構造変化と格差8(大欧州化の矛盾)

日本列島を世界あるいはEUに見立てれば、東北や四国、山陰、沖縄や離島はEU内の南欧諸国と同じ立場です。
日本の場合、各地方を切り捨てずに同胞として工業地帯や都会地で受け入れて、農漁村に残った人たちに対して公共工事補助金・公務員の派遣や地方交付金あるいは特別な振興基金をつぎ込んで来たし、近代化出来た地域で必要とする労働力供給源として受け入れて来たので、お互いに何とかなっていたに過ぎません。
(グローバル化以降先進国では、今までのように労働力を必要としないのでウマく行かない点をこの後に書きます)
ギリシャもEUに入った以上は、(主権にこだわらず)東北、北海道、沖縄のようにEU内先進国に丸ごと面倒見てもらうしかないでしょうし、ドイツ、フランス、ベルギー等南欧諸国に輸出して儲かっている国々もこれを受け入れるのが筋です。
この受け入れを拒んで財政規律重視・・言わば「収入の範囲内でやれ」(もっと生活水準を落とせ)と突っ放すのは、一方的すぎて早晩無理が出ると思われます。
もしかすると丸ごと受け入れてドイツ等と同じ生活水準を保障すると欧州全体の生活水準をかなり落とさないとやって行けない現実があるようにも見えます。
ギリシャ・南欧危機は欧州全体の地盤沈下が露呈しつつある徴憑に過ぎないのかも知れません。
企業で言えば不採算部門を切り捨て・・リストラして身軽にして行くように、じり貧の欧州を拡大するのは時代錯誤であって、端っこの方まで面倒見切れないならば、逆に生き残りのために辺境・・不採算地域を切り捨てて身軽になって行くのが合理的ではないでしょうか。
日本列島に話題を戻しますと、ここ20年来のグローバル化による構造変化・賃金の平準化への対応策は、産業構造を高度化出来るか否かにかかっています。
高度化に成功してこそ新興国の何倍もの高賃金を維持出来るのであって、高度化しないで(介護など低レベル労働への転換ばかりでは)高賃金を維持するのは無理があります。
無理を通すためには財政支出・貿易黒字の蓄積を食いつぶして行くしかないでしょう。
これまでの下層労働者受け入れ地であった都市部・工業地帯でも生産業の空洞化によって下層労働力過剰に悩まされているので、今までのように地方から3周回遅れの下層労働力を際限なく受け入れることは出来ません。
グローバル化以降の先進国の近代都市は、都市内にいるグローバル化・高度化不適合人材の救済と旧来型の地方救済の2方面の補助を強いられていることになります。
多くの人口を養える産業か否かの基準でみれば2千年単位で農漁業がその役割を担ってきましたし、産業革命以降の近代産業・製造業がこれに代わる多くの産業従事者を吸収してきました。
新興国は、我が国で言えば明治維新以降の近代工業国への脱皮過程を目指しているので、新興国にとっては成功すればするほど明治以降の我が国同様に多くの人口・労働力吸収・・生活水準向上のメリットを受けられますので良いことずくめ・・元気一杯です。
反比例して高賃金・高コスト国の工業労働者の雇用が減って行くのは当然です。

構造変化と格差7(不適応対策)

