都市国家2・シンガポールと香港の繁栄と不採算地域の切り離し

日本の場合もともと同胞・親戚意識ですから、都民も神奈川、千葉県人も皆等しく幸福になって欲しい気持ちが強く、東京だけ独立したい・儲けを分配するのはイヤと思う人はいないでしょう。
シンガポールはマレー半島から港湾都市として発展してきた独自性を活かすために生産性の低いマレー半島から切り離して独立し、安い労働力をマレー半島から通勤で賄っています。
シンガポール独立ができたのは人種対立が基本にあったので、これが幸いしたのです。
150人前後の漁村でしかなかったシンガポールを港にしたのはラッフルズ卿ですが、その時に華僑をどんどん入れて、華僑中心の港湾都市として発展していたものです。
第二次世界大戦で日本軍占領となり戦後英国植民地に復帰したものの独立を認める時にマレー半島全体をマラヤ連邦として独立したのですが、人種も違えば産業構造も違うので内部抗争の結果、喧嘩ばかりしているより別の国になろうと合意ができて、シンガポールという都市国家が生まれたようです。
このように、周辺と人種が全く違うことと、地中海の古代都市国家と違いシンガポールとマレー半島等とは一体化するほど長い付き合いがない(ラッフルズ上陸は1819年)上に、一応ジョホール水道という水路で隔てられた島になっているなどの自然条件の違いもあって、上手くいったようです。
この結果シンガポールは、底辺労働力をほぼ地続きのマレー半島から日帰り往復の通勤形式で雇用していて、彼ら居住地の整備、子育てその他の福利を心配する必要がない状態です。
数十年前に家族旅行でジョホール水道からシンガポールへ入国したことがありますが、小型マイクロバスに乗ったママの簡便通過だった記憶です。
同じことは香港の特殊性にも言えます。
香港の場合周辺住民も同じ中国人ですが、無人の荒野であった香港島がアヘン戦争後イギリス領(シンガポール同様イギリス領になってから中国人移住が始まったもので、シンガポールに移住した華僑と本土と地続きが飛び地かの違いはあっても本質は同じです)プラス100ヶ年の祖借地になったもので、シンガポールの港湾発展とほぼ同時期に始まっている点で双生児のような成長を遂げてきました。
中国本土は、日中戦争後内戦を経て共産主義国家となりましたが、西側諸国とは鉄のカーテンが引かれ、体制的にほぼ完全に切り離されたものの共産圏への唯一の出入り口として(長崎出島のような)の特殊な地位を獲得しました。
いわば自由貿易都市の恩恵だけ受けた関係・・儲けを周辺地域に分配する必要がなかった点はシンガポールと同じです。
イギリスから返還された後も、一国二制度・自由貿易の恩恵だけ受けるだけでなく巨大市場の窓口として経済恩恵をたっぷり受けられるしかし、民主主義=本土人同様の、怖い義務と引き換えにしなくてよい・・・良いとこ取りです。
中国の資本導入窓口として急激拡大状況の一端は以下の通りです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-11-15/Q0ZGISDWX2PU01
Alistair Barr、Lulu Chen

2019年11月15日 9:24 JST 更新日時 2019年11月15日 13:06 JST
アリババの香港上場、1.3兆円以上の規模目指すこと示唆

現在香港騒動の真っ最中にも関わらず、上場(資本調達を目指す)するとは大した度胸ですが、中国企業にとっては香港市場が資本導入の生命線になっていることがわかります。
米国はこの弱点を見越して、天安門事件再来のようなことに発展すれば香港の自由市場を取り消す?と国際金融取引から締め出す?と中国を牽制している最中です。https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57956
米「香港人権法案」に中国激怒、揺らぐ香港の命運
法案成立なら報復という習近平政権、トランプはどう出るのか?
2019.10.17(木) 福島 香織

https://www.cnn.co.jp/usa/35144038.html

2019.10.16 Wed posted at 13:05 JST
米下院、香港人権法案を可決 中国への非難鮮明
同法案は、年次報告書によって香港の自治が十分に機能しているかどうかを検証することを義務付ける。この検証に基づき、米国の法が定めた香港への優遇措置の妥当性を判断する。
また香港での人権弾圧に故意に関わったとみなされた人物に対し、米大統領が制裁や渡航制限措置を科す手順も明示している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-11-14/Q0Z9JDT0AFB501
米上院、香港人権法案の採決迅速化へ-中国外務省は報復を警告
Daniel Flatley 2019年11月15日 7:40 JST
ルビオ議員は声明で「米国は中国政府に対し、奮闘する香港市民を自由世界が支持しているとの明白なメッセージを送る必要がある」とした。
「香港人権・民主主義法案」は、米国の法律の下で香港に与えられている特別な地位が継続されるべきかどうか、毎年検証を行うよう米国務省に義務付ける。上院の法案は、既に下院で可決された案とは若干異なるため、トランプ大統領に送付する前に一本化して両院で可決する必要がある。
中国外務省は同法案が米議会を通過すれば報復すると警告した。

資本導入の窓口が締まれば中国経済が窒息しかねないので中国は必死です。
現在米国による対中経済攻撃防戦に手いっぱいの中国が、どういう報復手段があるのか不明です。

GM破産2(遅れた不採算事業切り離し)

会社側の再建案は新会社設立案を基本にしたものでしたが労組優遇で、一般投資家(米国は個人投資家が多い・子供の入学資金用の株式投資など)に対して大きな負担を求めるものでしたので債権者の同意が得られず破産に突入しました。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1176

