金融資産と資産表1

個人で言えば、売却可能な不動産が1億円の価値があって、その他に金融資産が5000万円の場合、借入金が6000万円を超えてもまだトータル資産価値が黒字ですが、現預金勘定が手元で赤字だと心細くなる心理状況を無視出来ませんし、土地の場合、1000万円だけ不足すると言ってもその分だけうまく切り売り出来るものでは有りません。
個人金融資産のプラスマイナスで一般に論じているのは、一応の基準になっていることになります。
とは言え、金融資産・・手元流動性が手厚い方がイザというときに(緊急事態には)心強いというだけであって、時間をかけた国力や企業価値としては、トータル資産で見るべきです。
預貯金1億円あっても不動産等その他換金可能資産ゼロの人と、預貯金5000万円しかなくとも評価2億の換金可能な不動産・・たとえば時価4000万円の投資用マンション5室を持っている人とでは、どちらが豊かであるかは明らかですから、個人金融資産残高や対外純債権国か否かばかりを基準に金科玉条のように議論するのは本質を見誤ります。
対外純債権国とか債務国と言っても、10兆円の純債権国で対外鉱物権益など一切ない国と純債権額は5000億円しかないが、対外鉱物権益に20兆円以上保有している国とでは、どちらが実質的に豊かであるかの基準が逆転してきます。
対外純債務額が10兆円あっても、評価50兆円の対外権益を保有している国では実質黒字国と言うべきです。
(単純化すれば10兆円の借金をして購入した海外権益が大化けして50兆円に値上がりしている場合)
現預金や金融資産は直ぐに換金出来るので、機動力が有るのに対して権益その他の資産は直ぐに換金出来ないので、目先の取り付け騒ぎには間に合わないことから、手元流動性の多寡を議論するのも一理有るというだけで、長期的国力には直接関係がありません。
ただ、各国の保有権益のバランスシート作成が進んでいないので、統計の分り易い金融資産・企業で言えば手元流動性だけの統計で議論しているのが現状で、これは実際の経済実力は同じでは有りません。
国別の資産表作成の必要性については、08/19/08「中国・韓国株のトレンド2」以下で連載しました。
ただし、個人と組織の違いを言えば、鉱物権益や不動産そのものを個人保有することは今では滅多になく、これを株式会社で保有しているのが現実ですから、その保有資産は株式という個人の金融資産残高に還元されて来て表現出来ていることになります。
もしもそうとすれば、結局個人資産の大方は金融資産であるから、個人金融資産のプラスマイナス・・額の大きさを国力の評価基準にしても、それほどの間違いではないことになってきます。
以上の考えは法人と個人の合計を見るには適していますが、国の場合は国富を株式化していませんので、金融資産に還元されていないのでその価値・実態がまるで分っていません。
ギリシャ危機とは言うもののイザとなれば古代ギリシャの神殿(半径1kmメーターの土地を含めて)を売ればいくらになるのか、日本の富士山をいくらで売れるかの評価をした数字が有りません。

財政出動3(増税2)

法人税増税は不景気対策・景気循環の谷間で行うのではマイナスですが、景気循環に関係のない輸出減少による雇用喪失の穴埋め・内需振興策として増税する場合、今回の復興資金目的の場合で言えば、政府は増税分を100%使い切るので特に所得税に限れば、国内需要創出効果としては優れています。
たとえば、税引後所得が500万円の人が100%使い切る生活をしておらず、仮に1割の50万円を貯蓄に回しているとした場合、増税によって手取り所得が450万円に減っても貯蓄ゼロにする人は滅多にいません。
仮に3〜40万円前後の貯蓄をするとした場合、消費が3〜40万円減りますが、その代わり国の方ではお金が足りなくて増税するのですから、増税による増収分50万円を100%使いきるので、全体の消費は10〜20万円増える関係です。
この辺の意見は、大震災復興資金は増税で賄うべきだと言うSeptember 30, 2011「増税と景気効果2」前後のコラムで書きました。
同じ金額の消費であれば、個人の自由・・官が計画して使うよりは民間に任せた方が、社会の発展性があって良いというのが私の基本的意見で、これまで繰り返し書いていますが、国民が自分でお金の使い道がわからずに貯金するしかない・・金融機関も使い道がなくて国債を買うしかないという今の状況下では、どうせ国に任せるならば増税の方が、内需が高まる効果があります。
大震災被害者を可哀想だと言いながら、自腹をいためたくない国民が多い結果、増税・会費増額で解決しないで、対外借金(国債増発)で先延ばしして行くのが今のどこの国でもトレンドです。
何かがあるとその補償をすべきだ政府負担でやれ、という意見が多く、生活保護基準ももっと引き上げるべきだ、あるいは弱者救済の公的補償水準をあげろと言う場合、(エレベーター設置など)その分だけ増税しない限り帳尻が合わないのですが、そっちの方は知らんぷりです。
前回書いた10人の会員の場合で言えば、借金の限度は会員一人一人の金融資産が会名義の借金を上回っていれば、イザとなれば会員が自己資金で解決できます。
日本の場合、輸出は減少して行ってもずっと国際収支が黒字のままで純債権国ですから、黒字蓄積の有る間は財政赤字を続けても政府借金の引き受け手が国内にいる・国債の国内消化可能ですから問題がありません。
国際入札資格を海外に解放している結果、最小割合の5%前後の海外購入者がいる状態に過ぎませんが、国際収支赤字国がこれをやっていると、国内に資金がないので海外からの借金・・海外購入者が中心になります。
国際収支の黒字以上の国債発行を続けていると、いつかは蓄積もなくなりギリシャ危機、南欧危機に留まらず、(対応する税を取らないで対外借金で)財政出動を続けているといつかはその国の信用が破綻するのはどんな大きな国(アメリカ)でも同じです。
我が国の場合、国内個人金融資産1400兆円以内で借りている限り、国内のお金のやり取り・・税でとる代わりに余力の有るところから国債購入代金名目で吸い上げているだけですから、無理が有りませんが、個人金融資産残高1400兆円を越えるようになって来ると越えた分は対外借金ですから、大変なことになってきます。
実際には資産は金融資産ばかりではないので、たとえば日本国民が金塊だけで、100兆円分持っていれば、何時でも換金可能なので、これもプラスしなければ本当の実力が分らないなどもっと複雑です。
金融資産を基準にマスコミが議論しているのは、企業で言えば全体の資産表を見ないで手元流動性の額を基準にした一応の議論を流用した程度のレベルで、あまり合理的な基準とは言えません。

財政出動2(増税1)

赤字国債は好景気になったら増税して取り戻す予定で始めるのですが、せっかく立ち直りかけた景気に水を差すと言っては、国民・政治家が反対し続けるので、内需刺激策が普通の状態になってしまい、一旦始めると、これをやめることが出来なくなります。
October 18, 2011「国際競争力低下と内需拡大1」以下で連載しましたが、内需拡大(財政出動)政策は、国際競争に負け始めたことによって、国内生産減少による失業増大・・あまった労働需要を吸収するため(失業対策として)に始めることが殆どです。
(輸出減少または輸入拡大による生産縮小は景気の波動による不景気と生産縮小の結果が同じですが、景気の波動による縮小では有りませんから、景気対策と称するのは誤りです)
過疎地などへ補助金投入(その地域の内需拡大)も、過疎地域の産業空洞化が原因ですから原理は同じで、域外出荷出来るような地場産業が育たないで空洞化が収まらない限り、その土地の人口が少なくなって廃村になるまで続けるしか有りません。
とすれば、国際競争力を回復しない限り何年経っても労働力余剰のままである点は変わりがないのですから、いつまでたっても内需拡大政策・・不要な公共工事等の財政支出をやめることは出来ません。
我が国が20年くらい内需拡大・公共工事を続けざるを得なかった原因です。
今はさすがに公共工事は不人気ですので、就労対策として介護関連支出への応援団が多くなっていますが、失業救済・外貨を稼げない点は同じです。
(過疎地の場合には、時間を掛けて安楽死・・次第にその地域の人口減少を待てるので次第に失業人員が減って行く点が違います)
輸出がジリジリと減る傾向の国にとっては、(私の持論である人口減政策を取らない限り)数年経っても一時しのぎ的内需刺激策を廃止するどころか、更に輸出が減って行くばかりですから、増える一方の失業者を吸収するために財政支出を逆に追加していくことにならざるを得なくなります。
個人でも団体でも1%の生産が減れば、生活水準を1%落とすしかないのが原理ですが、それをするには、仮に1%の失業救済資金が必要ならば働いている人から1%増税してそれを回すしかないことになります。
景気対策としては前回書いたように増税はマイナス作用が有りますが、景気の波動対策の場合、持ち直しがありますが、構造不況・・輸出減少に対する対策は本来景気の波とは関係がない・・数年待てば生産が自動的に回復することは有りません。
輸出減少による生産縮小の場合は別の観点・・ここは分担方法の観点が必要です。
みんなが1%仕事を減らしてシェアーするワークシェアリング論も同じ論法です。
10人の会員のうち収入ゼロになった一人の生活を救うには残り9人が1割ずつ拠出するしかないと考えれば単純明快です。(全員が9割の水準になります)
各人の拠出(増税)を嫌がって(不景気になるという理由で)、会の名義で他所から借金して救済しようとしているのが今の政治です。
しかし、上記のとおり、輸出減による生産縮小の場合は、景気循環による生産縮小ではないのですから所得税を増税しても国内資金量は同じですから、不景気・経済縮小にはなりません。
法人税を上げると法人が萎縮して経済活動も縮小するので、景気に悪作用ですが、所得税が上がっても国民の勤労意欲は変わりません。
また、所得税が少し上がっても消費額自体はこれにピッタリ反比例して減少するものではありません。

