税収弾性値3(国債の合理性1)

昨日最後に書いたように各種政策対象が広がって来ると景気が良くなっても税収がそれほど増えない・・赤字国債を解消するどころか、せいぜい赤字国債の発行額を減らすのがやっと・・不景気時の発行額の半分〜3分の1に減らす程度→次の不景気が来るとまた2〜3倍にすることの繰り返しになると・・累積額が増える一方になります。
赤字国債が増え続けることの「解」は何であるのか?、そもそも従来理論による限り「解」があるのでしょうか?
今の時代・・に限らずいつの時代でも、既存秩序を説明するための理論では説明の出来ない事態が切れ目なしに起きているのですが、旧知識で説明出来ないからと言って反対していても解決出来ません。
新井白石の貨幣改鋳批判「正徳の治」に対する批判を書いたことがありますが、旧来儒教倫理から言えば勘定奉行荻原の改鋳は悪ですが、経済活動が拡大しているのに金の含有量にこだわると潤滑油としての貨幣不足が起きることは、今になると自明でした。
必要な貨幣量は金の産出量によるのではなく、経済活動・交換経済の需要に比例するのですから当たり前です・・・・このために貨幣だけはなく各藩で藩札が発行されるようになっていたし、金本位制を理想としつつも、明治維新以降では紙幣が決済手段の基本となっていました。
通貨の必要量は経済活動に比例するのであって金の量に比例しない・・ただ紙幣の信用維持のために金の権威・憧れを借用していただけのことです。
江戸時代に発達した為替制度は、最後の帳尻残を公認の貨幣で決済する仕組みを背景にしているとは言え、権力のない商人間の信用の発達で成立したものです。
現在に至る為替制度も商人間の信用・・東京手形交換所や大阪・名古屋・その他各地の手形交換所での帳尻決済を基本にする点は、江戸時代からの流れそのものですし、不渡りによる、銀行取引停止処分などの規律による手形の信用維持に業界が自主的に努めて来た結果によります。
今で言えば、信用情報・デフォルト履歴・ブラック制度のハシリです。
藩札は領内限り、しかももイザとなれば幕府公認貨幣との兌換前提の仕組みですが、それでも大名家の信用で流通していたものです。
全部が全部小判や幕府発行の貨幣に変えてくれと一斉に言って来ないから、藩政府としては発行済藩札の5%前後のタネになる幕府発行貨幣を持っていれば何とかなる仕組み・・とすれば保有貨幣量の20倍の藩札が流通出来る仕組みになっていたことになります。
これは今の銀行システムも同じで、いわゆる信用創造機能と学校で習います。
このように幕府発行の公認貨幣の外の周辺決済手段が多様化(キャッシュレス化)している点では、今では江戸時代の比ではありません。
今では権力が信用の源泉ではなく発行体・商人の信用による・・トヨタの株式や債券ならば、額面にプレミアムを付けていくらで買うと言う時代です。
北朝鮮政府の権力が以下に強くとも経済基礎が弱いと北朝鮮通貨を欲しがりません。
プーチンの権力の強弱とロシアルーブル貨幣の強弱は全く別です。
このように今は発行体の経済力そのものの価値によって決まるのであって、通貨主権を取り戻せ・・と言う最近のユーロの議論は時代錯誤だと思っています。
話題が飛びますが、マネーサプライがどうのと言う議論も・・デパートの売上増減だけで、(スーパー〜コンビニどころかネット通販も盛んですが・・)景気動向を騒いでいるのに似ていてイマイチピンと来ない人が多いと思いますが、・・旧来重視されたデータそのままで議論しているように見えるからです。
マネーサプライの増減を議論するならば、10年前に比べてその他決済手段の多様化・キャッシュレス化進行の中で、いわゆるM1M2の比重がどうなっているかを論じた上で修正した議論をするべきでしょう。
このようにわが国では江戸時代から、実際には紙幣であるいは帳尻決済で何百倍もの相殺決済をしていたのですから、ソモソモ金への拘りは古代からの郷愁でしかなかったことになります。
金本位制の思想が完全払拭された現在では、各国の主権に裏付けされた中央銀行だけが紙幣を発行出来る・・紙幣発行体の純粋な信用力・・これもある国が自国通貨を信用があると言っても誰も相手にしない・・国際為替市場で評価される仕組みです。
