国際政治力学の流動化9(IMFのSDR採用)

経済政策を抜きにしてみると、日本孤立化政策の締めくくりとも言うべき最後仕上げであったTPPに日本を招き入れることになったのは,過去約30年来の対日包囲網をやめる意思表示ですから、大方針転換・・従来アメリカの御先棒担ぎをして来た国々にとっては大変な事態です。
アメリカの悪質な反日デマを守るために「戦後秩序改変を許さない」と新撰組みたいに頑張って来た韓国の立場はどうにもならなくなってきました。
幕府・徳川慶喜は大政奉還・自分だけ恭順の意を表して、新撰組切り捨て→鳥羽伏見の役になったのと同じ構図です。
アメリカは今なお強い立場ですから方針さえ変えれば、自分の本陣・連邦議会へ安倍総理を迎え入れて拍手喝采をし、「方針を変えました」と言って,その証しとしてTPP参加を認める・・広島訪問程度でことが済みますが、世界戦略のお先棒を担いで来たサウジやイスラエル、アジアでは韓国・中国が2階に上がってはしごを外された状態で戸惑っているのは当然です。
アメリカの対イラン制裁解除にサウジは怒って原油増産→相場下落攻勢でアメリカのシェールオイル生産の妨害をしていますが,この我慢比べの結果、サウジ自身の外貨準備が急速に枯渇し始めているとも言われています。
韓国は怒ってもアメリカに挑戦する力がない・・暴発して単独で日本を攻める力もないので、米中のハザマで漂流するしかない状態です。
今更スワップ協定お願いや?TPPの仲間に入れて下さいと日本に頼むみたくとも格好がつかない状態です。
西欧諸国は、アメリカにやられっぱなしの点で肚に含むところがありますので、従来からアメリカの意に反する親中路線をとってきました。
今回(5月26〜27)の伊勢志摩サミットを見れば分るように7カ国サミットなのに、会合人数9人で西欧人が(英仏独伊+EU委員長と議長?)6人を占めています。
このように多くの国際会議(理事数)では、伝統の力と言うべきか人数的に西欧諸国は圧倒的多数を占める仕組みになっています。
IMF(結局は西欧諸国多数の理事会になっています)は、中国の発展を囃して日米の反対を圧して強引に昨年末に国際通貨として人民元をSDRに採用してしまいました。
英国財務大臣は、これからは中国の時代として親中政策採用に熱心な動きをして来た等々を見ると、西欧諸国は中国経済に関する客観情報を敢えて無視して中国贔屓を来たように見えます。 
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20151214-OYT8T50024.html
015年12月14日 14時28分みずほ総合研究所 長谷川 克之
IMFが11月30日に人民元をSDR構成通貨として採用することを正式に決定すると、中国国営新華社は即座に速報を打ち、「歴史的な一歩」と歓迎した。李克強首相も中国の改革・開放の成果を国際社会が認めたものとして高く評価した。

IMFは昨年11月30日にSDR採用を認めたのですが、今年に入ると世界の銀行の集まりである国際金融協会(金融プロの集まり)が以下のとおりの発表をしています。
http://ameblo.jp/katsumatahisayoshi/day-20160509.html勝又氏の経済時評5月9日の一部から引用です。
『ロイター』(4月25日付)は、次のように報じた。
①「国際金融協会(IIF)は4月25日、中国から今年流出する資本額は5380億ドルになると見通した。昨年の資本流出額は6740億ドルだったため、流出ペースは鈍化する。IIFは最新の報告で『人民元の急激な下落が、中国との貿易関係が密接な国々など、他の新興国市場国も、競争的(通貨)引き下げを行う事態につながる恐れもある』と警告する」。
②「中国の外貨準備にも懸念が広がる。外貨準備がどの水準を下回れば、中国当局が懸念を持つようになるのかが分かっていない。外貨準備は、2014年6月の約4兆ドルから今年2月の3兆2000億ドル前後に減少した。大半の国と比べると、なお高水準だ。一方、国際通貨基金(IMF)が開発した別の算出方法を用いると、実際の準備高と必要となる可能性がある水準の間に存在する、緩衝の厚さは約2年前の50%から15%に縮小している。IIFは、『この観点でいえば、多額の資本が流出する事態が続く場合、資本規制を厳しく強化しなければ、国の公的準備が不十分とみなされる水準にまで縮小する恐れもある』と指摘した」。
「公的準備の不十分」な通貨とは言わば、ちょっとしたことで通貨危機に陥る通貨と言う意味です。
緩衝保有額・・ゆとりが15%しかないと(平均的決済必要額が85%)・・家計で言えば100万円の預金があるが、毎月85万円の収支で均衡していると言うのでは、ホンの1〜2割の臨時支出があると余裕ゼロ・・ちょっとした誤差でデフォルトになってしまう水準です。
サラリーマンの場合月収が安定してい上に病気や失業に備えた各種保険・災害保険制度がありますが、それでも多くの人が年収程度の預貯金をしているのが普通です。
40歳以上の家庭持ちで年収の1〜1、5割しか預貯金のない人の方が少ないでしょう。
収支の安定しない商売人であればすごくリスキーな資金繰り経営です。
商人の場合には銀行との当座貸越契約で一定枠の補填が予約されているので、目一杯現金制預金を持っていなくとも良いし、国の場合にはスワップ協定制度があります。
中国の場合どことスワップ協定をしているかですが,反日騒動に関連して韓国とスワップ協定をしましたが、国力規模が違い過ぎて中国が1000億ドル単位で資金不足に見舞われた場合とてもその補填能力はありません。
国の場合ギリギリ間に合えば良いのではなく、ギリギリとなれば通貨や株の狼狽売りが起きるし、そうでなくともジョージソロスのようなプロによる先物売りが膨らみ売りが売りを呼んで大暴落・・支払不能になってしまいます。
上記ロイターによればIMF基準によれば中国外貨準備は危機的状況に陥るすれすれの範囲に入っていますが、このようなリスキーな通貨を危機時のアンカー通貨の1つとしてSDRに採用した(日米以外の)IMF理事達は、自己の設定した価値基準を無視していた疑いが生じます。
IMF理事会が自己の決めた基準では、通貨危機が間近に迫っている国の通貨を安定通貨としてSDRに何故採用したかの疑問です。
中国寄りになってからの西欧諸国は従来の価値基準を棄てて、人権侵害に目をつむる、独裁運用する予定のAIIBに参加するなど従来の価値基準に反する行動が続いていました。
人民元のSDR採用決定には裏でかなり不純な政治動機が働いた可能性が否定出来ません。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC