危機管理と国民意識

原発特別措置法以前からある電源三法の交付金の原資としては3法の1つである電源開発促進税法(昭和四十九年六月六日法律第七十九号)によって目的税として電気利用者から一定率の税を取っているのですが、電気を使わない国民はいないので、結局は国民一人残らず負担していることに変わりがありません。
この促進税による税収はウイキペデイアによると概ね年間3500億円あまりのようです。(平成15年からは石油石炭税制との絡みで電気利用税自体を下げて行くようです)
この3500億円から原発向けにどのくらい出ているかははっきりしませんが、火力や水力よりは主として原子力発電所設置自治体に毎年配布されているのでしょう。
一般電力にはこうした負担金があり、他方で原子力発電は貰う方ですから、単純にコスト比較が出来ません。
原発の発電コストが安いと宣伝されていますが、電源3法による資金及びブラックボックス化している原発特別措置法による支出など国税から出ている部分も計算に入れるべきです。(当然今回の大被害もコスト計算に入るべきです)
ところで、特別措置法や電源三法で巨額のお金をもらいながら、危機に備えた準備がまるでなかったのは、広く言えばJune 8, 2011「事前準備と危機管理能力」で義経と梶原の逆櫓論争を紹介しましたが、失敗に対する備えをするのを嫌う国民性に責任があるとも言えます。
「放射能が漏れることはあってはならないことだ」と言う宗教的確認で思考停止してしまい、「だから漏れる場合を想定出来ない」となって充分な準備をするためにエネルギーを注がなかったから、政府もある程度の準備でお茶を濁して来られたのです。
事故に備えてロボットが作業出来るように研究が進んでいたのに、「無駄だ」とその費用を打ち切ったりしている一方で高速料金無料化などを打ち出していたのが我が国の政治です。
イザ危機になるとロボット最先端国である筈の我が国がアメリカやフランスからロボットやその他の機器を借りるみっともない始末になったのは、特定政治家の責任ではなく、こうしたことを求めてきた国民全員の責任です。
政府の取り巻きそのまた取り巻きを選出する母体たる国民各層の責任(子供手当などの方に優先支出を求める意識)を棚上げして、現在の総理や社長の対応が下手だと吊るし上げても解決にはなりません。
指導力不足を議論しているマスコミ自身が、今まで子供手当や高校授業無償化あるいは農家支援の資金支出よりは、原発の安全のためにこういう研究をしたり準備をしたらどうかの提案をしたことがあるのでしょうか?
今回の事故では情報開示の不充分さを非難しているマスコミが多く、これに便乗する意見が多いのですが、(便乗意見は誰でも書けます)政府の秘匿体質は自民党政権時代に何十年もかけて構築されたものであって、(あるいは「民をして知らしむべからず」の思想は江戸時代からあった長い伝統です)民主党政権になったからと言って一朝一夕で末端まで変更出来るものではありません。
一方で役人をうまく使えないで思いつきで命令を出すから混乱するとも言い、長年形成して来た役人の秘匿体質・・これを形成して来たのは過去何十年の歴代政権です・・無視して、彼らがいきなり情報開示出来る訳でもないのに、政府の責任だけ問うようなマスコミ論調は論理的ではありません。
秘匿体質を打開するのは精神論によるのではなく、一定期間経過後の秘密文書の公開制度の強化が有効です。
何十年も経過してから公開されても当時の責任者はとっくに隠退または死亡した後ですから、彼らは何の責任も負わなくてもよく、痛くも痒くもないので、秘匿体質の改善には結びつきません。
仮に風評被害が心配と言う論が正しいとしても、(私はそういう意見には組していませんが・・・)風評被害の心配程度ならば、1年〜2年で公開を義務づければいいでしょう。
そうすれば、政府が秘密にしたことが正しい選択であったのか否かが直ぐに判定されるので、関係者が根拠もなく(自己保身のために)秘匿する方向性が是正されて行くでしょう。

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