民主主義の基礎6・信頼関係5(people2)

日本列島では組織・政府・宗教が組織構成員・国民と対立していて、国民を弾圧する、害悪を加えるなどの西洋的感覚は、古代から何千年も考えたことはありませんし、自分と所属集団は一体化しているので(お上を信頼しているから直訴はありますが)組織を敵視した打倒運動もありません。
佐倉宗吾郎その他の一揆は飽くまで「お上に声が届けば改善される期待」であって、声が届いた段階でお裁きはお上にお任せする・・その段階で引き下がる仕組みです。
忠臣蔵の討ち入りも後は御裁きを待つ・・同じ原理です。
お上はいつも民を如何にして良くするかを考えているものと言う信頼があり・・それがうまく行かないことがあるとしても・・直訴で修正してくれると信頼しています。
日本の神様は民に過ちがあっても、罰する神様ではなく許してくれる神ですし、外国から入って来た佛教でも慈愛に満ちた観音様が一番人気ですし薬師様その他優しい系が人気です。
中世以降は念仏を唱え阿弥陀さまや観音様ににすがりさえすれば救われると言う観音信仰や念仏系信仰が広がったのは、まさに助け合い社会・民族性をあらわしています。
神様も民族や地域集団から超然としている別の存在ではなく、氏神様・住民と渾然一体的存在です。
占領軍が日本から神道を排除しようとしてもうまく行かなかった所以です。
アメリカでは民族意識の強調すら出来ない関係で、民衆とは別の存在・・実在の支配機構が必須です。
政府と民衆とは主客対立関係にあるガバメント・統治機関を預かる・民主・共和両党の伝統的政治家は、民衆とは別の独立の超然たる統治機構(内部支配する企業・資本家)の発展に関心があって、国民は仕入れ原材料や工場設備的存在・・入れ替え可能な人的資源・商品であり、対象でしかありません。
民主共和両党(伝統的政治家)の本音は、企業利益・株主資本利益の最大化が目的ですから、本音・極端な話が、能力の割に高賃金の現在アメリカ人が全員出て行き、低賃金の中南米〜アジア〜アフリカ人に全部入れ替わっても、今の10〜20分の1の低賃金化実現の方が良いのでしょう。
イギリスが羊毛で儲かるとなれば羊を飼うために小作人を追い払ったエンクロ−ジャー(囲い込み?)を見ると農民が、貴族の農地経営方針転換のために簡単に追い出されてしまう弱さに驚くのが日本人です。
アメリカやEUではエンクロ−ジャーの現在版・労働現場では、(非効率な機械を最新機械に入れ替えるように)自国民と低賃金移民との入れ替えが進んでいます。
農民の弱さと言うよりも、企業や政府(お家・お城)が何のためにあるかの根本が違うからでしょう。
神社やお城が民衆威圧のためにあるのではなく、その地域の民の誇り・象徴になっている社会と被支配者を威圧・支配するための宗教施設や拒絶的な西欧各地の城がある社会とは違いがあります。
無宗教と言われる日本人が村の鎮守様や神社仏閣・・概ね質素な造りで威圧的はありません・・で思わず手を合わせるのが普通ですし、これと言った信仰心がなくともお伊勢様や出雲大社等に行く(参拝する?)人が多いのですが、西欧で古びた教会に「郷愁を感じ?)御参りする人が今どれだけいるかの違いです。
government(統治者)とは何かに戻りますと、「人民のための政府」と言っても日本の場合政府とクニの民は一体で分りよい・・古代からあたり前のことですが、アメリカの場合「人民」とは何かが問われ直さなければなりません・・。
民族国家でもないアメリカの場合、日本語の政府ではなく、government(統治者)は民族に基礎をおかない統治者観念ですから、裏から見れば人民自体の概念も「支配対象の人」と言う以外にはっきりしていない・・地に着いていません。
政治家のレトリックでは現実が分り難いのでこれを離れて労働現場で切り取って、日米で人を現にどのように扱っているかの違いを比較して見ましょう。
効率一辺倒で人間を商品化し、自由に入れ替えしたい立場・・終身雇用は戦後の高度成長期の一時的現象に過ぎないという意見がマスコミの主流であり、雇用流動化こそ進むべき道であるから、受け皿整備が主張されています。
国際潮流の変化にまけないように日本人を訓練し直す必要がありますが、企業から放り出してしまい、公的職業訓練校に任せるか、新時代適応出来るように実務を通じて社内訓練して行くかは別問題です。
私は中高年齢者を学校で教えるよりは、新しく入った機械を仕事しながら操作を身につけて行く方が何倍も効率がいいように思われるし、(多くの場合なれた古い機械と違う部分が少ないので勉強すべき新たな部分も少なくて済みます)社員の立場から見ても解雇されて失業者になってから公費で職業訓練校(同じ新式機械でももとの勤務先にあった機械と系列が違ってゼロから勉強する必要がある非効率さ)に通うよりは、精神的な負い目が全く違います。
