構造変化と格差39(新自由主義9)

イキナリ中国の賃金に合わせて国民平均を10分の1の生活水準に落とすのは無理ですから、この過渡期の解決策として誰か効率の良い稼ぎをしている人からの再分配・・生活保護や社会保障に頼るしかない状態に陥っているのが現在の日本の姿と言えるでしょう。
雇用形態が非正規化して彼らの平均値が従来の正規雇用時の半分の給与になったとしても、なお中国などの5〜6倍の給与水準ですが、本来は同じような単純労働をしている以上は賃金水準が同じであるべきです。
現在の10倍、将来5〜6倍の差になったとしても、日本人が得ているその差は高額所得者からの分配によっていることになります。
世界規模でグローバル化=賃金平準化が進めば、先進国では逆に格差が広がるパラドックスが起きるのは、先進国では生き残りのために知財や研究・高度技術化・金融資本化に邁進しているから、これに乗り換えられた少数の人や企業だけが従来通りの高所得を維持しているからです。
高成長の始まった新興国の方が格差が大きく且つ再分配システムの不備な国多く、先進国では所得再分配システムが完備していることが多いのですが、先進国では再分配・社会保障に頼ることに我慢出来ない人が多いことが社会問題になっている原因と言えます。
ある時期まで対等であった仲間の一人が成功して抜け出して行くのは、うらやましいものの納得し易いものですが、自分が対等だった仲間から脱落して行くのは辛いものです。
貿易収支黒字と所得収支黒字のバランスの変化をリーマンショック前ころに国際収支表を転載して書いたことがありますが、国際収支表の歴年の変化を見ると貿易=国内生産による稼ぎがなくなりつつある姿が明らかですし、その穴埋めとして所得収支の黒字が中心になりつつあります。
(昨年12月と今年の1月には約30年ぶりの貿易赤字でした・この原稿は年初に書いていたものですが、その後、昨年度1年間通じても貿易赤字になり、現在も毎月の赤字が続いている模様です)
所得収支黒字とは海外投資による収益ですから、所得収支が主な収入源になってくればこれに参加しない(労働者でも個人的には株取引している人が一杯いますが・・)給与所得だけの労働者との経済格差が生じるのは当然です。
高度化が進むに連れて一握りあるいは少数になった高所得者から高率の税を取って、これをバラまいているのがここ10年以上の政治ですが、(稼ぐのが一部・少数になったのでバラマキしか出来なくなったのです)このギャップに我慢が出来ないのが格差反対論者の基礎票でしょう。
格差反対とは言え、高収益の知財や高度技術獲得に邁進しないまま従来通りの大量生産だけを続けていれば、低利益率・低所得・新興国とすべて(インフラを含めて)同じ水準に落として行かない限り(ウオッシュレットなど贅沢だからやめないと行けないかな?)国内産業は壊滅してしまいます。
新自由主義批判論者=格差反対論者の意見によれば、高所得者を生まない・・格差をなくすために知財や高度技術開発をやめるべきことになり、ひいては先進国も中国同様の低賃金に引き下げて行くべきだという主張と同じ結果になります。
(実は国内の生産性アップ努力・高度化をやめても、海外収益取得者との格差はなくせません・・海外収益取得をやめろというのかな?)
「貧しきを憂えず等しからざるを憂う」と言う子供の頃に耳がタコになるほど聞かされた共産主義の図式の復活を期待しているのでしょうか?
本家の中国では、約30年前から鄧小平によって「白猫であれ黒猫であれ、ネズミを捕る猫は良い猫だ」というスローガンになっているのに、我が国では未だに「等しく貧しき」を希望する意見が形を変えて主張されているのは滑稽です。
我が国の格差は実際には国民意識もあって諸外国に比べてそんなに大きくありません。ジニ係数などの欺瞞性についてはOctober 28, 2011「格差社会1(アメリカンドリーム)」その他書きましたし、最近ニュースになっている大阪のお笑い芸人の母親の生活保護受給問題でも明らかなように、所帯分離という便法が多用されている結果に過ぎません。
格差批判で高度技術者の高収入を非難しているよりは、高度技術者を大切にして後続者の続出を期待する方が良いのではないでしょうか?
ただし、中国でもあまりにも格差が広がり過ぎたので、国内治安対策の視点から、高度成長にブレーキをかけざるを得なくなったようで、3月3日の報道では全人代が今年度は8%成長目標に引き下げたようです。
実際には海外でささやかれているように昨年から10%前後のマイナス成長になっていて、そのごまかしがきかなくなったので、実態に少しずつ合わせて行くしかなくなったのかも知れません。

構造変化と格差9(能力不均等1)

近代工業は多くの労働力を必要としていて大量の雇用吸収力がありますし、その結果、先進国では多くの中産階層を生み出して政治的安定を実現出来たことを、2011-12-17「構造変化と格差2」のコラムで書きました。
新興国の追い上げに対応する先進国としては、新興国の何十倍もの人件費=何十倍もの豊かな生活水準を維持するには、時間コストが高くても収益の出る産業を育てる・・産業の高度化しか生き残る道はありません。
高度化社会への変質に成功した社会は、少数の高度技術者や高級ブランドによって成り立つ社会ですから、大量の労働力が不要・・それまで世界の工場として多くの労働者を雇用していた職場がなくなって行く社会です。
結果的に先進国の最大構成員であった中間・下層レベルの仕事が少なくなります。
日本が過去約20年間大量生産型産業の大幅縮小にも拘らず、国内総生産が漸増し続けていたことからみれば、金額からみれば大量生産から脱皮して技術の高度化に成功しつつあることを2011-12-16「 構造変化と格差拡大1」以下で連載しました。
上記によれば、我が国では大量生産型職種の縮小・・平均的仕事しか出来ない多くの人・国民の大多数が適応不全の結果、従来の能力に応じた職を失いつつあることになります。
仮にも国民全部が適応しないで(誰一人として高度化に成功しない場合)大量生産品が流入する一方に任せていると産業革命後イギリスの綿製品輸入で大打撃を受けて「死屍累々」の表現で知られるインドのようになります。
他に外貨を稼げるものがなければ、貿易赤字が累積して最後には実力相応に円相場が下がって行き、(仮に円相場が今の10〜20分の1に下がれば、賃金水準でも新興国と同等になって行きますので)新興国と大量生産品でも互角に勝負出来るようになるでしょう。
現実には、国民の能力には凹凸があるので、一部(日本の場合かなりの部門)で高度化に対応出来ていてその部門が海外輸出で儲けているので、今でも日本全体としては黒字基調となっている結果、却って円高が進んでしまっているのが実情です。
東北大震災+原発事故及びタイの洪水被害のトリプルパンチで黒字基調がちょっと怪しくなっていますが・・円相場に関しては貿易収支赤字は国際収支の一要因でしかなく、トータルでみれば所得収支(短期的には資本収支も関係しますが・・)を含めた経常収支で決まるものです。
貿易黒字だけではなく・・海外からの利息・利潤の送金を含めれば、まだまだ経常収支黒字が続くことは明らかでしょうから、今後少しくらい貿易赤字が続いても今以上に円高になることは間違いがありません。
平均的人材/すなわち人口の多くが失業の危機に曝されているのに、一方で一部の高度化対応企業や人材によって貿易黒字が増え、海外進出企業からの国内送金によって所得収支黒字が増える状態になっています。
この結果円相場が上がる一方ですから、比喩的に言えば4〜50点の人が職を失うだけではなく60点、65点の人も職を失うなど、高度化対応による貿易黒字の獲得と所得収支黒字がジリジリと円を切り上げ、ひいては国内で働ける水位を上げて行く関係になっています。

ポンド防衛の歴史9(ポンド自由化の失敗)

