労働流動性化1(反対論・日弁連1・「窮乏を極めて」る?)

以下は事業転換・人材入れ替えを容易にしようとする動きに対する反対論です。

解雇規制緩和のための「解雇の金銭解決制度」の導入の動きに反対しましよう

2015年9月1日
ニュース・トピックス ブログ
解雇規制緩和のための「解雇の金銭解決制度」の導入の動きに反対しましよう
企業が世界一活動しやすい国を目指す」と、安倍政権による労働者を犠牲にする「労働改革」が進められています。
ところで、政府の労働改革の一つに、無効な解雇でも使用者が金銭を支払えば解雇ができるようにする、金銭解決制度の導入が提言されています。
現在は、正当な理由がない解雇は権利の濫用として無効とされます。
ところが、政府・財界が企図している金銭解決制度が導入されると、労働者が解雇無効の裁判を起こしても、使用者が金銭で解決を図りたいとの申立があると、裁判所は違法な解雇であっても無効とはせずに金銭賠償を命ずることになります。」

ところで日弁連の意見はどうなっているのでしょうか?http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130718_2.pdf

「日本再興戦略」に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書
2013年(平成25年)7月18日  日本弁護士連合会
・・・・「多様な働き方の実現」のためとして,多様な正社員モデルの普及,労働時間法制の見直し,労働者派遣制度の見直し等が検討対象とされている(日本再興戦略第II一2③)。規制改革実施計画においても,人口減少が進む中での経済再生と成長力強化のため,「人が動く」ように雇用の多様性,柔軟性を高めるものとして,ジョブ型
正社員・限定正社員(ジョブ型正社員と限定正社員はほぼ同じ意味で用いられている。・・・・,現段階では抽象的な記載にとどまるが,それらの議論の経過において解雇の金銭決消制度が具体的に検討されたように,労働者の地位を不安定にしかねない制度となる可能性も残っており,参議院選挙後に予定されている具体的な検討において,経済成長の手段として雇用規制の緩和を利用しようする議論が展開されるおそれがある。しかし,日本の労働者の現状は,非正規労働やワーキングプア問題の拡大に代表されるように,窮乏を極めており,雇用規制の緩和を経済成長の手段とするべきではない。
・・・・・そこで,当連合会は,国に対し,具体的な制度改革の実現に当たって,以下の諸点について十分に留意するよう強く求めるものである。
1 全ての労働者について,同一価値労働同一賃金原則を実現し,解雇に関する現行のルールを堅持すべきこと。
2 労働時間法制に関しては,労働者の生活と健康を維持するため,安易な規制緩和を行わないこと。
3 有料職業紹介所の民間委託制度を設ける場合には,求職者からの職業紹介手数料の徴収,及び,民間職業紹介事業の許可制の廃止をすべきではなく,労働者供給事業類似の制度に陥らないよう,中間搾取の弊害について,十分に検討,配慮すること。
4 労働者派遣法の改正においては,常用代替防止という労働者派遣法の趣旨を堅持し,派遣労働者の労働条件の切下げや地位のさらなる不安定化につながらないよう十分に配慮すること。

上記によれば立論の前提事実として
「日本の労働者の現状は,非正規労働やワーキングプア問題の拡大に代表されるように,窮乏を極めており・・」
というのですが、北朝鮮政府発言のように?決まり文句・・「全ての責任は〇〇にある」式の決まり文句さえ言ってれば良いという姿勢が顕著です。
「日本の労働者の現状は、・・窮乏を極めて」いるとは、どういう根拠に基づいて主張しているのでしょうか?
給与水準で比較しにくければ、簡単な基準である最低賃金水準で比較してもいいでしょうが、日本の最低賃金がどこの国に比べて「窮乏を極めて」いるのでしょうか?
最低賃金水準で見ても諸外国との比較で「窮乏を極めて」いるとは到底思えませんが、賃金水準だけでは窮乏状態をはかれません。
持ち家のある人の月収20万円と家賃を払う必要のある人の20万円では窮乏程度が違います。
高齢化が進むとその収入減少がもろにジニ係数に関係しますが、中韓と違い日本では年金制度が充実しているし、高齢者の金融資産や自宅保有率が高い(ほとんどの人はローンを払い終わっています)などの実情の違いを無視できません。
また高額金融資産のある人が高齢化したために月収がゼロ〜ほとんどなくとも、子供世代に小遣いをやったりして豊かな生活をしている人が一杯います。
これを前提に高齢者からの孫への教育費贈与や、子世代への不動産取得資金贈与についての贈与税減免制度が一般化しているのです。
日本の個人金融資産は近々2000兆円に迫る勢いです。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC17H0N_X10C17A3EAF000/

