異文化尊重と人権3(国際標準2)

例えば、日本で禁酒法や禁煙法が制定された場合、外国に行って飲酒・喫煙したのがバレたら帰国後処罰されるのか?となります。
このためになんでも国内法違反行為を外国でしたら、帰国時に処罰されるわけではない・刑法では属地法主義が原則で属人法適用は例外になっている所以です。
例えば殺人などの重罪犯は国外犯も処罰されるし行政法違反等は処罰されないのが原則的法原理です。
刑法

(国内犯)
第一条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。
(すべての者の国外犯)
第二条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
一 削除
二 第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
三 第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪
四 第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪
五 第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
以下省略

(国民の国外犯)
第三条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
一 第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
二 第百十九条(現住建造物等浸害)の罪
三 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
四 第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪
五 第百七十六条から第百八十一条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、未遂罪、強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
六 第百九十八条(贈賄)の罪
七 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
八 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
以下省略

上記のように政策上必要ものに限定列挙形式です。

第五条 外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない。ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。

殺人罪等は国外で犯した場合、処罰規定のない国がないのでそこで処罰されるので、実はそれほどの必要性はありません・・。
上記によると賄賂罪を国外で犯しても日本で処罰されそうですが、これは公務員犯罪ですから日本の公務員に対する贈賄であって、外国公務員は刑法でいう公務員ではありませんから不適用です。
日本の国家秩序を守るための刑法ですから当たり前です。
たまたま、今朝の日経新聞朝刊28pでは、初の司法取引の初公判として、タイの工事現場で現地係官に贈賄要求されて現地担当者が日本本社に相談して贈賄要求に応じた事件(内部通報?)での司法取引(会社側が捜査協力して法人自体が処罰されない取引)内容が公開された記事が出ていました。
え?外国公務員への贈賄がなぜ日本刑法の贈賄になるのか?とよく読んでみると贈賄罪の起訴ではなく「不正競争防止法違反(賄賂)」という記載になっていました。
不正競争は企業間の公正競争の問題ですので、国外での企業間競争を公正にするためには国外の不正競争も取り締まる必要があるので不正競争防止法では国外の不正競争行為でも不正競争取り締まり対象になっているのでしょう。
ところで、第5条で国内で処罰できるとしても国外で処罰された刑罰を(二重処罰にならないように)減刑免除される仕組みですから結局国外で殺人等を犯して検挙されないで日本に帰った時に処罰するメリットが中心でしょう。
弁護士になったばかりの頃にハワイでの殺人事件で服役後強制送還された事件(成田空港で入国後即逮捕です)の刑事弁護をしたことがありますが、日本の裁判で8年のところハワイで6年服役していえば残り2年となります。
警報は国民の善導のために巨費を投じて行うものですから、外国人までいちいち刑務所で教育してやるのは国費の無駄です。
入院患者と比較すればわかりますが、働き盛りの国家公務員(平均年収5〜600万?)が24時間体制で監視し移動時には付き添い、3食支給し収容時の医療体制を講じるなどものすごい経費です。
どこの国でも被害者が自国民でなければ、できるだけ執行猶予等の軽い刑罰にして母国に強制送還して母国(母国では自国民が殺されているし被害感情もあるし、物騒な人を野放しにできないなら自分で再教育や面倒見てもらいたいので、すぐに母国(日本)へ送られてきます。
日本の外国人事件でも余程の重大事件でないと原則執行猶予で即強制送還ですから、オーバーステイプラス売春防止法違反あるいは不法就労や交通事故などの事件では「どうせ執行猶予だろう」という見込みで入管職員が法廷に迎えにきています。
このように刑法では限定的に列挙した行為だけ国外で犯しても処罰されるとなっているのに、日本NGOが外国の発注先企業があたかも日本基準を前提に(正確には言ってません・・イメージ流布だけです)大々的に国連等で批判運動するのはおかしな論法です。
上記の通り、日本の賄賂罪にならないが、不正競争にならないかという内部通報の発達もこの一種でしょう。
実質的競争阻害と言えますが、不正の態様に応じて国外処罰規定のあるのとないのがあると思われますが、そのさじ加減は国会(民意)で決めるべきことです。
国外処罰規定がないことを、NGOが騒いで批判しているとすれば行きすぎではないでしょうか?

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC