官僚機構と秘密体質2

政府(官僚)が自分のしていることが国民に明らかとなった場合、批判に耐える自信がないなら(民主国家では国民の信任で成り立つべきですから)民主国家の政権とは言えませんので、政権を下りる(官僚を辞める)べきです。
オープンな議論を避けようとしていると国民はよけい疑心暗鬼になり、政府発表を信用しないことになります。
風評被害が起きるのは、政府発表に信用がない・・この対で民間のデマの方が信用され易くなっているからでしょう。
風評と言う言葉には無知蒙昧な階層がデマに惑わされ易いと言う意味が含まれているのでしょうが、要は無責任デマと政府発表のどちらが庶民に信用されるかの競争に過ぎませんから、政府発表が負けないためには正確な事実発表が命です。
後から出たデータで政府が過去に発表したことがおかしいと言う事例が積み重なれば、誰も政府発表を信用しなくなるでしょう。
嘘の上塗りと言う言葉がありますが、後で正確な事実が出ると困るので政府はどんなことがあっても非を認めて事実修正をしない傾向があります。
01/28/03「止められない公共工事(無修正主義の問題点 3)」07/12/06「政府の無修正主義・無謬性」と言うテーマで書いたことがあります。
正確な事実があってそのデータに基づく論評の優劣は説得力の問題ですが、これは政治決着・・多数の意見によるしかありません。
古くは新興宗教の多くは愚民を惑わすものとして取り締まり対象になって来たことは歴史上明らかですが、宗教弾圧は許されないことになって久しい・・・すなわち説得力の優劣は民主的・・市場原理的に決めて行くしかないのです。
データ自体を開示しないで、国民は愚昧だから教えない方が良いと言う発想は、むしろデータ公開による論争に政府が自信がない事によると言うべきです。
ただし、原発問題のデータ不信の蔓延は菅政権の秘密主義に由来するのか、歴代政権の習慣に基づいて官僚が小出しにする習性があったので結果的に菅政権がそれに振り回されていたかは別問題です。
危機管理システムの事前準備不足は歴代政権の問題であって菅政権の責任ではないことを5月31日まで書いたのと同様で、菅政権になったからと言っていきなり官僚や東電の秘密主義・体質が改まることはありません。
風向きによる放射能の飛散状況を動画化するシステムが日本にもあったことが後で分ってきましたが、こんなことを政府が秘密にする必要がないので、「知っていれば避難区域の設定の参考に出来た」と言う官房長官の言い訳は信用が出来ると思います。
要は歴代政権の秘密体質が、東電や官僚の行動形態に引き継がれていて現政権の事実開示・処理能力を規定していたことが分ります。
この体質改善には時間がかかるのは当然ですから、政権を取ってまだ年数のない民主党政権の責任問題ではないことになります。
膨大な官僚機構の秘密体質が引き継がれていた場合、透明化を掲げる民主党政権になったからと言って、1年や2年で末端まで改まる筈がありません。
こうした不毛な秘密体質を形成して来たのは歴代自民党政権の思考方式によるのですから、長期間掛けて形成して来た官僚の秘密体質を改めるには10〜20年単位の時間がかるでしょう。
ところで、菅内閣に対する不信任決議案提出騒動(自公両党は6月1日午後6時前に不信任案提出、明日2日に採決の予定が決まりました・・民主党内では鳩山前総理と小沢氏は不信任案に賛成の立場を明らかにしています)
タマタマここ数日のコラム内容が、原発問題の不手際の根本は自民党歴代内閣の責任であって菅内閣の責任ではない言う趣旨の意見ですから、菅内閣打倒の政局の動きに棹さす内容となりました。
不信任決議案の提案理由書を見ていないのでどこに不満・・菅内閣に非があるとするのかよく分りませんが、もしかして秘密体質や危機管理能力の問題ではなく、イラ菅と言われる個人資質を指摘してこれでは(有能な・あるいは秘密体質に染まった)官僚を使いこなせいないと言う矮小な理由かも知れません。
何事も急激な改革では官僚はついて行けないのも事実ですから、微温的改革前進・・これには従来の秘密体質を知っている自民党の方は官僚を使い慣れていると言う主張かも知れません。
私は今のところ菅内閣を擁護したいとも倒閣したいとも思っている訳でなく、単に自分の好み・・思う通りを書いて来ただけです。
どちらにも、知り合いがいないので自分の思った通りのことを書ける・・のは気楽なものです。
私の関心は連載中のテーマの尻取りゲーム的コラムの連続にあるので、今のところ政局に関する意見は書きません。

