構造変化と格差5(水平移動から垂直移動へ1)

法律の分野でも弁護士は過疎地の法律相談を日当にもならない僅かな費用で分担していますが、公務員になると裁判官や検察官(これら補助職の公務員も)は全国一律給与で
各地に赴任しています。
地域の需要は地域の経済力で賄ってこそ自立していると言えるとすれば、全国平均以下の経済力しかない地方にとっては、全国的一律給与の公務員が配置されること自体も補助金の仲間でしょう。
自治体警察が経済的に成り立たなくなって都道府県警察になったのも、市町村には維持費が出せないことがその主たる原因であったでしょうが、これを補助金の視点で見直せば、零細市町村にとっては自力では維持出来ない高度な治安組織が張り巡らされ、全国平均レベルのサービスを受けられているのも補助金の御陰です。
医療や弁護士、あるいは美術展・音楽等の催し・・サービスを受けるために出かけられないことはないとしても、住民サービスとして身近に欲しいとなれば、地方と都会の支払能力の差額を補助して芸人に公演してもらったり医師等に赴任してもらうしかなくなります。
その地域の支払能力で負担出来ない高額なサービスを受けようとすれば、補助金に頼ることになるので結果的に地元市場経済の支払い能力で決まる低い収入の地元産業=農業等に就くよりは、補助金関連職種に就いた方が高額な収入を得られる結果になります。
ギリシャなどでは公務員だらけになっていると言われるのはそのせいです。
勢い、地元住民の政治・関心は補助金の枠の広がり(老人ホーム建設や弁護士派遣などは従来なかった分野です)や補助率の拡大に向くことになります。
(田舎では、政治家は密接な関係で都会から地方に行くと驚きますよ・・・)
地方公務員自体、過疎地地元の就職先としては一番恵まれた職場になっているのは公共団体の職務の殆どが補助金(の分配等の仕事)で成り立っているからです。
教育費も保育料も老人ホームも中央から回って来る負担金・補助金がなければ、多くの僻地の自治体では現状水準のサービスを提供出来ない筈です。
ラーメン屋等飲食店・理容・美容師、塾ですら、直接補助金をもらっていないとしても、補助金によって水増しになっている農業所得、土木建設や医師・教員・公務員の顧客・・現地消費があって成り立っています。
明治以降元々都市にいた人や農漁村から都市に出て行った人たちはそれぞれに適応して、工場労働者・商店の店員を経て個人経営者までなる人や、公務員、教師、ホワイトカラー等に転進して行けました。
せっかくこうして職種転換に成功した人たちでも、出た先の地方都市が衰退して行き、別の都市に移動せざるを得なくなった人もいたでしょうが、その都度新たに発達した別の近代工業や商業の働き手として転換して行けました。
たとえば、私が身近に知っている例では、石炭産業が衰退すると九州方面から多くの人が千葉の復興住宅(と言う埋め立て地の団地)に移住してきましたが、折りから勃興していた千葉の工業地帯での労働者として多くの人たちが吸収されて行ったようです。
大規模炭坑の閉山に応じて炭坑夫だけではなくそこで営業していた商人、床屋、教師、あるいは事務職等みんな余るので、いろんな人が来たでしょうから、数の多い炭坑夫→工員が目立つだけで元の職種に応じてそれぞれ転身して行ったこと思われます。
日本ではこうしたことを繰り返しながらも、農業→都会近郊の植木屋や土木建設現場系の出稼ぎ職として、農民の次世代は集団就職を経て工員=繊維→電気→車などその都度別の工業生産分野が成長したので、水平的職種転換して何とかなっていました。
(「百姓」というように農民は出稼ぎに行けば、大工の下働きから土木工事、植木屋の手伝い・・現場系の仕事は何でも出来る人たちです。)

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