大恐慌時の1930年には日本が率先して行なった金交換停止が今から考えると合理的だったように、(金本位制は本来古代への郷愁でしかなかった)旧道徳・教養主義に毒されたエリ−トには理解出来ないことが次々と起きてきます。
アメリカは国力があったことが災いして?1971年のニクソンショックまで金兌換をしていました・・世界最後尾の国の栄誉?を担ったのです。
資金力の弱いものから順に世界の進運に早く身を投じる・お金持ちほど古い習慣を維持する傾向があるのと同じです。
西欧では王権神授説に対する革命動乱・・産業革命ではラッダイト運動のように機械化によって職を失う反対もありました・・戦国時代の実力主義→下克上や幕末の攘夷思想と開国論など・・戦後の平和主義と現在の国際環境など・・いつも旧価値観では解決出来ないことが起きて来ます。
ネット空間でも既存論理を前提に現状批判している人が多いのは、(GDP比の債務額や税収弾性値論の不都合を昨日から書いていますがその他の論理も)対中批判であれ何であれ無理っぽい印象です。
何かを批判するには既存論理枠組みが前提にしていた社会が現状に合っているかの疑問から入って行くべきでしょう。
私自身・子孫に借金を残すのかと言う論法には反対意見を書いて来ましたが、だからと言って赤字国債→出口を決めない・・もしかして無制限日銀引き受けの行く末がまだよく分っていません。
この5〜10年間このコラムで書いて来た私なりの素人的理解は、一家の経済になぞらえて、お父さんの収入で足りなくなっても同居している息子・娘が自分の食費しか入れないときに、お父さんが子供らに毎月10万円づつ借金した累積額がお父さんの年収を越えた状態に匹敵するのが我が国の財政赤字額だと言う説明をして来ました。
この計算では、一家全体の収支が重要であって、子供らの収入の範囲で子供から借りている限り総額がいくら膨らもうと一家の経済に何の問題もありませんし、子供らに借金が残る心配もありません。
国債と税の違いは、親が子供から生活費として月10万円を強制的に(税)取るか借りたことにしているかの違いです。
遺産を残せない親に対して子供が親に貸す(出す)のをいやがってその代わり親が銀行で借りた場合・相続放棄されると銀行が損をしますが、支払能力・・親自身に資産があるか別に支払能力のある子供が保障しない限り銀行が無担保で貸さないでしょうから、・保障するしかないならば、結果的に同じです。
親を見殺しにする結果、親世代の自殺が多くなっているのが今の韓国社会でしょう。
日本では韓国のように親を見殺しにしてレジャーを楽しむ勇気がないとすれば、仮に親に資産がなくとも子は身を削っても親を病院に連れて行くしかありません。
ところで日本の場合親世代の方が(個々ではばらつきがあるでしょうが)トータルでは子世代よりも資産を多く持っている・・子世代は相続で得する関係です。
だからこそ政府は親世代から生前贈与の軽減税制度を次々と新設して奨励しているのです。

税収弾性値2(財務官僚・定免法への郷愁)

税収弾性値をどう見るかは、我が国でもどこでも実は難しい問題で弾性値だけを取り上げる単純な決めつけは無理がありそうです。
放っておけば1億円の売上不足で赤字になる企業が、公共工事1億円受注で収支トントンになっても、法人税支払はゼロ・税収が増えません。
1億の受注があって従業員を解雇しないで済んだので昨年同様に給与払って給与所得税を払えたとしても、昨年同様の税収でしかありません。
下請けも昨年同様の受注があって赤字を免れるだけであれば、下請け企業の納税が上がるけワケがないでしょう。
また工場やショッピングセンターなど民間施設設置の場合には設備稼働による税収も上がりますが、医療機関や公害防止設備義務付けや美術館、学校などの公共工事の場合、完成稼働しても税収が上がるどころではありません。
レストラン経営者が自宅建設を後回しにして出店加速している場合、店舗完成後の新店売上増が税収に寄与しますが、出店を一服して自宅・・豪邸を建てるために出費した場合、完成後の税収(固定資産税程度しか)が増えません。
GDP増加率と税収伸び率の関係は、投資対象によります。
