マインドコントロール3

「財政赤字を放置したら大変なことになるかどうかは議論があるところであるが・・」、「少子化が国家の衰退をもたらすかについては議論があるが、」などと一応の留保を付して論説を展開していればまだ国民には考える習慣がつきますが、財政赤字や少子化が続けば大変なことになることが自明の前提のような書き方がははびこると、(国民はマインドコントロールされてしまい)その前提事実に疑問を抱くことだけでもダサイような風潮になって行きます。
今朝(8月5日)の日経朝刊第2面には、ワニの口と題して財政赤字解消は待ったなし・次世代に膨大な借金を残すのは良くないことは自明とする論法で、増税を決められる政治になったのは良かったかのように野田総理の政治運営を持ち上げています。
マスコミが根拠なく前提・・解決済みかのように繰り返している命題に疑問を抱くようなことをするとダサイと思われるだけではなく、
「そんなことも分らないやつは議論の仲間に入れない」
・・何となく仲間はずれにされる風潮があります。
もっとも意見の分かれるべき論点について、議論の余地のない前提問題にしてしまい、異議をさし挟む者は、マスコミに登場出来なくしてしまうマスコミ報道の仕方は、言わば言論封殺システムです。
「財政赤字を何とかしなくてはならない」(このことの是非の議論をしないまま)ことを前提とする議論が繰り返され、マスコミによって洪水的報道がなされて刷り込まれると、(2012/07/22/「国際収支と財政赤字1(国債の外国人保有比率2)」以下
で論証したように財政赤字と国家破綻とは別物であるのに・・)そのこと自体反論する視点が育ちません。
「財政赤字と増税の必要性は何の関係もないでしょう」と反論する言論人はマスコミに干されてしまい、発言する機会すら与えられなくなります。
殆どのエコノミストは孤立したくないので「その点は認めるとしても・・その前にやることがあるだろう式」の条件闘争的な議論ばかりが溢れます。
せっかく増税する以上は増税分を全部使えば、その分国内消費が増加しますが、増税と引き換えに支出削減したのでは経済が参ってしまうことを増税と国内消費のテーマで書きました。
どこに書いたか探せなくなったのでもう一度書きますが、例えばある人にとって年間20万円の増税になった場合、20万円そっくり消費を抑えることはあり得ません。
せいぜいその何割かの消費減少に過ぎないでしょうが、国の方は使う必要があって増税した場合、100%支出=国内消費することになるので増税しないよりは国内消費は増えて景気上昇圧力になります。
これが景気対策としての公共工事が多く行われて来た理由です。
ところが、使う資金需要もないのに国債残高の解消あるいは縮小・・いわゆる財政健全化のために増税すると国民から吸い上げた税金の全部または一部を国債償還に回してしまうので償還に回した分の消費は増えません。
国債を買っている人は元々余裕資金ですから、償還されたと喜んで償還金を使うのではなく、大方は預金のままにしたり別の証券に買い替えるのが殆どですから、消費には回りません。
例えば1億円の金融資産の内2000万円を国債に当てている人がその2000万円が戻って来ても、(元々自分のお金ですから儲けた気持ちにならないので)喜んで買い物などしないでしょう。
他方税を取られた方は余裕のある人ばかりではないし、余裕のある人でも一定割合で消費が減ることは間違いがないので、その分確実に消費減になります。
上記の2例で分るように、政府支出の必要性があって増税すればそっくり政府が使うので消費拡大になりますが「その前にやることがあるだろう」という論法で政府支出の削減(今回で言えば事業仕分けや公務員削減)・緊縮政策になるとその削減分が景気悪化の原因になります。
マスコミの論法・・財政赤字→日本経済破綻→増税の必要性論は、増税によって得た資金を国債の償還に充てて赤字幅を減らそうとすることになりますから、もっとも悪い増税の仕方・・・結果的に経済を悪い方へ悪い方へと引っ張って行こうとしていることになります。

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