家計金融資産、最高を更新 16年末1800兆円
2017/3/17 10:41

上記は16年末集計ですから、好景気の続く17年末にはさらに増えているでしょう。
ちなみにちょっとデータが古いですが、世界のデータでは以下の通りです。
http://japanese.joins.com/article/072/221072.html

2016年09月26日14時32分
[ⓒ 中央日報日本語版]
26日、ドイツの保険会社であるアリアンツグループが発表した「アリアンツ・グローバル・ウェルス・リポート」によると、2015年借金を除いた韓国の純金融資産は1人当たり2万7371ユーロ(当時のレートで約360万円)を保有していることが明らかになった。2014年の2万4160ユーロに比べて約3000ユーロ増加した。ランキングも昨年22位から1ランク上昇した21位を記録した。
1人当たりの純金融資産が最も多い国はスイスで17万589ユーロだった。次いで米国(16万949ユーロ)、英国(9万5600ユーロ)、スウェーデン(8万9942ユーロ)、ベルギー(8万5027ユーロ)の順だった。
日本は8万3888ユーロでアジア国家のうち1位で、全体調査対象国家53カ国のうち6位だった。日本人は韓国人に比べて約3.06倍の金融資産を保有しているといえる。

国別金融資産でも世界的に見て遜色がないだけでなく、財閥寡占で知られる韓国など違い日本の場合、そういう格差も低い方ですから尚更です。
蓄積の有無が重要ですのでジニ係数など数字も国の総体力で見るべきなのに、ある国で妥当するかもしれない・一応の指標になるというだけでどこの国にも当てはまらないのかな?数字を持ってきて、日本を不利に評価する材料にしても意味が低いことを書いてきました。
体温計や脈拍数が健康管理の一応の指標としても、それだけで病気かどうか判断できないのと同じです。

司法権の限界18(異議手続改正の必要性2)

