損害賠償リスク7・原発賠償条約

日本人はみんな「困ったものだね」というだけで(暴動を起こしたりせず)静かなものですが、外国からの請求となれば避難区域や請求を膨らますことはあっても遠慮して少なめ請求というのはないでしょうから、天文学的数字になるのは目に見えています。
アメリカの弁護士などは、少しでも魚介類に放射の汚染が見つかれば日本相手に巨額賠償訴訟を起こすチャンスをうかがって虎視眈々としているとも言われます。
ちょうど日経新聞8月14日の朝刊(このコラムは14日に書いています)1面ど真ん中に大きく、「原発賠償条約加盟へ」と出ていました。
私のような関心に基づく心配をしている実務家が多いから、この動きになったのでしょう。
この条約の目的は国際基準で賠償額を決めて行き、法外な請求を受けないようにしようとするものらしいです。
何かあると中国当たりから法外な請求が来そうで心配ですが、それを防ぐ目的の条約ですが、逆の意味もあって条約加入によって法外に安くおさめようとしている我が国の現在のコスト計算根拠自体が国際基準であぶり出されることにもなるでしょう。
例えば、日本では被害実態を少なく見せるために最初僅か3kmの避難、次いで20km、30kmと広げてきましたが、外国の場合、日本へ全額請求出来るとなれば初めっから広めに避難させるのが普通でしょう。
フランスやドイツの場合、何と東京でさえ危険として大阪へ大使館機能を直ぐ移転しましたが、外国からの請求の場合これが参考になります。
このシリーズの冒頭・・August 9, 2011「原発のコスト1(輸出リスク)」に書いたように今後国内のみならず海外からの巨額賠償請求が起きる可能性が高いのですが、海外からの賠償請求は海外の裁判所に提起されるでしょうから、日本政府の権力による高圧的・一方的な基準は通用しません。
総損害に関する具体的積算数字が公表されない・・・原発関連学者が正確な数値計算して公表すべきでしょうが、(当面は概算数字でも発表すべきです)誰もこれをやっていません。
原発関連学者・・科学系だけではなく、原発をやめたらコスト的に大変なことになるという経済学者・エコノミストこそ、一旦事故が起きたときの被害総額を積算して、それを稼働中の原発コストに上乗せして火力よりも安いと言う積算根拠を示すべきでしょう。
賠償コスト(運送会社で言えば交通事故処理コスト・・不確定なので、一般的には保険利用で損害・支出を固定化しています)を損益計算に計上しない会計処理で黒字の事業計画を公表されても、粉飾そのもので誰も信用しないでしょう。
経済学者は、条件的因果関係まで可能性のある損害は全部積算して(緻密な計算は間に合わないとしても概算計算くらいは早期に公表すべき学者としての義務があるように思いますが・・・)国民に公開すべきですが、この大事なときに何故沈黙しているのでしょうか?
変数が大きすぎて何の結果も期待出来ない為替の予想や今後の経済見通しなどどうでもいいこと(あたった試しがないので・・)には、しょっ中意見が新聞などに出ますが、脱原発か否か・・長期的国策を決めるための重要な要素であるコスト計算に限って何故、誰もしようとしないのでしょうか?
・・今回は現在現に起きている総損害の把握をすればいいので、不確定な成長予測や為替予想などよりも源に存在する客観的事実把握が中心で確定的・・信頼性の高い調査が出る筈なのに、これを誰もしていない様子です。
「原発をやめたらコストアップで大変なことになる」という産業界の大合唱が正しいかどうかに関して、学問的にどうなのか発言するのが経済学者の責務ではないでしょうか?
よほど原発関連業者の反発が怖くて、学者の誰も発言出来ないほど思想統制が行き渡っているのでしょうか?
自己の思想良心に従って研究発表する勇気ある学者が一人もいないのでしょうか?
学者と言ってもどこもかしこも研究費を企業からもらっているひも付きが中心で、そうした学者ほど偉いことになっている学会の弊がここに現れたとも言えます。
良心に従って、実態調査・研究したくとも、その調査研究費(アルバイトなど実労調査人員が必要です)がどこからも出ないと手も足も出ないのかも知れません。
机上の空論という言葉がありますが、今の研究は、自前で・足で調査するのではなく、各種統計が出そろった数年後のデータ分析しかやっていないのかも知れません。
これでは遅すぎるので自分の足(アルバイトを使ってでも)で緊急調査・・・国のような全面的統計は当面無理なので当面サンプル調査して、ラフな結果でも良いので、大方の方向性の分るような概算計算を発表すべきではないでしょうか?

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