ウクライナ危機8と中国の学習能力1

現在では、新興国(青二才)が軍事力に頼って政権維持のために排外意識を強調して実際に紛争を起こすと民族意識昂揚による政権支持率上昇のメリットを受けるよりも早く・・資金流出・・生産縮小の動きが始まり、来年以降の損失を待たずに経済活動の急激な停滞に悩まされる関係になっています。
中国の場合、改革開放後政府自体が無理をしないように変わり、地方政府や国有企業、シャドーバンキング等にリスクを負わせる社会に変えてきました。
主役を変えただけで、乗客のいない鉄道網の整備やゴーストタウン等をドンドン作らせて、実需を越えた投資を奨励して来て国力・・GDPの嵩上げ(統計自体に信用性が乏しいことも解放前と同じ体質が指摘されています)に励んできた点では、崩壊前のソ連や解放前の中国経済と本質が変わっていません。
シャドーバンキングのデフォルトに政府は関係がないと放置できればこの責任転嫁政策は成功ですが、・・放置すれば経済大混乱が起きるので実際には放置できない・・何らかの手当が要請されることになるでしょう。
政治責任とは法的に政府に責任があるかどうかではなく、政治混乱を避けられるかどうかを問われます。
中国はこれを回避するために財政投入で破綻の先送りしていますが、(ソ連の先送り同様に)いつか支え切れない日が来るのは明らかです。
ただし他の新興国や旧ソ連とは違い、外貨準備の厚みが大きいことが先送りを可能にしています。
この点アメリカが戦争を繰り返しても長期的弱体化するのみで、即時にドル下落にならなかったのと似た状態になっていますが、これが長引いて外貨準備の枯渇が迫ると基軸通貨国でない弱点が現れます。
これが始まったときの政治不安・大混乱を恐れた中国が、政権批判をそらすために、長年反日教育に励んで来て、レアアース禁輸や反日暴動や尖閣諸島問題を起こしたことをこの後で書いて行きます。
今のところ、プーチンのウクライナ介入効果・・国際制裁がどうなるかを自己の教訓として、必死に勉強しているし、制裁があっても出来るだけ骨抜きにしたい立場で裏でドイツ等に働きかけている様子です。
アメリカの場合、イラク・アフガン戦争など次々と戦争をしていれば長期的には国力低下すると誰もが知っていましたが、その見通しだけではアメリカからの金融資本の引き揚げが起きませんでした。
基軸通貨国の強みと言うべきでしょうか?
アメリカがベトナムやイラク戦争を起こしたからと言って、アメリカ企業の売上が1〜2年先に減る心配が起きません。
これに対して資源輸出国のロシアは、自由主義圏を敵に回して戦争行為に入れば直ちに輸出の激減→経済停滞→株価低下→資本逃避に繋がります。
基軸通貨国でも無理をすればこれが原因で長期的には基軸通貨としての信任が揺らぎます(この結果今のオバマの調整力不足になっています)が、戦争開始と同時または直後ではありません。
新興国であり、資本的には脆弱な国の範疇に入るロシアがアメリカの真似をしても無理があります。
軍事力の大きさと経済力とは別ですから、資源輸出に頼る新興国としての脆弱さを抱えている状態である点を重視すべきです。
紛争を起こすと資本引き上げ加速し易い・・国際的に金融資本の移動が激しい時代には、新興国が大義のない戦争に踏み込めば、ベトナム戦争やイラク・アフガン戦争のように、10年ほどして(現実に損をしてから)国力低下するのではありません。
金融資本は、先の損失を見越すとその時点から売りを急ぎます。
既にロシア併合を決議したクリミア半島では、国際制裁を恐れた銀行の閉鎖縮小が相次ぎ、住民の預金引き出しが滞る事態・・銀行で列を作る映像が日経新聞の20日付き朝刊で報道されています。
映像になり難い企業活動の縮小等ではもっと大きな影響が出ている筈です。
(西側の希望する映像ばかり流している傾向を割り引く必要がありますが・・映像を偽造しているとは思えませんので、実際に列をなしてるのでしょう)

アジア通貨危機(ドルペッグ・バスケット制)