対審的手続を経て決定が出ている場合、充分に審理をし尽くしているので異議審に移ってもこの間に新たに地震発生や科学的知見が出ない限り新たに出すべき証拠がない・・い異議や抗告審はほぼ同様の証拠資料を別の目で見直してこそ意味のある制度です。
大津地裁の異議審を構成する裁判官名・構成員は公開されている大津地裁の裁判官氏名をNovember 8, 2016のコラムで紹介したことがありますが、これによるとほぼ同じ裁判官3名が異議審を担当する仕組みです。
そうすると結論が変わる筈もないのに異議審を強制されているために無駄な時間を取られることになります。
大手電力会社が大阪高裁や名古屋高裁に出掛ける電車賃が大変と言うこともありません。
申請側も全国展開の弁護団ですから、むしろ東京や名古屋の方が便利でしょう。
大規模事件では異議審は言わば時間の無駄・・仮処分の効果を長引かせるだけの制度ですから、これを悪用して特定思想裁判官のいる地方支部に提訴され、そこでひとたび停止の仮処分が出ると相当期間日本経済が機能麻痺します。
行政不服審査法の改正同様に異議をなくすか、合議体の仮処分事件では直ちに高裁に抗告出来るようにするか、不服申立人の選択制に改正すべきです。
もしも、国家的事業を狙って上級審では自分の決定が維持されないことを想定して是正作用を一定期間間行使出来ないように意図的に仮処分が出されるようなことが起きて、しかも,異議審がだらだらと続けられて終わらない限り・・相当期間にわたって国家的重要事項が麻痺してしまいます。
いわゆる爆弾テロやゲリラがあっても、通行麻痺等は数時間程度で回復されますが、原発や基幹産業の操業停止決定の場合、もっと長期でしかも産業構造に与える影響は甚大です。
意図的にやられると「合法テロ」に近い効果があります。
たとえば、海上保安庁の巡視船が尖閣諸島へ出動すると戦争の危険があると言ってどこかの裁判所で出航差し止めが認められた場合、数年間出航出来ないことになるのか・・・。
自衛隊員も緊急事態に際して出動命令が出たときに、憲法違反だと言って主張すれば(自衛隊は憲法違反だと思っている)裁判長によっては、出動命令停止の仮処分が認められるのでしょうか?
自衛隊にも異分子が潜入している可能性が絶無とは言えませんので、独りでもそう言う隊員がいて、仮処分の出そうな裁判長のいる地裁に申し立てが出されるとおかしなことになります。
16年3月21日の日経朝刊によると、昨春の防衛大卒業生の任官辞退率が2割に跳ね上がったと出ています。
景気が良いためかどうか不明らしいですが、いずれにせよ景気(金)次第で国を守る気概が変わるような防衛大生が2割もいる現実があります。
司法権が謙抑性を放棄して個人的政治信条を実現するために政治で決めるべきこと柄に介入する裁判が増えて来ると、個々人の人格・・謙抑性に任せられない・・これを是正するための制度改正が必要になります。
行政官・・個人的に◯◯党を応援している場合に、その党の人が生活保護申請すると優遇し、敵対する党の支持者が申請するとケチを付けるようになると困ります。
行政官、司法官、自衛官それぞれに職務に応じた良心があるべきで個人の主観的意見で権限を行使すると国家社会が成り立ちません。
何百人といる憲法学者や弁護士の内数十人が変わった意見主張をしても実害がありませんが、強大な国家権力を行使出来る小規模地裁部総括クラスが変わった意見を持っていて自制しないでそのまま行動に移した場合、結果が重大過ぎます。
何の違反もしていないのに、その産業にリスクがあると言うだけでたった一件でも業務停止の仮処分が認められると、同一基準で動いている全国の原子力産業・・各種基幹産業の否定・禁止と同じ効果があります。
一般組織では100人に数人変わった意見の人がいても決裁等があるので、組織全体の意見にはなりませんが、裁判官は一人でも国家意思として表明し、国民に強制出来る点が恐怖です。
各地原発所在地は僻地立地・小規模裁判所ばかりですが、そこを狙い撃ちにこのような仮処分申請が次々と起きている現実のリスクは業界にとっては恐怖です。
冗談的に言えば地震被害想定リスクよりは、裁判長次第で仮処分が出されるリスクの方が高い印象です。
原発仮処分以降、同業者がいつ自社も標的にされるかの高度な不安・・リスク管理に動きます。
