健全財政論9(中央銀行の存在意義3)

中央銀行が低金利にしたくとも、スペイン危機による国債金利相場上昇の例をみれば分るように、政府や中央銀行には国債の金利を決める能力がなく、市場が(国際収支の状況によって)金利を決めてしまう時代です。
危機状態でなくとも、普段から金が余っている国は資金需要が弱いので金利が低くなるのは当然ですし、資金不足・・国際収支赤字継続国は資金需要が高いので金利が上がるのは当然です。
市場実勢に反した金利政策は無理があることから、日銀の金利政策は天気予報のような機能(気象庁が天気を決める能力はなく兆候を報じる)しかないこともどこかで書きました。
ちなみに、国際収支赤字トレンドの資金不足国で市場実勢に反して国内だけでも低金利に出来るでしょうか?
国際収支赤字国では資金不足→資金需要が元々強いので実勢よりも低金利・量的緩和すれば、借り手・顧客には不自由しないでしょうが、貸すべき国内の資金不足(仕入れが出来ません)に陥いります。
国際収支赤字国の銀行の貸し出し資金手当のために中央銀行がドンドン紙幣発行すると、借りた企業や人は海外からそのお金で輸入を続けるのでさらに国際収支赤字が膨らみます。
(貿易収支赤字トレンド国は、消費構造が輸入に大きく頼っている状態ですから、お金があって消費が膨らめば、ほぼ同率で輸入赤字が増大します)
国際収支赤字が連続している国では赤字分だけ国際決済するべき外貨不足状態ですから、決済資金としての外貨を外資から手当するしかありません。
貿易赤字ということは、物品サービスの購入対価として同額の商品サービスを提供出来ないことですから、売れなかった不足分=差額赤字を自国通貨を売って(自国通貨を輸出して)外貨を取得して穴埋めするか、借金(自国通貨の代わりに借用書を輸出して)で外貨を取得して決済するかによって収支均衡を保っている状態です。
すなわち、赤字同額分の自国通貨流出または借金の発生・長期の場合これの累積となっています。
国際収支赤字の穴埋めのために自国貨幣を売り続けると急激に自国通貨価値が下がるので、これを緩和するために支払期を先延ばしするか決済資金の借入(借用書=国債の海外引き受けなど)に頼るので両方が膨らむことになります。
・・貸す方は、将来の為替相場下落も見込む必要があるので、これを見越した高金利でないと貸せ(国債の場合買え)ません。
赤字国の資金は国際収支赤字の度合いに比例した高金利で外貨を確保するしかないので、国内でこれを決済用資金にして貸すにはそれ以上の金利でないと採算が取れません。
以上の結果、国際競争力(国際収支)を無視して国際取引上・市場原理で決まって来る金利と切り離した国内だけの低金利政策は出来ません。
ギリシャ・スペインのように国際収支が赤字になると中央銀行が金利を下げたくとも逆に上がってしまいます。
ユーロ圏のギリシャ、スペインの場合、自国紙幣を発行出来ないのでこの関係がストレートにそれぞれの国債相場に出ているだけで自国紙幣のある国でも結果は同じです。
他方、国際収支が40年以上も黒字が続いている=金あまりの日本では、強い立場だから実勢に反して何でも出来るかと言うと、強い国でも市場相場に反した金利政策は出来ません。
仮に高金利にした場合、資金あまりの日本では借り手がないことは明らかですから、(今朝の日経朝刊に民間需要が低いので国債購入だけではなく自治体への融資が急増している実態が報道されていました)集めた資金に対する高金利利払いに(仕入れ資金・・預金金利も連動して高くなりますので)窮してしまいます。
客が少なくなった商店で、商品値上げしているようなものですから自殺行為になります。

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