円安効果の限界2

円安によって価格差が縮小すると、価格以外の面でも負け始めている分野・・商品企画力の分野では時間がかかるものの(血のにじむような)努力さえすれば、巻き戻しが可能ではないでしょうか。
日本は元々明治以降高度成長期まで欧米とは企画力やセンスその他で大きく水を開けられていたのですが、次第に欧米を追い上げて来た歴史がありますので、高度成長時代の歴史を繰り返せば良いのです。
我々個々人で考えれば分りますが、もう一度人生をやり直せば良いと口先では言っても実はしんどいものです。
人生競争に成功して来た人でも、もう一度人生をやり直したいかと聞かれると「もう良いや・・」という人が殆どでしょう。
子育てのような楽しみのあることでさえ、娘に先立たれて孫を育てるのはしんどいことから見ても明らかです。
高度成長期の追い上げ体験を繰り返せば良いと言われても、実際には困難なことですから、企業人・国民による余程の覚悟・必死の努力にかかっています。
今朝のユースを見ているとパナソニックが有機EL商品のアメリカの発表現場でサムスンを見事に追い抜き返した明るいニュースが出ていました。
このように企業は日々努力しているので何とかなると期待していますが、企業や、個々人の努力に期待するだけでは足りません。
3月3日に書いたとおり、機械化の進んだ現在の国際競争力の差はインフラ負担や人件費負担差と基礎的コスト構造格差にあるのですから、この格差をなくして戦い易くして行くこと・・成長戦略こそが、政治に求められています。
成長に資するのか足を引っ張る方向へ政治家が動くのかによって、日本企業の明暗が分かれます。
競争力維持・・あるいは上昇には、個々の企業努力ではどうにもならない公共コスト負担を軽減する政治が必要です。
競争力維持・向上に反する内需拡大政策によって競争力に関係ない高度なインフラの維持経費の負担・・高コストに負けてしまい長期低迷・・戦後イギリスが辿った長期停滞の軌跡をたどるしかなくなります。
この辺・・・アベノミクスで国内公共工事の増加を期待する声が大きいようですが、全国過疎地に散らばった公共設備を廃棄して、都市部に誘導してコンパクトに作り直すための投資ならば意味がありますが、誰も使わない過疎地の公民館やトンネル等の設備を拡散したままで更新工事をするのでは、長期的にインフラ維持経費が国際競争力の足かせになってしまいます。
中国の大気汚染や飲料水汚染を見れば分るように、新興国(エジプトやインドも大変な状況らしいです)は人件費を安く抑えるだけではなく、公害除去負担その他の負担なしにその分、安く生産している・・言い換えれば国民の健康被害と引き換えに輸出していることになります。
レアーアス生産で中国が世界市場を席巻出来たのは、元々アメリカでもどこでも採れていたのに中国では公害・自然破壊などおかまいなしに、無茶苦茶採掘して安値攻勢をかけたので諸外国が競争力を失っていたに過ぎません。
日本では国民健康被害を我慢してまで中国のように輸出競争力維持を図ることは許されませんが、1日に一人が二人しか通らない農道やトンネルあるいは各種公的設備維持経費を(税として)負担し続けるのでは、経費増で負けてしまい、企業努力する意欲がわかなくなってしまうリスクを考えるべきです。
国鉄時代に政治の力で赤字の駅や線路を作り続けていたときには、国鉄マンがまじめにコスト削減努力する意欲をなくしてしまったことがあります。
民営化して政治家が口を出さなくなって、見違えるように生き返りました。
公的設備は直接企業コストに関係がないようですが、企業で言えば現在使っている設備が最新鋭で効率が良いとしても、遊休設備を無駄に保有していてその管理コストを負担している結果、企業全体の効率が低下してコスト増になるのと同じです。
企業は日本で生産する場合の(人件費だけではなく、保険や税負担を含めて)全体のコストで国際競争しています。
無駄な公共工事をしたり、無駄な施設維持費を垂れ流し続ければ、その負担が回り回って国内企業の負担になって来ます。
国鉄で言えば、政治家の圧力で赤字路線を造り続けると、儲かっている路線で働いている人までやる気をなくしてしまった経験に学ぶべきです。

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