この気持ちが直ちに表明されたのが、高浜原発操業停止仮処分の翌日に電力株が急落した市場反応でした。
大津地裁の判断・・数年内に高浜原発が福島クラスの地震・津波があって、しかも新基準でもこれに耐えられず福島級の大事故発生があると言う直感を市場が抱いていないことが証明されました。
もしも数年内の大事故を市場関係者が想定しているとすれば・・東電同様の倒産リスク=稼働再開は大リスク・・大損害ですから、再稼働発表で株価が下がり、停止決定を好感して株が上がらなければなりません。
仮処分決定→関電の株式相場急落は市場関係者の多くが数年内に大事故が起きると思っていない・・むしろ裁判所の判断リスクの方が高いと考えている証明です。
(繰り返すように科学的にどちらが絶対的に正しいかを書いているのではなく民意で決めるべきとした場合の多数・民意の反応を書いています)
このようなリスクの高い制度が放置されると安易に停止を命じられた業界・・いろんな業界に広がった場合、製鉄、石油産業であれ、運輸業界であれ、停止を命じられた業界・・次に標的になりそうな業界は、リスク回避のために海外脱出に舵を切るしかないのが明らかです。
言わば、中国の反日暴動以来中国リスクに日本企業が敏感になって東南アジアにシフトした関係の国内版です。
数年後に漸く仮処分が取り消された場合・・国内反日活動が下火になれば、それで間に合うのか?国内産業が逃げてしまい・・福島の過大な強制退去命令の全国版のように産業基盤がなくなってしまったらどうなるのか?
数年後の仮処分が取り消された場合、誰がその責任をとるのか、重要産業が海外に逃げて行ってしまった後に決定が覆った場合、ソモソモ責任を誰が取れるのかと言う疑問があります。
反日勢力にとっては大成功でしかないでしょうが、被害を受けた日本民族にとっては、損しっぱなしでは叶いません。
元々司法権が慎重判断の結果最終的判断(最高裁)を示したときでも、政治決断を司法が裁けるのかの疑問がありますが、仮に末端で間違った判断が出てもそのママ直ちに効力が出てしまい、長期間是正出来ない制度設計は異常です。
末端・小規模裁判所の間違ったゲリラ的効果を狙う業務停止仮処分命令が出てもすぐに上級審で再判断出来る制度保障が必要です。
あまり下の入国金の大統領令が出た後に政府から異議が出されたと報道されていましたが、高裁で審理したようですから日本で言えば異議ではなく抗告が出ていたことになります。
アメリカではすぐに高裁に移行する仕組みになっているのです。
安全社会で来た日本もいよいよ国際テロ組織の対象になる日が近いとすれば、これに対する備えが必要ですし、それだけではなく被害があったときの応急措置・・仮電源のようなバックアップ装置・間違った仮処分を短期間に是正出来る備えが必要です。
・・即時効を認めないか、認めるにしても別の裁判体での再判断を保障する・・例えば別の裁判体での再審理するなど公平性を保障すべきです。
金銭支払以外には断行の仮処分を認めないのも選択肢ですし、現行法同様に全ての分野に裁判官の裁量で断行仮処分を認めるとしても、当初の仮処分の効力停止の再仮処分が認められる可能性があるような制度に改正して各種業界を安心させる緊急の必要性があると思われます。
途中何回も書いていると思いますが、私は原発の安全性については、まるっきり素人でよく分っていませんので、稼働再稼働どちらが良いかも分っていません・・怖いけれども百年先なら今稼働していても良いかなと思うし、数年先に事故があるならやめた方が良い・・とあれこれ思っているだけです。
専門家は現時点の英知結集して最善のシステムや規制基準を作る能力はあっても、いつ大地震が来るかを決める能力はありません・・まして司法官が百人集まっても決められるわけがありません。
このいつ来るか不明のリスクを誰が決めるか・・あるいは分らないならやめるべきかどうか・専門家を含め誰も分らないことこそ、民主主義に馴染む・・多数意見で決めるべきではないか・・司法権の範囲を越えていると言うだけです。
大津地裁の仮処分決定を契機に司法権の限界・・嫌抑性の関心を基礎にMar 11, 2016以来これまで仮処分決定の要件〜被害想定、立証責任、政治と司法の関係について書き、November 12, 2016「司法権の限界16・謙抑性4(民主主義の基礎1)」まで断続的に書いてきましたが、これでこのシリーズは一旦終わります。

