円高とデフレ(円高メリットの享受)

 逆から見れば国民個々人が頑張ったからこそ、貿易黒字を稼げた結果の円高でもあるのですから、円高の効果(メリット)を国民個々人が享受するのは当然の権利となります。
スポーツでも何でも優秀な成績をおさめて何日も勝利の美酒に酔いしれていたら次の試合で負けてしまうので、トップの座を維持するために勝利の美酒は1晩だけにして直ぐにも次ぎに向けたトレーニングに精出すのが普通です。
円高は国民の努力の賜物とは言え、給与アップの恩恵を受けて海外旅行や安楽を決め込んでいれば、その内貿易赤字→インフレになって、国民の方が今度は逆襲されます。
政府や経済界・エコノミストはインフレ待望論一色ですが、経常収支黒字を維持しながら円安=輸入物価上昇を求めるのは虫のよい矛盾した願望です。
バブル崩壊後我が国だけの超低金利政策によって、円キャリー取引による(円の流出)円安の演出が出来て、貿易・経常収支黒字の連続にも拘らず円安を維持出来ていたことがありました。
リーマンショック以降世界中が低金利競争に入って来たので、このトリックが通用しなくなり、長期の経済原理に反した円安維持の咎めが出て急激な円高になりました。
(アメリカと日本がほぼ同率の低金利になれば、金利差による為替相場形成がなくなり貿易収支・経常収支の黒字・赤字関係が為替相場にモロに反映されるしかありません。)
キャリー取引のようなイレギュラーなトリックを前提にしない場合、整合性のある議論としては、貿易赤字に陥らない限り円安になりません。
円安待望論者は、国内的にはインフレ・・債務の目減り期待と対外的には円高だと貿易が苦しい・・貿易黒字を維持するために訴えているのですから、貿易黒字を続けながらの円安期待ですから、矛盾した論法です。
赤字→円安→輸入物価上昇ひいてはインフレになり・・結果的に賃金の実質引き下げになり(国民は困りますが)国債など各種借金の実質返済負担が下がります。
インフレ待望論とは、5月12〜16日に掛けて書いて来た世界的な借金棒引き論の広がりと根は同じです。
我が国は世界一の純債権国であって、借金棒引きまたはインフレによる減価で損をする立場にも拘らず、殆どのマスコミや経済学者がインフレ待望・借金棒引き・・一種のモラルハザードの広がりに熱心とは驚きです。
ところで、国債発行残高がいくらになろうとも国民が保有者の殆どである限り問題がないという意見を2012/03/19/「税収2と国債1」〜2012/04/08「財政収支と国際収支3(純債権国)」〜2012/04/19「国債残高の危機水準3(個人金融資産1)あたりまで連載してきました。
政府・マスコミや経済学者はこれを理解せずに、国債残高増加=借金大国になってしまうかの如く心配しているから、棒引き論・・インフレ期待=支払負担を軽くするモラル普及を広げる方が国益になると誤解しているのでしょう。
再論しませんが、世上誤った意見が流布しているので1つだけ付け加えてておきます。
「税で負担せずに国債で政府支出をすると次世代に巨額借金を残す」とマスコミや経済学者が不安を煽っています。
(私が/2012/05/05「海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)」以下で批判して来た世代間対立を煽る論の1つです)
あるいは1000兆円の国債残高は一人当たり何万円の負債だと騒ぎます。
しかし、国債保有者の95%が国民であるとすれば、その債券の95%を次世代が相続するので次世代に残す借金は5%に過ぎません。(子供でも分る理屈でしょう)
1億円の定期預金を有する人が負債4000万円で死亡しても次世代に負債を残すことにはなりません。
不安を煽っている論者は定期預金部分をことさら隠蔽して銀行借金だけを強調している不公正な議論です。
5%前後は国際取引決済上必要な(普通の人は貯蓄以外に全資産の5%くらいは毎月の口座引き落とし用に普通預金を持つように)ゆるみに過ぎませんから、日本も外貨準備としてその何十倍も持っているので、心配がありません。
結局、次世代への引き継ぎは、わが国が対外的に純債権国の地位を維持出来るかどうかだけが要点であって、純債権国である限り国内の帳簿の付け替え・・定期預金を残してしその範囲で借金するかどうか・・国債残高の多寡・財政赤字の程度に関係なく、次世代はプラス財産を相続することになります。
インフレ・・例えば物価(給与や収入が)が2倍になれば、借金の額面が同じですから返済負担が半分に減りますので債務者にとってはメリットが大きいのは当然です。
日本は今世界最大の債権国・・すなわち政府債務は別として国民の金融資産が最大にも拘らず、インフレ期待論は政府債務を縮小すべく「国民資産を毀損すべき」という誤った期待です。
ただし給与負担としてはインフレになると、賃金アップは後追いのために、企業負担が減ります。
総じてインフレは個人が損をして組織が得をする状態と言えるでしょうか?

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