補助金に話題がそれていましたが、2011-12-19「構造変化と格差4」の続きに戻ります。
グロ−バル化=賃金の国際平準化進行」ですが、これまでみて来た構造転換を国別格差でみて行くと、高度産業への転換に成功出来ない国々は新興国の追い上げにあって、(海外進出する力もなく)じり貧になるばかりで新たな受け皿も造れず失業者が溢れるようになってしまいます。
最終的には、失業の増加→賃金の低下を通じて新興国と賃金水準・ひいては生活水準が同等以下になって落ち着くことになるのでしょう。
従来の先進国の中で大量生産工場が新興国へ出て行った後も国内産業の高度化に成功出来る国と出来ない国に分かれて行きます。
ホワイトカラーの次世代で高度化向きに転進出来るものと非正規雇用に転落するものとに分かれるのと同じ結果が国にも待っています。
私の知っている分野では、顧客企業のサラリーマンの息子が弁護士(今から弁護士が良いとは限りませんが・・・)になった人が、結構いますがそのたぐいです。
元2流以下の先進国、あるいは中くらいの国々で高度化転換するだけの技術蓄積が少ない国々は、国内輸出産業・工場が縮小して行く穴埋め産業が育たず、それまでの貿易収支のトントンないし黒字国から赤字国へ転落して行きます。
一家で言えば、大量生産分野で働いていたお父さんが失業ないし非正規雇用になっても息子がハイテク系であれば良いのですが、親子まで現場系だと厳しいことになります。
巨額貿易黒字による蓄積がない国が、失業対策として黒字国並みに介護、福祉、公共工事を増やして行くと、貿易赤字が拡大して財政破綻の方向に進むしかありません。
これがイギリスポンドの恒常的下落・ギリシャ、南欧危機の基本的経済構造です。
農業や漁業は何千年も最も多くの人口を養える産業でしたが、産業革命以降の上昇した生活水準で人口を大量に維持出来るのは、近代工業化した産業だけです。
(知財も多くを養えません)
農漁業収入のままで、生活水準を近代化した都市・地域並みに引き上げるためには、地域人口を減らして一人当たり所得を上げるしかありません。
人口流出により仮に人口を半減〜6〜7割減にしても都市並みの生活水準を維持出来ない・・産業革命以降の生活水準向上は2〜3倍以上・・中国の改革解放以前我が国と数十倍の格差があったことから分りますので、国内格差の場合はどこの国でも、近代工業化に成功した地域・都市部からの資金流入・補助金で平衡を保っているのが普通です。
日本でも東北や沖縄・四国・山陰その他過疎地は、今回のグローバル化の2周回(明治維新と戦後の高度成長)前の明治以降現在に至る農業主体から近代工業社会化への構造転換がスムースに出来なかった地域です。
上記は国内の一部ですので、近代工業化に転換できた地域・都会へ人口が流出して行き易かったので、構造転換出来なかった地方に残る人が減って行く・・これを過疎化と呼んでいます・・メリットがありました。
時代変化に適応出来ない以上は、転換出来ない人や地域の人口が減れば減るほど格差是正の補助金が少なくて済みます。
とは言え、来年予算案では一般的な各種補助金とは別枠の沖縄新興予算が2937億円にものぼる巨額(僅か1年でこれだけ出て行くのですから10年では大変な額になります)が、南欧諸国はドイツ等豊かな國は別の国ですので、簡単に人口流出・過疎化しない上に補助金ももらえないので大変です。

