金融政策の限界8

紙幣大量発行を利用して国民がそのまま国内消費に振り向けると(海外投資ゼロに近い場合)どうなるでしょうか?
比喩的数字で言えば、異次元緩和分が100兆円あるとした場合、日本ではその内99%以上が海外投資に向かい、資金不足の新興国では99%以上国内消費・投資に向かう場合の違いです。
単純に国内消費を増やせばこれに呼応した国内投資も増えますし、各種輸入が増えて国内景気が過熱して景気が良いように見えますが、国際収支赤字累積→流入資本引き上げ加速→通貨暴落(アジア危機)→いつかはハイパーインフレの心配がありますから、経済学者の杞憂論は資本不足国を前提にしていて資金余剰で縦横に海外投資する日本社会を1回目の東京オリンピック時期・・資金不足国と同視していると思われます。
ちなみに中国だって将来の経済失速を前提に海外資金逃避・・裸官(賄賂・高官非難が中心ですが経済的に見れば資金逃避の1態様です)に始まって死に物狂いで?企業買収に動いています・・この数日ではイタリアサッカーチームの買収も報じられているように、何でも買収対象になっているのが現状です。
中国の場合、(まだ海外進出するほど経営経験が熟していないのに)死に物狂い・・後先を考えずに買収するので失敗が多いと言われていますが・・「借りたら返す」近代法のモラルが定着していない中韓国民レベルを前提に経済政策の議論を日本の学者がしていることになります。
日本の場合いくら金利を下げても家計負債が増えるどころか、(サラ金系債務が激減していることを4〜5日前に紹介しました・・この結果サラ金大手も小さな個人的サラ金業者もほぼ壊滅しています)逆に個人金融資産が増える一方と言われています。
以下は野村のデータによりますが表をそのままコピペ出来ないので各年の(金融資産内訳に興味のある方は上記に直接アクセスしてご覧下さい)合計数字のみの紹介です。
http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/retail.pd
リテール金融市場 日本の個人金融資産残高の推移
西暦    2011    2012     2013    2014     2015(Q1)   Q2     Q3
合計  14,999,732  15,440,650 16,443,403  16,962,404  17,001,117  17,175,367  16,838,135
野村資本市場クォータリー
(注)1. 2015年第3四半期以前の値は改定のため、前号の数値と異なる場合がある。
野村資本市場研究所作成

上記データは15年第三4半期(Q3)までしかありませんが、日本の個人金融資産が長1200〜1400兆円と言われていたのがいつの間にか15年第一4半期(Q1)以降約1700兆円に膨らんでいます。
日本の場合・・バブル崩壊で懲りた経験にもよるでしょうが、いくら金利を下げても日銀や経済学者の期待どおり、見通しの悪い事業を始めるために借金したり、返す当てもないのに借りる個人が滅多にいないのは慶賀すべき智恵です。
実はバブルのときも借りまくったのは不動産業者と貸しまくった金融業界(特に痛手を受けたのは住専でした)だけでした(個人は、農地など高値で売り抜けて得した人の方が多かった)から、日本全体の傷が浅かったのに金融業界の不始末の所為で日本全体が迷惑を受けたに過ぎないことを何回も書いてきました。
日本は犯罪率が低いと言う意味は、一定率の不心得者がいる・ゼロではないのと同様で、モラルハザード者も日本にも一定率いるには違いないですが・・消費者金融借入増に走る人も皆無ではないまでも、そう言うレベルの比率が低いと言うことでしょう。
日本社会の場合、道徳律その他で世界の先を走っていますので、中韓等の周回遅れの国に有効な19〜20世紀型金融緩和をしてもそれほどの政策効果を発揮しないのは当然です。
いつも書くことですが、エリ−トの考えることはいつも過去の事例研究・・お勉強が得意な人ばかりですから、先進国の政策決定に関与するのは間違いです。
日銀のエリート・経済学者や有名エコノミストは中国や韓国の中央銀行総裁やシンクタンクに就職すれば、社会状態が適合していて、提言どおりの政策効果がすぐに出て重用されるのではないでしょうか?
中韓贔屓のマスコミ人が退職後中韓の大学に就職して厚遇を受けている例がありますが、経済学者やエコノミストや日銀委員も中韓の大学教授に就職すれば活躍出来る筈です。
実際中国の場合バブル崩壊を食い止めるためにちょっと金融緩和するとすぐにマンション価格が急上昇し再バブル化して来たので、5月には2戸目マンション購入制限策(納税基準を過去1年分から2年分にするなど)に乗り出していますし,赤字生産を阻止するために2月26日にG20で約束したばかりの過剰設備整理の約束で休止中の高炉の再稼働が始まるなど政策効果がストレート・・ホンの数十日程度で出て来る国です。
ホテルでバイキング方式にするといくらお皿に取っても料金は変わりませんが、日本人の多くは自分が食べられる程度しかお皿にとりません・・。
中韓の客は食べもしない量をやたら皿にとって食べ散らかし放題と言われています・・今では恥ずかしいことと分って来ているかも知れませんが、元はそう言う話でした。
これが国民性の違いと言うか発展段階の差です。
マイナス金利や紙幣大量発行の恩恵で1000〜1万件に1つあるかないかの本当の有望新規事業がこれによって開業資金を得易くなる場合があるとしてもその効果は・・徐々に浸透して行くしかないので、すぐに日本全体の負債が大幅に増えて経済が活発化する・・経済効果がすぐに出るようなことにはなりません。

