女性の地位と社会進出

December 8, 2010「フランス大革命と所有権の絶対4」で書いたように、わが国では農地支配は重層的関係で、武士は領主支配権だけで農地の直接所有権までは持っていませんでした。
小作関係も同じで、西洋では自分の農地感覚ではなく従業員的立場で耕作していたので、(一所懸命の伝統がなく)エンクロージャームーヴメントで簡単に追い出されてしまったのですが、我が国では名目上は地主所有になっても、実際には小作人が直接農地管理をしていて一種の請負のような関係で敗戦後農地解放まで来ました。
ですから農地解放で、スムースに現に耕作している農民所有に復帰出来たのです。
元々農民の多くが小作関係に転落したのは地租改正・貨幣経済化・・金納制になってからのホンの僅かな期間に過ぎなかったことを、04/09/04「地租改正と農地売買の自由化3(大地主の誕生と小作農の出現=窮乏化)」前後で紹介しました。
我が国では国民の大多数を占める庶民・農民の生活は(武士・領主と農民の関係同様に)女性の労働に頼っていた・・武力(夫の)支配は観念的政治支配権(家の中で形式上大事にされていた)だけで直接支配権まで持たなかったことから、女性は飽くまで農業の主役のままでしたので実質的発言力が高かったのが、西洋やアラブ系の女性とは違います。
(今でも旧式の温泉ホテルや料亭はおカミさんが実質支配人で、男の社長は商店会の集まりに出たりウロウロしているばかりです)
西洋の歴史をそのまま理解して日本の男女関係を理解したら間違いの元です。
上位階級の理想・価値観が専業主婦・お姫さまでしたので、明治以降庶民も給与所得による収入に変化し、しかも高度成長期でサラリーマンの所得が上がると誰もが専業主婦になるの(専業主婦を養えるエリートとの結婚)が理想と思い違いしてしまったのです。
(女性には、何故か働かないお屋敷のお嬢様や奥方に対するあこがれ・・シンデレラ物語の精神があります)
皮肉なことですが女性の理想・・汗水たらさずに、どろんこになって働かないでいられる生活は、それを実現すると実質的地位低下をもたらすことに気がついていなかったのです。
日本の女性の実質的地位の高さは家庭内で実際に働いているのが主婦・妻自身であって使用人任せでないところが大きいのです。
この点西洋では、レデイーファーストと言いながらも実質的には家庭内の地位が低いのは、育児もベビーシッターや家庭教師に任せ、自分はパーテイー等で楽しむだけでは、立場が弱くなるのは当たり前です。
ただし、貴族の場合領地経営は奥様の仕事で、夫はロンドンなど宮廷に出仕して領地経営にはあまり関与していませんでした。
領主夫人は執事を引き連れて年中飛び地の領地周りをして領地ごとの管理人から収支の報告を受けて帳簿をチェックし細々とした指図をしなければならず休む暇がなかったようです。
西洋では別荘と言うか各地に屋敷があり、巡回裁判所などの伝統があるのは、こうした巡回の歴史(領主裁判権の時代が長かったのです)があるからです。
このように男女の実質的格差・・女性の家庭内地位は日本以外の国では日本よりはかなり低いのに、社会進出になるとインドやその他後進国ですら日本よりも比率が高いのは、外国の女性は家庭内を牛じることに対する関心が低い・・元々家事に時間が取られていなかった歴史によるところが大きいでしょう。
日本の女性は有史以前から支配して来た家庭内の実質支配権が空洞化する危険を冒して社会進出するしかない(従来の家庭運営形態では二者択一しかなかった)ので、独身を選択する女傑(土井元衆議院議長など)に偏ってしまうので大量進出が進みません。
これが、家事育児の社会的受け皿の整備と夫の協力(お手伝いの域を越えた)参加によって、女性が家事育児に割く時間が減少し社会進出が容易になって来たのが昨今の現象です。
ベビーシッターや家事使用人(ここ数十年間は長寿化の結果いつまでも元気な妻の母親が代わって家事を引き受けることによって、テニス・バレーその他女性専門職業が成り立つようになっていますが・・・)に頼らず社会参加を実現する我が国の方向性は正しいのですが、省力化であれ社会のインフラ整備・夫の協力教育その他何であれ、女性の家庭内の実質的関与時間の縮小が、家庭内の発言力低下をもたらす効果は同じでしょう。
July 14, 2011「結婚離れ1」以来のシリーズは、この変化が家庭内の男女関係・・結婚制度にどのように変化をもたらすかの関心で書いています。

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