ギリシャ危機とEUの制度矛盾4

日本列島が300諸候に分割統治されていた徳川政権時代でも、都道府県に分れている現在でも1つの国であるように、EU参加国全部を日本の地方自治体のようにしてその住民は自国よりもEUの人の意識であり、出身地の有利不利はあまり関心がないようにして行くつもりだったでしょう。
日本でも、千葉市や東京の調布市に住んでいるのは便宜上そこにいるだけであって、千葉や調布が何らかの理由で立地上不利になればあっさりと捨てて有利になった場所へ移動しても良いと考えている人が大半でしょう。
EU諸国民も今では居住地にこだわる人が少ない・・好きに移動出来るのだから「どこが損な役回りでも良いでしょう」という意味かも知れません。
とは言え、移動の自由を謳歌出来る人は限られていて、大半(特に高齢者)は生まれ育った場所にしがみついているものです。
千葉の住民なども、ここ4〜50年間で移住して来た人が大半ですから都合によってどこへ引っ越しても良いという意識の人が多いだけであって、首都圏等大都会の近郊以外の数世代前から同じ地域に住んでいる人の多い地域(殆どの地方)では、そんな単純なものではない筈です。
実際には地元から動きたくない・・大半が移動しない・・移動の自由が事実上ない人が多いのです。
日本国内・300諸候統治場所の統合と違って、EUの場合はこちらから見れば同じアルファベットの国々のように見えますが、実際にはドイツ語とフランス語スペイン語やギリシャ、イタリアなどそれぞれ言語が違い、日本国内の方言の差とはまるで違います。
政治・法的に統合・移住が自由化されても、実際に自由に移住しても生活に困らない人は、外国語への適応力の有る人に限られます。
日本の国内移住でも方言しか話せない人は尻込みしたくなるでしょうが、それよりももっとハードルが高く法制度だけ自由化しても(特に高齢者にとっては)簡単では有りません。
同一経済圏にして実際には、移住の自由がない人の方が多い期間には、ドイツやオランダ等で富を独り占めしないで、EU全体で均衡ある発展が出来るように、日本の地方交付金のような制度・・再配分制度が日本以上に必要だったと思われます。
内部分配問題はEUに任せておくとして、EUそのものの価値(相対評価)について考えて行きたいと思います。
欧州諸国の内先進国は、日本の台頭によって世界市場競争に負け始めるとアメリカのように内需拡大路線をとらず、(アメリカのように蓄積がなかったので内需拡大をする資金がなかったことによります)他方技術革新で対抗するのでもなく半分正攻法?(外国人労働力を入れて平均賃金を引き下げて輸出単価を下げる)で貿易黒字獲得を目指していたので、内需拡大・財政赤字政策ではありません。
それでもアメリカ、アジア市場での輸出競争で日本に負けるばかりでしたが、安い外国人労働力確保によって、南欧東欧諸国を内庭・市場としてEUに囲い込んで一息ついていたことになります。
グーグルのストリートビユ-で世界中の都市の状況を見られますが、発展著しいアジア諸国の都市(公開されているのは日本くらいかな?)の一般報道(水害関連でバンコクの映像が流れたりしています)で接する上海、香港、マレーシアやシンガポール等の映像に比べて欧州諸国の都市はおしなべて、沈滞している様子が明らかです。
欧州諸国は、新規建造物が増える中で歴史建造物を大事にしているのではなく、まるで新規投資がない、寂れ行く日本の地方都市の様相を呈している印象です。
(ベルリンは東西ドイツ統合後の新規建設都市ですから新しいのは当然ですが・・その他の諸都市のことです)

ギリシャ危機とEUの制度矛盾3(地方交付税)

ギリシャ危機から先祖の預貯金や資源の権益収入で遊び暮らす社会〜格差問題にそれてしまいましたので、Euの制度論・元に戻します。
日本の各県は独立国として輸入制限したり関税を取ったりしないし、貨幣交換レートの切り下げをしたりしない代わりに、地方交付税名目で中央から補助金・補償金をもらっている関係が我が国の政治制度です。
ですから、地方選出国会議員が人口比で多すぎるから、大都会は不当に搾取されているばかりだと言う都会住民の不満は実はおかしいことになります。
沖縄だって独立国になれば、基地を置かせてやる代わりに年間何千億円を要求したり当然関税も要求するでしょうから、そうなれば、沖縄への年間補助金支出と同じことになるかも知れません。
ギリシャの場合、EU参加によって青森等のように、中央にあたるドイツ、フランス,オランダ等から、無関税で(輸入制限なしに)自由に製品が流入するようになったのですが、貿易赤字を調整するべき為替操作権(自国通貨切り下げ権)も国内金融調節権=金利の設定や紙幣供給の調整権能も失ってしまいました。
代わりに補償されるべき日本の地方交付金に似た制度もないので、半端な制度のためにやられっぱなしになっていたのが今回の危機の原因です。
1つの通貨制度にする以上は財政も1つ・・儲かっている地域から補填する制度(日本の地方交付税制度)が必要ですが、これがないままでは、ドイツなど強者にとっては良いことばかりで、弱者・南欧東欧諸国にとっては悪いところだらけの制度になっているのです。
それでも周辺弱小国がEUに入りたがるのは、先進国と同じ経済圏に入る名誉・・?あるいはステータスが欲しいからでしょうか?
ギリシャ国民・庶民にとっては自国が損しようがしまいが、自分が国境の検査なしに自由に先進国に出入り出来る・・どこでも働けるのですから、出身国が損しようしまいが自分には関係ないということでしょう。
先進国は先進国で容易に南欧,東欧の安い労働力を使えるメリットが有ります。
結局EU成立は、労働力の移動の自由・・国内に低賃金異民族・外国人労働力を抱え込む長年の西欧先進国の政策の帰結点でもあったことになります。
人の移動が自由化されれば、国境は不要ですし、ひいては国境ごとに別の政策をする理由もありません。
域内国の権限は、日本の地方自治程度の権限・独自性で足りることになります。
EUは将来的にはこの制度実現を目指しているのでしょうが、その過程での妥協・・と言うのは論理が一貫しないことと同義ですから矛盾が有るのは当然です。
この矛盾を顕在化させないためには、域内貿易黒字国は(日本の地方交付金のような)何らかの資金還流政策をすべきだったことになります。
今回の危機で欧州の黒字国が、何割かの債権放棄しなければならなくなったのは、前払いしておくべき還流資金を今になって払わせられた・帳尻を合わせられたに過ぎないと言えます。