司法権の限界17(異議手続改正の必要性1・行政不服審査法改正)

ところで運転手が急病でイキナリ意識不明になってバスなど暴走すると危険なので自動制御装置の導入が検討されています。
仮処分手続は本格的立証でなく疎明で足りるし、本案手続と違って簡単軽易な手続で決定が出されるのに逆に効力がすぐに出てしまって、多数法律家が見て明白におかしいテロ的乱用の場合でもすぐに効力停止出来ない難点・自動制御装置がない点をどうするかです。
異議申し立ての制度は、仮処分が簡便な手続で効力が出る代わりに重厚な高裁への上訴ではなく、同一組織内で簡便に不服を受け付けて迅速修正出来るようにしたものですが、異議手続があると却って、異議審が終わるまで高裁へ上訴したくても出来ない・・結果的に間違った仮処分がでも長く維持される仕組みになっているのが背理です。
異議審では仮処分の取り消し・・即時効の発効停止を求めることが出来ますが、仮処分決定をした同じ合議体がこの異議を審理する仕組みですので、同じ人間が突然考えが変わって仮処分の効力停止を命じることが滅多にありませんので,この制度はお飾りになっています。
表向き上訴する手間を省かせると言う制度設計ですが、実際には異議手続があるのは安直簡便な決定効果を長びかせるためにあるようなシステムになっています。
「異議」と言う手続は、民事執行手続あるいは各種行政処分に対する不満がある場合行政訴訟をする前に簡易即決するために処分庁の内部手続として法定されています。
政府にすれば「裁判するのは大変だろう」からと言う親心で?、(若い者が間違っている場合に)上司に文句を言うチャンスを先に与えてやると言う仕組みですが、結果的に裁判するチャンスを先延ばしする制度になっています。
大津地裁の仮処分決定で異議審を経過しないと高裁に出せない・・高裁に移行し全く別の観点からの判断を得るまで長期間かかってしまうリスクが浮き彫りにされました。
従来行政不服申し立てでは、特定決定(処分)に関してその所属の上司に異議申し立ててみて再審理の結果、当初処分が正しいとして異議が退けられてから初めて上級庁に審査請求出来る異議前置主義でした。
同じ行政庁に異議を出しても多くが(行政庁では上司の決裁を受けて処分するのが普通ですから上司の知るところとなっても)異議を出しても退けられる運命ですから、無駄な制度だと思っていましたが、こういう苦情が多かったらしく直截(第三者機関に)審査請求出来る制度が16年の4月から施行されました。
「行政不服審査法
(平成二十六年六月十三日法律第六十八号)
 行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)の全部を改正する。
処分についての審査請求)
第二条  行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
千葉県総務部政策法務課政策法務班中庁舎7F
不服申立ての手続を審査請求に一元化
【図2】
現行は上級行政庁がない場合は処分庁に「異議申立て」をするが、「異議申立て」をなくし「審査請求」に一元化。」
上記は千葉県情報からの引用です。
(総務省http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201605/1.htmlには詳細説明がありますが簡潔引用には向かないので、千葉県の解説の引用にしましたので、詳細を知りたい方は上記総務省にはいってください。)
改正法の審査請求の場合には異議と違って第三者委員による審査になる点も公正と言うか当たり前(これまで内部の同じ行政官が審査していた点を改めたのです)の制度設計です。
タマタマ昨年4月から「異議制度」の不都合が改正されたのですが、このコラム原稿を書いた昨年3月時点では、まだ施行されていない事前情報として引用したものです・・今ではネット検索で現行法として出て来る筈です。
行政に限らず司法手続においても異議などの半端な中2階を整理して行くべきです。
ところで一般の個人間の争い・・軽い仮処分仮差し押えの場合には、原則として単独判事(補)の職分です。
しかも、裁判は独立性保障のために、他の裁判官に相談せずに単独で決定するのが原則ですから、軽率な間違いがあり得ると言う前提で、大げさな高裁提訴よりは、同じ裁判所内の熟達したしかも3人による見直しチャンスを与える・・早期是正チャンスを与えると言う制度設計です。
例えば宇都宮地裁の決定に不服な人が、常に東京高裁まで出掛けて行って上訴するのは大変な手間ひまですしコストも大変です。
特に法制度が出来た明治大正時代の交通事情を想定すれば、先ず内部上司で見直しをしてやる・恩恵的制度設計もあながち不当な制度だったとは言えないでしょう。 
宇都宮の事件を例にすると今でも数十万〜百万円程度の個人係争事件では、手間ひまと弁護士費用を掛けて東京高裁に出掛けるのは大変なコストですから債務者保護のために役立っている面もあります。
でも債務者保護のためならば上訴するか、異議を出すかの選択制にすれば良いことです。
単独裁判官が仮処分決定した場合には、異議が出てから単独判事より20年くらい年長者の裁判長を交えた合議体で新たに審理し直すのは意味があります・・これが異議手続の存在意義ですが、原発のように大きな事件では初めから合議体で審理するのが原則です。
一般仮処分は債務者の意見を聞かない一方的資料による決定が原則ですから、債務者の意見や証拠提出される異議審では同じ裁判官でもこんな証拠があるならば・・と決定変更の可能性があります。
ところが、原発決定等断行仮処分では債務者(電力会社)に対して期日呼び出しをして相互審問あるいは口頭弁論を開くのが原則です。
事実上本案訴訟(今は本案訴訟でも複雑な事件では準備手続に入るのが普通)とほぼ(証人調べはないものの)同じ手続が行なわれて「これ以上双方が出す主張や証拠がないですね」となってから決定するのが一般的運用です。

憲法改正・変遷3(社会党の憲法解釈変更)