どんな統計も1の指標だけで結論付けると歪みます・・無駄な公共投資をして体面を繕うためにGDPだけかさ上げしても税収が増えないのは確かですが、税収が伸びていないから・・無駄な投資をしているとは限りません。
無駄・・非効率・・GDPアップに繋がらない非効率な投資にも2種類があって、生活レベルアップ投資・・自宅内装模様替えや衛生基準強化や排ガス規制等の投資・教育機関設置費や公園整備や美術館や博物館新設などはもともとその投資が翌年以降のGDPアップを期待したものはありません。
文字どおりGDPアップ目的でやったが失敗した投資・・漁場を閉鎖して港湾を造成したが船の利用がほとんどない・・農地を潰して地方空港が完成したが利用飛行機がないような場合があります。
食うための心配からの脱出が必要なクニの場合、美術館等への投資は文字どおりさしあたり無駄でしょうが、中進国へ移行した国にとっては次のステップへの投資が長い目で見て無駄とは言い切れません。
税収弾性値も似たようなもので、公園や学校その他施設に投資した場合、その年のGDPが上がっても(美術館完成後の収入は微々たるものでしょう)翌年以降の税収には繋がりません。
このようにいろんな指標(・・例えばGDPアップの構成費)を組み合わせないで単にGDPアップ比に比べて税収弾性値が下がっていると言うだけでは、無駄な投資が多い・・あるいはGDP数値インチキ論に直結しません。
ただしこの機会に我が国の税収弾性値論に対してちょっと感想を書いておきます。
今朝の日経新聞3pにはタマタマ「税収曇る先行き」と題する税収弾性値に関する大きな記事が出ています。
税収に占める消費税率の比率が90年度の7%から17年度には30%に上がっていると書いている・・景気が良くなって1割増産しても税収には7割の1割しか寄与しないのです。
税収弾性値論は日本の場合、固定資産税や消費税の比重が上がると弾性値が下がるので、これの内容変化を見ないと正確なことは言えない時代が来ています。
日本の消費税論議の1つの論点でもありますが、景気に硬直的な消費税が占める比重が上がると、景気変動に税収が左右されないので財政の安定性を求める財務省が、景気変動に関係の低い消費税にこだわる傾向があります。
悪く言えば無策の政治家に取っては政策に連動して税収が変わらない・悪評価され難い利点があります。
メデイアでは消費税の必要性論として財政赤字__次世代に債務を先送りするなとか国家が破綻すると頻りに強調されていますが、本音としては、安定収入が欲しい・・政策の影響を受けない・・成績が出難い点が妙味・・重要目的でこれを隠している印象を受けます。
民進党・・リベラル系は、発展や増収策には関心がなく分配に関心のある政党ですから、政治家の成績判定に関係しない固定収入・消費税アップにこだわる傾向があるのは当然ですし、西欧でもリベラル系が強いので分配策ばかりで西欧社会が長期停滞に沈んでいる原因です。
アベノミクスは政策で勝負しているので、消費税率が低い方が政策効果・成績が直接的に現れ易い・・消費税率引き上げに抵抗する所以です。
経営者の地位も成績連動でないとたるんでしまう・・どんな職業でも常に成績評価・市場評価される方が合理的であることは論を待ちませんし、逆から言えばトップに立てば成績評価から逃れたくなるのも人情です。
国民の収入と無関係=政治の巧拙に関係なく安定収入・税を取りたいと大規模に始めた歴史を見ると、日本では吉宗の始めた定免法がその嚆矢と言うべきでしょう。
定免法に関するウイキペデイアの記事からです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E5%85%8D%E6%B3%95
「起源は平安時代にあって、鎌倉時代、室町時代、豊臣時代にも用いられたが、広く用いられたのは江戸時代である。
従来の年貢徴収法は、年毎に収穫量を見てその量を決める検見法(けみほう)が採用されていたが、これでは収入が安定しないので、享保の改革の一環で導入された。享保7年(1722年)のことであったとされる。
定免法では、過去5年間、10年間または20年間の収穫高の平均から年貢率を決めるもので、豊凶に関わらず数年間は一定の年貢高を納めることになった。しかし、余りにも凶作のときは「破免」(年貢の大幅減)が認められることがあった。」
