袴田再審取消決定と本田鑑定1

ここで、メデイアの高裁決定批判に対する私の批判ついでに、静岡地裁再審決定で採用された本田鑑定に関する郷原氏指摘の問題点を具体的に見ておきたいと思います。
ただし、高裁決定に至った詳細根拠が示されている部分をそのまま引用すると膨大になるので省略しますが、関心のある方はご自分で上記引用先にお入りください。
メデイアが「市民感覚」などという意味根拠不明概念で決めつけるのがよくないのと同様に科学分野でも「大学教授による鑑定」「細胞選択的抽出法」という難しい題名だけで素人をケムに巻くのではなく、その論理の合理的説明をする責任がある点をこの機会に書きたいと思います。
権威者の弟子らが「立派な研究だ」と言えば誰も鑑定の非論理性を指摘できない・・「こんなことも分からないないのか!と発表者の弟子にバカにされる批判覚悟で質問しなければならないのは度胸がいります・・「裸の王様」を「王様は裸だ」と誰も言えないような社会で良いのでしょうか?
という関心です。
以下高裁決定に関する郷原氏の解説です。
6月17日までと同じ引用先です。
http://agora-web.jp/archives/2033195.htmlによると以下の通りです。

袴田事件再審開始の根拠とされた“本田鑑定”と「STAP細胞」との共通性
2018年06月14日 15:00
郷原 信郎

高裁決定を読む限り、その根拠となった本田克也筑波大学教授のDNA鑑定(以下、「本田鑑定」)が、凡そ科学的鑑定と評価できない杜撰なものであり、それを根拠に再審開始を決定した静岡地裁の判断も、全く合理性を欠いており、再審開始決定が取り消されるのは当然としか言いようがない。
今回の高裁決定を担当した大島隆明裁判長は、菊池直子殺人未遂幇助事件での無罪判決、横浜事件での再審開始決定などの、いくつかの著名事件も含め、公正・中立な裁判で高く評価されてきた裁判官である。
高裁決定は、本田鑑定の手法の科学的根拠の希薄さ、非合理性を厳しく指摘しているが、それを読む限り、過去に、多少なりと「科学」に関わった人間にとって(私は一応「理学部出身」である。)、本田鑑定が「科学的鑑定」とは到底言い難いものであることは明白だ。
・・・・・このような本田鑑定の「チャート図」についての疑問を踏まえれば、果たして鑑定資料に付着した血液中に含まれていたDNAを抽出したものなのかどうか疑問に思うのが当然である。
即時抗告審では、鑑定の手法の信頼性の有無を確認するための事実取調べとして、本田鑑定の「再現実験」を行おうとしたが、結局、弁護人の協力が得られず断念したとのことだ。
確立された科学的手法ではない鑑定であれば、鑑定の経過やデータ・資料が確実に記録されていることや、再現性が確認されていることが、鑑定の信用性を立証するために不可欠と考えられるが、本田鑑定は、データ・資料が保存されておらず、再現実験による確認もできなかった。このような鑑定に客観的な証拠価値を認めることができないのは当然である。
本田氏のDNA鑑定は、「細胞選択的抽出法」によって、「50年前に衣類に付着した血痕から、DNAが抽出できた」というもので、もし、それが科学的手法として確立されれば、大昔の事件についてもDNA鑑定で犯人性の有無について決定的な証拠を得ることを可能にするもので、刑事司法の世界に大きなインパクトを与える画期的なものである。
本田鑑定で「細胞選択的抽出法」によって「DNAが抽出できた」というのであれば、その抽出の事実を客観的に明らかにするデータが提示される必要がある。
ところが、本田氏は、鑑定の資料の「チャート図」の元となるデータや、実験ノートの提出の求めに対し、血液型DNAや予備実験に関するデータ等は、地裁決定の前の時点で、「見当たらない」又は「削除した」と回答しており、その他のデータや実験ノートについても、高裁での証人尋問の際に、「すべて消去した」と証言したというのである。
そこで、STAP細胞問題と同様に、裁判所が弁護側に「客観的な再現」を再三にわたって求めたが、結局、再現ができず、「細胞選択的抽出法」によるDNAの抽出について、客観的に裏付けがないまま審理が終わった。

「STAP細胞」問題との類似性
袴田事件で静岡地裁の再審開始決定が出たのとちょうど同時期、社会の注目を集めていたのが「STAP細胞」をめぐる問題であった。2014年1月末に、理化学研究所の小保方晴子氏、笹井芳樹氏らが、STAP細胞を発見したとして、論文2本を世界的な学術雑誌ネイチャー(1月30日付)に発表し、生物学の常識をくつがえす大発見とされ、若い女性研究者の小保方氏は、「リケジョの星」などと世の中に大々的に報じられた。
が、論文発表直後から、様々な疑義や不正の疑いが指摘されていた。
4月1日には、理化学研究所が、STAP細胞論文に関して画像の切り貼り(改竄)やねつ造などの不正があったことを公表した。その際、研究の過程の裏付けとなる実験ノートについては、3年で2冊しか残されておらず、小保方氏が残したノートには、日付すら記載されておらず、実験ノートの要件を充たしていなかったことも明らかにされた。
理化学研究所では、STAP現象の検証チームを立ち上げ、小保方氏を除外した形で検証が行われ、論文に報じられていた方法でのSTAP現象の再現が試みられるとともに、7月からは、それとは別に小保方氏にも単独での検証実験を実施させた。
しかし、結局、STAP細胞の出現を確認することはできず、同年12月、理化学研究所は、検証チーム・小保方氏のいずれもSTAP現象を再現できなかったとして、実験打ち切りを発表した(検証が行われている最中の8月4日、世界的な科学者として将来を期待されていた笹井氏は自殺した。)
袴田事件で静岡地裁の再審開始決定が出されたのが2014年3月27日、理化学研究所が、小保方氏らの不正を公表したのが、その5日後だった。
小保方氏自身も再現実験に取り組まざるを得なくなり、結果「再現できず」で終わったことで、科学的には「STAP細胞生成」の事実は否定されるに至った。
それと同様に、本田鑑定で「細胞選択的抽出法」によって「DNAが抽出できた」というのであれば、その抽出の事実を客観的に明らかにするデータが提示される必要がある。
ところが、本田氏は、鑑定の資料の「チャート図」の元となるデータや、実験ノートの提出の求めに対し、血液型DNAや予備実験に関するデータ等は、地裁決定の前の時点で、「見当たらない」又は「削除した」と回答しており、その他のデータや実験ノートについても、高裁での証人尋問の際に、「すべて消去した」と証言したというのである。そこで、STAP細胞問題と同様に、裁判所が弁護側に「客観的な再現」を再三にわたって求めたが、結局、再現ができず、「細胞選択的抽出法」によるDNAの抽出について、客観的に裏付けがないまま審理が終わった。

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