政策論争に負けた方は今後負けないように政策内容をレベルアップする方に努力するのが本来のあり方です。
スポーツ選手が試合に負けた場合、更なる精進努力をしないで、相手の悪口を吹聴していても却って信用を落とすばかりです。
政策発動の妨害目的・・時間稼ぎ・・訴訟でいえば、遅延工作は弁護士倫理違反と言われるように、政治家も政策討論で決着がついたことについて、揚げ足取り目的で法廷闘争をするのは政策遂行を妨害するのは邪道で政治家倫理にもとることになります。
この手段を権力者が利用した場合を見れば明らかです。
韓国大統領の動静を報じた朝鮮日報の記事を引用報道した産経支局長を刑事立件したことが騒ぎになりましたが、自己の動静を誤って報じられたならば言論空間で争えば良いことであって、権力者が場外乱闘に持ち込むのは正当な政治活動の域を超えた民主主義の破壊行為です。
一旦被害者になり弱者の立場になれば、何を言ってもやっても良いと言う風潮が(特に韓国人には)顕著ですが、政治家のやっていることが本筋を外していると長期的には国民の支持を失います。
ところで、自主憲法を認めない立場ならば、社会実態調査不要・・欧米ではこうだと言う観念的議論も可能ですし、国連勧告が大切・・この立場からは国連調査団報告に重みをおく立場が導かれます。
何かあるたびにテレビに出て来て、「欧米では・・」と言う意見が、昭和40年代初頭ころまで、マスコミでハバを利かしていました。
司法権が日本の国益を総合勘案して判断するべきとした場合、国内実態の判断では足りずに国際情勢全般に目配りして判断する必要のある外交のあり方を判断するのは無理があるので、日米安保条約の合憲性に関して統治行為論が出て来たのです。
どこの国と組むかを含めて司法が介入出来ないと明白な判断が示されている砂川事件大法廷判決を前提にすれば、条約内容の決め方・・どう言う段階で相互協力するかの細目協定まで司法が介入すること・・すなわち憲法違反かどうかの判断することは不可能です。
まして司法権でもなく実態把握能力に何の保障もない机上の議論しか経験のない、(国際情勢・国家機密情報を総合判断必要があります・・判断能力の担保もない)学者が、集団自衛権関連法案を憲法違反だと合唱すれば、特別な意味があるかのようにマスコミが大きく取り上げるのって、上滑りの感じを否めません。
仮に元裁判官で事実認定経験のある人でも、国家機密等を入手出来ない在野人になっていれば、国際情勢に関する情報を総合判断して条約の必要性を判断するのは無理があります。
我々実務経験のある弁護士でも、他人のやっている事件を軽々に判断出来ないと言うのが常識です・・弁護士仲間をかばう意味ではなく、訴訟でどう言う証拠が出ているか・これに対する裁判所の反応どうであったかなど総合しないと判断出来ないからです。
繰り返しますが、憲法は日本のためにあるのですから、日本にとって必要かどうかが合憲、違憲判断の分かれ目であって、日本の国益を離れた憲法解釈(・・例えば中国の利益になるための判断)は許されません。
日本の社会実態を見極めて憲法内容を判断して行く方式の場合、憲法違反かどうかを見極めるのに時間がかかるように、改正する必要があるかの判断も時間がかかります。
社会実態の変遷をじっくり見定めることを省略した憲法改正など直ぐに出来る訳がないことを前提に、「改正が先だ」と「百年河清を待つ」ような議論をしていると、必要とされている現実の政策対応が全て間に合わなくなります。
15日に砂川事件判決の田中長官の補足意見を紹介しましたが、憲法論を言い出したら何でもそうなりますから(非正規雇用も平等原則違反だから憲法違反だとか、消費税問題も弱者にきついから憲法違反と言う主張が可能です)全て憲法違反と言っていれば、約10年かけてその裁判の決着がつかない限り何らの政治決定も出来ないと言う論法は無理があります。
要するに憲法論・・護憲勢力の主張は、なんでも反対の社会党が政策論争で負けたことについて、憲法違反のレッテル貼りすればいいと利用していた便利な論理でしたが、これで国民の信用をなくしてしまいました。
政治家は政策の優劣で競争すべきですが、旧社会党は筋違いのことをやり続けたので信用をなくして行ったと思われます。
私は革新系と言うのは、社会の進歩に反対する超保守の集まりであると書いて来た所以です。
社会党は世上「何でも反対・・」と言われていたものの実は賛成する分野もあったのですから、政治と言うものには、利害集団がバックにあるものと言う前提で考えると、政策対応が停止することによって利益を受ける集団があることが分ります。
これを前提に分類すると、日米安保反対、自主防衛反対、グリーンカード反対、指紋押捺制度反対、防犯カメラ反対、通信傍受反対・・秘密保護法反対・・等々、産業的には空港建設反対、原子力発電反対、公害反対・それぞれ名目があり、結果的に日本のために良かった分野もありますが、概ね目先の目的を見れば、日本の安全保障に反対であり、経済が発展する疑いのあるものには全て何でも反対していたように見えます。
憲法論に持ち込んで思考停止を要求する勢力の目的とする方向性も共通です。
集団自衛権の可否について内容の議論を拒否して、・・「憲法改正するまではそんな法律は許されない」と言うばかりでは、現実政治向きではありません。
これまで書いて来たように憲法は、イキナリ改正すべきものではないし簡単に出来ないのが分りきっているし、しかもその主張者の多くが護憲勢力を標榜しています。
既に社会党が放棄した「何でも反対」路線の蒸し返しを民主党が憲法違反と言い換えているだけですから、思考方式としては、砂川事件判決で六十年まえから「自主防衛が許される」「防衛のために安保条約を結ぶのは合憲である・どこと組むべきかその内容について、司法権が介入出来ない・・立法府の専権行為である」と言う歴史的解決をすませている現実を無視して、蒸し返している点では、韓国が条約で決着がついたことを、もう一度蒸し返しているのと同じ思考方式になります。
但し社会党がこれ・・自主防衛権・自衛隊合憲・安保条約合憲を認めたのは、村山内閣になってからですから、国内的に大筋の決着がついたのは、まだ最近のことです。
2015年12月9日のウイキペデイアによれば、以下のとおりです。
村山内閣
総理大臣在任中[編集]
1994年7月、第130回通常国会にて所信表明演説に臨み、「自衛隊合憲、日米安保堅持」と発言し、日本社会党のそれまでの政策を転換した(後述)。