アメリカだって実力以上のドル高政策は投機筋の売り浴びせを受けてもおかしくないのですが、その心配がないのは図体が大き過ぎて売り浴びせをやるほどの資金を投機家が用意出来ないからでしょう。
貿易赤字によって海外流出したドルの多くはアメリカ国債や公社債等購入資金としてアメリカ還流しているのですが、民間部門では海外にそれほど滞留していません。
日本や中国の例で分るように、対アメリカ貿易黒字国では各国の中央銀行や政府がアメリカの対外債務の殆どを保有していて、ジョージ・ソロス氏のような投機家の自由にならないドルが多いことから、投機筋の対象になり難いことによりアメリカ政府の方針変更以外にドルの急激な上下が生じないことになります。
(USドル=国債・公社債大量保有者の日本や中国政府自身が大量放出すると自国保有債権の暴落=大損害を引きおこして自滅行為になるので出来ません。)
この点では我が国の国債が各国の貿易決済に必要な程度の割合での日本円保有を越えて、投機目的の国債保有者が増えるようになると浴びせ売りリスククが生じます。
今円急落に合わせて慌てて外資による国債購入者が増えているようですが、投資家による保有比率の上昇はリスクが生じます。
ただし以前にも書きましたが、日本のばあいも円建て発行ですので日銀が円紙幣を印刷して買い支えれば際限なく出来るので、急落することはあり得ません。
(この点が自国紙幣を持たないユーロ諸国とは違いますし、この論理から言えば、いくら大量発行しても国債暴落の心配がないことも以前書きました。)
アメリカだけが政府方針どおりに(市場原理を無視して)ドル安にしたりドル高にしたり好き勝手に出来る仕組みはこう言うところにあります。
市場原理を強調するアメリカ政府が率先して市場原理を無視して行動している矛盾・パラドックスです。
東南アジア・韓国の場合、アメリカの要求によって資本自由化していた結果、民間短期資金が大量に流入していたので、売り浴びせと相乗効果のある急激な資金引き上げ(急激に下がり始めたら一刻も早く売り逃げしたい投資家心理を非難出来ません)に直面して大暴落・危機になったものです。
市場原理に反するドル高政策によってアメリカ国民が実力以上の豊かな生活を出来ていたのは、対外債務の積み上げを見ないことにして成り立っていたのですから、急激な売り浴びせを受けないとしてもアメリカ経済だって(巨大過ぎて先送り出来るだけですから)いつかは無理が来ます。
借金生活の咎めが出た点はギリシャ・南欧危機も同じです。
アメリカのサブプライムローン問題に端を発した2公社の破綻〜リーマンショック以降、さしものアメリカも対外債務の大きさを無視出来なくなって、ドル高政策をやめてドル安政策(輸入削減・家計出費削減・・一種の耐乏生活への転換です)に転換します。
アメリカの場合、市場の動きに100%委ねる・左右されるのではなく、まだ国力が巨大ですので、ドル売りの圧力によって大幅切り下げさせられるのではなく、自分の主体的判断でドル高政策やドル安政策を選択し、そのとおり市場を誘導操作出来るところがイギリスのポンド防衛との違いです。
しかし経済の世界は学者や政治家の意見で決めてうまく行くものではなく、市場に委ねた方がうまく行くことが多いのです。
なまじアメリカは国力が大きいので外見上市場と関係なく、(乱暴に)ドル高やドル安政策を決められるものの、長期的には市場に逆らえません。
後に市場の反撃を受けるまでに時間がかかります。
反撃を受けてからでは規模が大き過ぎて大変な混乱が生じます。

国債残高の危機水準8(企業の資金)

