司法権の限界18(異議手続改正の必要性2)

対審的手続を経て決定が出ている場合、充分に審理をし尽くしているので異議審に移ってもこの間に新たに地震発生や科学的知見が出ない限り新たに出すべき証拠がない・・い異議や抗告審はほぼ同様の証拠資料を別の目で見直してこそ意味のある制度です。
大津地裁の異議審を構成する裁判官名・構成員は公開されている大津地裁の裁判官氏名をNovember 8, 2016のコラムで紹介したことがありますが、これによるとほぼ同じ裁判官3名が異議審を担当する仕組みです。
そうすると結論が変わる筈もないのに異議審を強制されているために無駄な時間を取られることになります。
大手電力会社が大阪高裁や名古屋高裁に出掛ける電車賃が大変と言うこともありません。
申請側も全国展開の弁護団ですから、むしろ東京や名古屋の方が便利でしょう。
大規模事件では異議審は言わば時間の無駄・・仮処分の効果を長引かせるだけの制度ですから、これを悪用して特定思想裁判官のいる地方支部に提訴され、そこでひとたび停止の仮処分が出ると相当期間日本経済が機能麻痺します。
行政不服審査法の改正同様に異議をなくすか、合議体の仮処分事件では直ちに高裁に抗告出来るようにするか、不服申立人の選択制に改正すべきです。
もしも、国家的事業を狙って上級審では自分の決定が維持されないことを想定して是正作用を一定期間間行使出来ないように意図的に仮処分が出されるようなことが起きて、しかも,異議審がだらだらと続けられて終わらない限り・・相当期間にわたって国家的重要事項が麻痺してしまいます。
いわゆる爆弾テロやゲリラがあっても、通行麻痺等は数時間程度で回復されますが、原発や基幹産業の操業停止決定の場合、もっと長期でしかも産業構造に与える影響は甚大です。
意図的にやられると「合法テロ」に近い効果があります。
たとえば、海上保安庁の巡視船が尖閣諸島へ出動すると戦争の危険があると言ってどこかの裁判所で出航差し止めが認められた場合、数年間出航出来ないことになるのか・・・。
自衛隊員も緊急事態に際して出動命令が出たときに、憲法違反だと言って主張すれば(自衛隊は憲法違反だと思っている)裁判長によっては、出動命令停止の仮処分が認められるのでしょうか?
自衛隊にも異分子が潜入している可能性が絶無とは言えませんので、独りでもそう言う隊員がいて、仮処分の出そうな裁判長のいる地裁に申し立てが出されるとおかしなことになります。
16年3月21日の日経朝刊によると、昨春の防衛大卒業生の任官辞退率が2割に跳ね上がったと出ています。
景気が良いためかどうか不明らしいですが、いずれにせよ景気(金)次第で国を守る気概が変わるような防衛大生が2割もいる現実があります。
司法権が謙抑性を放棄して個人的政治信条を実現するために政治で決めるべきこと柄に介入する裁判が増えて来ると、個々人の人格・・謙抑性に任せられない・・これを是正するための制度改正が必要になります。
行政官・・個人的に◯◯党を応援している場合に、その党の人が生活保護申請すると優遇し、敵対する党の支持者が申請するとケチを付けるようになると困ります。
行政官、司法官、自衛官それぞれに職務に応じた良心があるべきで個人の主観的意見で権限を行使すると国家社会が成り立ちません。
何百人といる憲法学者や弁護士の内数十人が変わった意見主張をしても実害がありませんが、強大な国家権力を行使出来る小規模地裁部総括クラスが変わった意見を持っていて自制しないでそのまま行動に移した場合、結果が重大過ぎます。
何の違反もしていないのに、その産業にリスクがあると言うだけでたった一件でも業務停止の仮処分が認められると、同一基準で動いている全国の原子力産業・・各種基幹産業の否定・禁止と同じ効果があります。
一般組織では100人に数人変わった意見の人がいても決裁等があるので、組織全体の意見にはなりませんが、裁判官は一人でも国家意思として表明し、国民に強制出来る点が恐怖です。
各地原発所在地は僻地立地・小規模裁判所ばかりですが、そこを狙い撃ちにこのような仮処分申請が次々と起きている現実のリスクは業界にとっては恐怖です。
冗談的に言えば地震被害想定リスクよりは、裁判長次第で仮処分が出されるリスクの方が高い印象です。
原発仮処分以降、同業者がいつ自社も標的にされるかの高度な不安・・リスク管理に動きます。
この気持ちが直ちに表明されたのが、高浜原発操業停止仮処分の翌日に電力株が急落した市場反応でした。
大津地裁の判断・・数年内に高浜原発が福島クラスの地震・津波があって、しかも新基準でもこれに耐えられず福島級の大事故発生があると言う直感を市場が抱いていないことが証明されました。
もしも数年内の大事故を市場関係者が想定しているとすれば・・東電同様の倒産リスク=稼働再開は大リスク・・大損害ですから、再稼働発表で株価が下がり、停止決定を好感して株が上がらなければなりません。
仮処分決定→関電の株式相場急落は市場関係者の多くが数年内に大事故が起きると思っていない・・むしろ裁判所の判断リスクの方が高いと考えている証明です。
(繰り返すように科学的にどちらが絶対的に正しいかを書いているのではなく民意で決めるべきとした場合の多数・民意の反応を書いています)
このようなリスクの高い制度が放置されると安易に停止を命じられた業界・・いろんな業界に広がった場合、製鉄、石油産業であれ、運輸業界であれ、停止を命じられた業界・・次に標的になりそうな業界は、リスク回避のために海外脱出に舵を切るしかないのが明らかです。
言わば、中国の反日暴動以来中国リスクに日本企業が敏感になって東南アジアにシフトした関係の国内版です。
数年後に漸く仮処分が取り消された場合・・国内反日活動が下火になれば、それで間に合うのか?国内産業が逃げてしまい・・福島の過大な強制退去命令の全国版のように産業基盤がなくなってしまったらどうなるのか?