データ公開(秘密体質1)

話がそれましたが、民主党政権(参議院議長は民主党出身です)でも根回しの必要性を正面から否定して新たな社会にしようとする人ばかりではなく、自分たちが根回し能力が低いだけであって自分に対しては根回し無視,事前相談がないと怒る人間が多いことが分ります。
それどころか防衛大臣の判断が本当だったとすれば、危急時の価値判断が現場の方が優れていて政治家の方が大きくずれていることになりそうです。
自衛隊現場では、東電社側による「原発が大変なことになっているので、緊急に帰京する必要がある」と言う説明を聞いて判断したのに、現場から防衛大臣への報告ではそこを端折って報告したので、大臣は単に民間人の搭乗だと思ってそんなことより災害救助を優先しろと言った可能性もあります。
地震発生直後数時間の段階ではまだ原発問題は大きな関心を呼んでいなかったので、東電関係者以外は危機感が広がっていなかった可能性があるからです。
別の件では,原発問題専門家として内閣府参与に登用されていた人が自分の意見が通らないことに政府の対応は場当たり的だ(指導力がない)と腹を立てて3〜4週間くらい前だったか?辞任しましたが、自分の意見が通らないことを理由にトップに指導力がないと言うのも変な論法ですが,我が国の正義とはそんなものです。
ついでに書いておくと、学者は自分の意見を通さねばならない立場ではなく、自分の意見を臆さずに主張することに意味があるのであって政治家は多種多様な意見から政治責任を持って取捨選択あるいは止揚して創造的な決断をするべきものであって立場が違います。
学者生命にかかわると言うならば、自分の意見を政治家に遠慮して主張しなかった場合だけであって、きちんと主張した結果政治家に採用されたかどうかではありません。
学者である以上多様な意見があり得ることくらい分りそうなものですが、自分の意見が政治家に採用されないことを怒るとは不思議な主張です。
政府決定に連帯責任を負うのが嫌だと言うならば、議事録の公開を求めるべきかどうかの問題です。
今回の震災対応の問題点は政府の秘密主義に大きな問題があり、これが却って世界中から日本製品閉め出し、対日観光客の激減などの2次被害に繋がっているのです。
何ミリシーベルトで危険があるかどうかの議論経過・・前提事実・・客観的データを、政府が国民に隠す必要性がありません。
あるいは風向きによる放射能飛散状況の動態図(スピードとか言うものらしい)を何故隠していたのかも疑問です。
何故日本でそういう科学技術がないのか(日本は本当に先進国かな?と)疑問に思いながら、仕方なく私の場合ドイツが公開していた動画を見ていました。
後でそういうシステムを日本も動かしていたのに、国民には隠していた(隠すつもりがなかったかも知れませんが公開していなかった)ことが分かりました。
議論経過・科学的データをオープンにした上で、政府がその中のどの意見をどの理由で採用したか、それが政治決断として妥当だったかを国民の審判・あるいは世界中の批判に委ねるべきです。
辞任した原発学者が記者会見で政府判断の不当性を暴こうとしたら、政府から公務に関しては守秘義務があると注意されて記者会見が取りやめになったと言う報道です。
議論経過を何故秘密にする必要があるのか疑問です。
ただし、彼は政治家ではないならば、誰がどう言ったかではなく自分の意見論文を書けば良いのであって、政府判断の不当性を力説する必要性はありません。
実践的にどの意見を選択するのが正しいかは政治判断の領域で、学者・専門委員の職分を越えています。
とは言え、政府(後に書きますが官僚)は科学の領域に関することまで何故オープンな議論を怖がるのでしょうか?
国際交渉では、相手のあることですからすべて手の内をさらす訳に行かないので国家秘密性があり得ますが、国内の原子力事故で、何がどうなっているのか国民に知られると、あるいは外国に知られるとどんな不都合があると言うのでしょうか?
コチラの対処方法が予め伝わると、原子炉の方で予め反応して別の事故を起こし、裏をかかれると言うのでしょうか?
相手は生き物ではないのでコチラの動きを知られても困ることはない筈ですが・・・。
データを開示するとそのデータなら別の方法が有効であるのに、政府の対処方法は誤りだと言う批判を恐れている・・政府・官僚は自分のやっている事に自信がないからでしょう。

