非嫡出子差別違憲決定の基礎3

高度成長に伴う社会構造の変化に合わせて昭和56年頃に、昭和22年改正法では3分の1だった配偶者の相続分を2分の1に改正しました。
http://www.moj.go.jp/content/001143587.pdf

5 昭和55年改正昭和46年から相続法改正についての審議が開始され,昭和54年の改正要綱試案の公表,昭和55年の改正要綱の法務大臣への答申を経て,同年に「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」(昭和55年法律第51号)が成立した。改正内容は,次のとおりである。(1) 配偶者の法定相続分の引上げ従前は,配偶者の法定相続分について,子と相続する場合は3分の1,直系尊属と相続する場合は2分の1,兄弟姉妹と相続する場合は3分の2とされていたところ,それぞれ2分の1,3分の2,4分の3に引き上げられた(民法第900条第1号から第3号まで)。

上記の通り、相続法全般の改正でない相続割合の変更をするだけの改正でも夫婦のあり方がどうあるべきかなど社会の根幹にかかわるので、約10年間もかかっています。
今でも例外的に先祖代々の継承資産が大部分を占めるひとがいるでしょうが(鳩山元首相やトヨタのオーナーなど)標準型を基準にするのが法の原理です。
例外的不都合に当たる人は遺言等で自由に修正すればいいという制度設計は婚外子が例外である間は正当性を持ちますが、標準型が変わってくると正当性を失います。
現在身分とは何かのテーマのシリーズの一環として、生まれつき決まっている親子や親族関係の得喪変更・・その始まりである婚姻離婚制度を見ているところです。
身分法の特質として何らかの強制力が担保されている・・個人間の契約で内容変更できる範囲の外枠が決まっている点を問題にしています。
婚姻開始は当事者の自由意思・合意によってのみ始まると憲法に書いてあっても、一定年齢の制限や親子・兄弟間の婚姻を認めないなどの外枠は法で決まっています。
(これを憲法違反だという意見を聞いたことがありません)
婚姻関係に入っても夫婦のあり方を合意でなんでも決められる・・100%自由ではなく「同居協力の義務」など色々法律で決まっています。
夫婦間でその義務免除の契約をしても法的には限界がある・・長年夫婦関係がないとなれば被告側で「特約があるから、義務違反していない」と抗弁しても夫婦の実態がない・破綻していると認定されてしまうでしょう。
破綻主義については、こののち水野氏と瀬木氏の対談引用で紹介します。
子供の面倒を見ない約束があるとしても、妻の緊急入院中に子供を放置して餓死させたりすれば刑事処罰されますし、子供の父に対する生活費請求権がなくなりません。
上記の通り一般の商業活動と違い相続制度・・身分制度は強制力が背景にあって、遺留分制度で担保され、各人が修正できる限界が決まっています。
現行法では、遺留分は原則2分の1ですから、遺言や生前贈与で修正できるのは半分までの自由しかない仕組みです。
(相続分を修正しようとすると生前贈与には贈与税もかかるなど網の目のような不利益が用意されていて自由処分が事実上抑制されています。)
このような強制力が背景にあるので、民法の相続分の規定が標準型と齟齬がある場合の修正が働きにくいのでその害が大きくなってきます。
今の社会実態では婚外子差別を許容すべき合理性があるか・・何が標準型かの判断が、違憲かどうかの判断を分ける基準の一つ(国民意識の変化や国際環境の変化など)でしょう。
現在の世帯単位の変化・・未婚独身が増えているだけではなく高齢化による独身世帯も増える1方です)独身世帯の激増など目覚ましいものがあります。
重婚的婚外子でもそれぞれの家計管理・資産形成が別になっているのが普通(先祖代々の継承資産に頼る人はごく少数)です。
今ではいろんな統計データも世帯単位が普通になっているなど、(死亡退職金は支給規定次第ですが、原則として「生計を一にするもの」が受領権者です)どんどん基礎になる生活単位が変わっています。
死亡退職金については何十年も前から相続の強制力を排除する・福祉運用にシフトして生活実態によって支給する柔軟運用が続いています。
死亡退職金は企業の労働契約によることから契約書の書き方次第で、相続財産にもなれば生活補償給付にもなる・・身分法の硬直性・・強制力を受けない点を利用したものです。
例えば、労働対価の後払いという意味の書き方であれば相続財産になるでしょうが、一般に行われている例・遺族の生活保証目的→会社の指定する遺族に支給するとなっているときとか、労働基準法施行規則の42条〜45条の規定に従うという雛形的記載の場合には、以下のようになります。

労働基準法施行規則
第四十二条 遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする。
○2 配偶者がない場合には、遺族補償を受けるべき者は、労働者の子、父母、孫及び祖父母で、労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していた者又は労働者の死亡当時これと生計を一にしていた者とし、その順位は、前段に掲げる順序による。この場合において、父母については、養父母を先にし実父母を後にする。

43条以下は省略

上記配偶者限定の書き方も企業によっては変わって行くでしょうが、相続となれば身分法なので民間の柔軟対応によっては変更できない限界が起きてきます。
そのうち同性の同居者も(内縁とは男女のみに限る印象ですが)死亡退職金受領権利者に入っていくでしょう。
受給者を同性愛に限る必要もない・・近所で女性同士でアパートをシェアーしているらしい人がいますが、同性愛者などの定義規定を設けて審査する必要を認めない・同性愛者であろうとなかろうとありのままで妥当な対応を工夫すればいいことです。

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