逆から言えば不景気で所得が減っても、税だけ昨年と変わらずに(多く取られるような気持ちになる)システムはおかしいと言う反論も然りです。
財政をあずかる立場から言えば不景気のときこそ財政出動のために税収を上げねばならないと言うことでしょうが、民間からすれば不景気で収入減のときに税が変わらないのでは変な気持ちがします。
政府対国民の被害者意識で税が上がるのを反対と言う愛であいあのスキな感情論ではなく、経済原理から言っても多分この素人的感覚・・不景気・減収なのに税が同じでは、結果的に国民負担率が上がり過ぎて無理がある・・この素朴な印象が重要でしょう。
不景気のときに経済にカツを入れるための出費は、税で市場から資金を吸い上げるのでは民間投資や消費が減って余計不景気になる・・他方で財政出動しないで放置出来ないので、赤字国債で賄うという現実的発想が生まれて来ました。
学校秀才・既存学習論理から言えば赤字国債の大判振る舞い・まして日銀引き受けは鬼っ子ですから、経済官僚とその意を受けたエコノミスト総出で「異次元緩和」を批判している構図です。
アメリカ連銀もこの妥協を迫られて一刻も早い異次元緩和の出口戦略にこだわっているのは一応優等生らしさを失わないためでしょう。
好不況の波を放置する20世紀初頭までのやり方を克服するために、金融引き締めや財政出動によって、この波を平準化・・穏やかにする手段を手に入れたのです。
この方法も当初は金利調節機能のみだったのが、財政出動になり、更にはマネタリーベースの調節にまで移って来ると、「異次元緩和」とは言い得て妙ですが・・)既存理論では間に合わない・理解不能になっていることは確かです。
金融政策は景気変動の平準化機能に留まらず、先進国では、GDPアップに関連しない公共投資・・財政出動だけではなく社会保障政策→負担も増えて来ますし、民間投資誘導政策も必須化しています。

中国やりくりの限界(税収弾性値1)3

http://ameblo.jp/katsumatahisayoshi/entry-12242018733.html
2017-01-29 05:00:00
中国、「民間債務」対GDP比で170%「突出する危険性」
「日本、EU、中国の民間債務は2008年まで、対GDP比で100%ラインにきれいに並んでいた。米国は、手厚い内部留保があるゆえに民間債務の対GDP比は、60~70%の中に収まっている。問題は、2009年以降の中国だけが、対GDP比の民間債務額が急ピッチで増え続け、2016年には170%にも達した。この現実を頭に入れて置いて欲しいのだ。」
上記意見は、中国以外は今もキレイに100%で並んでいる前提でしょうが、諸外国では今も債務率が100%近辺で安定しているのかを書いていません。
ただし、29日に紹介したグラフによると中国の債務伸び率が半端でないことが確かです。
リーマンショック以降先進諸外国では異次元金融緩和が一般的であって、日本でもどこでも大量のマネーサプライが続いている以上は、その分債務も膨張していないかの疑問です。
例えば、住宅ローン金利が1%下がれば、借入額をその分増やしても毎月支払が同じになるので借入限度額・債務額が増えます。
この結果韓国では急激に個人債務が膨張してしまっていることが話題になっています。
リーマンショック以降「異次元緩和」が行なわれているのが普通ですから、中国だけ08年以前と比較するのでは、読んでいる方が混乱します。
ただし、日本では個人金融資産が巨大ですので、金利を下げた程度で借りたい人が増えません。
先進国で金融緩和をしても自国内企業や国民が殆ど利用していないで、(円キャリー取引で)低金利を利用して資金不足の新興国が利用しているだけ・せっかく大量供給した資金が海外・新興国に流出しているのかも知れません。
日米欧の低金利政策が新興国の資金需要を満たしていただけ・だからこそ米国金利上げが新興国・・特に中国への打撃となるテーマで持ちきりになっているのでしょう。
この後税収弾性値でも書きますが、GDPその他の指標は一定方向の議論や疑いを抱くとっかかりになるだけであって、そこから結論を導くとなれば、いろんな指標を組わせた意見でないとまともな議論になりません。