量的資源に頼るアメリカ

西欧は産業革命→植民地支配によって自分の働き以上の何倍もの良い生活していた結果、収入源の植民地を失った後で本来の能力に応じた生活に戻る・・軟着陸するのに苦労しています。
日本による欧米の植民地支配批判を黙らせるために,ABCD包囲網・・更には植民地ごとのブロック経済化によって、日本を締め上げた結果、日本を戦争に引きずり込み叩き潰すのには成功しましたが、西欧は植民地をあっという間に日本に占領されて赤恥を掻いた(非支配民族が自身を取り戻した)結果、戦後植民地支配を復活出来ませんでした。
これに対する日本に対する西欧の恨みの深さが分ります。
アメリカは牧畜であれ、農業(綿花栽培も含めて)であれ、資源採掘であれ、広大な原野を切り開いた大規模運営が特徴ですが、当初これに対応する目に大規模な奴隷「仕入れ」」工業化後はドイツアイルランド等の移民に頼り、移民・・多くは未熟練者ですからこの適正に応じたベルトコンベアー式大量生産時代の幕を開けたものです。
ついでに書きますと,南北戦争は北部工業地帯の発達で奴隷労働では採算が取れなくなったことによるそうです。
奴隷とは、労働契約的に見れば、日本江戸時代の遊郭の前金制度みたいなものですから、一生分の代金前払いになり,途中でいらなくなったからと言って前金を返してもらえないし、今で言う終身雇用であるばかりか死ぬまで面倒見る義務があります。
綿花栽培労働と違って工場生産要員になると(生産して全部売れるとは限らないし)景気変動があるので、一種のリース・・働いて欲しいときだけ働いてくれる・・給金制の方が合理的です。
他方で工場労働的習慣性となるとアフリカ育ちの奴隷は(綿花摘みクライは適応しまししたが・・)そう言う習慣がないし5大湖周辺は寒くて気候的にあわないでしょうから、ドイツ系・アイルランド系の方がきちんと働けることから、この頃からドイツ系移民が急増しています。
奴隷解放の結果、奴隷の生活を見る義務がなくなった結果?巷に放り出されてしまうなど、元奴隷が解放前よりも悲惨な状態になったと言われています。
大量の人手に頼る生産方式に話を戻します。
農業や畜産に限らず資源採掘でも、この圧倒的大量生産方式と一体化して世界制覇の基礎を作りましたが、資源保有の有利さが領土拡張競争に拍車をかけて来たことをどこかに書いてきました。
アメリカの13州独立以来の領土拡張の勢いはすごいものでした。
ちなみにドイツの強国化は、産業革命の基礎となる鉄鉱石と石炭の双方を手に入れた・・領内にあったことが大きな要因でした。
鉄鉱石の出るアルザスロレーヌ地方をプロシャが普仏戦争で奪った経緯は、ドーデの「最後授業」で有名になっています。
その結果・・近くのルール地方炭田と一体化した独逸重工業化発展の基礎を得たのです。
この地域の鉄鉱石・石炭の資源争奪は普仏戦争〜第1次〜第2次世界大戦に続く独仏間の領土争いのテーマになっていましたが現在は最後に勝った?仏領になっていると思います。