東電の体質改善

他方滑稽なことですが、根回し無視と言うかそういう方向の能力が不足している筈の菅内閣自身ですら、東電から海水注入の事前報告ないし伺いがなかったとかでイチャモンをつけてせっかく始めた海水注入を東電が中止せざるを得なくなったと言う流れが(嘘か本当か不明ですが・・)1週間ほど政治問題になっていました。
緊急事態の連続で事前の根回しまでやっているヒマがなかったことは官僚体質で染まっている東電でも同じだったのでしょう。
政府は否定しているので深層は薮の中ですが、5月26日になって,東電の現場所長が上からの(無茶な)指示を無視して(自分の責任でやると言ったかどうか知りませんが、上の政治的メンツのやり取りで海水注入を止めたら大変なことになると言う判断でしょう)記録上は、上からの指示通り注入を停止したことにしたまま、実際は注入を続けていたことが判明しました。
彼こそ,国民の危機を救った国士ではないでしょうか?
東電は東電で,26日報道では、政府からの中止指示があったのではなく、そのときの会議の空気を読んで中止を命じたと変更するのですが、12日と言えば菅総理が東電の拙劣な対応を怒りっぱなしのときですから、中止命令はないとしても空気を読んだことはその通りなのでしょう。
ところで、政府関係者の不快感を見た・・空気を読むくらいで、原発被害が拡大するかどうかの瀬戸際となるべき冷却行為を中止するような重要決定を安易に出来るのでしょうか?
せっかく海水注入を始めたのをやめると大変なことになることは誰でも分ることですから、(私など素人でもどうせここまで来たら原発の再稼働見込みはないのだから,何故最初から海水注入をやらなかったのだと事務所で話題にしていたくらいです。
「せっかく冷やしているのをやめたらどうなる」と言うことですから、重要な命令を会議の雰囲気だけから勝手に命じるとは到底考えられない筈ですし、どうしても政府が事前相談がなかったと言う理由だけから中止しろと言うなら、大勢の前で「本当に中止して良いのですか?』と確認をとるのが普通です。
多数の会議出席者が誰もそんなやり取りを聞いていないとすれば、冷却をやめたら大変なことになるのが分っているのに国民の命運がかかっているような重要行為をその場の空気だけで何故決定したのかを明らかにする必要があります。
中止などと言う無茶な指示に驚いた現場所長が腹をくくって自分の責任で中止命令に応じなかったものと思われます。
東電では,上からの指示を無視した彼を処分することにするとして、如何にも政府命令があったかのような態度でまだ頑張っていますが、「空気を読んで命じた」と言う腰砕けの再発表自体から見て、政府命令で中止したと言う明確な以前の記者会見とは違い過ぎてどこかに無理があります。
大規模な機器や人員動員の注入作業中の中断は大変なことですから、実際に現場で注入をやめたら大混乱・大騒ぎになっていた筈ですので、現場判断で中止したかしなかったかは、直ぐに分っていた筈です。
実際に中止していないにも拘らず、記録上の中止指示データをそのまま、2ヶ月も経ってから恰も中止していたかの如く公表した東電も東電ですが、科学に素人の安倍さんが細かいデータにいち早く気づいて、データ発表と同時くらいに政治問題にしたこと自体怪しい動きです。
安倍氏の指摘で政治問題になると、東電はいつものように歯切れの悪い誤摩化し的発言(が多くて国民の不満を蓄積していたのですが・・・)ではなく、直ぐに記者会見して「政府の中止命令で止めた」と明言して応じました。
事前報告やお伺いがなかったことを問題視した意見があったかも知れませんが、事前お伺い・根回しの有無だけのためにこんな馬鹿げた指示を政府が命じたとは思えないのが大方の反応でしょう。
その場で文句を言われたこと・雰囲気だけを理由にして・・結果の災厄を無視した中止命令を下部に伝えていたとすれば、(個人的感情で)国家の命運を左右するようなマイナスに決まっている重要決定をしたとすれば、ことは重大です。
馬鹿げた中止を誰が決断・命令したのか・・そんな人材が重要事項を決定するべき役職にいるのは問題ですから、誰が命じたのかを先ず明らかにすることが必要です。
これを阻止した所長は賞賛されるべきですが,他方から言えばこんな明白に方向性の狂った命令があった場合、自己責任でトップの指示に反しても国家の災厄を阻止出来る人材・・反骨の人がトップから所長までの間で一人もいなかったと言うことです。
また東電社長が事故発生に対応して関西から急遽帰京しようとしたところ、新幹線が動かなくなったので航空自衛隊に頼んで一旦は離陸までしたのに、事前に防衛大臣の了承を得なかったことで大臣からのクレームで元に戻らされてしまい、却って帰郷がⅠ3日にずれ込んだことも東電による(と思われる)リークで分ってきました。
緊急時に何故陣頭指揮出来かったのかの言い訳を兼ねた現政権非難報道ですが、これに対して政府側のリークらしく東電社長は当日奈良に公用と称して実は奥さん同伴で観光旅行に言っていたと言うすっぱ抜きも出ました。
東電の危機管理準備がお粗末だったために政府(だけでなく国民感情とも)との関係がぎくしゃくしたのは事実ですが、(イラ菅と言うだけあって菅総理がイライラをぶっつけていたのは推測できますが・・・)怒られた恨みを晴らすために次々とすっぱ抜き合戦に熱心になっている印象です。
しかし東電は官僚的体質が強いと言え、政治運動体ではないのですから、電力事業をきっちりやる責任があるだけであって(肝心のことをしっかりやって国民に迷惑をかけないようにして欲しいものです)政争に自分から頭を突っ込んで限られたエネルギーを使っている場合ではないでしょう。
東電の体質改善が必要な印象です。

