健全財政論12(貨幣価値の維持6)

8月16日から書き始めていた政府の国債発行権限に話題を戻します。
これによって政府が国債を無制限に発行出来ると実質的に大量の紙幣を入手出来ます。
ただし国債の国内消化を基準にしている限り、無制限紙幣発行と違い日銀の発行ずみ紙幣を市中から吸い上げるだけですから、税で市中から吸い上げるのと市中に出回っている紙幣量は変わりません。
ですから、国内消化を中心として日銀無制限引き受けを禁止しておきさえすれば、政府が無制限国債を発行しても(従来の紙幣発行量とインフレが連動するという理論によっても)インフレ・・紙幣価値が希薄化されることはありません。
ユーロ加盟諸国は独自の紙幣発行権がなくとも国債発行を自由に出来るのですが、この国債を国内消化せずに仏独蘭など外国人投資家に買って貰っていた結果、ギリシャやスペイン国内で均衡するべき紙幣量以上の紙幣を一種の輸入により入手していたことになります。
紙幣輸入により、貿易赤字のファイナンスとなって貿易赤字に対する歯止めがなくなった(ファイナンス出来なければ自然に輸入が減少しますが・・・)外に、国内では紙幣がだぶつくことになり・・輸入出来ない土地などのバブル演出→崩壊になった結果、今回のギリシャやスペイン危機に発展したことになります。
このように書くと国債発行・・あるいはその残高累積はそれ自体危険であるかのような誤解を招きますが、(マスコミはこれを悪用して危機感を煽って増税路線の応援をしてます)経済危機になるかどうかは繰り返し書いているように外国人保有額が多すぎるかどうかにかかっているに過ぎません。
外国人国債保有額が我が国過去の国際収支黒字累積分=対外債権額を超えているとイザとなったら買い戻せませんので危機ラインになりますが、国債発行自体が危険なのではありません。
我が国のように黒字が溜まって仕方がない・・対外世界最大債権国で金融機関自体が国民から預かった資金の使い道が分らないで困っている国と、貿易赤字の穴埋め・・資金不足解消のために国債を発行している・・この場合当然購入者の殆どが外国資本となります・・国と一緒には出来ません。
無免許や飲酒運転、居眠りで運転して事故を起こす人がいるからと言って「車は危険だから製造禁止しろ」と言うのはおかしなものだと直ぐか分るでしょうが、この場合車自体に問題があるのではなく運転能力に問題があるに過ぎません。
国債も同じで、国際収支を見極めながらの処理能力次第ということですが、仮にその見極めが実際には難しいならば、国内保有比率を何%と決めてそれ以上の外国人購入になれば(国内機関の入札が足りなければその限度までしか)発行出来ないルールを作れば足ります。
この辺の意見は2012/07/21/「国債発行限度(外国人保有比率1)」のコラムで書きました。
政府が国債の外国人保有比率さえルール化しておけば、その範囲内で国債を無制限に発行してもその殆どが国内消化している限り中央銀行の発行した限度の紙幣しか市中に出回っていないので、それを政府が回収して自分で使うだけですから、民間と政府の資金の取り合いになるだけで流通紙幣量としては変わりません。
民間資金需要が強いときには政府は民間が必要としている金利よりも低い国債利回りでは資金調達出来ませんが、それはより有効利用出来るところで限られた資金を使うことになって(市場経済のメリットで)いいことです。
現在の0、何%の低金利でも民間が喜んで国債を購入しているだけではなく地方自治体債まで大幅に買い増している現状は、それ以上の高利回り運用先・・資金需要がないことを表しています。
ところが、国内保有比率ルールなしで、紙幣発行権のある日銀(中央銀行)の国債引き受けが無制限に出来ると結局歯止めがなくなります。
March 28, 2012「日銀の国債引き受けとインフレ論1」のコラムで紹介したように今では国会議決の範囲内という歯止めがありますので無制限ではないですが、それで、問題がないということになっているのは、紙幣増発は景気対策・・デフレ対策として行っているので、物価が少々上がった方が良い(マスコミに出て来るエコノミスト意見は全体としてデフレ脱却・インフレ待望論だ)と言うスタンスだからです。
実際には、信用創造機能の縮小によってちょっとやそっと増刷したくらいではインフレになりようもない現実を8月17日に書きました。
紙幣増発制限の歴史はインフレ恐怖症に由来するものですから、経済界挙げて(マスコミが主張しているだけかも知れませんが・・)デフレ脱却に必死の現状では、紙幣発行制限制度は意味がなくなっている状態です。
ただし、この意見は世界で唯一金あまりで困っている日本にだけ妥当する意見・・昨日書いたようにいくら紙幣発行してもインフレにはなりようがないから)であって、アメリカその他資金不足国でこれをやると本当のハイパーインフレ・・ひいてはデフォルトになり兼ねません。
経済官僚が貨幣価値を守る意気込みがあることは歴史的には理解出来る(DNAがある)とは言え、今では8月13日〜14日に書いたとおりインフレもデフレ(金利動向や貨幣価値)も国力(国際収支の結果)次第であって、中央銀行官僚のさじ加減でどうなるものでもありません。
ただし、何回も書いていますが我が国はデフレは国民の利益であるばかりか国力充実の総合評価の結果でもあるのでこれを無理に脱却する必要はありませんので、そのための国債増発の必要はありません。
デフレ脱却のためではなく、内需拡大=国民生活水準向上の資金源にするためには、国際収支黒字の範囲内である限りは増発した方が良いでしょう。
民間で使い切れない余った資金を国債発行で吸い上げて、政府が足りないところに分配するのは国民の強固な同胞意識とも合致していて良いことです。
税で強制的に徴収すると資金の有効利用出来る人や企業からまで徴収してしまうミスマッチが起きますが、国債の場合、買いたくない人は買わなければいいのですから、ミスマッチがないしソフトで民主的でより良い方法です。
要は国内消化を原則にすれば税(税も国内からしか取れない点が共通になります)よりも優れていて何の問題もないのですが、国債残高膨張の危機ムードを煽るマスコミが、一方で何故か外国人に魅力のある国債にすべき・・外国人(株式も含めて)保有を増やすべきだという変な誘導をしているのが危険で、不気味です。
マスコミは日本を滅ぼすために画策しているのでしょうか?

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