国力競争ではGDPが重要でしょうが、(中国は19世紀型・・粗鋼生産量や造船量にこだわって来た時代錯誤制を以前書きました)生活水準指標としてはGDPよりは別の指標の総合化が必要です。
無理な内需振興・・無駄な建設工事等の結果GDPだけ上がっても、税収がこれに比例して上がって行きませんから、経済効率無視の投資か否かの指標としては税収弾性値も目印の1つになるでしょう。
上記ブログの紹介では、中国の場合、税収弾性値が極端に下がり続けているらしいのです。
中国がリーマンショック後税収弾性値が下がっているのはGDPアップと言ってもゴーストタウンを作るような無駄な投資をしている証拠だと言う意見の補強に使われています。
「16年の中国財政の歳入増が、前年比わずか4.5%増であったのだ。税収の伸びが名目経済成長率の8.0%を下回る状態になっている。ついに、「税収増加率は、年々続く縮小傾向から脱却できなかった」(『人民網』1月24日付)と実態を吐露するに至っている。税収の弾性値という尺度がある。名目GDPが1増えれば、税収がどれだけ増えるかである。長期的な税収弾性値は1.1とされるが、中国はすでに、0.56にまで低下している。ゾンビ企業の多発で経済が空洞化している証拠だ。「腐ったリンゴ」そのものである。」
税収弾性値が平均して1、1であると言う図表か何かで見た記憶がありますが、ちょっと見たときの印象ではこう言う平均化が可能と言う程度の説明であったように見えます。
中国の肩を持つ訳ではないですが、公平に見ると過去一定期間の平均から外れると異常とする断定論は一面的です。
中国の場合にも前提となる社会状況変化があるのですから、(非衛生・生活習慣が汚いことで有名な中国でさえ公害垂れ流しのマイナスや衛生意識向上・生活水準向上があるに違いない・・量より質に入って来た変化をどう見るかです)社会状況が変わった指標としてみることが可能ですが、この種の衛生基準アップなどの)投資は次年度以降の生産性向上に結びつかないのが普通・・非効率投資ですが、これを無駄な投資(誰も使わない鉄道建設やビルを建てるような投資)とごっちゃにした議論は無理があると言うことです。
民需不足の場合に財政出動でインフラ投資すると、(不景気対策の公共投資は・需要がないのに無理して投資するのですから)投資効率が下がるのはどこのクニでも同じです・・。
日本の場合もバブル崩壊後の需要穴埋めのための財政出動・・公共投資の投資乗数が1割っていることを長年言われて来ました・。
社会でも個人でも豊かになれば目先のお金儲けに繋がることばかりではなく、その他の(効率の悪い文化・各地の美術・音楽ホール)出費をする余地が出るのは当たり前・・この段階になるとGDPアップ率が下がるのは当然です。
我が家でも数十年前から、収入に繋がらないことに支出する・・いろんなことをするようになっているのですが、日本のGDP成長率が下がっているのも、このような社会の豊かさに関係にあるのであって、目先金儲け(人よりより一杯多くのビールを飲みたいレベル)に燃えている新興国と「アップ率を競う」前提のエコノミストの議論の建て方・日本のGDPアップ率が見劣りすると頻りに言うこと自体が無意味です。
生活水準が上がると建物建築意欲を卒業して自宅の庭で花を植えたり美術品など購入し音楽を楽しむなど消費動向が変わりますので、その前の生活スタイルを基準に消費が減ったから生活が貧しいか?と議論しても意味がありません。
クルマで峠を越えるのに3〜4時間かかっていた場所で、トンネル開通で20分で山の向こうに行ける・・この種投資の場合翌年にはGDPが上がり投資高率が高いのですが、既存道路のアスファルトのレベルアップ、縁石をより見栄えの良い良質のタイルにしたり道路脇にツツジなどの植え込みをするレベルアップ投資では、翌年以降のGDPが上がりません。
中国がGDP6、何%成長の割に税収があがっていないと言うだけでは、その公表がインチキか、仮に数値が正しいとすれば、投資効率の悪い投資(空きビルを建てたか、または公害防止投資が嵩んだのか、縁石を綺麗にするなどのレベルアップ投資か不明)が多かったことが分るだけです。