社会党の年来の主張は、自衛する権利もない・・強盗に襲われても抵抗する権利がないと言うにひとしい、砂川事件判決後約40年間も最高裁判決を無視して非武装論をずっと主張していたことが分ります。
実務に関係しない学者ではなく、現実政治を担うことを目的とする政治家の集団が非現実的主張を続けていて一定数の支持があったこと自体、マスコミによる実力以上の援護報道が利いていたことを推測させます。

憲法改正・変遷3(自衛権肯定・砂川事件判決2)

憲法解釈は制定した占領軍の意向によるのではなく、「日本国民のための憲法である以上は国民意思によるべし」とした場合、違憲状態か否かの憲法解釈は、国民意識がどこにあるか・・意識変化の認定が必要ですので夫婦同姓制度が違憲か、非嫡出子の差別が許されるかの判断には昨日大法廷決定文を紹介したように、判定には数十年の経過を見る必要があります。
12月18日に紹介したチャタレー事件で言えば、その当時ではその程度の表現(伊藤整氏の翻訳文表現)でも「猥褻」と言う社会意識があったとしても、今では猥褻とは言わない程度の表現だと言う常識になっています。
憲法9条の解釈変更の必要性も、国民のための憲法・・日本国の安全保障の必要性を認定する以上は、じっくりと国際情勢の変遷と近い将来の環境条件を見極める必要があることは論を俟ちません。
敗戦直後の国際情勢・・アメリカの庇護の元にあれば、国際信義を信頼する非武装平和論も一定の合理性がありました。
朝鮮戦争直後にはアメリカによる庇護が必要となったのと日本の自衛権を認める必要があって自主防衛権と安保条約が(統治行為論によって)砂川事件判決で事実上合憲となりました。
野党や左翼系学者は憲法の文言通り理解して自衛権すらない・・非武装平和しかない・・戦争が起きれば非武装中立しかない・・武装したり、特定国と組すれば戦争に巻き込まれると言う意見に固執していた・・現在の集団自衛権反対論も同工異曲・・駆けつけ警護すればよその国同士の紛争に巻き込まれると言う意見ですが、日本に中国やソ連が攻めて来た場合、あるいは韓国による竹島占領の場合、日本は当事者であって、「中立」と言う概念自体成り立ちません。
彼らの論理によれば領土占領されたらそのまま認めるしかない・・竹島占領に連動して、これを無視して近づいた日本漁民が拿捕・殺されても?国民の生命・安全を守る必要がないと言う結果になります。
野党的理解によればこのような非道な憲法を無効と解釈をするしかなくなるのですが、これにも反対し、いわゆる護憲運動の主体になりながら、同時に自主軍備反対論を展開していたことになります。
強制されたか否かを声高に議論する・・空中論争にこだわっているとモノゴトが解決しないのが普通ですから、国民主権・・国民のための憲法に適合させるために、(制定した占領軍の意向を解釈基準にせずに)現在日本の社会実態・社会の意識に合うように静かに変容しながら合憲解釈して行くのが、合理的であり成熟した大人の智恵と言うべきでしょう。
自衛権すら認めないような憲法文言規定通りの解釈では実際無理があるので、これを異民族の強制によることを理由に無効とせずに、自主防衛は出来ると解釈変更して来た(解釈合憲)のが、最高裁砂川事件判決でした。
12月15日には引用が長くなり過ぎるので統治行為論しか紹介していませんでしたが、統治行為論の直前段落に「平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではない」ことがはっきりと認定されていますので、この部分を引用しておきます。
昭和34年(あ)七710号
同12月16日大法廷判決
理由
1.先ず憲法9条2項前段の規定の意義につき判断する。・・・9条1項においては・・・戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。
・・・すなわち、われら日本国民は、憲法9条2項により、同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであって、憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである。・・・・・
2.次に、アメリカ合衆国軍隊の駐留が憲法9条、98条2項および前文の趣旨に反するかどうかであるが、その判断には、右駐留が本件日米安全保障条約に基くものである関係上、結局右条約の内容が憲法の前記条章に反するかどうかの判断が前提とならざるを得ない。
3・・(15日引用したとおり統治行為論の展開です・・稲垣)