4月20日に書いたように、国債発行残高が個人金融資産以下であれば安全には違いないものの、これを越えたら危険になるとは限らない・・危険を見分ける基準とは全く別ものなのに、マスコミはこれを強調し過ぎです。
放射能汚染に限らず、砂糖でも塩でも水でも一日どの程度の摂取なら(例えば一日当たりコップ一杯の水の量は)何ら問題がないと権威者が言ったとしても、1日に一杯以上の水を飲むと危険と言ったことにはなりません。
放射能の規制基準も短時間被曝は一定量を越えた被曝で危険なことが明らかとしても(これが放射線取扱者などの管理区域設定の基準です)長期間になるとまだ科学的には不明のままです。
この点に関する武田教授の意見には賛成出来ない(同氏の多くの意見には私は賛同していますが・・)ことを March 28, 2011「放射能の危険性2(管理区域)」前後のコラムで書きました。
放射線に関しては、訳が分らないと言うだけでは不安なので、さしあたり「これだけ少なければ問題がないに決まっている」と言ういい加減な基準で決めたものが一人歩きしているのが現状です。
これを少しでも越えると危険であるかのごとき印象になってしまい、今や世界中が非合理なヒステリー状況になっています。
コップ一杯の水の例・・「この程度なら議論にもならないほど安全でしょう」ということがいつの間にか危険基準に化けてしまっているように、我が国では元々の基準が違うのにこれをごっちゃにした論調が多すぎます。
究極的には個人金融資産が岩盤・担保と言えることと、当面の資金繰りとは違います。
国債需給に関しては、個人よりも国内各機関・企業の保有する流動性資金が需給の大きな部分を担っています。
企業の現預金は前年比4、6%増の205兆円となっています。
企業は、現預金からだけ国債を買うのではなく、長期投資としての国債保有もあり得るので、その動向・可能性も国債需給のメルクマールとすべきです。
通常の取引主体としては企業や金融機関
自体が資金の重要な出し手ですから、国債金利上昇圧力(札割れリスク)に関してマスコミが個人金融資産にこだわるのは合理的ではありません。
韓国の株式の外国人投資家保有比率のコラムでも書きましたが、韓国では金融機関でも外国人投資家比率が高いのですが、我が国でも金融機関に対する一定の外国人投資家がいますし、事業会社であるトヨタでもソニーでも同じです。
国債保有者はこうした外国人株主のいる金融機関や企業の比率が大きいので、必ずしも個人金融資産の範囲内に安定購入者が限定されている訳ではありません。
外国人株主や社債購入者の意見がある程度反映されるでしょうが、トヨタ等の意思決定には、やはり民族企業としての意思が濃厚に出るので、(経済合理性を越えた国内生産維持に対するこだわりを見ても分るように・・)個人金融資産だけが購入能力の限界ではなく民族企業や金融機関の総合購入力も緩衝勢力として存在することになります。
数字的に比喩すれば、3割の外国人株主がいる企業体では多数派を形成する日本人株主が、その3割の資本を自由に運用出来る資産に加えられることになります。

国債残高の危機水準7(対外純債権)

 対外純債権額と言っても金融資産ばかりではなく、工場進出資金その他の投資資金が多く含まれているので、危機時に簡単に換金出来なくて金融資産そのものとは性質が違います。
日本国債の危機だからと言っても、いくら愛国心の強い企業家でもせっかく軌道に乗った海外工場を売却してまで、国債を買い支えるとは考えられません。
ですから、必ずしも対外債券が国債危機時の買い支え資金にはなりません。
個人金融資産を基準に考える立場を前提にすれば、正味=債務を引くと1000兆円前後しかないとすれば、現在既に国債その他政府(地方政府を含める)債務が約1千兆円に上るようですから、今でも既にプラスマイナス零または直ぐにもデフォルト騒ぎになっている筈です。
ところが将来の危機という議論(将来に備えて増税したいというマスコミ論調)しかなく、市場でも目先の危機は全く問題にならず、むしろ世界経済の乱調に対する逃避場所として外国人の日本国際購入が増えている状態です。
マスコミや学者の宣伝にも拘らず経済の実務では、国債の危機は個人金融資産残高と関係ないとする意見が大勢である証拠でしょう。
日本には事業資金・・すなわち企業の手元資金だけでも余剰資金が多く、3月23日の日経朝刊社説によれば、上場企業だけで余剰の手元流動性が60兆円にのぼると書かれています。
また同日の夕刊第2面によれば、3月23日発表の日銀の資金循環統計速報からの引用として日本国債に対する海外勢保有額が最大になったとの大きな見出しです。
外国人の残高比率は過去2番目の8,5%、78兆円で 、国内金融仲介機関の保有残高は601兆円、比率は65、3%とのことです。
合計で約74%ですから、残りは個人または国内金融機関以外の企業・団体が保有しているのでしょうか?
新聞の書き方は一部1年以上の国債に限った数字であったり、総額であったり一貫しないので保有部門別トータル国債総残高をあえて分り難く書いたような印象です。
同じ記事では個人金融資産残高は1483兆円で1年前比0、4%減となっています。
これは欧州危機による株式相場下落(および円高による海外資産の評価減もあるでしょう)によるものとの意見で、国内現預金額は2、2%増の839兆円になっています。
と言うことは、現預金以外の金融資産(年金や生保・証券投資残高など)が約600兆円ということでしょうか。
(企業にいくら資金があってもその株主の多くが外国人の場合実質的には外国人の持ち物ですから・・結局個人金融資産しか頼れない可能性があることをJanuary 13, 2012「海外投資家比率(国民の利益)1」で書きました。)
企業資金の究極のオーナーは個人でしかないので、経済学者・マスコミが個人の資力にこだわるのは安全基準としては堅いとしても、危険水準を見極める基準にはなりません。 