ギリシャ危機4(財政赤字の結末)

ギリシャ(最近ではイタリアの経済危機がクローズアップされていますが、実力以上の借金経済の結果が出た点は同じです)を見殺しにして破綻させて貸付金をパーにすると独仏蘭等の銀行や輸出企業が参ってしまい(その株主や預金者・株主・債権者・・ほぼ自国民や自国企業が損をする)大混乱が起きるので、EUとしては財政出動で誤摩化すしかなくなったのが今回の騒動です。
解決の仕方としては、焦げ付くにまかせた場合、ギリシャ国債保有率の高い銀行や対ギリシャ取引率の高い企業が自己資本不足でやって行けないならば、(独仏国内でも銀行や企業によって関与・保有比率はいろいろでしょう)個別の資金不足に応じた経営責任を問いながら公的資金を注入する方法もあり得るでしょう。
この方が個別金融機関や企業ごとの責任が明確になっていいのですが、その代わり、ギリシャ政府のデフォルトを招いて、経済が大混乱に陥るマイナスが有るので、金融機関が何割の債権カット、残りをEU各国政府=EU中央銀行の資金投入と言う二段階方式が採用されたのでしょう。
(金融機関を除いた一般企業はそのまま取引代金の支払いを100%受けられる方式)
仮に50%の焦げ付き率の場合に放置してデフォルトを待てば、債権者は等しく半額の損失ですが、(大混乱による回り回っての二次、三次〜四次損害も発生して結果的に総損害が2〜300%を超えることもあり得ます)債権カット3割として、2割をEU中央銀行が負担するとした場合、EU域外国の金融機関は、3割だけの損失で済みます。
本来ならば、5割損するところを3割で済むのですから、残りの2割をEUの公的資金投入=域内国みんなで負担して域外国債権者に掛ける迷惑を少なくする方式です。
実際には域外国の金融機関の方がギリシャ国債保有率が低いのと、その国の業界がギリシャとの取引が少ないので2〜3次被害のダメージを受ける比率が低いのに対して、域内国の方は・・特に黒字国のドイツ等がギリシャ国債保有率が高いのと、これまでの取引量も債権に比例して大きいので危機発生後ギリシャへの輸出が停滞することによる二重3重のダメージを受けることになります。
これが国内的には連鎖的被害の拡大を招くので、取引停止の大混乱・ダメージを和らげるために、デフオルト回避にEU全体の死活的利害がかかって必死になっているのです。
日本企業も少しは拘っているでしょうが、日本全体の経済活動から見れば微々たるものでしょう。(あっても1%〜数%?)
EUの騒ぎは、青森や東北各県がデフォルト寸前になった場合に貸し込んでいた東京の金融機関・あるいは販売会社等救済のために東京等の裕福なところの連合体が、どこまで企業の自己責任とし、どこまで財政出動するか騒いでいるような構図です。
(青森等東北各県を例に出して申し訳ないですが、たとえばの話ですので気にしないで下さい・・)
外国金融機関や企業が青森県等に債権を持っていても微々たるものでしょう。
今回の危機が解決したときの結果を想定すれば(独仏蘭等から南欧諸国に対する貿易黒字をさし引けば)独仏蘭等も実質大した黒字国ではなくなってしまう・・財政赤字になりかねない事態が始まりました。

