植村記者問題6(組織内行動の責任)

第三者委員会見解に引用されている植村記者の書いた記事(記事そのものコピーは資料に出ていません)内容は以下のとおりです。
※要約すると不正確となるので、昨日から煩をかえりみずに「見解」記載のまま引用しています。
以下にあるように見解指摘事実だけみても、「でっち上げ・ねつ造」と評価されるかどうか別としても一定方向へ向けた意図的な不正確記事を書いた印象を受けます。
即ち、単なるミスとしては、強制性を印象づける効果を狙った方向への不正確記載(強制を印象づける方向へは「連行」と書き過ぎていて、連行に矛盾するキーセン関係は書き漏れ?ている・その他問題になっている挺身隊記載など)ですから、意図的→ねつ造と言う主張も成り立つような気がします。
名誉毀損になるかどうかは表現次第ですから、書き過ぎになるかどうかは損害賠償請求された著者がどのような表現をしていたかにもよるでしょうが、「見解」の認定事実によると読者を欺く意図がかなり濃厚な印象をうけます。
記者がソウルから送信したものを本社で文字構成したとすれば、(彼の送信文章全文から編集部で取捨選択して記事にしているとすれば・・)裁判では記者自身がこの記事全部に関与していたか構成・完成まで関与していたかについても、問題になるでしょう。
最後まで関与していなくとも署名入記事にした以上は、彼の責任ではないかと言う別の議論もあり得ます。
以下は第三者委員会「見解」(植村記者関係)の一部引用です。

イ 吉田証言に関する記事以外の状況
a 名乗り出た慰安婦に関する1991年8月11日付記事
1991年8月11日、朝刊(大阪本社版)社会面(27面)に「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」、「思い出すと今も涙」、「韓国の団体聞き取り」 の見出しのもとに、「従軍慰安婦だった女性の録音テープを聞く尹代表(右)ら= 10日、ソウル市で植村隆写す」と説明された写真の付された記事が掲載された。
同記事は、当時大阪社会部に所属していた植村のソウル市からの署名入り記事 で、「『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を 強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存していること がわかり」、同女性の聞き取り作業を行った挺対協が録音したテープを朝日新聞記者に公開したとして、「女性の話によると、中国東北部で生まれ、十七歳の時、だまされて慰安婦にされた」などその内容を紹介するものである。植村は、上記(1) イのとおり、韓国での取材経験から、朝鮮で女性が慰安婦とされた経緯について、 「強制連行」されたという話は聞いていなかった。

b 名乗り出た慰安婦に関する1991年12月25日付記事 金氏を含む元慰安婦、元軍人・軍属やその遺族らは、1991年12月6日、日本政府に対し、戦後補償を求める訴訟を東京地裁に提起した。 1991年12月25日、朝刊(5面)に「かえらぬ青春 恨の半生」、「日本政府を提訴した元従軍慰安婦・金学順さん」、「ウソは許せない 私が生き証人」、 「関与の事実を認めて謝罪を」の見出しのもとに、「弁護士に対して、慰安所での 体験を語る金学順さん=11月25日、ソウル市内で」との説明のある金氏の写真が付された記事が掲載された。
植村は、金氏への面会取材は、写真が撮影された1991年11月25日の一 度だけであり、その際の弁護団による聞き取りの要旨にも金氏がキーセン学校に 通っていたことについては記載がなかったが、上記記事作成時点においては、訴状に記載があったことなどから了知していたという。しかし、植村は、キーセン 学校へ通ったからといって必ず慰安婦になるとは限らず、キーセン学校に通っていたことはさほど重要な事実ではないと考え、特に触れることなく聞き取りの内容をそのまま記載したと言う。」

「見解」要約文書では、以下のとおり記載されています。

「植村は、記事で取り上げる女性は「だまされた」事例であることをテープ聴取により明確に理解していたにもかかわらず、同記事の前文に、「『女子挺(てい)身隊』の名で戦場 に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人が ソウル市内に生存していることがわかり」と記載した。これは、事実は本人が女子挺身隊 の名で連行されたのではないのに、「女子挺身隊」と「連行」という言葉の持つ一般的なイ メージから、強制的に連行されたという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載であ り、読者の誤解を招くものである。」
以下は見解全文からの引用です。

「なお、1991年8月15日付ハンギョレ新聞等は、金氏がキーセン学校の出身であり、 養父に中国まで連れて行かれたことを報道していた。1991年12月25日付記事が掲 載されたのは、既に元慰安婦などによる日本政府を相手取った訴訟が提起されていた時期 であり、その訴状には本人がキーセン学校に通っていたことが記載されていたことから、 植村も上記記事作成時点までにこれを知っていた。キーセン学校に通っていたからといっ て、金氏が自ら進んで慰安婦になったとか、だまされて慰安婦にされても仕方がなかった とはいえないが、この記事が慰安婦となった経緯に触れていながらキーセン学校のことを 書かなかったことにより、事案の全体像を正確に伝えなかった可能性はある。」

上記によれば、「『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され、・・・」とあるように「連行」と言う文言が使われているうえに、昨日紹介した一連の記事の日付と比較して頂ければ分るように、植村記事の掲載された1991年夏から年末にかけては朝日新聞がまだ吉田証言(軍による慰安婦狩り)が正しい前提で、政府による謝罪を繰り返し求めている最中だったことが分ります。
植村記事は、吉田証言が事実であるかのように大々的に朝日が報道していた最中に(これを補強する効果を狙った)現地報道記事だったことになります。
詐欺や恐喝グループで言えば、先行者が強迫や欺罔行為をした後でこの情を知っている紳士然とした人が次にやって来て先行者による強迫や欺罔によって畏怖や誤信させられた状態を利用して取引をしても全体として、恐喝や詐欺になるのが一般的法解釈です。
植村記者は朝日の社員ですから、一連の演出効果を期待する作為の一員に入っているとみるのが普通であって彼が「自分は関係ない」とは言えないでしょう。

取締役の責任2(第3者に対する責任)

 

取締役の権限とその責任に関する会社法の条文を紹介しておきましょう。
以下のように取締役会には、2項1号で業務執行の決定権があるので、業務執行の当不当(違法でなくとも)の結果責任がすべて取締役会に帰するのは当然です。
ついで、2号で取締役の職務執行の監督権もあり、監督に従わない時には3号で代表取締役の解職権もあります。
ここで解任と言わずに解職と言うのは、取締役の選任と解任は株主総会の専権事項ですから、取締役互選による代表取締役の職務を解くだけだからです。
この監督・解職権限を適切に行使しないまま放置しておいて代表者の取引行為等で第三者に損害を与えると、429条で職務懈怠として損害賠償責任を負うことになっています。

会社法
(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)

(取締役会の権限等)
第三百六十二条  取締役会は、すべての取締役で組織する。
2  取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一  取締役会設置会社の業務執行の決定
二  取締役の職務の執行の監督
三  代表取締役の選定及び解職
3  取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十九条  役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2  次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一  取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
以下省略

上記のように取締役の責任は重大ですが、よほどの背任的行為がないと社長の暴走を実質的には部下に過ぎない取締役が止めるのは難しいことです。
取締役には、社長に対する監視責任ではなく、執行部の一員として一心同体で事業をして来た以上は代表者に過失があって第三者に迷惑をかけたとすれば個々の取締役に過失がなくとも無過失の連帯責任とする条文にして、代表取締役や取締役会を監視するには取締役制度をいじるよりは別の監督機関設置・・例えば監査役の強化を図る方が合理的な感じです。
ここ数十年かけて監査役制度の充実強化が図られてきました。
監査役も、選出母体が同じでは結局大した監督が出来ないことは外部取締役と似ていますので、選出母体の工夫が重要です。
株主総会での対立グループが選出出来るような工夫があればいいと思いますが如何でしょうか?
以下現行の監査制度の条文を紹介しておきます。

 第七節 監査役
(監査役の権限)
第三百八十一条  監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
2  監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
3  監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
4  前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。

取締役の責任1

 我が国の企業体では内部昇進(社長に抜擢されるの)が原則ですので、取締役は大名家の家老のような意識・存在で社長に忠誠を尽くすことが予定されている意識です。
取締役が会社に対する忠実義務に反して会社に損害を与えれば損害賠償責任があるのは理の当然で、誰もこれを怪しまないでしょう。
しかし、会社(社長独走)の不法行為で会社が第三者に損害を与えた時に、社長の暴走を止めなかった平取締役に対して取締役会の社長に対する監督責任を問える仕組みが商法時代(266条の3)→から現行の会社法(429条)に引き継がれています。
家老的立場に上り詰めた取締役としては忠誠心を試されるのは分りますが、社長に対する監視責任・・役割を法律で決めてあると言われてもピンと来ませんし、実際には機能しないのは当然です。
いくつかの取締役選出母体があってそれぞれの選出母体の利害に基づいて取締役会議で合議するのではなく、社長の一存(忠誠心と忠誠心発揮能力レベル)で取締役に抜擢される現状を前提にすると社長に対する監視・監督責任が法律に書いてあるからと言う理由が強調され、巨額賠償を請求されても、追求される取締役としては違和感があるでしょう。
ときに社長による企業の私物化・暴走が止められない事件(三越の岡田事件その他有名な事件も一杯あります)が起きるので、一罰百戒的に取締役の連帯責任が強調されているのでしょう。
責任を問われた多くの取締役は、自分の上司である(主君のような感覚の)社長に対する監視責任と言われても心からの納得をしていないものの、「一緒に一生懸命やったのだから、社長一人の責任ではなく自分もその結果責任を問われるのは仕方がない」と言う諦め方で受け入れているものと思われます。
選任経過やわが国の歴史を前提にすれば、監視責任を問うよりは上(主君・・今はトップと言う言い方がはやっています)を支えるために一心同体の行動をして来た共同行為責任を問う方が、責任を問われる方の気持ちにしっくりします。
内閣の連帯責任と似ていますが、内閣の場合政治責任の連帯・・総辞職があるだけで、損害賠償責任まではありません。
営利団体である会社の場合、ウマいことするだけ一緒にしていて辞職だけすれば良い・解任(政治責任)だけでは済まないので、経済上の責任を求める必要があるのでしょうか。
内部昇進の取締役に自分を抜擢してくれたトップを監視するのを期待するのは無理があるので、最近しきりに外部取締役の必要性が宣伝されています。
上下関係がない点はいいのですが、監査役同様に自分に声をかけてくれた現執行部に義理があるので意外に面と向かっての反対意見を言い難いのと、外部取締役は同業他社でない限りその業界の仕事に精通していないので(世界企業の場合)膨大な案件が上程される取締役会でマトモな意見を言えない・・反対の論陣を張れないところにあります。
ある事業案件に一緒に同意したから・・あるいは反対していなかったから、その失敗の責任があると言われるのでは、荷が重すぎます。
まじめに考えれば、社外取締役など滅多に引き受けられない筈ですが・・・。
次回紹介するように「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき」(会社法429条)だけですが、どんな場合に悪意重過失になるかについては平成17年に会社法制定される前の商法266条(条文の文言は同じです)の時代に膨大な判例の集積があります。
我々中小企業相手の市井の弁護士にとっては、商法266の3の旧条文は、個人事業主が倒産等で個人責任を追及したりされたりする時にいつも使われていた有名な条文でした。

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