合議制社会とリーダーシップ3

今回の原発事故に対して事前準備マニュアルがなかった点は、歴代政権の責任ですし,マニュアルがない以上は、危機解決責任のある内閣としては事前の根回しのない(そんな暇がない・・)命令を乱発?あたふたとせざるを得なくなるのは当然です。
勇将の下に弱卒なしと言うように、指揮官一人で勇敢な戦いが出来る訳ではなく部下に対する事前の訓練があってこそ,臨機応変の指揮命令と一糸乱れぬ勇敢な戦いが出来るのです。
政権は自前の部下を送り込む仕組みではなく、自民党政権時代に訓練した筈の東電や保安院官僚を使いこなすしかないのですから、一糸乱れぬ危機管理が出来るかどうかは、自民党政権時代の訓練次第にかかっていたことになります。
この結果、現政権は素人内閣だと言う批判を受けるのですが、事前の危機管理システム整備を「想定外」として検討すらしないで何十年も怠って来た前自民党歴代政権・・あるいは東電歴代幹部の責任であって新政権の責任ではないでしょう。
原発事故直後のMarch 17, 2011「原子力発電のリスク」で既に書きましたが、巨大津波の到来は想定外であったとしても、どんな原因・理由であれ、もしも想定外の理由で電力供給が損なわれた場合どうするか・原因は想定出来ないけれども放射能が漏出した場合どうするかなど、いろんな段階の基準を設定したり予備訓練や設備補充策を検討しておくべき必要があったことは確かでしょう。
想定外のことは誰も想定出来ないことですから、責任がないかのようなマスコミ論調です。
(結果的に準備していなかった自民党や東電擁護論で、危機にスマートに対応出来ない菅内閣だけの責任のような報道です)
私の意見は逆で、想定外の事故は起きないという断定をして、何の準備をしなかった歴代政権や東電の行動は矛盾した思考方法として糾弾されるべきです。
想定外のことは想定不能と言う意味・・人智が及ばないことですから、どんな理由原因によるかの想定は出来ないとしても、ともかく結果的に冷却装置の電源が失われた場合どうするか、放射能が漏れたらどうするかの想定は必要だった筈です。
たとえば、津波に限らずテロその他による爆破事故の場合でも、どういう原因によるは別としてその場に一緒においてある機器が同時に損傷することがあり得るのですから、各種バックアップ機器は一緒に被害を受けない一定の距離のあるところに用意しておくのが当然の備えだったと言うべきでしょう。
電気が止まると同時にメルトダウンが起きる訳ではなく一定時間の余裕があるのですから、その時間内に電気を繋ぐことが出来る場所に電源を用意しておけば良いことです。
あるいは別の冷却水の循環方法・海水注入はどの段階で行うか、その準備などを構想しておくなど、いくらも多種類の方策準備があり得ます。
今回は簡単に繋げるコンセント関連の用意がなかったので、(緊急時に複雑な配線現場工事は時間がかかりすぎるし危険な場合もあるので、予めカチッとはめれば良いような予備器具を別の場所に用意しておけば足りたのです。)別の自家発電装置を持って来ても簡単に使えずに結局メルトダウンしてしまったのです。
大手企業がバックアップのためにデータセンターを仮に二重に用意するとすれば、同じビル内に設ける企業は滅多にない筈ですし、東京都内にさえ複数設ける会社はない・・遠く離れた別の地域・・関西に持って行くなどするのではないでしょうか?
想定外の事態はあり得ないとか、想定外のための設備や研究は不要だとする発想自体・傲慢と言うか神を恐れぬ・・・等の自信があってのことではなく単なる怠慢と言わねばなりません。
時間が経ってくると、想定外事態に対応する多方面の研究や設備の備えがまるで準備されていなかったことが明らかなりました。
高濃度汚染された建物内部調査のためのロボット1つさえ・・ロボット最先進国である筈の我が国で用意されていなくて、アメリカから借りて,運用の訓練を受けて時間をかけたりあるいはフランスの機械を借りたりしているお粗末な事態です。
アメリカやフランスで地震が多いから用意していたのではなく、我が国の方が危険な立地が多いことは誰でも知っていたことなのに危険性の少ない外国でいろんな場合に備えて用意しているのに、ロボット大国の我が国で全く用意してなかったと言うのですから(現政権ではなく)歴代政権の怠慢・責任は明らかでしょう。
発生原因は想定外でも、ともかく結果として放射能が何らかの理由でもしも漏れた場合どうするかの手順も何の研究も用意もしていなかったことが分りました。
放射能の飛散状況に関する研究分析も手つかずであったために、避難区域も原始的な一律半径何kmと言う風向きなど無視した基準しか緊急判断出来なかったのです。
そもそも農作物でも野菜の種類別の基準もないし、校庭その他の個別の規制基準すら造っていなかったのですから、歴代自民党政権はお粗末きわまりない無責任政権だったことになります。
予めの詳細基準があって訓練が行われていれば、手塩にかけて飼育していた牛や豚などを放置して(イザとなればどこかへ預ける場所も決めておけたでしょう)身1つで避難するようなことをせずに済んだ筈です。
集中豪雨などの一過性の避難と違い長期化するのですから、予め長期避難に耐えるような場所を心づもりしておく必要があったことになります。
そこで泥縄式にいろいろ手を付けるので、基準設定自体が信頼を失い百家争鳴状態になっているのですが、こうした研究や想定訓練は1年や2年で出来るものではないので,現政権の責任・・指導力の問題ではなく歴代自民党政権の責任です。