国債残高の危機水準6(国際収支の現状)

  個人金融資産とは別に対外純債権額という枠組がありますので、これを基準にする考え方もあります。
対外純債権・・貿易・サービス収支が仮に赤字になっても、経常収支黒字が続いている限り、そもそも国債残高がいくらであろうとも国内資金の移動でしかない以上何ら問題がないことを、April 9, 2012「国際収支4(赤字を何年続けられるか)で書きました。
上記ブログで書いたように貿易赤字且つ経常収支赤字になってから、対外純債権を何年で食いつぶすかの議論が本来の国債発行限度論となります。
年間いくらの赤字額で何年持ちこたえられるかを知るには先ず対外純債権がいくらかが重要です。
対外純債権額とは結局のところ、過去の貿易黒字の累積(元本合計)プラスその黒字で投資した収益の積み増し・・元利合計と言うことでしょうか?
そうとすれば、対外純債権額は、過去の貿易収支黒字の総和=対外投資元金であり、それに長期間の投資収益分をプラスしたものになります。
(ただしその間に円高になったりしますので、ドル表示の合計額でないと円表示の歴年黒字合計をしても分りません)
元金分は資本収支赤字の合計と言えないこともないでしょうが、実際には、貿易黒字が続いた国では、黒字を大きくし過ぎないために海外不動産を購入したり、個人でハワイその他に別荘を買っているなどの外、金地金や宝飾品の輸入を増やしたり貿易摩擦を緩めるために前倒しで飛行機を買ったりするなど、一定割合の膨らみ(イザとなれば、身の回りで売れるものを多く持っている)があるのが普通です。
当たり前のことですが、個人金融資産には持ち家や高級外車やヘリコプター、貴金属などの金融資産以外の高額資産を含めません・・。
戦後の食糧難の時代に資産家は高額な着物その他を換金しては食料品と交換したと伝えられているように、イザとなれば高額な絵画・美術品その他の資産は大きな力を発揮します。
債務整理等で相談に来る人たちはその逆で、修理や買い替えねばならないものを限度ギリギリまで先延ばししているので、数字上の債務より負けが込んでいる人が殆どです。
健康上も無理して働いていることが多く病気になり易い・・家具類は直ぐに壊れることなどを予定して生活設計を助言する必要があるのと似ています。
古いデータしか分りませんが、2012年になった今のところ、私の直感では約250兆円程度ではないかとおもわれます。
昨年は40年ぶりの貿易・サービス収支赤字と言っても日銀速報によれば-3兆2,496億円
ですから、経常収支黒字を無視し、その間の収益収入(4%利回りでも年に10兆円あります)を無視しても80年も赤字を続けられる勘定です。
まして日銀速報によれば、所得収支は140,296億円もの黒字だったようですから、移転収支赤字約1兆円を足してもまだまだトータルとして経常収支の黒字の方が約10兆円も大きい状態です。
ですから国債発行限度問題は経常収支赤字に転落してから、赤字の規模等を含めて議論すべきであって今から議論しておく必要は全くありません。
以下はhttp://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/preliminary/pg2011cy.htm 日銀速報からの引用です。
グラフはコピー出来ましたが、表の方はコピー出来ないので下記のpdfにリンクしていただければ、上記の細かい数字が表になっています。

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