外国人労働力と貧困化

外国人労働者を入れることによって、平均賃金コストを下げるのは、国内労働者の平均所得を下げて日本やアジア勢に対抗していただけのことですから、結果的に一人当たり国内総所得を低下させる・・国民・あるいは(国民ではないとしても)居住者を貧しくさせる政策になります。
導入した外国人労働者は、時間の経過で自国に居着いた低所得者層となり・・彼らは低所得なので納税者としては頼りにならないのに対して、社会補償・教育関係給付は逆に増加する傾向があって、これらの施策に追われてしまい・公共投資・・インフラに手が回らなくなりがちです。
個人に置き換えれば、転職の結果低賃金になりその日暮らしの生活になれば、家や庭の手入れがおろそかになるのと同じです。
グーグル映像・ストリートビユウで見ると西洋諸国の諸都市が古すぎる印象になっているのは、外国人労働者の受け入れを始めて結果的に低所得層を増やして行った結果、インフラ・公共物への再投資する資金が足りなくなってしまった結果と見るべきでしょう。
ギリシャ危機が起きたことで、ドイツ等黒字国は儲けていた黒字の蓄積である債権をカットしなければならなくなった・・実質は1つの経済圏の内部タコ配当的だったことが分り、ユーロの価値・為替相場が下がっています。
国債市場で日本に負けていたのは安い人件費に有るのではなく技術革新力の差にあったのですから、アフリカ系やトルコ人等の安い労働力を入れた結果、平均賃金コストが下がって少しは得したでしょうが、日本と互角に競争していた訳でもありません。
日本企業もつい賃金の安い中国や韓国には叶わないと言い訳しがちですが、自戒すべきことです。
ユーロ創設以降これまでの為替相場のじり高は、南欧東欧諸国を内庭として囲い込んだことによって貿易上有利になるだろうという思惑と国際通貨としてはじり貧の(巨額赤字連続で信用を落としている)アメリカドルに変わる受け皿としての(期待値で)ユーロ誕生後円やドルに対してユーロが高値を付けていたに過ぎません。
そのときの私の記憶では、1ドル=1ユーロで始めたのですが、今でもアメリカドルに対しては2〜3割値上がりしたままです。
ここのところの円の対ドル相場は77円台ですが、ユーロは100円台ですから、発足時よりは25%前後対ドル相場でまだ高いのですが、これはこの間にユーロ圏がアメリカよりも2〜3割経済力がアップしたのではなく、各国の準備通貨としてのタンス預金分の恩恵を受けていると見るべきでしょう。
ドイツの貿易黒字が巨大であると報道されますが、日本で言えば東京・大阪等の大都会と青森や沖縄の関係と同じで1つの経済圏にした以上は、首都圏から青森や沖縄に対する売り越しは貿易黒字と言わないように、独仏等の南欧・中欧諸国への売り越しは本来の意味での貿易黒字ではなかったことになります。
EUを1つの経済圏としてみる以上は、ドイツ、フランス、オランダ等の貿易黒字から対南欧諸国に対する黒字を引いたらどれだけ残るかがEUの正味の価値です。
EU盟主国・創設諸国が貿易黒字国だったので、ユーロ圏での財政赤字比率を厳格に定めることができた基礎でしたが、今回ギリシャ危機を切っ掛けにドイツの黒字は1つの経済圏内の蛸足配当的な黒字だったことが、白日の下に曝されました。

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