EUは元々欧州石炭鉄鋼共同体で始まったことを7月2日に紹介しましたが、産業革命後必要となった資源を巡る怨恨の歴史経緯があるからです。
ロシアがアメリカにアラスカを売ったときには、まだ資源の重要性が認識されていなかった・あるいは極寒の地での採掘技術がなかったことによります。
以下はhttp://matome.naver.jp/odai/2139674489665795001からの引用です。
「1867年に帝政ロシアからアラスカを買ったときの値段はさらに安く、わずか720万ドルである」
豊富な資源力・広大な国土に見合った流れ作業方式・・大量生産時代を切り開いたアメリカは、労働者の実力以上の収入を得て来たのですが、今では先進国の収入源は汎用品から知財やソフト・文化力・・精巧な手作り品・工芸品などの重要性に移っています。
汎用品生産量で勝負する時代が終われば、人口の多さよりは資質が重要ですし、量産系資源力の相対化によってアメリカの優位性が失われて行くのは目に見えています。
物量を運び生産するには10人よりは100人(トラックや機械の量に比例)の方が有利ですが、デザインや知財や美術・金融取引等になると下手な人が百人いても優秀なデザイナーや絵描き一人に叶いません。
とりわけ大量生産系・汎用品組み立ては低賃金単純労働向けの新興国の産業となっていて、これに対応する石炭・鉄鉱石・原油等の量で勝負する資源力が国力そのものではなくなった・・相対化して来た事は明らかでしょう。
ある国単位で考えれば分りますが石炭石油・レアアース等の採掘現場が、大都会や首都あるいは高級住宅街にありますか?と言う比較です。
ロシアであれアメリカであれ、どこの国でも資源採掘現場は、人里離れた荒野あるいは禿げ山にあるものです。
国単位になると資源があると自慢しているようですが、過去佐渡の金採掘作業が囚人の仕事であったように近代の炭坑夫も過酷な労働でした。
最近コマツの重機が無人運転出来るようになっているようですが、資源採掘従事者は泥にまみれ汚い現場で、最低生活層が従事しています。
彼らが作業着のママ都会に出て来てホテルで食事しません。
採掘現場を走り回るような重機や巨大ダンプが住宅街や都会を走ることはありません。
国の果てにある資源を利用する遠くの資本家が良い思いをしているだけであって、資源そのものに従事するグループが良い思いを出来ません。
これがタマタマ同じ国内にあると言うだけであって、シベリアが別の国であってモスクワ経由で売りさばいている場合も結果は同じです。
この理を用いてアメリカは中東の石油利権の獲得に動き、いわゆる「メジャー」支配をして来たのです。
アメリカのシェールガスやサンドオイル回帰は、アラブの民族意識の高まりを背景に現地政府の力が強くなって来て、メジャー支配の旨味がなくなって来たところで、国内資源利用に変更したに過ぎません。
19末〜20世紀に成功したモデル・・量的資源(人的資源も量を求める)に頼る政策そのままです。