そこで、ポンド交換性回復のための緊急援助として、アメリカが別途37億5000万ドル(約9億3000万ポンド)を借款(言わば援助)するのと引き換えに協定発効1年後からポンドの交換性回復を約束する「英米金融協定」が成立します。
1945年12月協定成立→1946年7月発効→この協定により47年7月からポンド交換性回復の約束が締結されました。
アメリカによる融資表明は現在の韓国のウオンの大幅下落・危機不安に対して、日本が巨額のドル融通協定を結んで市場の安心感を誘導してこれ以上の韓国ウオンの相場下落防止に協力したり、ギリシャ危機に際してのヨーロッパ中央銀行の融資枠や公的資金注入を発表して市場の安心感を期待しているのと同じ発想です。
アメリカによる援助協定成立の結果、イギリスはいよいよポンド自由化に踏み出します。
スターリング地域の3種類のうち、45年7月には中央アメリカ勘定(13カ国)をアメリカ合衆国勘定と合流させて、(アメリカ合衆国勘定は当然のことながら既にアメリカドルとの交換が自由化されていました)アメリカ大陸諸国とのドル交換の自由化が行われ、次いで47年2月には、この対象国をベルギー、オランダ、カナダなど5カ国を加え、約束期限の47年7月までにはこれを17カ国に拡大しました。
ところで、過去の借金返済圧力・・既存ポンド債権のドル換算だけではなく、フローの収支としても貿易赤字基調にある弱体なイギリス経済を背景に、(アメリカによるドル供給援助表明にも拘らず)元々ポンドはイギリス単体でも下落基調にあるところにこれだけの大幅な為替自由化をしたので、短期間(1ヶ月も持たずに・・)にポンドの流出が巨額に上ってしまいました。
なお、戦時中まではイギリス単体の赤字だったのですが、12月1日に紹介した名古屋大学教授金井雄一氏の「基軸通貨ポンドの衰退過程の実証的研究」によれば、1945〜6年頃にはイギリス本体のみならずスターリング地域全体がドル圏に対して赤字になっていたとのことですので、ポンドとドルの交換が自由化されれば、(換金ラッシュを除外しても)スターリング諸国全体を平均した為替相場としてもポンド下落は当然でした)
そこで47年8月20日(上記自由化拡大後僅か1ヶ月後です)にはイングランド銀行はアメリカ勘定への振替禁止措置をとり、ポンド交換性回復は短期間で頓挫してしまいました。
いわゆる戦後長期間続いたポンド危機の始まりです。
イギリスはポンド流出に耐えられずに1947年10月1日戦時規制に代わる「為替管理法」を制定し、戦時中のスターリング地域を「指定地域」と改められ、戦時中同様の為替管理体制に復帰してしまいます。

契約・派遣社員(手切れ8)

終身雇用中心の労働市場から、パート、契約社員や期間工、派遣労働など多様な労働形態の発達についても、借地人や借家人から出て行ってくれない限り期限不確定・・半永久的に更新して行く借地権だけの時代から、確定期限の定期借地権等の創設・併設と同じ流れの線上にあると見ることが可能です。
終身雇用一本ですと、ミスマッチが生じた場合、労働者の方ではやめたくとも適切な転職先がないので我慢するしかないし(うつ病などが増えます)、経営側も辞めてもらうわけにはいかないので草むしりさせたり窓際族に追いやるなど労使双方共に不毛です。
別の分野であれば有能な人材を有効利用出来ないで腐らせておくことになります。
契約社員や派遣の場合、不透明な手切れ金・解決金・・あるいは裁判不要なのが、(裁判の場合解決時期が明確でない)など企業にとって煩わしくないメリットになるでしょう。
労働者にとっても雇用の流動化が進めば必然的に受け皿も多様に出来て来るので、ある仕事についても適性がないと分れば契約期間が終われば別の職種につくチャンスが多くなります。
(平行してチラチラ書いていますが、離婚の自由度・破綻主義の進展問題も同じでしょう)
契約社員や派遣制度は、労働者全員をこれにしろと言うのではなく、従来からの終身雇用制度を残したまま、短期でもいいから半端な契約時間で働きたい人のニーズにも応えるために受け皿としてのコースも別途用意したのですから、従来型の借地借家に定期性の借地借家契約を併設したのと同じ発想です。
ただし、これが建前どおり選択肢が増えただけというためには、地主や経営者だけが自由に選べるだけではなく、借地人や労働者にも選択の自由が現実に存在する必要があります。
これがないのでは、事実上労働者や借地人が不利になっただけになります。
どちら側からでも自由に選べる社会状況であって初めて、選択肢が広がっただけと言えます。
借地契約に関しては、元々借地人に有利すぎることから、(高度成長の結果大都市とその周辺では土地需要がうなぎ上りになった)昭和40年代後半頃から新規借地供給は皆無と言えるほど減少していましたから、新法制定以降定期借地契約ばかり増えたとしても、旧来型借地契約がこれによって減ったことにはなりません。
(地主は貸すのではなく売るか売らないかの二者択一だけで、元々新規契約・新規供給ががほぼなくなっていたのですから・・・)
しかし労働契約・市場に関しては、終身雇用は企業にとって不利だからと言って企業側が新規終身雇用を100%近くやめていた訳ではないので、(そんなことは出来ません)非正規雇用制度が出来てそこへ流れた分だけ終身雇用者数が減った・・企業側にとって選択肢が増えただけとも言えます。
労働者にも半端な時間だけ働きたい人がいることは確かでしょうし、多様な労働市場が出来れば、労働側にも選択肢が広がったことによるメリットがあります。
たとえば、子供が大きくなったので今度からフルタイムで働きたい希望に変わったときにも、一定の比率で正規社員への転進が保障・・中途採用の受け皿が整備されていないと、一旦非正規を選ぶと正規=終身雇用に戻れない・・非正規雇用者ばかり増えてしまいます。
もしも簡単にどちらへでも転進が出来るならば、メニューが豊富になっただけと言えますが、正規社員から非正規への一方通行が中心で、逆方向の転進が少ないとなれば建前通りではないことになります。

