TPPと主権9(アメリカ支配1)

EUは域内上位の独仏蘭優位グループのための政治経済機構(市場囲い込み)として効能を発揮し、一方的に市場に組み込まれるだけの南欧諸国は貿易赤字に苦しみますが、独自通貨がないために通貨切り下げによる国際収支調整機能もなくしてしまいました。
3月12日に、地方と大都会が直結するとストロー現象//周辺地域の地元資本衰退現象を書きましたが、小国が大国と障壁なしにつき合うと吸い取られてしまうのが普通です。
結局南欧諸国は重債務国となってしまって、債権国ドイツの言いなりの緊縮政策の強要に国民はしぶとく反発しています。
将来的には、その他の周辺国(中東欧諸国)も同様の結果を味わうことになるでしょう。
昔イタリア(ベネチュア、ジェノヴァその他イタリア半島諸国)は地中海貿易が駄目になると金融でイギリス・スペインその他西欧諸国から吸い上げ続けていました。
(スペインが新大陸で得た膨大な金銀が全て吸い取られて、何も残らず逆に破産してしまったのですから大変な吸い上げでした。)
最後にあちこちでデフォルトされた(フィリッペ2世は4回も破産していることを以前紹介しました)ことが、今のイタリアの凋落の原因になっているのですが、時代が巡って今は北と南が逆転した形になっているのは歴史の皮肉でしょうか?
TPPはEUと違って通貨共通化を予定していない・・通貨主権を保有したままですので、貿易競争に負ければ為替の切り下げで対抗出来る逃げ道があるように見えますが、そうとも簡単に言い切れません。
2013/03/04「円安効果の限界1」にも書きましたが、為替変動によって収支均衡するのはホンの僅かな差で競っている競合商品がある場合に限定されます。
いくら円が下がってもジャンボジェット機や戦闘機のような軍需品を日本は作れないので買うしかない・・・食料品やガスや石油など資源類も同じです。
こうしたことから分るように、円相場が下がってもアメリカからの輸入価格が上がるだけで日本は競争力を逆転する余地のない分野が一杯あります。
円安の効果に戻りますが、・・円安によって競争力が上がる分野もありますが、資源のように仕入れ値段が上がるだけの分野もあります。
割高な物を買わされて得することはありませんから、国際収支さえ均衡している限り円安よりは円高の方が得です。
要は収支均衡を目指すなら円高に少しでも近づけて均衡した方がよいし、個人で言えば、高望みして就職先がない・・あるいは結婚出来ないのは困りますが、どうせ高校、大学に入るなら、就職・結婚出来るならば、少しでもいい条件で妥結するのがベストです。
私がいつも円高の方が良いといのはこう言う意味であって、赤字でも円高が良いと行っているのではありません。
明治の初めに、もしも関税なしで完全自由貿易であったとすれば、産業革命を経た欧米の商品が怒濤のように入って来て日本産業界は近代化するヒマもなく、全産業が壊滅してしまい、いくら円が下がっても輸入するばかり・・今のアフリカのようになってしまっていたかも知れません。
日米和親条約が不平等条約であったと頻りに習いますが、それでも日本は関税をかけて国内産業育成のための障壁を設けられたたなど所謂欧米の植民地になった国とはまるで違っていた点を慶賀すべきです。
植民地支配受けた国で産業が育たなかったのは、国民レベルの低さもあったでしょうが、関税自主権や輸入制限を出来ないために自国産業を育てる前に輸入品に圧倒されてしまったことが大きな原因であったでしょう。
アメリカ独立革命も元はと言えば、(「代表なければ課税なし」と民主主義の意義ばかり学校で習いますが・・実際には)植民地経済発展・産業保護のために本国イギリスからの輸入制限が出来ないことに対する不満から始まったものでした。

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