数年後の仮処分が取り消された場合、誰がその責任をとるのか、重要産業が海外に逃げて行ってしまった後に決定が覆った場合、ソモソモ責任を誰が取れるのかと言う疑問があります。
反日勢力にとっては大成功でしかないでしょうが、被害を受けた日本民族にとっては、損しっぱなしでは叶いません。
元々司法権が慎重判断の結果最終的判断(最高裁)を示したときでも、政治決断を司法が裁けるのかの疑問がありますが、仮に末端で間違った判断が出てもそのママ直ちに効力が出てしまい、長期間是正出来ない制度設計は異常です。
末端・小規模裁判所の間違ったゲリラ的効果を狙う業務停止仮処分命令が出てもすぐに上級審で再判断出来る制度保障が必要です。
あまり下の入国金の大統領令が出た後に政府から異議が出されたと報道されていましたが、高裁で審理したようですから日本で言えば異議ではなく抗告が出ていたことになります。
アメリカではすぐに高裁に移行する仕組みになっているのです。
安全社会で来た日本もいよいよ国際テロ組織の対象になる日が近いとすれば、これに対する備えが必要ですし、それだけではなく被害があったときの応急措置・・仮電源のようなバックアップ装置・間違った仮処分を短期間に是正出来る備えが必要です。
・・即時効を認めないか、認めるにしても別の裁判体での再判断を保障する・・例えば別の裁判体での再審理するなど公平性を保障すべきです。
金銭支払以外には断行の仮処分を認めないのも選択肢ですし、現行法同様に全ての分野に裁判官の裁量で断行仮処分を認めるとしても、当初の仮処分の効力停止の再仮処分が認められる可能性があるような制度に改正して各種業界を安心させる緊急の必要性があると思われます。
途中何回も書いていると思いますが、私は原発の安全性については、まるっきり素人でよく分っていませんので、稼働再稼働どちらが良いかも分っていません・・怖いけれども百年先なら今稼働していても良いかなと思うし、数年先に事故があるならやめた方が良い・・とあれこれ思っているだけです。
専門家は現時点の英知結集して最善のシステムや規制基準を作る能力はあっても、いつ大地震が来るかを決める能力はありません・・まして司法官が百人集まっても決められるわけがありません。
このいつ来るか不明のリスクを誰が決めるか・・あるいは分らないならやめるべきかどうか・専門家を含め誰も分らないことこそ、民主主義に馴染む・・多数意見で決めるべきではないか・・司法権の範囲を越えていると言うだけです。
大津地裁の仮処分決定を契機に司法権の限界・・嫌抑性の関心を基礎にMar 11, 2016以来これまで仮処分決定の要件〜被害想定、立証責任、政治と司法の関係について書き、November 12, 2016「司法権の限界16・謙抑性4(民主主義の基礎1)」まで断続的に書いてきましたが、これでこのシリーズは一旦終わります。

司法権の限界17(異議手続改正の必要性1・行政不服審査法改正)

ところで運転手が急病でイキナリ意識不明になってバスなど暴走すると危険なので自動制御装置の導入が検討されています。
仮処分手続は本格的立証でなく疎明で足りるし、本案手続と違って簡単軽易な手続で決定が出されるのに逆に効力がすぐに出てしまって、多数法律家が見て明白におかしいテロ的乱用の場合でもすぐに効力停止出来ない難点・自動制御装置がない点をどうするかです。
異議申し立ての制度は、仮処分が簡便な手続で効力が出る代わりに重厚な高裁への上訴ではなく、同一組織内で簡便に不服を受け付けて迅速修正出来るようにしたものですが、異議手続があると却って、異議審が終わるまで高裁へ上訴したくても出来ない・・結果的に間違った仮処分がでも長く維持される仕組みになっているのが背理です。
異議審では仮処分の取り消し・・即時効の発効停止を求めることが出来ますが、仮処分決定をした同じ合議体がこの異議を審理する仕組みですので、同じ人間が突然考えが変わって仮処分の効力停止を命じることが滅多にありませんので,この制度はお飾りになっています。
表向き上訴する手間を省かせると言う制度設計ですが、実際には異議手続があるのは安直簡便な決定効果を長びかせるためにあるようなシステムになっています。
「異議」と言う手続は、民事執行手続あるいは各種行政処分に対する不満がある場合行政訴訟をする前に簡易即決するために処分庁の内部手続として法定されています。