原発のコスト9(東電の賠償能力)

8月18日に紹介した原発賠償法を見ると法律上は立派な無限責任(加害者は被害弁償すべき)ですが、支払能力がなければ絵に描いた餅となります。
第7条では、1事業所当たり1200億円以内ですから・・1200億円以上にしていないので実際にどれだけ供託していたのかすら実態は不明ですが、一旦ことが起きれば兆単位の賠償金・・国民損失が出るのが明らかなのに、その事故賠償に必要な額の賠償用基金の積み立てあるいは保険利用をして来なかったらしいのです。
(財務諸表をみていませんが、株式相場大暴落からの推定です)
安全の根拠もないのに無責任に「絶対安全です」と言って停電や配管の破損に何の準備もして来なかったのと同じで、全額(無限)賠償しますという法律だけ造って、賠償引当金の積み立てを会計上強制していなかったのですから無責任そのものです。
ここで強制しなかったとは供託金の額が少なすぎたのみではなく、会計基準として充分な賠償引当金を計上していなくても適正意見を付して来た監査法人の責任も意味して書いています。
賠償能力不足の点は大震災の直後から大問題になっていて、事故直後から経済の世界では、東電には賠償金支払能力がないことを前提に株は大暴落になっていましたから、早く決着付けないと社債市場が大変なことになる・・東電の資金繰りが直ぐにも行き詰まるということで(世間では原発の事故報道に一喜一憂しているときでしたが・・)経済界では緊急事態になっていました。
損害全部を無限に賠償するには東電は倒産するしかないことを前提に、東電の賠償責任をその一部に限定をするしかないだろう・・つぶしてしまう訳には行かないし・・というのが原発事故直後の議論でした。
東電が倒産すると(日頃から感じの悪い社員が多かったし、こんな無責任な会社は早く解体して欲しいと思う人が多いでしょうが・・・)関東圏一帯の電気が停まったままになってしまうだけでは済みません。
事故直後には、国民は現場の注水努力に一喜一憂していましたが、実はこれを続けるための経済的手当が裏方で緊急要請されていたのです。
急がないと東電の発行済社債の書き換えが進まない・・まさに直ぐにも、資金枯渇・倒産の危機に直面していたからです。
株がいくら下がっても株主には損をさせれば済みますが、社債の場合、支払能力がない恐れがあれば誰も次の社債を買いませんから、既発債のデフォルト・・すなわち倒産に発展します。
倒産して給与も払えないとなれば、現場作業員も集まりません・・次の仕事があると思うからこそ、下請けも命がけで頑張れるし、危険な作業にも高額な手当を弾むことによって全国から命知らずの労務者を次々と入れ替え立ち代わり多く集められたことも事実です。
事故と同時にもう倒産だろうということでみんな現場から逃げてしまった場合を想定すると、冷却機能が壊れたままの高熱状態で放置すれば、次々と臨界状態になって・・原爆以上の大爆発が連続花火のように始まるような感じでしょうか・・。
August 10, 2011「原発のコスト2(輸出リスク)」で紹介したように広島原爆ウランは僅か1kgしか使っていないのに対して、福島原発には年間160トンもの天文学的な量のウランが使われているというのですから、次々と核分裂が起きた場合の結果は推して知るべきです。
(福島原発内の燃料プール全体で320トンも溜まっている・・これも冷却しないと同じようになります)
それこそ地球と言うか、日本列島の破滅です。
国民全部がドイツ、フランスの大使館のように大阪まで逃げなければならないことになります。
当時の対日本部長の明かすところによれば、アメリカ政府内では東京圏にいるアメリカ人9万人の全員退避命令を出すかの瀬戸際まで行ったらしいです。
対日関係者による「ここで命令を出したら日米同盟が深刻な危機となる」という必死の抵抗で命令発動をギリギリで食い止めたらしいのですが、水素爆発が起きた頃から、アメリカや西洋諸国では上記のような連続臨界・爆発を想定していたようです。
これを徳俵のところで踏みこたえたのは、我が国の底力・技術力の厚みとも言うべきで、これが海外からの賞賛の対象になっている・・・あるいは将来の信用・財産になって行くでしょう。

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