法人実在説の有用性?

日本では判例上法人実在説が確立しているので、学者は別として、我々実務家では、遠い過去の「終わった」議論になっているはずですが・・・?
20年2月28日現在の法人本質論に関するウイキペデイアの記事です。

法人本質論とは、法人の制度について、その根本の理由を明らかにしようとするものである。
考え方によって、法人に対する法律の運用に大きな影響を与える。法人の本質には、法人擬制説、法人否認説、法人実在説の対立がある。
なお、法人擬制説と法人実在説の論争は法人税をめぐる議論にも存在するが民法におけるそれぞれの立場と同じものではない[1]。
法人擬制説は、フリードリヒ・カール・フォン・サヴィニーの提唱した考え方で、自然人の平等な権利能力を前提とする民法において、法が特に人格を擬制したのが法人であるというもの。いかなる実体が法人として認められるかは法の裁量によることになる。
結果として、この理論は、二つの異なる論点を含むことになる。
法によって認められない実体は法人ではない
フランス革命モデルからも明らかなように、近代法の草創期においては、団体というのは個人の自由を阻害するものであると考えられた(ギルドなど)。
近代法は、自然人から構成される平等な市民社会を構想したから、このような団体は敵視され、たとえ団体たる実体を備えた社会的存在であっても、法が人格を認めなければ法人ではない、という思想が適合的であったわけである(樋口陽一の「法人の人権」否認論を想起せよ)。
この思想は、法人について特許主義を採用したい当時の国家の思惑とも合致したために、広汎に支持された。日本民法も33条で法人法定主義を採用しているが、これは、法人擬制説の表れと見ることができる。要するに、法人に対して謙抑的な法政策が採用される場合には、「法によって認められない実体は、法人ではない」という論理が強調されることになる。この学説の当初の思惑は、こちらである。
法によって認められた実体は法人である
これに対して、法人に対して拡張的な法政策が採用される場合には、「法によって認められた実体は法人である」というまったく正反対の方向のモメントが強調されることになる。例えば、現在の日本商法は一人会社を認めているが、一人の個人には社団性はない。しかしながら、法がそれを法人と認めるのであれば、仮令社団性がなくとも、それを法人と認めよう、という姿勢も論理的に演繹できるのである。
また、法人というのは、権利義務の帰属点を提供するための擬制に過ぎないのであるから、権利能力さえ認めれば十分で、行為能力まで認める必要はない(代理人の法律行為の効果が法人に帰属するという構成をとれば十分である)、という考え方と(必ずしも論理必然ではないが)結びつく。民法44条が「理事其他ノ代理人」として、理事を代理人と観念していたことは、起草者が法人擬制説を採用していた一つの根拠であるとされることがある。
法人否認説[編集]
法人否認説は、ルドルフ・フォン・イェーリングなどにより主張された考え方で、法人擬制説を発展させたもの。法人という擬制の背後にいかなる実体(真の法的主体)があるのかを解明しようとする。その解明の結論により、法人の財産が実体であるとする説(目的財産説)、法人の財産を管理する者が実体であるとする説(管理者主体説)、法人の財産によって利益を受ける者が実体であるとする説(受益者主体説)がある。
法人実在説[編集]
下記の法人有機体説・法人組織体説・法人社会的作用説をまとめて、「法人実在説」と呼ぶ。法人擬制説に対するアンチテーゼとして、このようにまとめて扱われることが多い。
日本の判例・学説においては法人実在説がやがて主流となった。この結果、法人擬制説に傾倒している日本民法を、法人実在説的に解釈していくということになった。このことも、次の二つの異なるモメントを包蔵する(但し、法人擬制説の二つのモメントとは異なり、同方向のヴェクトルを指している)
たとい法が法人と認めていない社会的存在であっても、それに相当する実体を備えている場合には、(組合ではなく)法人に準じた法的処理をしようということになる(法人擬制説を採るならば、このような法関係は一律に組合契約として処理することになる)。これが、いわゆる「権利能力なき社団」や「権利能力なき財団」であり、いずれも判例・通説の認めるところとなっている。
たとい法が法人と認めている社会的存在であっても、それに相当する実体を備えていない場合には、法人格を否定しようということになる。これが、いわゆる法人格否認の法理である。法人格否認の法理は、判例の認めるところとなっている。

民法44条の削除はhttps://www.minnpou-sousoku.com/commentary-on-civil-law/44/によれば以下の通りです

本条は2008年12月1日の法人整備法(正式名称「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)、法人法(正式名称「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」)、公益認定法(正式名称「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」)の施行により、削除されました。
旧民法44条の規定は、次のとおりです。
旧民法第44条第2項(法人の不法行為能力等)
1 法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
2 法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは、その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は、連帯してその損害を賠償する責任を負う。
昨日見たttps://www.minnpou-sousoku.com/commentary-on-civil-law44の引用続きです。
2008年の民法改正以降の本条に対応する新規定は、法人法第78条・第117条・第118条です。
また、法人の不法行為能力に関しては、法人法に多くの関連規定があります。
とありますので、略称法人法を見ておきます。
七十八条 一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
(役員等の一般社団法人に対する損害賠償責任)
第百十一条 理事、監事又は会計監査人(以下この款及び第三百一条第二項第十一号において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法旧規定の「役員その他代理人は」という民法旧規定の「代理人」をなくして、「代表者が」と変更しています。
商法では早くから代表者代表取締役という名称が採用されていたのに対して民法の改正が遅れていただけのことでしょう。
ちなみに現行商法は明治32年法律第48号最終改正:平成30年5月25日法律第29号
ですが、平成17年に会社法部門が独立法になって削除されるまで、商法中に会社法がありました。
私が法学部に入った頃には、すでに代表取締役の文言があったのでいつからそうなっていたかでしょう。
旧商法に関するhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2945296/8・・(官報. 1890年04月26日)を見るとロエスレル商法全文が記載されているので、これの186条を見ると「取締役代理権」という文言になっているので、当時は民法同様に代理権という考え方だったようです。
旧商法の施行期間はhttp://www.i-design-lab.jp/companyvalue/corporate-governance/によれば、以下の通りです。

この法律は明治23年に施行されて8ヶ月で施行延期?されたもので、日本で本格的に施行された商法は現行商法(1899年明治32年)になります。
ロエスレル商法草案が脱稿したのが明治17年ですが、旧商法が公布されたのは明治23年、それも8ヶ月で施行延期となり、会社法・手形法・破産法など一部が施行されたのが明治26年、新商法として施行されるのは明治32年と完全施行までなんと15年の月日を要している・・・。
http://www.waseda.jp/hiken/jp/public/sousho/pdf/41/ronbun/A79233322-00-0410175.pdfはロエスレル商法の研究論文ですが、(取締役3名以以上との規定があるが取締訳解の規定が欠けているという流れの中で明治32年の新商法169条、170条で、「取締役各自執行、各自代表」になっているとの紹介があります。
ということは明治32年段階で既に代理ではなく「代表」とする法制度が始まっていることになります。
以上によれば民法の旧条文に代理と書いていることを理由にする(だけではないですが)部分は、法人擬制説は揚げ足取り的主張としてついにで行った程度でしかないので基本法である民法を改正するまでもないと長年放置されていたのではないでしょうか?
必要な議論は、一定の組織集団には独自の経済主体性がある・・だからこそ社会的有用性があって議論しているのですから、・・のでその集団にその名で一定の権利を享受する資格・当事者適格を与えるべきかどうかの問題でしょう。
誰でも集団を名乗ればそういう資格を得られるのでは、社会が混乱するのでどういう資格をどういう集団に与えるべきか→それにはどういう要件がいるか?その基準・要件を国家が決めてその要件・基準を満たしている限り一定の資格を与えるという制度です。
それを法人と言うかどうかは別として、一定の活動能力を与え、活動させる以上は、それに必要な資金や資産の保有者でないと契約も何もできません。

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