモな議論がマスコミに出て来られない現状は思想統制のある独裁国家と殆ど変わらないでしょう。
戦前の軍国主義化の流れを何故阻止出来なかったかと言うと、悪名高い治安維持法による直接弾圧によるばかりではなく、むしろ特高に睨まれている「危険人物を何故雇うんだ」という圧力に耐えかねて、どこの企業でも大学でも自主規制して行って、政府批判する人が職を奪われ黙ってしまわざるを得なくなって行ったことが大きな原因でした。
言論の自由は、刑罰による制裁がないだけでは不十分であって、支配勢力の意見に反する人でも要職に就ける・・あるいは辞職しなくても良い社会でこそ保障されるのです。

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