税と国債の違い4(市場評価)

  国債の場合、政府としては借り換えて行けば良いとしても満期・返還義務がありますので、国債の市場評価(運用ミスで支持者が減る)が下がると借り換え債の発行が回って行かなくなる(価格下落・金利アップ化する)点が民主的コントロール面で、税との大きな違いとなります。
国債が絶えざる市場評価に曝される弱点は、逆から言えば国債発行によって入手した資金の使い道・・官による投資がいつも市場・国民評価に曝され続ける分より合理化・民主化されるメリットと言えます。
増税するについては国民の批判があって(野田総理が政治生命をかけるほど)大変ですが、一回税率を上げてしまえば、政府はその後毎年何の必要性も説明しないで黙ってその税率で徴税出来るし、入手した資金は予算さえ通れば市場の批判を気にせずに勝手に使えるので放漫財政になり勝ちです。
予算は野党の追及もありますが、政治家同士のなれ合い・妥協でいくらでも決まって行きます。
何年かして更に増税(消費税で言えば税率アップ)しなくてはならないときになって始めて無駄遣いしていないか追及されるだけで、新規増税しない限り政治家同士の野合(主に官僚の振り付け)によって予算さえ通れば自由にお金を使える仕組みです。
どうせ資金を市場から吸い上げるならば、国債の方が拠出するかどうか自体を(拠出段階で)国民が選べる外に拠出した後その使い道について、常に国民の評価を気にしなければならない緊張感があってこの面からでもすぐれています。
10年もの国債なら10年間国民を気にしなければ良いかと言うとそうではなくて、数ヶ月間隔で次々と償還期限が来るので、(国政・地方選挙間隔の比ではありません)しょっ中国民の評価(価格下落)を無視出来ないことになります。
これまで書いていますが、税と国債の違いは、税の場合国内資金の限度でしか徴収出来ないのに対して、国債は海外からも資金調達が出来る点で歯止めがなくなるリスクのある点が違います。
ですから、民意に副い易い国債で政府資金を賄う方式の弱点を是正するには、国内消化率・・発行限度を国内消化率を90〜95%の一定水準に歯止めをかければ良いことです。
その歯止めをかけるのは法的・技術的に簡単です。
法で外国人保有比率を5〜10%に規制すれば足りるので、複雑な経済政策に比べて簡単な規制に過ぎません。
(ただし間接保有等の実態を含めた規制は難しいでしょうが、要は金利を世界一低くして外国人保有の魅力を減じることです)
原子力の安全性議論は国会で安全宣言しても安全になる訳ではありませんが、国債の場合、国会で禁止する法律を設ければ足りる簡単なことですが、これをしないでおいて「国債に頼るのは危険だ」という論調は不合理な主張です。
国債にたよると外国人の意向に影響を受けるから・・増税という論法は、ガソリンを燃やす車は危険だからと言って安全装置を考えないで車を禁止するようなものです。
増税は国内法人その他国内の資源しか対象に出来ませんから、元々外資を当てに出来ない点は国債以上に対象が厳しいのです。
国内消化が出来なくなったときは、国内で資金が余っていないということ・・即ち対外的に借金経済に陥るリスクが高いのですから、法で制限を設けるべきでしょう。
国際貿易決済上それぞれの国で一定額の外貨保有が必要ですから、外国人の国債保有比率を一定率認めるしかないとしても、例えば国民が新規国債の引き受けをせずに、海外投資家保有比率が1割から2割3割とドンドン上がって行くとき、国民が同額の海外債券を持っていれば借金経済かどうかの基準・・資金的には満たしていることになります。
しかし、民主主義の観点・国民意思による政治の重要性から見ると民間資金を政府が吸い上げて余計な仕事をして欲しいと思う国民がいなくなっていると言うべきです。
とすれば、政府が国民の意思を無視して海外から借金してまで、政府支出を増やして行くのは民主主義の原理に反します。
資金手当健全性の観点だけから見れば、海外引き受けを増やし、国民は海外債券をその分以上買って行くのが合理的であると書いてきましたが、直接民主主義の観点から見れば国民が買いたくない・・国債発行による財政運営に賛成していないのに海外投資家に買って貰って政権が財政ファイナンスをするのは政府が国民の明白な意思を無視していることになります。
国民意思を無視ないし軽視して外国人の意思に頼る・・彼らの意向が国内経済・政治決定に影響力を高める政府の存在意義は何でしょうか?
江戸時代でも藩札の所持者が殆どが藩内の人だけでも、実際にデフォルトするとその次から藩財政が回らなくなるので、大名家は極力これを避けるように努力し、気を使ってて来たものです。
この点はギリシャ政府だって同じことです。
日本の国債も今のところその殆どは国内消化であるからこそ外国の意向に左右されないでいられるのです。
領内の資金力のある人から回収して領内の資金不足者に回すのは、所得の再分配の1つの方法でしょうが、領外から持って来て分配するとなれば、他人からの借金・資本参加を受けることになるので本質が変わって来ます。
現在の日本はまだ国内での国債保有率が92%前後を維持しているので、(昨年までは95%と言われていましたがギリシャ危機で円購入者が増えた結果昨年末では8%に上がりました)言わば国民からの回収である限り、国税徴収と本質が変わっていません。

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