政府にすれば「裁判するのは大変だろう」からと言う親心で?、(若い者が間違っている場合に)上司に文句を言うチャンスを先に与えてやると言う仕組みですが、結果的に裁判するチャンスを先延ばしする制度になっています。
大津地裁の仮処分決定で異議審を経過しないと高裁に出せない・・高裁に移行し全く別の観点からの判断を得るまで長期間かかってしまうリスクが浮き彫りにされました。
従来行政不服申し立てでは、特定決定(処分)に関してその所属の上司に異議申し立ててみて再審理の結果、当初処分が正しいとして異議が退けられてから初めて上級庁に審査請求出来る異議前置主義でした。
同じ行政庁に異議を出しても多くが(行政庁では上司の決裁を受けて処分するのが普通ですから上司の知るところとなっても)異議を出しても退けられる運命ですから、無駄な制度だと思っていましたが、こういう苦情が多かったらしく直截(第三者機関に)審査請求出来る制度が16年の4月から施行されました。
「行政不服審査法
(平成二十六年六月十三日法律第六十八号)
 行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)の全部を改正する。
処分についての審査請求)
第二条  行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
千葉県総務部政策法務課政策法務班中庁舎7F
不服申立ての手続を審査請求に一元化
【図2】
現行は上級行政庁がない場合は処分庁に「異議申立て」をするが、「異議申立て」をなくし「審査請求」に一元化。」
上記は千葉県情報からの引用です。
(総務省http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201605/1.htmlには詳細説明がありますが簡潔引用には向かないので、千葉県の解説の引用にしましたので、詳細を知りたい方は上記総務省にはいってください。)
改正法の審査請求の場合には異議と違って第三者委員による審査になる点も公正と言うか当たり前(これまで内部の同じ行政官が審査していた点を改めたのです)の制度設計です。
タマタマ昨年4月から「異議制度」の不都合が改正されたのですが、このコラム原稿を書いた昨年3月時点では、まだ施行されていない事前情報として引用したものです・・今ではネット検索で現行法として出て来る筈です。
行政に限らず司法手続においても異議などの半端な中2階を整理して行くべきです。
ところで一般の個人間の争い・・軽い仮処分仮差し押えの場合には、原則として単独判事(補)の職分です。
しかも、裁判は独立性保障のために、他の裁判官に相談せずに単独で決定するのが原則ですから、軽率な間違いがあり得ると言う前提で、大げさな高裁提訴よりは、同じ裁判所内の熟達したしかも3人による見直しチャンスを与える・・早期是正チャンスを与えると言う制度設計です。
例えば宇都宮地裁の決定に不服な人が、常に東京高裁まで出掛けて行って上訴するのは大変な手間ひまですしコストも大変です。
特に法制度が出来た明治大正時代の交通事情を想定すれば、先ず内部上司で見直しをしてやる・恩恵的制度設計もあながち不当な制度だったとは言えないでしょう。 
宇都宮の事件を例にすると今でも数十万〜百万円程度の個人係争事件では、手間ひまと弁護士費用を掛けて東京高裁に出掛けるのは大変なコストですから債務者保護のために役立っている面もあります。
でも債務者保護のためならば上訴するか、異議を出すかの選択制にすれば良いことです。
単独裁判官が仮処分決定した場合には、異議が出てから単独判事より20年くらい年長者の裁判長を交えた合議体で新たに審理し直すのは意味があります・・これが異議手続の存在意義ですが、原発のように大きな事件では初めから合議体で審理するのが原則です。
一般仮処分は債務者の意見を聞かない一方的資料による決定が原則ですから、債務者の意見や証拠提出される異議審では同じ裁判官でもこんな証拠があるならば・・と決定変更の可能性があります。
ところが、原発決定等断行仮処分では債務者(電力会社)に対して期日呼び出しをして相互審問あるいは口頭弁論を開くのが原則です。
事実上本案訴訟(今は本案訴訟でも複雑な事件では準備手続に入るのが普通)とほぼ(証人調べはないものの)同じ手続が行なわれて「これ以上双方が出す主張や証拠がないですね」となってから決定するのが一般的運用です。

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