アメリカの民主主義と大統領令3(移民)

入国関連法・・アメリカの場合「移民法」に国家安全保障上の緊急条項みたいなモノがあってイラクその他からの入国者を一律に「危険人物」(根拠のない)認定をしたのかも知れません。
ここで横道にそれますが、アメリカ関係報道では「不法移民」と言う報道が多いので,住み着いている移民をイメージしますが、日本の出入国管理法をアメリカでは「移民法 Immigration Acts.」と言う名の法律で管理しているだけのことです。
喩えば、留学ビザ、観光ビザ、ビジネスビザ、就労ビザ・研修・経営ビザ等々・あるいはアメリカのトヨタ工場に働いていた日本人が日本本社へ出張して(数週間帰国)アメリカに帰るときの再入国も全て「移民法」に基づいて申請する仕組みですので念のため・・。
ビザの種類については以下の「「アメリカ移民法基礎」の説明が詳細ですので,参考のため・・関心のある方はご覧下さい。
http://asoajapan.org/investusa/librarydocs/040129RichardGoldstein.pdf
日本では単に不法入国とかオーバーステイと言うのをアメリカの場合,マスコミが「不法移民」と翻訳している可能性があるために,この辺,正確に翻訳してるいるのか不明・・語感が違い過ぎる点に気をつけるべきでしょう。
今回イラク系などの社員が海外出張してアメリカに帰って来たら、再入国禁止されたと言うことが問題になっているようですから、日本語イメージの移民拒否とは大分実態が違っています。
日本人は,外国人が日本人になろうとして来た人だけを「移民」とイメージし,短期ビザ等で来ている人は単に「出入国している人」と言うイメージで分けていますが,(出入国管理法であって,移民法ではありません)法的には入国して来た人の中に就労ビザその他の区別があるだけです。
その後帰化して国籍を取る(これは国籍法)かどうかだけ(帰化した人ではあっても)で「移民」と言う概念はありません。
グーグルで「移民」の辞書検索してもアメリカの移民制度などの説明ばかりで,日本語の説明が出て来ません。
ソモソモ帰化人の熟語自体が,663年に白村江の海戦敗北の結果、「朝鮮半島から帰って来た人」と言う意味(最近では,満州からの引揚者と同じ)でしかありません。
要するに日本語の「移民」の定義がはっきりしないまま、何となくブラジルなどへ定住目的で行った人のイメージが定着している程度で実は意味不明のママですから、アメリカで出入国管理をしているに過ぎないイミグラントを「移民」と翻訳しないで「入国者」と翻訳する方が良いかも知れません。
翻訳の正確性などどうでも良いと思う方がいると思いますが,政治的に見るとかなり重要です。
私はどちらの肩を持つものではありませんが,トランプ陣営の主張では「移民を受入れる基準は主権国家・それぞれの民族が勝手に決めるのが何故悪いんだ」と言う主張があったように思いますが、こういわれると一応尤もに聞こえます。
しかし、民族の仲間として受入れる日本語のイメージする「移民受け入れ」(帰化許可)と,短期に商用や観光等で来る人も含めてどこのクニの人を入れないと言うのとでは次元が違っています。
個々人で言えば誰と同居するか(民族の仲間と認めて帰化を認めるかどうかは)は主観的な要件(好き嫌い)で良いでしょうが,レストランや劇場等で客を宗教や人種の基準で選ぶと言って良いかとなると別問題です。
日本の歌舞伎など関心がないからアラブ人や韓国人が見ないのは勝手ですが,「◯◯人お断り」と言うは行き過ぎでしょう。
高級ホテルやレストランは単価を高くしているだけであって、貧しい人はお金を持っていてもお断りといえないものです。
特定国からのビジネスその他の入国を一律禁止するのも主権の一種ですが,相手が不快感を持つから主権行為とはいえ乱暴なことを言ってよいかどうかは別問題です。
表現の自由があるとしても口に出して言って良いことと悪いことがある・・相手が不快感を持たないように自制し婉曲的方法で接するのが大人の智恵であり国際礼儀です。
この辺の区別なく,「表現の自由があるから何を言おうと勝手だ,誰を移民として受入れるかは主権行為で勝手だ」と言うのは論理の飛躍であり問題のすり替えと言うか、田舎者の智恵です。
(目上の人の家を訪問するのに身だしなみを整えず行ったり、乱暴な口の聞き方をするのは表現の自由の問題ではなく「失礼」と言う次元です)
以上のとおり日本語のイメージする「移民受け入れ」基準と一般的な入国お断りとは次元の違うものですから、翻訳がズレていると日本人に伝わるイメージ効果は大きな差になってしまいます。
話題を大統領令の効力に戻しますと,大統領が直截特定人物を危険と認定することは物理的不可能ですから「このクニ・教徒を危険人物と認定しろ」と言うような一定基準設定の大統領令があったとすれば・・入国手続関連官憲でもない大統領が「司々」の認定手続を経ない個人的意見でイキナリ作れる制度になっていることになります。
入国差し止めの大統領令が法的効力を発揮しているかのような報道によればアメリカの誇る「デュープロセス」「法の支配」尊重主義が本当に機能しているのか不思議・疑問です。
日本人は昔から孔孟の教えを尊びますが,肝腎の中国人の殆ど誰も尊敬していない・・解放後具体的中国人が良く知られるようになると彼らの行動基準にしていないかのように思う人が増えましたが、アメリカも外国には民主主義・自由競争や人権重視を自慢しますが実態はお粗末なのかも知れません。
「イギリス紳士」と習って育ちましたが,イギリスに行ってみると当たり前のことですが「紳士」は殆どいない・・貧弱な人が圧倒的多数でした。
この違いを私は中国の場合,士大夫層と人民が画然と分れているからとし、欧米は市民とピープルの階層分離社会である・・日本のように上下渾然一体社会ではないと書いて来ました。
最近PC(ポリテカルコレクトネスpolitical correctness、)が大流行りと言われますが,政治的にこれが良いとなると誰もが政治禁句を強調してこれを言う人を批判する・・そうすることによって自分が先端人権運動家になったつもりになっていると言われます。
10数年前にこのコラムで書いたことがありますが,共産党支持者・前衛活動家が,女性の地位向上と言いながら自分の妻に対する視線評価が蔑視的なのに(私は自分の能力が低いこともあって,結婚後妻に対する尊敬の念が深まる一方でしたので)驚いたことがあります。
活動家が演説で人権擁護を言ってれば,自分は最先端人権重視家になったつもりになっている人が多いのを昔から実感しています。
外に向かって偉そうなこと言う人は実は怪しいことが多く人権や民主主義を主張する筈の学生運動では、内部の言論の自由や人権無視・・内ゲバに明け暮れていることは周知のとおりですし、弁護士会も外部に向かって偉そうなことを言っていますが,将来的には内部の言論の自由がどうなっているかその内問題になって来るでしょう。
そう言えば日弁連では、総会成立の定足数を設けると言う会則改正案を次回総会議案として出しています。
委任状でよいにしても一定数以上の委任が集まらないと総会が成立しないのですから、将来的には極端な活動家に牛耳られてしまう・・全学連のような空洞化を防ぐ一助になるでしょう。
「少数者の総会招集権を妨害するものだ」と言う反対意見が送られて来ましたが・・。
少数派が僅かな出席者で総会決議を得ようとする方がおかしい・・矛盾に見えますが、難しい駆け引きは分りません。

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