対外権限と内政能力4(アメリカの場合1)

アメリカの大統領制は、国内政治の利害調整は(法案成立までの調整は)議会でやり、(法成立後は)裁判所(どんなことでも裁判で決着を付ける国ですから行政裁量の余地が我が国よりも小さい)が行ない、大統領はその結果を執行することと対外戦争をすることが中心です。
ですから議院内閣制のように利害調整の経験がない・・利害調整に長じた人材が、大統領になる制度ではありません。
言わば創業・・対外的大統領選に勝ち進むだけ・・戦国時代で言えば、天下統一に勝ち進むのに特化した能力で足ります。
大統領には、言わば複雑な内政利害調整能力が求められていません。
大統領に当選するのに求められる能力は、利害調整能力ではなく対抗馬に勝ち進む戦略の優劣だけ・・演出家の振り付けにしたがって演技する能力だけで足ります。
December 3, 2012「選出母体の支持獲得3と政治資金1」で紹介したように、大統領選の結果は資金力にほぼ比例すると言われていますので、資金集め能力が重要ですが、これも選挙参謀・演出家の演出に従って挨拶回りやパーテイをこなせば良いことで候補者自身の能力は不要です。
大統領選向けの戦略は別の専門家が立ててくれるし、当選するまでの選挙活動・・これも演出に従って振り付けどおりうまく演説したり、ガッツポーズしたりする能力があれば足ります。
対外的に勝ち進みさえすれば良いように見える、わが国戦国武将でも、家臣団の利害調整能力が不可欠でした。
以前上杉謙信の例で書いたことがありますが,戦国大名の多くはその地域内小豪族の連合体ですから、家臣団同士の境界争いその他利害対立が無数にあってその調整に失敗すると不満な方は離反してしまいます・・。
石橋山の旗揚げに破れた頼朝が房総半島に逃げて再起出来たのは、千葉氏の力添えによるものでしたが、千葉氏は元々平氏でしたが、相馬御厨の所領争いで平家がうまく調整してくれなかったので、平氏を見限って源氏についてしまったことを、09/19/04「源平争乱の意義4(貴種と立憲君主政治3)」で紹介しました。
上記コラムでも書きましたが、戦闘集団である武士であっても利害調整能力がないと権力を維持出来なかったのです。
アメリカで大統領になるには、大統領選挙に勝ち進めば良いことであって,利害対立する双方を納得させる複雑な内政能力は全く必要がありません。
当選後は(行政執行は完備した行政庁の官僚が実際にやるので)大統領の主な仕事は対外戦争をするか否かを決めることというのですから、いつも戦争予定の敵がいないと大統領の仕事がない国です。
これを法的に見ておきましょう。
行政府の長としての権限は議会の決めた法律の執行でしかないので、言わば下請けでしかありません。
行政には一定の裁量の幅がありますが、その実務は官僚機構が実施するのとアメリカの場合,何でも裁判で決める社会ですから、行政の裁量権も狭いし,大統領が具体的に口出し出来ることが多くはありません。
日本では内閣の法案提出権が重要ですが,アメリカ大統領にはこの権限が一切なく,(日本とは違って議員立法しか認められていません)議会に出席する権利さえありません。
大統領の年頭教書演説が有名ですが、議会からの招待があって初めて行なえるだけです。
大統領が議会に何かを命じたり議案を出せることではなく,言わば「今年の抱負をみんなの前で言っていいよ」というだけです。
戦争権限は憲法上は議会の決定事項ですが、戦争兵器の近代化が進んで議会で議論している暇がないので,大統領が専権で開始出来るようになっていました。
(核兵器発射ボタンを考えれば分るでしょう)
これがベトナム戦争など無制限に戦争が広がったことに対する反発から,戦争権限法が相次いで制定されて1014年2月8日現在のウイキペデイアによれば,以下のとおりとなっています。

1973年戦争権限法(War Powers Resolution)[編集]
1973年に成立した両院合同決議であり、アメリカ大統領の指揮権に制約を課すものである。この法律はニクソン大統領の拒否権を覆して(両院の三分の二以上の賛成による再可決)により成立した。
事前の議会への説明の努力、事後48時間以内の議会への報告の義務、60日以内の議会からの承認の必要などを定めている

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