ギリシャ危機とEUの制度矛盾3(関税自主権等)

今回のギリシャ危機解決のために主たる債権国のスイス・フランス以北の国々が、債権放棄あるいは追加融資で対応せざるを得ないのは、本来は1つの国内類似の関係・同一経済圏である以上当然の結果です。
日本でも仮に各県を独立国とした場合、地方県は東京大阪等からの流入超過を阻止するために、独立国として自国を守るために高率関税を取ったり輸入制限して自分の県内に立地しない限り、車、家電製品その他製品を売らせないことができます。
(金利の調整もできます)
(幕末に締結した不平等条約の改正・関税自主権の回復その他のために明治政府がどんなに苦労したかを想起すれば分るように、関税自主権は主権国家の最も重要な権利です)
高率関税や輸入制限等の規制ができれば、東京大阪圏等の企業は各地の県別に工場を分散立地するしかなくて、結果的に各地方に産業が立地して地方の自立が出来ます。
その代わりマーケットが狭い地域の乱立で、各企業は規模の利益を追求出来ず、世界的な競争力を獲得できなかったでしょう。
日本企業は国内だけで世界第二の大規模なマーケットを有しているので、国内である程度大きくなってから海外に出られるメリットがありました。
日本は各国の輸入制限措置の結果、アメリカに現地法人を設立して工場立地したり、韓国や台湾、中国アジア各国に合弁進出せざるを得なくなっています。
トヨタやコマツ建機等が海外で稼いでいると報道されていますが、これは国民を安心させるための一種の欺瞞・レトリックであって、稼いでいるのは正式な社名は知りませんが喩えばアメリカトヨタ、中国トヨタという別法人であって、日本のトヨタやコマツはその株式の大半を握っているだけです。
言わば海外生産比率の高い会社はすべからく株式保有による投資収益を本国に還流しているだけであって、世界企業とは生産会社から投資会社・知財会社化が進んでいる会社と言うべきです。
海外比率が4割から6割8割と上がって行くに連れて、生産・製造収入比率が6割4割2割と減って行く場合の社会がどうなるかを考え直す必要が有ります。
この比率を国内総生産に当てはめれば、生産に従事して得た収入が2割で、利子・配当・知財収入8割で生活している社会となります。
65歳以上の世代になれば、年金や配当収入及び貯蓄の取り崩しが生活費の8割で、老後のアルバイト収入が2割(有るだけマシ?)でも良いのですが、国全体(現役世代)がこれでは、社会がおかしくなってしまうでしょう。
全員が均等に株式等金融資産や知財収入を保有し、均等に職場が有れば上記の図式ですが、不均等が世の常です。
現役で言えば知財・金融資産保有者には有能な人が多いのでこれら資産を大量保有した上で2割の仕事を独占して高収入を得りょうになり、8割の人は無職で金融資産も保有していない・収入ゼロになりかねません。
現役世代では高額所得者と失業者・生活保護費受給者と二分される社会になりがちです。
アメリカがこの格差社会に突入していることは「 October 28, 2011格差社会1(アメリカンドリーム)」以下のコラムで書きました。
我が国の場合、現役の収入格差が小さい(企業トップと平社員の収入格差は諸外国に比べてかなり低い社会です)うえに累進課税のカーブがきついので現役一代目には有能な人でも一代で稼いで蓄積出来る金融資産は多寡が知れています。

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