海外資産残高1

国債保有者を日本人に限定すべきだとしても、さしあたり日本の対外資産がどのくらいあるかが重要です。
我が国では直接投資(工場を現地に造るなど)の歴史が浅く、債券・株式投資が先行していましたので債券投資の比率が高いのが欧米に比べて特徴があると言われています。
先ずは、日銀の統計から見ておきます。
日銀は毎年末に集計しているようですが、2011年末の統計は5月ころまで出ないようです。
以下の表によるとリーマンショック以降かなり減っている感じですが、これは債権元本を回収した事による減少ではなく、急激な円高による評価減が影響しているようです。
円高の進行により対外直接投資は急激に増えている筈ですから、11年末の統計が出れば・・そしてドル表示で見ればかなり増えていると思われます。
国力・・対外評価としてみるにはドル表示で統一した時系列でみないと分り難い例です。
例えば直接投資資産が円表示で0、8%減となっていますが、リーマンショック直前には1ドル110円前後で10年末ころには90円前後でしたから、ドル建て資産中心の直接投資残が前年同様ならば、為替相場下落分だけ減少する計算です。
この間約20%もドルが下落しているのに円換算で対外直接投資残が0・8%しか減らないのは、ドル建てでは海外投資残が実質19%増加となっていたことになります。
(日銀や財務省統計はドル表示を併記・あるいはドル建てのグラフを作ってくれれば簡単なのに、これを怠っていると以前書いたことがあります。
1週間ほど前の日経にもデフレの結果バブル崩壊後日本の人件費は約2倍になっていると書かれていましたが、日本に有利な指標やグラフはなるだけ公開しないような国是があるのでしょう。
「日本は大変だ大変だ」と言ってる方が国際関係上、上策だという国民精神ですが、対外的にはそれで得していることは確かですが、智恵の足りない若者が本気にしてやる気をなくす方向に行キ過ぎるのが怖いので、私は若者に元気を出してもらうように、大分前から国是に反したこのようなコラムを連載しています。
(私のコラムは日本人しか読まないと思うので害がないでしょう・・・)
05/26/07「キャピタル ゲインの時代17(国際収支表2)」で、実際には国際収支の黒字は右肩上がりで来ていることを紹介したことがありますし、その他失われた10〜20年という表現はおかしいと随所に書いて来ました。
上記で紹介した国際収支の黒字拡大(これが円建てですからドル表示ならばもっと激しい黒字拡大であったことになります)と歩調を合わせるように、対外資産も拡大傾向にあったことが、以下に紹介する日銀のグラフでも分ります。
この結果に対してマスコミが何故失われた10年とか20年と宣伝するのかが分りません。
対外的には儲かっていると自慢するより「ぼちぼちです・・」というのが正しいとしても、庶民の多くがそう思い込んで自信をなくしかけているのが問題です。
若者に限らず庶民の方もマスコミ宣伝を本気にする傾向があるので、ここ20年ばかり年金を納めたら損だとかNHK料金を払わないなど公的負担を嫌う変な方向に走っています。
保険制度に限らず社会制度というものは、すべからく相互信頼で成り立つものですから、納付しない人・・ずるい人・公的活動に参加しない人を増やすためのマスコミ宣伝を鵜呑みにする人が増えると助け合い精神が基礎にあるいろんな公的組織が成り立ちません。
年金危機の大方は、未納付者の増加・・納付する人を減らすようなマスコミ宣伝が余計に危機を早める方向に働いています。
ちなみに自分で換算したグラフを作れば良いという意見もあるでしょうが、そうすると公的データのコピーそのものでなくなるのが難点です。

2011年5月26日

日本銀行国際局


1. 10年末の本邦対外資産負債残高

対外資産残高は、円高に伴い円建評価額が低下したものの、(1)対外証券投資の増加、(2)株価上昇・金利低下に伴う証券価格の上昇から増加した。一方、対外負債残高は、(1)対内証券投資の増加、(2)借入の拡大から増加した。対外純資産残高は、対外負債残高の増加幅が対外資産残高の増加幅を上回ったことから、減少した(08年225.5兆円→09年266.2兆円→10年251.5兆円)。


2. 項目別の特徴点

(1)直接投資残高(対外直接投資:67.7兆円、対内直接投資:17.5兆円)

対外直接投資残高は、0.5兆円(△0.8%)減少した。

対内直接投資残高は、0.9兆円(△5.0%)減少した。

(2)証券投資残高(対外証券投資:272.5兆円、対内証券投資:152.5兆円)

対外証券投資残高は、10.5兆円(+4.0%)増加した。

対内証券投資残高も、10.6兆円(+7.4%)増加した。

(3)金融派生商品残高(資産:4.3兆円、負債:5.3兆円)

資産・負債ともに前年並みであった。

(4)その他投資残高(資産:129.7兆円、負債:136.8兆円)

 

 

国債残高の危機水準7(対外純債権)

 対外純債権額と言っても金融資産ばかりではなく、工場進出資金その他の投資資金が多く含まれているので、危機時に簡単に換金出来なくて金融資産そのものとは性質が違います。
日本国債の危機だからと言っても、いくら愛国心の強い企業家でもせっかく軌道に乗った海外工場を売却してまで、国債を買い支えるとは考えられません。
ですから、必ずしも対外債券が国債危機時の買い支え資金にはなりません。
個人金融資産を基準に考える立場を前提にすれば、正味=債務を引くと1000兆円前後しかないとすれば、現在既に国債その他政府(地方政府を含める)債務が約1千兆円に上るようですから、今でも既にプラスマイナス零または直ぐにもデフォルト騒ぎになっている筈です。
ところが将来の危機という議論(将来に備えて増税したいというマスコミ論調)しかなく、市場でも目先の危機は全く問題にならず、むしろ世界経済の乱調に対する逃避場所として外国人の日本国際購入が増えている状態です。
マスコミや学者の宣伝にも拘らず経済の実務では、国債の危機は個人金融資産残高と関係ないとする意見が大勢である証拠でしょう。
日本には事業資金・・すなわち企業の手元資金だけでも余剰資金が多く、3月23日の日経朝刊社説によれば、上場企業だけで余剰の手元流動性が60兆円にのぼると書かれています。
また同日の夕刊第2面によれば、3月23日発表の日銀の資金循環統計速報からの引用として日本国債に対する海外勢保有額が最大になったとの大きな見出しです。
外国人の残高比率は過去2番目の8,5%、78兆円で 、国内金融仲介機関の保有残高は601兆円、比率は65、3%とのことです。
合計で約74%ですから、残りは個人または国内金融機関以外の企業・団体が保有しているのでしょうか?
新聞の書き方は一部1年以上の国債に限った数字であったり、総額であったり一貫しないので保有部門別トータル国債総残高をあえて分り難く書いたような印象です。
同じ記事では個人金融資産残高は1483兆円で1年前比0、4%減となっています。
これは欧州危機による株式相場下落(および円高による海外資産の評価減もあるでしょう)によるものとの意見で、国内現預金額は2、2%増の839兆円になっています。
と言うことは、現預金以外の金融資産(年金や生保・証券投資残高など)が約600兆円ということでしょうか。
(企業にいくら資金があってもその株主の多くが外国人の場合実質的には外国人の持ち物ですから・・結局個人金融資産しか頼れない可能性があることをJanuary 13, 2012「海外投資家比率(国民の利益)1」で書きました。)
企業資金の究極のオーナーは個人でしかないので、経済学者・マスコミが個人の資力にこだわるのは安全基準としては堅いとしても、危険水準を見極める基準にはなりません。 

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC