テロの供給源2(精神障害者利用とその結果)

自分の住む社会秩序を破壊し尽くそうとするテロは、一種のアナーキズムですから、権力奪取のための反政府運動等とは性質を異にしています。
権力闘争の場合は、自分が権力をとった場合既存秩序をそのまま利用出来る方が合理的ですから、社会の基本を破壊し尽くすと却って自分が権力を得たときにこまります。
橋や道路等は再工事すれば良いことですが、社会心理=道義を破壊し尽くすと一旦荒廃し尽くした心・・秩序を守る意識の復興は簡単ではありません。
権力を握ったときに今度は自分の握った権力に対する抵抗勢力になってしまいます。
従って反政府勢力がこれを利用すると、今度は自分に対する犯行勢力・鬼っ子を育てる結果になるので、権力奪取目的の政治運動としては言わば禁じ手です。
ISはどのような展望で、テロリストを養成し、煽っているのでしょうか?
マスコミは頻りに移民2世等が社会的に恵まれないから、誘惑に唆されると言う解説が普通ですが、私はそんな簡単なこととは思いません。
アメリカで頻発している銃乱射事件は、経済的に困窮している階層に限りません・・12月2日の銃乱射も公務員が行なったものです。
社会制度に対する不満ならば改革運動になりますが、彼らは改革運動を一切しないでイキナリテロに走っています。
中国のチベットやウイグル族弾圧のような生命の危険がある場合でも内部の地位向上を目指す活動や焼身自殺が先ず先行していますが、アメリカやパリのような自由な政治活動を出来る場所で何ら政治活動も先行しないで、イキナリ銃乱射やテロに走るのは、自分達の社会的地位改善を求める行動とは思えません。
銃乱射事件等では自ら必ず死ぬ覚悟で、(11月のフランス・パリの事件はそうでした)自爆装置をからだに巻き付けて犯行に及ぶようになっています。
ISの支配地域では、残虐行為による恐怖心で支配していると言われていますが、単に野蛮なことをしているのではなく、・・自分を含めた全人類に対する報復感情に凝り固まっている彼らの核心的思考によると思われます。
ISのテロの場合、自爆が必須的アイテムになっているのは、検挙を恐れてと言うよりは自暴自棄・自殺念慮の一態様の発露・・個人の精神的葛藤に対して、ISの宣伝が切っ掛けになっているに過ぎないのではないかと思われるし、同種の連鎖検挙・・拷問等を免れるための組織維持戦術をついでに兼ねたに過ぎないでしょう。
精神病で行き詰まって自暴自棄で銃を発砲したと思われるよりは、ISに共鳴したと言う方がマスコミの取り上げ方が違うし、何となく、格好いいと言うだけの人が増えるのではないでしょうか?
従来から大きな事件があると模倣犯が増えていますので、マスコミが英雄のように取り上げるのは問題です。
IS参加者には、心理学的には自殺念慮と社会に対する報復感情の拡大・・従来個人が内心で鬱々としていたに過ぎない社会脱落者に対するテロ組織による炊き付け・煽動・・精神的応援が成功していると見るべき面があると私は思います。
中央の具体的指令によらずに末端の小グループでテロを起こせば良いと言う原始細胞的活動方式は、自殺願望で周辺を巻き込む銃乱射事件の犯人を誘い込んで単なる自殺行為をテロに格上げする方式としては、合理的です。
精神障害など自殺願望者がある日突然これと言った準備もなくイキナリ個人で暴れるよりは、予め銃器等の操作訓練を請け負い、(「そうだ、そうだ社会・周囲が悪い・・やれやれ」と煽って)精神的応援をしてやる・・後はISに迷惑がかからないように勝手なときに(同病相憐む)「小グル−プで標的を定めてやりなさい」とやっているとすれば実態にもあっています。
12月2日にアメリカの勤務先のパーテイでの乱射事件を見れば、(まだ背景事情がはっきりしませんが・・)個人的不満を吐き出す従来型銃乱射事件をISなどのテロ組織に伝授されてもっと大掛かりに・自信を持って実行したに過ぎないように見えます。
・・ISは精神障害等で、鬱屈した個人が従来一人の思いつきで刃物を振り回したり、銃乱射していたに過ぎなかったのを、プロが手助けしてやることによって世界中の精神障碍者・・自分の住んでいる社会に敵意を持っている人を取り込んでいると位置づけることも可能です。
ISによるテロの広がりは、組織運営者にとっては政治運動でもあると同時に世界中どこにもいる精神障害者・周辺予備軍を巻き込んでいるところに、従来型法制度では対応出来なくなっている側面があると思われます。
社会に対する不満は、アラブ系出身者の生活苦にもあると思いますが、そればかりではありません。
日本人で札幌から出国しようとして制止された人がいましたが、イスラム教徒でなくとも世界に内心鬱屈している人・・けしかけられればすぐに火がつくような人はいくらでもいます。
昇進途上のエリートでも、うつ病等で長期休暇→解雇になってしまう人が一杯いるように、こう言う人は基礎的にもやもやした社会に対する不満を抱えています。
ISがこう言う人をうまく取り込んで行くと、民族融和や経済側面だけの対応では無理があるし、どこにどう言う予備軍がいるのか分らなくなって行きます。
我が国では、オーム真理教がこうした不満分子を吸収して、事件を起こした経験があります。
古来からこう言う人は一定割合でいますが、個々人ではイキナリ刃物を振り回す・・「気違いに刃物」・・時々「通り魔事件」を起こす程度で、どうってことがありませんでした。
アメリカでは元々日本のカッターでの切り付けなどと違い刃物の代わりに銃乱射事件になって影響が大きくなっていたのですが、あくまで個人的思いつき事件だったのを、背後応援する集団が生まれ、背後で爆発物の供給・組織化が進んで来たとすれば、大変なことになりました。
あるいは模倣犯に近い・・感化を受け易い人はいくらもいます。

