TPP漂流2とアメリカの凋落

Jun 19, 2016「国際政治力学の流動化8(TPP漂流1)」以来TPPの漂流化を書いている内に話題が飛んでしまいましたが、元に戻ります。
戦後凋落を続けた西欧同様に19〜20世紀型モデルしかないアメリカは今後沈んで行く国の入口に立っています。
中国の解放以降低賃金攻勢に対して、欧米は移民導入で自国賃金の低賃金化を図ってきました。
他方で日本に対しては、上級品の競争に負け始めたので円高誘導と個別FTA包囲網で孤立させることによる輸入規制で対抗して来たことを書いてきましたが、今から見ればいずれも後ろ向き対策でした。
だめになった商店街で、地元民が地元業者以外から買わない・・地元優先政策をとったり、個別商店・・料理店が腕の良い職人を招いてもっと良い物を作る方向に行かずに、腕の良い職人をやめさせて、2流の職人やホール係に入れ替えて単価を下げているのでは却って客が来なくなります。
底辺労働力移民流入策による低賃金化→値下げ競争に励みながら、EU結成による障壁とFTAで競争阻害をするのは、商店街が新規出店を拒む規制を政治家に働きかけているのと同じ発想です。
アメリカも資源その他大量生産にいつまでもこだわり高級部品を作れない限り、移民をいくら入れてもいつかは負けることは同じです。
低賃金→一般的には未熟練労働者の移民を増やせば増やすほど国民平均レベルが下がって行きます。
今後高級化・・研究職などの比率を上げて行く必要があるときに底辺層を増やす移民政策は時代逆向になるでしょう。
高級品を作れる職人の日当が高い(高度人材移民の場合には賃金低下効果はないでしょう)のはあたり前で、汎用品しか作れない工員の低賃金化が進むのは当然です。
最低労働目的の移民を入れて行くと平均賃金が下がる一方で、結果的に国民不満が高まる一方です。
自分の能力以上の生活は出来ない現実を見ないようにするために移民で誤摩化しても,回り回っていつかは国民全般の低賃金化になって戻ってきます。
移民を入れながら、この原理を覆そうとすること自体に無理があります。
貿易障壁や円高誘導・移民受入れなどで欧米が現実逃避・・誤摩化しを続けている間に、こつこつと生産技術の向上に努めて来た日本との間で、85年のプラザ合意頃に比べて却って競争力の差が開いてしまったように見えます。
この状態下で日本参加のTPPが発効するとどうなるでしょうか?
アメリカの日本に対する貿易障壁が取り払われるので、裸の自由貿易を貫徹して行くことになります。
言わばアメリカが自由貿易主義をタテに(酷い搾取・支配を)して来たラテンアメリカ諸国同様の地位にアメリカ自身が落ちてしまいそうです。
そこでトランプ氏もヒラリー氏・同氏の親中国体質は良く知られていますが・・(日本外し目的が不発に終わった以上は中国だけ閉め出す結果にしかならない)TPPを発効させる意味がないばかりか、アメリカにとって有害であると言うことで一致して反対論をぶっているのはむべなるかな!と言うところです。
日本のマスコミはTPPが成立すると中国が困ると書いていますが、元々日本外し目的で始めたのですから、日本がTPPにはいってしまった以上は、当初目的から言って存在意義がなくなっているのがアメリカの本心です。
(元々中国はそのラインに達していないので問題にしていなかったことを6月20日に書きました・・中国を困らせる目的ではなかったのです)
アメリカにとって国際政治力学上日本との関係修復が必要と判断して仲間に入らないかと誘いをかけるしかなくなったとしても、貿易関係の利害対立をどうするかはまだ決めかねている状態・・こう言う複雑矛盾関係の何次元方程式を解く能力は単純思考のアメリカにはありません。
Aに対する嫌がらせのためにAにだけ知らせずにみんなで飲み会に行く準備をしていたのに、Aが参加することになると何のための飲み会か分らなくなります。
取りあえず日本排除をやめるためにTPP参加を認めただけであって、今後日米経済関係をどうするかまでは決めていない・・TPPの批准をしないで漂流させておけば良いだろうと言うのが現段階におけるアメリカの本音的選択肢でしょう。
日本としては、日本排除目的のTPPが成立さえしなければ良いのですから、後はアメリカがどう動くか・・本気で仲間に受入れる気があるかどうかを見ていれば良いでしょう。
あるいは、批准した国だけで順次発効して行くのも1方法ですが、これにはアメリカが猛反発するでしょうから慎重にやるべきですから、先ずはアメリカ以外の国の批准を進めて圧力をかけて行く方法が合理的です。
アメリカは国際政治上当面日本と仲良くするしかないが、かと言って貿易でやられっぱなしになるのも困ると言う矛盾を抱えています。
国際政治に色気を出さなければ、(指導力を持とうとしなければ、無理して格好つける必要がない・・中国のようにエゴ剥き出しでごり押ししてればいい・都合が悪くなれば引き蘢ればいい)アチコチのご機嫌を取る必要もない一種のモンロー主義がトランプ氏の主張です。
とは言え世界中に軍を展開しその関係の人脈・利権その他が複雑に出来上がっているので、簡単に存在を縮小すれば余計アメリカのダメ−ジが大きくなりますので、政権につけばアチコチの利害集団の意見を無視出来ず簡単には行きません。
中国がもう少し大人しくさえしてくれれば、また「伝統的中米蜜月に戻れる」と言うのが、アメリカ人の多くが考えている期待・構図でしょう。

国際政治力学の流動化8(TPP漂流1)

TPPは約30年かけて準備して来たアメリカの日本外しの完成・・究極の決め手になる予定であったとすると、日本がTPPに入ってしまうと、これまで営々と構築して来た対日FTA包囲網が意味をなくしてしまいます。
TPPの方が各種FTAよりも数段高度な関税緩和ですから、もしもTPPが発効するとそれまでアメリカと締結して来たFTA国でTPPに入っていない諸国はその差だけ不利になります。
TPP参加国は小国ばかりで主な国は日本だけですから、対米貿易上アメリカは世界主要国で日本だけ優遇する結果になります。
オセロゲームで白黒がひっくり返った状態です。
政治力学変化がそうさせたのですが、自由競争とは競争上優位の国が自由に売りたいからか主張する原理ですから、アメリカは昭和40年代初頭からの日米繊維交渉以来何かとイチャモンをつけて来た流れを見ると、日本との関係では自由競争を回避したいのが本音です。
日本をTPPに入れてしまい対米競争力のある日本と無関税で競争・・アメリカが標榜する自由競争関係になると却って損するので、TPPの発効はアメリカにとって競争的にはマイナスになっているでしょう。
TPPが発効すれば日本も無理してアメリカに工場進出する必要がなくなります。
既にアメリカとNFTAのあるメキシコで生産しても同じと言うことで、この10年ほど自動車産業が猛烈にメキシコへの工場進出ドライブを掛けている→アメリカの空洞化が起きています。
これをトランプ候補が怒ってメキシコを目の敵にしているのですが、これ以上日本まで関税優遇になると、どうして良いか分らなくなるほど苦しくなります・・。
アメリカは今後国際競争力が低下して行く一方ですから、自由貿易主義の堅持は百害あって一利無し・・TPPを批准するメリットがなくなっている判断は、アメリカにとって合理的選択でしょう。
とは言え自由貿易主義こそがアメリカ的正義の唯一の拠り所ですから、(ソ連との冷戦に勝ったのは自由主義の勝利と言います・・当時アメリカは世界最強だったからですが・・))この旗を簡単におろす訳には行きません。
オバマによる世界の警察官をやめる宣言は、次の大統領の時代になれば更に一歩進めて(トランプ風に言えば)エゴ剥き出しで、中国のように(ルール違反も気にせずに)目先の金儲けのためには大っぴらにやりたいと言う意思表示かも知れません。
マスコミ紹介するトランプ氏の風貌からしても、(偏った印象を与えるために歪んだ顔ばかり強調するので信用出来ませんが)アメリカの自由主義とはエゴ剥き出し・・力さえあれば何でも出来る裸の自由主義のような印象です。
アメリカが世界の警察官をやめる場合、西欧支配の18〜19世紀型場面ではロシアや中国の始めた領土紛争の再現・・やり放題ですが、これは従来型強盗殺人等の分野であって今でも一定量発生するのはふせげないので、世界中がすごい経費を掛けて国防軍を備え不足に備えて同盟関係を結んでいます。
戦争は悲惨とは言うもののある程度組み込まれた現実ですので、世界大戦にならない限り世界の発展に実際に大きな影響はありません。
実際に人類の発展に世界的影響を受ける・・現在から将来へ向けて重要な国際ルールを誰も守らなくなればどうなるでしょうか?
今後も生活水準を挙げて行くために新たなルール強化が必要な分野は、資金移動や知財剽窃やサイバーテロによる企業秘密の剽窃等の取締ですが、これについての取締には軍事力までいりません。
こう言う犯罪まで野放しにしろとなるといろんな分野で遵法精神がなくなって行き、世界中でルール違反が横行するようにならないか・・泥棒・人殺しのやり放題の社会になり兼ねません。
軍事力の維持には巨額資金がいるので、アメリカ1国では面倒見切れないと言う論理は分りますが、警察がいらないと言うことにはならないでしょう。
世界の警察官をやれないと言うのは比喩的表現であって、警察力と軍事力とは違います。
海上保安庁の出動と海上自衛隊の出動とでは意味が違うのと同じです。
トランプ氏の自慢する巨額自己資金自体が取引等のルールと警察力があってこそ保持出来て守られているのです。

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