批判するならば投資効率が下がった内訳の分析(公害防止や衛生基準アップ投資や市街地の美観アップなどの投資と投機による不要な原材料在庫アップまたはゴーストタウン投資の)こそが重要です。
GDPは、19世紀以降の建艦競争時代に継戦能力の指標としてGDP・生産力が重視されていたに過ぎず、未だにこれを金科玉条のように重視することが間違っている・・国民の豊かさアップとはイコールではありません。
日米安保で見れば分るように日本の継戦能力は、粗鋼生産力や造船量だけではどうにもならない・・米国による高度兵器供給網維持にあるのであって、自力継戦能力は大したものではありません。
大災害が起きるといつも問題になるように、民間企業もサプライチェーンが世界中に広がっているのであって、トヨタでもどこでも自企業内で完結出来ていません。

中国やりくりの限界1

中国の改革解放直後は、新規先端立地工場による大量雇用吸収で毎年のように何十万(〜もしかして何百万?)人と言う人々が、近代都市住民の仲間入りすることで所得が何十倍に上がる好景気で沸き立っていましたので、思想統制や共産党幹部の役得にも大した不満が起きませんでした。
1980年代後半だったと記憶しますが、香港から広州市に向かってバスで通過していたときに貧しい農村・・どろんこ道を草履みたいなもので歩いている人が多かった中)に出現している万元戸を通訳の人が紹介してくれたものです。
こう言う時代には高成長に参加できなかった人も2〜3年先は自分も・・と言う期待があって格差不満が起きません。
アメリカンドリームの中国版です。
ちなみにアメリカンドリームは格差社会を前提として(誰でもが・・と言うわけではなく運が良ければ)後で追いつく可能性を強調することで成り立っています。
こう言う期待・前提があって、長年中国では成長率が10%を割ると政権不安が起きるとか、つい数年前には7%以下はデッドラインとか言われて来ました。
リーマンショック以降高度成長が終わって新常態経済に変わって来ると、新規立地・・投資が減る・・新規に都市労働への参入が減って来ると工場労働者に参入する頭数を増やせない・既参入者の賃金アップしか餌!がなくなって来ます。
アメリカでアメリカンドリームが色あせて来て格差反発・・100万に1つくらいしかないドリームを売ったり国威発揚よりは、(宝くじの場合能力差がなく公平ですが・・アメリカンドリームはベーブルースやプレスリーなどの特殊才能保持者だけのことです)目の前の生活水準引き上げ要求が増えて来たのは当然です。
中国の既参入者も僻地農村から来たばかりのときは近代工場で働くだけでも夢のようであったでしょうが、都市生活に慣れて来ると最低賃金では不満が出て来ます。
この辺は先進国で移民2世にホームグロウン・テロリストが育つのと同じ原理です。
中国はリーマンショック以降成長鈍化の穴埋めに?経済原理を無視して最低賃金(需給に関係ない強制です)を毎年大幅に引き上げていたのでそのトガメが遂に出て来ました。
https://www.attax.co.jp/cbc/news/post-2545/によると以下のとおりです。
2016/03/09 2017/01/19
中国 広東省 今年と来年の最低賃金引き上げを見送り
「最低賃金標準は労務費に影響があり、2010年21.1%、2011年18.6%、2013年19.1%、2014年19.1%、2015年19%と推移してきた。
・これに対して広東省のGDP成長率は、2010年12.4%、2011年8%、2012年10.2%、2013年8.5%、2014年7.8%、2015年8%と推移している。」
GDPアップ率と直截比較するのはおかしいと言えば言えますが、何となく分りよいメージ数字です。
要は生産性アップと関係なく賃上げして行くのは非合理ですから、さすがに賃金が上がり過ぎて国際競争力が下がり過ぎたので、業界が保たなくなって来て最低賃金引き揚げストップの動きになってきたのがこの記事の表題です。
専制権力であっても経済原理に反したことは続かない一例でしょう。