アメリカの格差社会(フードスタンプ配給)

6月24日以来の格差社会論に戻りますと、鄧小平の言った有名な、格差容認論・・「◯◯の猫でも稼ぐ猫は良い猫だ」と言う・・金持ちになれる人から豊かになって行くと言う格差容認論は前向きですから、儲けに遅れた人の夢・・励みになります。
アメリカで昔言われたアメリカンドリームもこれに似たものでした。
現在欧米の格差論は、新興国の挑戦を受けて単純労働に高額賃金を払えなくなって来た・・負け始めた以上は、等しく貧しくなるべきところをアップルやユニクロみたいにタマタマ成功した経営者や金融のプロあるいは資源利権により特定一握りの階層だけが逆に金持ちになって焼け太りになっている点が大違いです。
アメリカの格差不満を背景にするトランプ旋風の張本人自身が、大金持ちであることを自慢する歪んだ社会です。
西欧を追い越す途中の新興国だったアメリカや・・中国や新興国の格差は、先に儲けた人ですから、こう言う社会では後に続く予定の多くの国民には「アメリカンドリーム」であり、賄賂であろうと何であろうと、「中国の超金持ち」は(自分もその仲間に入れば良いと言う希望で)まだ儲けていない人に夢を与えて来ました。
現在の先進国の場合には水位がずるずる下がって行く中で、特定の成功者だけが天文学的利益を独り占めしているのですから,ビルゲイツやジョブズ氏のように仮に特別な才能のあって不公平ではないとしても一般人には夢がありません。
中国や新興国の明日への夢がしぼんで行くと共産党幹部(の場合能力差ですらないのですから)だけが良い思いをしていることに対して国民の不満が高まります。
先進国で新興国労働者と同じレベルの仕事しか出来ない人は、本来新興国労働者と同じ収入でいい筈ですが、先進国の場合上記の特定巨額収入者の納めた税金や過去の利権収入(海外進出企業からの送金など)でインフラや社会保障コストが補填されているので、なお新興国労働者の何倍もの生活が出来ています。
生活保護その他何らの給付も受けていないつもりでも、非課税者は言うに及ばず納付税額の少ない人は、納付額以上にインフラを利用出来る恩恵を受けている人が一杯います。
月10万円前後の収入で税を払っていない人が保育所利用している場合、その維持費として税で膨大なコスト負担しています。
保険制度に至っては納付保険料の何十倍も使っている人はざらでしょう。
このように格差と言っても直接収入格差は、インフラ次第で大幅に緩和される結果、本当の格差感は社会のインフラ充実度によります。
アメリカの一人当たりGDPが高いと言っても資源や石油利権収入、金融取引、知財収入等の平均ですから、平均収入の議論しても工場労働者やサービス業の平均賃金など詳細は)何も分りません。
アメリカは昨年あたりから末端労働者の賃金水準は中国の人件費に負けないと豪語しているくらいですから、工場労働者やストアー店員の個々人の給与は高くありません。
ですから金融資本や知財等海外からの収益による高額所得者がいる結果却って格差が激しくなるし、成功者の収入が下がって行くと格差は縮小するでしょうが、そうなると将来的に(社会保障を含めた)収入が下がって、本来の働きレベルに下がって行く不安があります。
知財収入や過去の遺産(利権収入)等の分配に頼るようになると受益者が少ない方が有利・・高齢者が退職金等の預貯金を90歳まで残せるか心配になるのと同じでいつまで続くかに関心が移って行きます。
この不安がイギリスの移民増加反対論・・分配対象を減らせと言う運動が盛り上がった現実です。
金融や知財のぼろ儲けや資源・石油利権等で、一人で何十億と言う収入のある人の払った税金や寄付で多くの国民がフードスタンプを配給されていると、国民は不満と言うよりも将来が不安でしょう。
非正規雇用の多いアメリカ最大の大企業のウオールマートの店員の多くが,生活困窮者向けの1、25ドル分のフードスタンプを貰う列に並んでいることが問題になって日本でも報道されましたが、漫画みたいな社会です。
アメリカではフードスタンプ受給者が増え過ぎていて、この数年支給を絞り始めています。
http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/09/food-stamp-enrollment_n_6441040.html
「ボーレン氏「2016年にはさらに多くの人びとが給付を失うことになるでしょう。たとえ、登録申請者数の動向が、これまで通りであっても」と述べた。
政府の最新データによると、2014年9月の登録者数は4650万人で、前年の4730万人から減少した」
ちょっとデータが古いですが別の解説によると以下のとおりです。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=279619
13/07/27 PM10
「四人家族で年収2万3314ドル(約230万円)という、国の定める貧困ライン以下で暮らす国民は現在4600万人、うち1600万人が子どもだ。失業率 は9.6%(2010年)だが、職探しをあきらめた潜在的失業者も加算すると実質20%という驚異的な数字となる。16歳から29歳までの若者の失業率を 見ると、2000年の33%から45%に上昇、経済的に自立できず親と同居している若者は600万人だ。」

フードスタンプは所帯単位で配給するので、約3億あまりの人口を割ると受給率は労働者3人に1人とも言われていますので大変な事態です。
たったの1、25ドルの食品購入券(1ヶ月分で所帯全員分とすると結構な額ですが・・)を貰うために夜中の12時に(何故か深夜に配布する仕組みらしい)並んでいる映像を見ると・・それが全米労働者の3人に1人と言うのでは、如何に格差が進んでいるかが分ります。
こんな夢のない生活で何年もよく我慢しているものだ・・中国よりも先に暴動が起きてもおかしくないような気がしますが・・。
トランプ氏の煽動に乗りたくなる人が増えているのは当然でしょう。

国際政治力学の流動化8(TPP漂流1)

