政治不満と暴動1(中国4)

北朝鮮を韓国と比較して極限的貧しさを強調し、このような貧困状態でなぜ我慢できているか・・すぐにも社会や体制が崩壊するのではないという疑問を抱かせるようなイメージが流布していますが、国民としては豊かで自由な方が良いとしても、言論の自由がなくても仮に年間人口の数%〜5%くらいが飢え死にしてもその程度ならば命がけの暴動を起こしません。
北朝鮮の場合先進国に比べて貧しすぎるだけであって、朝鮮戦争時に比べれば格段に生活水準が上がっているので昔に比べれば良くなっていると満足している人の方が多い可能性があります。
このような心象は日本の田舎でも同じで、他都市では10数年に2〜3回のペースで商店内装リニューアルしているのに対して地方都市では10数年に1回のリニューアルペースとした場合、地元の人は20年前に比べて新しい店やフィットネスクラブが出来て便利になったと満足しているのですが、新陳代謝の激しい地域から行くと古色蒼然たる展示内容に驚くのと同じです。
韓国の場合、身の丈にあわない民主主義政治をアメリカに押し付けられたのが国民の不幸で、ストレスいっぱいの社会になっている原因のように見えます。
せっかく大統領制にしているのに任期満了後例外なく次の政権の厳しい追及を受けるのですから、せっかく権力の頂点・政権を握っても安心できません。
ロシアの民度レベルを前提にすると選挙で選ばれる大統領制になってもプーチンはこれが怖くて政権を手放せない・終身制にしない限り心の休まる暇がないのでしょう。
暴動に戻しますと、最初の暴動参加者は治安警察レベルですぐ検挙されるし、そのうち大規模になっても政府軍に簡単に鎮圧され殺されてしまう繰り返しのうちに、各地で次々と暴動が起きて自然発生的暴徒が組織化されて軍隊らしくなっていく・・政府が弱体化の極みに達すれば(中国歴代王朝末期のように大暴動の長期化の結果農民の流民化→ 全国的食料不足発生・ソ連の場合で言えば生産低迷)による人口大激減になれば、結果的に一族殆どが飢え死にするリスクがあるのは同じです。
現在のシリアの現状を見ても暴動前より生命の危機を含めて生活水準が低下している現状を見れば分かります。
そこまでのリスクを冒してでも人民の多くが大動乱を願望するようになるには、このままでは一族みんなが飢え死にしてしまうほどの危機が来ないと無理でしょう。
ところで中国歴代王朝末期の飢餓→大暴動は、実は当てのない飢え死に目的で暴動を起こしたのではなく「県城」等に豊富な食料備蓄があって、それを襲う暴動から始まったことを無視できません。
項羽と劉邦・漢楚の攻防で知られる攻防戦も、多くは食料備蓄の豊富な県城争奪戦であり攻城戦勝利の暁には飢えに苦しんでいる兵士に腹いっぱい食べさせられる欲望を利用していたものでした。
城中に乱入すれば城内の家に押し入り略奪(限らず女性も)するのは文字どおりの兵士にとっての戦利品・・当然の権利として中国では何千年もやってきました。
日本の武士団が戦争に勝っても略奪しなかったのは、食料目的の戦争ではなかったからです。
日本軍の食料不足で餓死者続出のインパール作戦でも、自分たちが餓死していても現地民から食料調達・略奪をしていません。
中国歴代の暴動に戻しますと10月18日に大躍進政策で4〜5千万人が餓死していた陰で政府倉庫には、「また都市部の倉庫は穀物で一杯だったという証言が残されている[8]」という記事を紹介しました。
中国は古代から都市国家・点と点をつなぐ支配体制ですから、出先基地である県城(都市国家)の外は野蛮な異民族の居住地域(今も都市と農村戸籍の2分類思想です)という扱いですから、いざという時に近隣県城からの応援軍が来るまで持ちこたえるための食料備蓄は基本中の基本ですし、城壁外の異民族が飢えていても関心がない・城内備蓄優先ですから、これを狙った暴動が起き易かったのです。
現在の中国政府は、大躍進政策の失敗で4〜5千万人程度飢え死にを出しても暴動にならなかったし、その後公安部隊の増強をしてきたので、その数倍程度までの餓死者が出ても、治安部隊強化で押さえ込み可能と見ているでしょう。
まして現在の不満は、公害や不公平・格差の大きさ程度でしかない・末端人民が食えないほど困窮していません・その基準から見れば格差の大きさ程度は贅沢な悩みですので、過酷な拷問等を受けるリスクを冒してまで立ち上がる心配はありません。
シリア混乱が収拾のつかない内乱にまでなったのは、国外勢力の介入があったからだと見るべきでしょう。
現在中国の場合格差があっても解放直後よりも、生活水準が格段に上がっているので飢え死にするようなことはない・・ちょっとやそっとの経済不況(前年比減)や言論不自由程度で暴動(を期待する?論調が多いですが)になるわけがありません・海外逃亡を拒否して国内民主化運動をしていて先日獄死したノーベル平和賞受賞者の後に続く人がいないことを見てもわかります。
生活苦や規制の厳しさ等々の不満に対する国民の耐性については、昨年トルコ軍がロシア軍機シリア上空で撃墜した時にロシアが直ちに農産物輸入停止やトルコ観光停止などを発動した時に、経済政策の耐性としてロシアとトルコの経済制裁合戦になればどちらが耐性があるのかの意見をSep 19, 2016「フラストレーション度2と中華の栄光復活」で書き始めていました。
いろんな意見が挟まってしまい原稿が先送りになっていますが、これを引用してFebruary 1, 2017にもロシアはクリミア併合によって欧米から経済制裁を受けている最中・・野菜等生鮮食品が西欧から輸入出来なくなっていても、輸入国の方が強いことと「生活条件の過酷な発展の遅れた国の方が耐性がある」という意見を書きました。
月収百万円の人が半分になるのと10万円の人が半分になるのとでは貧しい人の方が極限状態だから、より反発が激しいというのが普通の印象ですが、現実政治では逆に日頃贅沢していた人の方が、(株が少し下がったり)少しでも貧しくなるのに耐性が弱いのです。
加えて政治自由度が低いとか政治不満程度ならば、(賄賂や汚い・公害等が気に入らないならば中国へ外資が進出しなければ良いのとほぼ同じで)今では国民にも国外移住の道があるので、わずか10数万円あれば国外脱出可能・・(出稼ぎ等で)逃げ出せば良いのですから命がけで暴動を起こす必要はありません。
シリア難民が最近の実例ですが、外部に逃げられない昔ならその何割かは暴動参加者になっていたでしょうが、難民になって出てしまえば政府は安泰です。
出血輸出は相手国の失業増加要因`・失業の輸出であると一般に言われますが、難民を吐き出せば受け入れ国の政治不安要因になります。
これが受け入れ国であるドイツその他西欧諸国の団結をゆるがす原因になっています。
賄賂社会に戻しますと、賄賂社会が嫌だという程度で命がけの反政府運動をしても続く人が少なすぎて投獄されて終わりです。
出世競争や権力闘争に関係のない人民の方も(競争相手がルールを守っていないのに自分だけ守っていたらコスト競争に負けるので)設備・労働基準など違反状態で許認可を通して貰う・許可後の基準未達操業を見逃してもらうなどいろんな場面で常に賄賂が必要になっています。
この数年は、 習近平派以外に近づかなければよかったのですが、せっかく賄賂を提供していても、習近平派内の争いが激化してくると頼みにしていた人がいつ検挙・粛清されるか知れないのでは、戦々恐々の状態でしょう。
この結果、賄賂提供の効果がない・・廃れるかというと日常末端の検査官や窓口業務で賄賂を要求される・断ると基準違反で摘発されたり嫌がらせされるリスクがある・競争相手の肩を持って自分の企業だけいやがらせされたたら、倒産するのでもっと上の人に頼むしかないのが現状です。
ソ連の場合も賄賂がないとまともに医療すら受けられない賄賂社会でも景気が良ければ何とかなっていましたが、ソ連末期の経済混乱期になると平均寿命が低下した時に賄賂社会の厳しさが表面化してしまいしました。
今後中国の成長が低下するとこの社会規模の矛盾(いわゆる都市戸籍と農民戸籍の差別・貧富格差)が表面化すると思われます。

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