以上のように国際情勢に応じて立法府の裁量により相互防衛条約も許されることはこの大法廷判決で確定していることになります。
中国の台頭によるサラなる国際情勢変化に応じて、国際情勢の把握・・どの程度の軍備あるいはどこと相互防衛条約を結ぶか・・集団自衛権が必要かは正に司法権が認定する能力を超えています。
国際情勢は時々刻々に変わる性質のものですが(2015年11月24日トルコ軍機のロシア軍機撃墜事件などは直前まで誰も想定していなかったでしょう・・)司法権は、冒頭に書いたように大事件では、10年ほど掛けて過去の事実調査・認定して結論を出す仕組みですから、近い将来の可能性を判断するようになっていません。
損害賠償、契約金請求、刑事事件、その他全ての訴訟事件は過去の出来事の認定によっています。
原発訴訟等各種行政行為が裁判対象になっていてマスコミが如何にもこれらが日本国に必要かが裁判対象になっているかのように報道しますが、立地等に関する過去の許認可手続に裁量権の逸脱があるかの手続内容を争うのが普通で、将来の必要性決定は民意を受けた政治家固有の直観的判断分野であって、司法権は分りません。
この意味でも将来の国家の安全をどうすべきかと言う・・防衛条約の最終決定権限を司法が持つことを期待すること自体、無理があります。
※12月25日日経朝刊には高浜原発差し止め訴訟判決が出ましたので、追記になります。
手続に瑕疵があるかだけの判断に対して、原告団は裁判所の意見がでていないと落胆?していますが、学会総意で決めた政府基準そのものの批判を期待するのは間違いです・・ソモソモ裁判は手続瑕疵の有無を判断するだけあって、地震想定基準がどこにあるべきかなど科学者でさえいろんな意見があって言い切れないことに、素人の裁判所が超越的判断するようなことは越権であってありえないことです。
その意味で、先行した仮処分判断自体がおかしかった・・裁判の常道を踏み外していた・・今回の判断が妥当と言う意見を書いている学者意見も併記されています。
マスコミもマトモになって来たようです。
以上が平和条約の有効性など高度な政治判断の必要な行為に対する司法の謙抑・・統治行為論を正当化する原理です。
なお、これから始まる普天間基地の移設工事に対する沖縄県知事による法廷闘争も、基地が必要か、どこにあるべきかの政治議論ではなく、手続瑕疵を巡る・・揚げ足取り目的の争いになりますから、政治家の本分である政策論争を放棄したことになる・・政策論争に負けた方が法廷闘争に持ち込むのは、社会党以来使い古された時間稼ぎの手法ですから、一種のリング外・場外乱闘行為であって、政治家の職務法規と見られてしまうでしょう。
民主主義国家においては少しでも良い結果が得られるように、政治家や学者など幅広い健全な言論空間・・訴訟でも充分な反論権の保障が必要ですが、選挙制度が完備していて、・・・ボトムアップ社会の日本では選挙制度施行以前からテーマごとに根回しが行なわれていて民意の充分な把握が行なわれています・・言論戦を尽くした以上は、その結果に従い反対論者も速やかな政策発動に協力すべきです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC