中国やりくりの限界1

中国の改革解放直後は、新規先端立地工場による大量雇用吸収で毎年のように何十万(〜もしかして何百万?)人と言う人々が、近代都市住民の仲間入りすることで所得が何十倍に上がる好景気で沸き立っていましたので、思想統制や共産党幹部の役得にも大した不満が起きませんでした。
1980年代後半だったと記憶しますが、香港から広州市に向かってバスで通過していたときに貧しい農村・・どろんこ道を草履みたいなもので歩いている人が多かった中)に出現している万元戸を通訳の人が紹介してくれたものです。
こう言う時代には高成長に参加できなかった人も2〜3年先は自分も・・と言う期待があって格差不満が起きません。
アメリカンドリームの中国版です。
ちなみにアメリカンドリームは格差社会を前提として(誰でもが・・と言うわけではなく運が良ければ)後で追いつく可能性を強調することで成り立っています。
こう言う期待・前提があって、長年中国では成長率が10%を割ると政権不安が起きるとか、つい数年前には7%以下はデッドラインとか言われて来ました。
リーマンショック以降高度成長が終わって新常態経済に変わって来ると、新規立地・・投資が減る・・新規に都市労働への参入が減って来ると工場労働者に参入する頭数を増やせない・既参入者の賃金アップしか餌!がなくなって来ます。
アメリカでアメリカンドリームが色あせて来て格差反発・・100万に1つくらいしかないドリームを売ったり国威発揚よりは、(宝くじの場合能力差がなく公平ですが・・アメリカンドリームはベーブルースやプレスリーなどの特殊才能保持者だけのことです)目の前の生活水準引き上げ要求が増えて来たのは当然です。
中国の既参入者も僻地農村から来たばかりのときは近代工場で働くだけでも夢のようであったでしょうが、都市生活に慣れて来ると最低賃金では不満が出て来ます。
この辺は先進国で移民2世にホームグロウン・テロリストが育つのと同じ原理です。
中国はリーマンショック以降成長鈍化の穴埋めに?経済原理を無視して最低賃金(需給に関係ない強制です)を毎年大幅に引き上げていたのでそのトガメが遂に出て来ました。
https://www.attax.co.jp/cbc/news/post-2545/によると以下のとおりです。
2016/03/09 2017/01/19
中国 広東省 今年と来年の最低賃金引き上げを見送り
「最低賃金標準は労務費に影響があり、2010年21.1%、2011年18.6%、2013年19.1%、2014年19.1%、2015年19%と推移してきた。
・これに対して広東省のGDP成長率は、2010年12.4%、2011年8%、2012年10.2%、2013年8.5%、2014年7.8%、2015年8%と推移している。」
GDPアップ率と直截比較するのはおかしいと言えば言えますが、何となく分りよいメージ数字です。
要は生産性アップと関係なく賃上げして行くのは非合理ですから、さすがに賃金が上がり過ぎて国際競争力が下がり過ぎたので、業界が保たなくなって来て最低賃金引き揚げストップの動きになってきたのがこの記事の表題です。
専制権力であっても経済原理に反したことは続かない一例でしょう。
いくらバブルを膨らませてもそれに合わせて紙幣増発すれば矛盾しないと言うことでしょうが、国内だけならばマンション価格が百倍になれば、人件費も全部百倍・紙幣百倍供給すれば一貫しますが、国際取引では為替相場で調整しないと中国製品が高過ぎて成り立ちません。
その帳尻合わせを市場・変動相場制に委ねれば・無理な賃上げ分に比例する(資本・幹部の取り分を減らすなどの修正がありますが原則として)人民元相場下落でしょうが、それをすると多くの新興国では対外債務支払不能リスクが起きる点では中国も同じ・・相場に任せられないので、買い支えたり出血輸出をシテ(黒字を稼ぐ)誤摩化して来ましたが、トランプ政権誕生で対米大幅黒字維持が直撃を食らいそうになって、出血輸出も限界が来たジレンマです。
日本と違って財政赤字が少ない・・余裕があると豪語していましたが、これまで公害対策や福祉政策をしていなかったばかりか不景気景気対策の経験がなかっただけのことです。
韓国の年金赤字が日本より少ないと自慢していたことがありましたが、食えない高齢者を放置シテ自殺するに任せていれば(韓国の高齢者自殺率の高さは世界一でしょうが・・高齢者地獄になっている様子が時々報道されています)年金財政は健全でしょう。
中国は今のところ企業倒産防止に必死になっているだけですが、それでも早くも外貨準備の底が見えて来て財政支出の限界が近づいて来た印象です・・・。
その内諸外国並みとは行かないまでも少しは障碍者や高齢者の医療費や福祉・公害対策などに使わざるを得なくなると・・韓国以上のいわゆる先老未富が到来して地獄絵図になりそうです。
ちなみに中国の高齢社会突入も待ったなしの状態です。
2億人を超える高齢者をどうするか・・もしかしたら、地獄絵図が現実社会に迫って来るのが目前・・大変なことです。
http://www.epochtimes.jp/2017/03/26925.html
「中国国務院が3月6日発表した「老齢事業発展計画」によると、2020年に60歳以上の高齢者は2億5500万人に達し、総人口の約2割を占めると予測した。労働人口が減少し、急速に進む中国の高齢化問題は再び注目されている。
同計画によると、20年60歳以上の高齢者の数は総人口の17.8%(14年末は15.5%)に達し、その内80歳以上の高齢者の数は約2900万人まで増える。また、高齢者の扶養比率(高齢人口に対する労働人口の割合)は28%で、5人で1.4人の高齢者を扶養しなければならないことを意味する。」
中国では低学歴・健康管理能力が低いことから50代で働けない人が多いと言われていますので、国際基準の60〜65歳以上を取り上げるのは実態に合っていない・・現実は既に大変な事態になっています。
70前後まで働きたい人が多い日本場合、バカの一つ覚えのように65歳以上の高齢化率を報道するのは意味がないとこのコラムで書いて来ましたが、中国の場合この逆の実態があります。
苦し紛れの無茶をする限界が迫って来てその内ゾンビ企業への追い貸しが出来なくなって、倒産続出→失業増大→マンションや商品投機資金が続かなくなる時期が来る可能性が取りざたされています。
昨年末から今年に掛けて債権委員会なるものが出来て、国有企業の不良債権処理システムが動き出したようですが、何が出来ようとも焦げ付き債権を棚上げされて払ってくれない事実は同じ・・結局最終貸し手・・金融機関の資産が縮小するしかありません。
どこかで経済原理に反した帳尻合わせが必要・・国民に迎合→結果的に傷を大きくするしかないと言うことでしょう。
今朝の日経新聞朝刊21p「大機小機」にはこの辺のジレンマを「中国経済4つの誤算」として要約した意見が出ています。
政権正統性がない穴埋めとして・・と反中系ネットでは良く言いますが、正当性があっても不景気が続くと政権が持たない点は同じです・・。
人件費上昇政策で御機嫌取りをして来た結果輸出向け製造業衰退が始まったのですが、だからと言って今更賃金を引き下げるわけには行きません
だからと言って今更賃金を引き下げるわけには行きません。
・・上記記事はこれ以上賃金を上げない宣言をするのがやっとと言うことです。

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