原発のコスト5(損害賠償リスク)

 

所得保障の外に放射性物質汚染地域にある資産が長期間使えなくなったことによる損害・・・個人で言えば使えなくなった自宅等の構築物の損失補償・・牛舎や鶏舎の移転先の新築費用ですが・・・企業で言えば店舗や工場施設などの移転新設の費用補償が当然要求されるでしょう。
所得保障に関して言えば、個人で言えば引っ越しさえすればその先で就職口がある保障がないのと同じで、コンビニや魚屋その他の業種が隣の県に引っ越して行き、新規店舗建設費用(土地取得費含め)さえ保障してもらえば、そこでそのまま商売出来る訳がありません。
隣の県またその隣の県まで行っても、そこには既に適正というか飽和的状態で必要なコンビニやスーパー・ドラッグストアー、飲み屋・飲食店等が存在し(ひしめいて)ているのですから、移転先で起業をすることは不可能に近いことです。
移転保障は、移転にかかる期間だけの休業補償の問題ではなく、一般に行われている店舗立ち退き保証の場合の相当期間の営業収益保証に類似する長期の保障が必要です。
一般の立ち退き保障の場合は数百メートルから1k以内の適地を見つけて引っ越して新たに開業出来るので数年の営業保障で済みますが、前回末に書いたようにイキナリ数百kも離れた知らない土地へ緊急避難をしてそこでの新規開業は不可能に近いことを考える必要があります。
バーでも建築屋でもそれなりの顧客が出来てから開業するものですから、せっかく開業していた30〜40代以上の年齢層の人が見知らぬ土地で再起を期すのは絶望的です。
とすればその人の1生涯に対しても・・半永久的休業補償・・放射能の半減期プラスアルファ期間の問題になります。
政府や東電寄りの原発賠償審査会申し立てを(政府は被害賠償を極力小さくしたいのでここへ誘導しようとしている様子ですが・・・)やらずに、個別に裁判した方が高額になる率が高いように思えます。
仮に放射性セシュウムの半減期(約30、2年)ストロンチュームに半減期(28〜9年)が終わって元に戻れるとしても、30年も無人の土地になっていた場所に、いきなり戻って居酒屋やラーメン屋・建築界者を再開しても元の客(も高齢化してしまっているでしょう)が来る訳もありません。
人口がどんどん増えている総武線で新駅が出来た場合でも、空き地だらけの駅前が町の形になって来て駅前の商売らしくなるには、20年くらいはかかっています。
実際、一回の水素爆発で大気中に出たときからの半減期は約30年ですが、その後、福島原発には天文学的数量の放射性物質の元になるウランやプルとニュームがそのまま残っていて、その冷却に手間取っている状態・・まだ放射性物質の放出が続いている状態ですから、うまく行ってもその後チェルノブイリのように何十年も密封しておくだけですので、半永久的にその周辺には近づけない場所になる筈です。
その周辺とはどれくらいかですが、大きめにするか狭めにするかの問題です。
格納容器内の燃料棒・これのメルトダウンした固まりを冷やすために百年単位で?水を入れ続けなければならず、他方で格納容器の底が抜けている状態らしいですから、入れ続ける水・・汚染水の漏出がいつ止まるかのめど・保証もありません。
冷却水の循環が軌道に乗っても、ひび割れその他の損傷部位からの漏出が止まることとは別問題です。
格納容器自体の補修が不可能であるならば、その外周に第二の格納容器・・遮蔽壁を設けるしかないでしょうが、それすらどうして良いか手つかずの様子です。
仮に30年以上も経過して故郷に帰って良いと言われても、個人事業や中小事業家の場合40歳のヒトは70歳以上になってしまうので、従来の顧客は雲散してまっていますから、もう一度ゼロから顧客の開拓する気力がないでしょう。
30年と言わずに半年でも休業してしまうと事業再開は大変なことです。
もしも充分な保障と言うならば、結局は生涯所得の賠償が合理的です。

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