切り捨てられた「普通の人々」
GM倒産劇の裏側 2009.6.9(火) 小浜 希

GMが発行した無担保社債など約270億ドル分の債券保有者には、新生GMの10%の株式と引き換えに100%の債権放棄を要求。その一方で、GMに約200億ドルの医療費関係債権を抱える労働組合の債権放棄比率は50%とし、新生GMの株式39%を与える内容だった。
米国では労働者個々人も銀行預金より小口投資する投資社会なので、投資家と言っても一般の労働者が多い社会ですから、GM労組優遇の提案で合意できるはずもない・・世論も応援しないので合意不成立で破産に突入します。
日本や韓国では、労組=弱者→優遇という図式化した運動・市民代表を僭称する運動が多いのですが・・アメリカの場合、労働者切り捨て投資家保護反対!という図式的スローガンが成り立たなかったようです。
ウイキペデイアのGM破産解説に戻ります。

2009年6月1日、GMは連邦倒産法第11章(日本の民事再生手続きに相当する制度)の適用を申請した。負債総額は1,728億ドル(約16兆4100億円)。この額は製造業としては史上最大である[9]。同時にアメリカ政府が60%、カナダ政府が12%の株式を保有する、事実上の国有企業として再建を目指す事になった。
・・・しかし、子どもの教育資金や、老後の生活の備えとして、なけ無しの金を注ぎ込んだ個人投資家が、労組偏重の再建計画を甘受できるはずもなかった。

従業員の新時代適応拒否症?が、部分的とは言え企業活性化を妨げる効果を上げ、現在米国の国際的地位低下が目立ってきた基礎構造でしょう。
アメリカの活力は、スクラップアンドビルド・あるいは用済みの都市を捨て去り(ゴーストタウン化して)別の街を作る・効率性重視社会と言われていましたが、一定の歴史を経ると古い産業構造を残しながら前に進めるしかなくなった分、非効率社会になったのでしょう。
破産により不採算部門を切り離し、新会社移行(国有化後国保有株の市場売却で民営に戻っています)により新生を目指すGMですが、破産後10年経過で先祖帰りしたらしく今年に入って以下通りのストらしいです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49865800X10C19A9000000/

GM工場のスト続く、労使合意なお時間 株価は急落
2019/9/17 5:20
ただ、米国内に業界平均より3割多い77日分の完成車在庫があるため「すぐに販売面に影響が出る可能性は低い」という。

業績不振のおかげで在庫が77日分も溜まっているので企業はストが続いても余裕らしいですが、こう言うのってめでたいのかな?
アメリカの製造業は低賃金国への脱出盛んですが、今でも製造業大国らしいです。
製造業草創期から蓄積した技術があって世界に進出した各種工場のマザー工場機能を果たせる仕事があるからのようです。
ただしマザー工場的役割は従来の内需を満たし輸出までしていた工場群の数%(雇用も同率)で足りるものですから、国外脱出の穴埋めには力不足でしょう。
別の側面から見ると、日本の自動車産業が輸出の限界を悟り現地生産を増やして成功していることを見ると、この限度で日系企業が米国内製造業生き残りに貢献していることが分かります。
米国の外資による国内生産受け入れ政策は、後進国が輸入規制によって、自国産業育成のために高関税などの権利を留保できている役割の逆張りです。
米国の日系企業の米国内誘致政策は、先進国製造業が新興国の追い上げを受けて雇用が急速縮小する激痛緩和の役割を果たして来たようです。
後進国のこれから育つ産業育成を待つのは、少年期に成長期待して見守ってやるのに似ていて成長確率が高いですが、新興国に追い上げられる先進国社会保護のために時間猶予を与えるのは高齢者を大事にするようなものでいわゆる延命策です。
ここでいきなり話題がそれますが、いわゆるM&Aに関する関心を書いていきます。
日本企業の株価収益率の低さが長年問題視されて来ましたが、その裏側の米国企業の目線で考えると企業のあり方に関する基礎的考え方の違いがわかります。
時代遅れになる分野→ローエンド〜セコンドエンド生産にこだわり、同業他社との競り合いを続けてさらに20〜30年生き残れるとしても、これをやっているとその間収益率が徐々に低下していきます。
米国的価値観では、自国産業は利益率の高い高度化転身を目指して不採算見込み事業をどんどん切り離し(M&Aでこれを処分し)て行くべきというもののようです。
比喩的事例で言えば、現在15%の高収益事業が5年サイクルで13%〜11〜8〜7〜3%〜0〜マイナスと変化していくパターンの場合、その事業を今売れば1千億円で売れるが11%に下がってからだと5百億円で、3%に下がってからだと30億円でしか売れない見込みの時に、どの時点で処分するのが合理的かの判断が重視される社会です。
処分金で再投資すべき事業の存在との兼ね合いで合理性が決まるのですが、処分金を年利数%で預金する予定の場合と現在5%の収益率があり、3年後に8%、5年後に1%8年後には15%に成長可能な企業があった場合どの段階で自社事業を切り離して売却するかの複合判断です。
ちなみに雇用を守るために簡単にリストラクチャリングできないとも言われますが、倒産と違って企業を買う方は事業に慣れた従業員が継続してくれることこそ購入価値ですので、原則全従業員が引き続き雇用継続される前提・雇用確保の社会的責任への考慮はこの場合不要です。
マイナスになるまでリストラを先送りし、大混乱の倒産を引き起こす方が無責任経営の評価を受けるのではないでしょうか?

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