TPPは約30年かけて準備して来たアメリカの日本外しの完成・・究極の決め手になる予定であったとすると、日本がTPPに入ってしまうと、これまで営々と構築して来た対日FTA包囲網が意味をなくしてしまいます。
TPPの方が各種FTAよりも数段高度な関税緩和ですから、もしもTPPが発効するとそれまでアメリカと締結して来たFTA国でTPPに入っていない諸国はその差だけ不利になります。
TPP参加国は小国ばかりで主な国は日本だけですから、対米貿易上アメリカは世界主要国で日本だけ優遇する結果になります。
オセロゲームで白黒がひっくり返った状態です。
政治力学変化がそうさせたのですが、自由競争とは競争上優位の国が自由に売りたいからか主張する原理ですから、アメリカは昭和40年代初頭からの日米繊維交渉以来何かとイチャモンをつけて来た流れを見ると、日本との関係では自由競争を回避したいのが本音です。
日本をTPPに入れてしまい対米競争力のある日本と無関税で競争・・アメリカが標榜する自由競争関係になると却って損するので、TPPの発効はアメリカにとって競争的にはマイナスになっているでしょう。
TPPが発効すれば日本も無理してアメリカに工場進出する必要がなくなります。
既にアメリカとNFTAのあるメキシコで生産しても同じと言うことで、この10年ほど自動車産業が猛烈にメキシコへの工場進出ドライブを掛けている→アメリカの空洞化が起きています。
これをトランプ候補が怒ってメキシコを目の敵にしているのですが、これ以上日本まで関税優遇になると、どうして良いか分らなくなるほど苦しくなります・・。
アメリカは今後国際競争力が低下して行く一方ですから、自由貿易主義の堅持は百害あって一利無し・・TPPを批准するメリットがなくなっている判断は、アメリカにとって合理的選択でしょう。
とは言え自由貿易主義こそがアメリカ的正義の唯一の拠り所ですから、(ソ連との冷戦に勝ったのは自由主義の勝利と言います・・当時アメリカは世界最強だったからですが・・))この旗を簡単におろす訳には行きません。
オバマによる世界の警察官をやめる宣言は、次の大統領の時代になれば更に一歩進めて(トランプ風に言えば)エゴ剥き出しで、中国のように(ルール違反も気にせずに)目先の金儲けのためには大っぴらにやりたいと言う意思表示かも知れません。
マスコミ紹介するトランプ氏の風貌からしても、(偏った印象を与えるために歪んだ顔ばかり強調するので信用出来ませんが)アメリカの自由主義とはエゴ剥き出し・・力さえあれば何でも出来る裸の自由主義のような印象です。
アメリカが世界の警察官をやめる場合、西欧支配の18〜19世紀型場面ではロシアや中国の始めた領土紛争の再現・・やり放題ですが、これは従来型強盗殺人等の分野であって今でも一定量発生するのはふせげないので、世界中がすごい経費を掛けて国防軍を備え不足に備えて同盟関係を結んでいます。
戦争は悲惨とは言うもののある程度組み込まれた現実ですので、世界大戦にならない限り世界の発展に実際に大きな影響はありません。
実際に人類の発展に世界的影響を受ける・・現在から将来へ向けて重要な国際ルールを誰も守らなくなればどうなるでしょうか?
今後も生活水準を挙げて行くために新たなルール強化が必要な分野は、資金移動や知財剽窃やサイバーテロによる企業秘密の剽窃等の取締ですが、これについての取締には軍事力までいりません。
こう言う犯罪まで野放しにしろとなるといろんな分野で遵法精神がなくなって行き、世界中でルール違反が横行するようにならないか・・泥棒・人殺しのやり放題の社会になり兼ねません。
軍事力の維持には巨額資金がいるので、アメリカ1国では面倒見切れないと言う論理は分りますが、警察がいらないと言うことにはならないでしょう。
世界の警察官をやれないと言うのは比喩的表現であって、警察力と軍事力とは違います。
海上保安庁の出動と海上自衛隊の出動とでは意味が違うのと同じです。
トランプ氏の自慢する巨額自己資金自体が取引等のルールと警察力があってこそ保持出来て守られているのです。

西欧の長期的衰退6と中国接近8(排日の起源2)