アメリカ民主、共和党・資本家支持の両党の政策→非正規雇用・低賃金化して行き、その代わりに社会保障の充実を主張するのと同じで人民には不幸です。
物事の観察期間に戻しますと、気候変動や各種統計について都合の良い期間だけ切り取って異常だとか、政治経済のトレンドを評論している人がいるのと同じで、物事はテーマに応じたスパンで論じないと合理性がありません。
地震の多い地域か少ない地域か・・気候変動などは長期トレンド見てこそ分るものであり、単純そうな個人人格だって5分〜10分の観察よりも1〜2週間一緒にいた方がなお多面的観察が出来るし、その人の過去の発言など総合した方がなお分りよいものです。
民族性は、数十年や百年程度では、運悪く多民族支配を受けるなどの外部環境に支配されることがあるので、数十年〜100年スパンで見るのは間違いです。
物事の理解は今日雨が降るかどうかの判断のように直近の短期的変化を重視すべきですが・長期スパンで考えるべきときには対象期間が長期であればあるほど合理性があるでしょう。
トランプ現象も超短期で見るにはトランプ氏の個人資質や、直近で何を言い、今日何を言ったがが重要ですが、長期的に見るときにはアメリカの置かれた客観情勢のトレンドからはみ出せることはありません。
日本の終身雇用制度・・民族意識を見るには、帰属意識が歴史上明らかになっている「家人(けにん)」との堅い絆で結ばれていた源平合戦の時代から千年単位で見るべきでしょう。
明治維新に至るまで関ヶ原以降領地削減=収入激減に苦しんだ上杉や毛利の例、あるいは維新で領地を失った会津や仙台藩の家老や阿波の稲田家など家臣団を食わすために必死になった歴史を無視できません。
対アメリカ戦の敗戦にあたっても、「食糧が足りないから返って来るな」とは言いません・・むしろ必死に帰還船を出して(岸壁の母で有名なとおり)舞鶴港で迎え入れました。
ニッポン民族の一体制・信頼関係で書く予定だったのですが、ここで終身雇用・・死んだ後もでも絆を切らない民族性を紹介しておきましょう。
アメリカとの戦争に完敗しても天皇制を死守し、勇敢に戦った自分の父を尊敬している人が大多数・・そういう民族です。
まず誰かの責任追及に走る民族ではありません。
「朕はたらふく食ってるぞ!なんじ臣民飢えて死ね」と言うプラカードの標語が何故か心に残っているのは、あまりにも日本臣民の心からかけ離れた不届きで罰当たりな標語を掲げて皇居に押し掛けた違和感からでしょうか?
本日現在のウイキペデイアによると以下のとおりです。
「プラカード事件(プラカードじけん)とは、1946年(昭和21年)5月19日の食糧メーデー(米よこせメーデー、正式には「飯米獲得人民大会」)の際、参加者の一人である日本共産党員の田中精機工業[1]社員・松島松太郎が掲げた「ヒロヒト 詔書 曰ク 国体はゴジされたぞ 朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民 飢えて死ね ギョメイギョジ」
そもそも国内の食糧総生産量が人口に見合わず、戦前は台湾や朝鮮半島から輸入していたため、また外地からの復員の分、人口が増えるわけであり、満足な供給には無理があった。農民も復員してきているとは言え、今すぐに食糧が増えるわけではなく、誰が大臣になっても解決策は無かった。大会翌日の5月20日、GHQ最高司令官マッカーサーは「組織的な指導の下に行われつつある大衆的暴力と物理的な脅迫手段を認めない」と声明を出し、社会党と共産党を牽制した。これによりデモ隊は霧散した。
既にGHQはこの食糧不足の危機的状況を把握しており、最も欠乏していた北海道から順次、食料供給を始めており、食糧問題の特別使節団として派遣されていたハーバート・フーヴァー元大統領は、90万トン近い食料を日本に供給すべき、と進言しており、実際に実行されている。 このデモはそれらを無視した形で、当初から政治的目的を持って行われた。」
戦争に負けたからと言って(恐れ多くも)天皇陛下の名を呼び捨てに書いて、皇居に押し掛け天皇に対して直截面会を求めるなどるなど日本国民の多くにとってあるまじき行為ですから・・その表現にショックを受けた人が多かった・・共産党系はソモソモ日本民族の一体感を持っていない人の集まり・・権力が弱ればその隙を突きたい人たちであることを自己証明した事件だったかも知れません。
「イザ鎌倉!」と言うときに「待ってました!」とばかりに敵方に馳せ参じる武士のような人も一定率いるでしょう。
今でもそうですが、選挙の結果を無視したデモ呼びかけで国会前に5000人〜1万人も集まると民意を証明していると左翼系文化人が自慢しますが、当時の1億人口の内暴徒が皇居前に仮に1〜2万人集まったとしてもそれが当時の日本人の大方の意思だったことには到底なりません。

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