財政収支と国際収支2

たとえば収入70の人が80の水準で生活を続けると蓄積を毎年10ずつ食いつぶしてしまい10〜20年後に貯蓄がゼロになるとした場合、貯蓄ゼロになってから生活水準を70に下げるのはきついので、今から72〜73程度の水準で生活をして行くとどれだけの期間持ちこたえられるかです。
個人の場合には、5年後には子供が大学を出ているから生活費を抑えられると言う話がありますし・・国の場合30年後には少子高齢化の波が通り過ぎて人口構成が正常化するのを期待することも可能です。
100歳を越えた金さん銀さんが何故貯金するのか聞かれて「将来困らないために・・」と答えたのが笑い話になっていますが、高齢者でさえ「後3年でこの貯金を食いつぶす」と分っているのでは心配です。
ここで重要なことは、現在または近い将来の生活水準維持が国民のフローの稼ぎの何%超過(赤字)になっているのか、この(赤字)生活を続けたら何年で対外債権(蓄積)がなくなってしまうのかの計算式・見通しを示すことでしょう。
個人の場合で言えばあと30年生きるとして何千万円の貯蓄があって、年金収入での生活費不足分として月に何万円ずつ取り崩して30年持つというような計算をします。
国家としても(あるいは経済学者が)国民の平均生活水準として「家族3人で月40万で想定したらこれだけの国際収支赤字、この場合赤字転落後何年で純債務国転落、30万でやって行けば収支トントン、25万円だったら経常黒字の継続というような家族構成や年齢構成ごとのモデル式を示すべきです。
その上で、生活保護基準その他社会保障をこの平均値から何%減が良いか算出して国内合意をして行けば良いでしょう。
現在のように単に可哀想だからもっと上げろというばかりでは、基準のない感情論になってしまいます。
現在野田内閣では消費税増税を計画していることを受けて御用学者ばかりの日本では、赤字(国債)の累積と増税必要性の有無に議論が集中していますが、税収=再分配資金が一定量必要とすればその収入源を増税によるか国債によるかの区別は国際収支健全性のメルクマールと何ら関係がありません。
ここで必要なのは国民にどの程度の生活水準を保障すべきか、その水準で生活して行くと後何年日本経済は経常収支の範囲内で運営出来て、赤字転落してから何年間対外純債権国を維持出来るのか(その間に人口構成が正常化するなど)の見通しを示すことでしょう。
税金で取ろうと国債で集めようと現在の収入(国内総生産とは限りません)以上・・すなわち貿易赤字になっても現状の生活水準の生活を維持するために資金を吸収して国民に配っている(現金のバラまきに限らず公共工事等もインフラ整備も生活水準維持費です)と、いつかは過去の蓄積がなくなります。
消費税を10%から50%〜90%にしても、国全体で貿易赤字を無視して贅沢(公共投資その他)を続けて蓄積を食いつぶせばいつかは日本経済は破綻します。
現在の論壇は、財政赤字の解消のために増税しないと日本経済が破綻するというのですが、財政赤字と国際収支悪化との関連性に関する議論がありません。
財政赤字がいくら大きくてもその借金が国民からのもの(国際収支黒字)であれば、親子間で息子に生活費を入れさせるか入れさせないで借りたことにしておくかという帳簿処理に過ぎないのと同様で、何の問題もありません。
ギリシャ危機は対外的債務の方が大きいから危機になったのであって、財政赤字と経済危機とは直接の関係がありません。
マスコミが煽っている心配論は、国債残高累増によって、国内で購入し切れなくなって海外勢に頼るようになると世界最低金利では売れないだろう・・ひいては高金利化して利払いに困る・・日本経済もこの状態で高金利化するのは困るとの連想によるものです。
しかし対外純債権国である限り、国債の引き受け資金には困らない・・対外純債務国に転落しない限り国債がいくらあっても心配が要りません。

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