2015-12-9
   
   テロの供給源2(精神障害者利用とその結果)

政治運動家は、自分が政権を取って人民の支持を受ける目的で政権や社会批判をしますが、社会(秩序を守る意識)そのものの解体を目指してはいません。
支配者になったときにそのまま官僚機構や交通システムを利用出来た方が便利からです。
漢の劉邦が権力を把握すると、儒教が統治に便利だからとイキナリ保護し、以来王朝が何回変わろうとも統治に便利な儒教を事実上の国教(基本法)扱いして来ました。
これが、漢承秦制の思想の基礎になったのです。
漢承秦制の思想については、04/10/05「明治維新の開国と中国の開放経済1・・・「脱亜入欧・和魂洋才」と清朝の「中学為体、西学為用」1〜04/11/05「中国の開放経済3・・・「漢承秦制の思想と共産主義の堅持」前後で紹介しました。
権力者にとっては鉄道や道路などの復興は簡単で、しかも復興契景気になって良いことですが、権力に従わない気風が長期にわたるとその改善は至難です。
アフガンのテロ組織はアメリカがソ連のアフガン侵攻を失敗させるために養成したものがソ連撤退後これが自然消滅せずに、アルカイダなどのテロ組織としてアメリカで9・11のテロを起こすようながん細胞に育ったものです。
ISも、社会破壊目的のテロを利用して勢力を伸ばしていると権力を獲得したときに自分自身がうまく統治出来ません。
IS・・自暴自棄者の背後組織・たき付け組織の場合、その社会を良くしたいのではなく、うまく行っている社会を恐怖に陥いれ、混乱させることだけを目的にするのであれば、行動は一貫します。
身体で言えばがん細胞のような関係ですから、栄養さえ付けてからだを大きくして行けばがん細胞が成長しない訳ではありません。
精神障害者の不満は、社会福祉政策や最低賃金を引き上げるような、即物的側面の充実ではどうにもならない分野です。
精神障害者の増加は、いわゆる近代合理主義の貫徹や経済成長の結果によるものですから、成長やバラマキ・福祉政策の充実で解決出来る分野ではありません。
ですから彼らを煽って社会を攻撃させても何の解決にならない・・社会秩序が乱れるだけです。
宗教は精神の安定を図れば良い・衆生済度が極意であって社会に対する不満を煽るのは邪道です。
アメリカの例によると、上記成長政策等成功の拡大と精神病者の増加が比例関係にあると思われていますので、近代合理主義の貫徹がひずみを生じさせているのですから、この面の対応が必要です。
高層ビルを造ればこれに応じた消防設備がいるようなものです。
いつの時代にも一定比率で精神的不安定な人がいて、これを精神病院等に隔離するなどで社会防衛機能を果たしてきました。
近年精神不安等を訴える人が増えて来たので、全員隔離する訳に行かずむしろ長期入院を抑制し、解放処遇する方向に進んでいます。
経済政策の成功や福祉政策の充実・・精神科医を増やす・・薬付けで却って悪くしているような印象です・・だけではこうした人の社会に対する鬱屈した気持ちを吸収出来ません。
アメリカ型精神科医(薬品メーカーが儲かるような)増加政策では、根本的解決出来ないことがはっきりして来たと言えるでしょう。
日本では、中世以来「南無妙法蓮華経」「南無摩阿弥陀仏」などと毎日頭がぼうっとするほど唱えたり踊っていれば救済されるとする念仏系宗教がこれらを吸収して来た結果、社会の安定性が高かったのだと思われます。
一向宗など政治に走る宗教もありましたが、中世に発生した多くの宗派が精神面の救済に留まっていたのは救済を求めて来る人の目的に合致していました。
精神病質・・障碍者の場合、社会に適合出来ないことによる漠然とした社会に対する不満・・破壊意欲はあるだけであって、特定の制度を変えれば鬱屈した気持ちがどうなるものでもありません。
消費税の税率をどうするか道路交通法の規制をどうするか・・労働法規をどうする・・療養休暇期間を半年延ばしてもどうなるものではありません・・多くのうつ病等の人は休暇期間を使い切って最後は退職になっていますが、・退職後年数経過するに連れて悪化して行くような人が最後に大事件を起こす傾向がありますので、企業の休暇期間を2倍にしても良くなるような人は滅多にいません・・精神病者の不満はなくならないでしょう。

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