創業時の資金調達は自己の貯蓄や親族友人の援助等で始めるとしても軌道に乗って上場出来るようになれば、社債等市場調達力が出ます。
上場直前新興企業でも成長性のある最先端企業がサラなる発展投資するためにウーバーに対するトヨタの出資のように、成長の芽に敏感な大手が放っておきません。新規投資内容さえ合理的であれば、老舗大手企業の場合社債発行など自己資本調達力があります。
シャ−プなど大手が社債発行等による市場調達が出来ず資本参加を求める場合には、市場調達出来ない原因がある・・競争力がない場合です。
ウーバー等の成長企業系と違い老舗企業が被買収企業になる場合には、手持ちまたは開発予定技術の時代不適合による赤字累積の結果市場で資金調達出来ず買収されたのですから、その企業の経営不振は技術不適合の結果資本不足になったものですから、当面の決済のために資本注入が必要としても本当に必要としているのは競争力回復に必要な新技術開発です。
これをしないで人件費削減策に頼っても→優秀な人材から順に逃げて行くので技術劣化が進行し国際競争力が低下する一方ですし、得意の人件費削減も思うようには行きません。
上記の結果買収した企業経営権を維持するためには絶えず資金(技術移転料?)をつぎ込むしかありません。
経営不振企業の買収は、金融的側面で見ればいわゆるゾンビ企業救済融資と結果が同じですが、後進企業による資本注入の場合金融的回収を目的にしていない・・なお使える技術入手に着目しているので、言わば解体予定の中古車を買って2〜3年使いながらその間に部品取りするようなものです。
古過ぎるクルマの場合修理・車検コストや見栄え等で新車に買い替えるのですが、修理屋が買う場合には、部品取りその他特別な技術があるからこれを買うのです。
新興国資本買収側にとっては自国で成功した低賃金モデルは通用しないので、買収企業の赤字が続き吸収すべき技術がなくなったら、これ以上資金をつぎ込む理由がないので、手放したくなるのは当然です。
買収された企業は再び経営危機になりますが、(タタ製鐵の例で言えば)8〜9年前の買収時以降技術流出ばかりであれば7〜8年前よりも技術がもっと劣化しているので、(中古車を使い尽くしてもう一度売り出すようなものですから、)その技術が欲しくて資本再投下する後進国企業は滅多にありません。
この段階に来ているのがイギリスの製鉄所を買収したタタ製鉄が7〜8年前に買収した製鉄所再売却先探し難航の現状ですし、5月31日紹介した再売却段階に来ているフランスの工場閉鎖続出・防止のために政府が出資するしかなくなって来た現状です。
移民労働力の雇用維持のために政府が出資して(税金で)工場維持を強制するのってゾンビ企業温存そののものですし、ネイテイブフランス人にとってどう言う意味があるの?となりませんか?
かと言って移民労働者を失業の危機に曝してしておくと社会不安・・テロの温床になってしまいます。
移民さえ入れれば低賃金で勝負出来ると言う西欧式解決法は無理が証明されてきました。
マスコミ報道では、金融市場運営(人民元取扱に意欲・・中国の御機嫌取りの原因になっている)に「国運」を賭けているのは一見イギリスだけのように見えますが、欧州勢は早くから物造りで世界市場で敗退を続けているのではないかの関心で書いています。
西欧製造業ではドイツだけが一見良いようですが、内容を見るとEUの防壁・・域内貿易で独占的地位を得ている内弁慶に過ぎず、域外で市場競争力があるか?となると疑問があります。
リーマンショック後既に8年も経過しているのに、未だに南欧諸国で危機が頻発するのは、相対的に強いドイツが弱い部分にしわ寄せしている矛盾がときどき表面化しているに過ぎないと見るべきであり、欧州全体として基礎体力の長期低落傾向は否めません。
細かな各種産業の統計まで見ている余裕がないので、クルマ産業を参考代表指標として見る・・アメリカ市場でのクルマ販売比率で見るとドイツ・フランスその他欧州系自動車の存在感がもの凄く低くなっています。
https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_usa_2016をみると16年4月販売で見ると日米系(ただしクライスラーを米系にカウントしました)の合計約81%を占めていて、韓国系が約8%ですからその他全部を欧州系としても約10%しかない・・欧州の物造り能力凋落ぶりは明らかです。
企業別詳細は上記に直截おあたり下さい。
5月30日冒頭に書いたように欧米は自己を筋肉質にする努力を怠ったことが原因です。
対日政策として円高誘導やブロック化で競争制限策に出たところ、日本は東南アジアや米国内に工場進出してこれをクリアーしてしまいました。

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