いくらバブルを膨らませてもそれに合わせて紙幣増発すれば矛盾しないと言うことでしょうが、国内だけならばマンション価格が百倍になれば、人件費も全部百倍・紙幣百倍供給すれば一貫しますが、国際取引では為替相場で調整しないと中国製品が高過ぎて成り立ちません。
その帳尻合わせを市場・変動相場制に委ねれば・無理な賃上げ分に比例する(資本・幹部の取り分を減らすなどの修正がありますが原則として)人民元相場下落でしょうが、それをすると多くの新興国では対外債務支払不能リスクが起きる点では中国も同じ・・相場に任せられないので、買い支えたり出血輸出をシテ(黒字を稼ぐ)誤摩化して来ましたが、トランプ政権誕生で対米大幅黒字維持が直撃を食らいそうになって、出血輸出も限界が来たジレンマです。
日本と違って財政赤字が少ない・・余裕があると豪語していましたが、これまで公害対策や福祉政策をしていなかったばかりか不景気景気対策の経験がなかっただけのことです。
韓国の年金赤字が日本より少ないと自慢していたことがありましたが、食えない高齢者を放置シテ自殺するに任せていれば(韓国の高齢者自殺率の高さは世界一でしょうが・・高齢者地獄になっている様子が時々報道されています)年金財政は健全でしょう。
中国は今のところ企業倒産防止に必死になっているだけですが、それでも早くも外貨準備の底が見えて来て財政支出の限界が近づいて来た印象です・・・。
その内諸外国並みとは行かないまでも少しは障碍者や高齢者の医療費や福祉・公害対策などに使わざるを得なくなると・・韓国以上のいわゆる先老未富が到来して地獄絵図になりそうです。
ちなみに中国の高齢社会突入も待ったなしの状態です。
2億人を超える高齢者をどうするか・・もしかしたら、地獄絵図が現実社会に迫って来るのが目前・・大変なことです。
http://www.epochtimes.jp/2017/03/26925.html
「中国国務院が3月6日発表した「老齢事業発展計画」によると、2020年に60歳以上の高齢者は2億5500万人に達し、総人口の約2割を占めると予測した。労働人口が減少し、急速に進む中国の高齢化問題は再び注目されている。
同計画によると、20年60歳以上の高齢者の数は総人口の17.8%(14年末は15.5%)に達し、その内80歳以上の高齢者の数は約2900万人まで増える。また、高齢者の扶養比率(高齢人口に対する労働人口の割合)は28%で、5人で1.4人の高齢者を扶養しなければならないことを意味する。」
中国では低学歴・健康管理能力が低いことから50代で働けない人が多いと言われていますので、国際基準の60〜65歳以上を取り上げるのは実態に合っていない・・現実は既に大変な事態になっています。
70前後まで働きたい人が多い日本場合、バカの一つ覚えのように65歳以上の高齢化率を報道するのは意味がないとこのコラムで書いて来ましたが、中国の場合この逆の実態があります。
苦し紛れの無茶をする限界が迫って来てその内ゾンビ企業への追い貸しが出来なくなって、倒産続出→失業増大→マンションや商品投機資金が続かなくなる時期が来る可能性が取りざたされています。
昨年末から今年に掛けて債権委員会なるものが出来て、国有企業の不良債権処理システムが動き出したようですが、何が出来ようとも焦げ付き債権を棚上げされて払ってくれない事実は同じ・・結局最終貸し手・・金融機関の資産が縮小するしかありません。
どこかで経済原理に反した帳尻合わせが必要・・国民に迎合→結果的に傷を大きくするしかないと言うことでしょう。
今朝の日経新聞朝刊21p「大機小機」にはこの辺のジレンマを「中国経済4つの誤算」として要約した意見が出ています。
政権正統性がない穴埋めとして・・と反中系ネットでは良く言いますが、正当性があっても不景気が続くと政権が持たない点は同じです・・。
人件費上昇政策で御機嫌取りをして来た結果輸出向け製造業衰退が始まったのですが、だからと言って今更賃金を引き下げるわけには行きません
だからと言って今更賃金を引き下げるわけには行きません。
・・上記記事はこれ以上賃金を上げない宣言をするのがやっとと言うことです。

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