合議制社会とリーダーシップ2

諸外国のまねが正しいとするのが学者等知識人・報道機関の専売特許ですが、その延長で今回の大地震に際して総理の指導力欠如を非難する報道が普通ですが、こうした非難は我が国の社会実態(ボトムアップ形式)に合わずおかしなものです。
非難している本人が指導者に自分の意見を無視して一方的なことをされたら不愉快に思う・・事前相談がなかったと言うことが多いのですから、矛盾した主張をしていることが多いのです。
我が国の意見・・政治決定に対する殆どの反対理由が内容の当否ではなく、菅総理の決定(例えば御前崎原発の停止要請)は唐突だとか事前の根回しがなかった(これでも政治家か?素人っぽい政権だなどの批判)ことを理由とするのですから、指導者の決定に従う諸外国の指導基準を持ってくる論法と合っていないのです。
ここ約1周間の報道では、東電の資料が漸く公開されてみるとせっかく始めた海水注入について,政府に事前相談がなかったことだけを理由に一時中断させられたと言う東電の説明が出てきました。
またちょっと前からナマ臭い話から距離を置くべき(民主党出身の)参議院議長が、公式に管総理の責任を追及する論を張っていましたが、その理由として諫早湾問題は彼の選挙区の問題であるにも関わらず、管総理が事前連絡もなく諫早湾問題の上告を断念したと言うことが気に障っているらしいです。
彼の信念や政治的内容の妥当性よりは、事前連絡がなかったことが主要な理由で敵に回ったりする社会ですから、こういう社会で政治家が指導力の発揮をするには,出過ぎず・・周りの様子を窺いながらホンのちょっと芽を出す程度がやっとです。
突出して自分の意見を発表したり指導力を発揮すると事前相談を受けなかった人はヘソを曲げるし,それが敵に回る大義名分になる社会です。
サミットに関する5月28日の報道でも、関係閣僚も知らない菅総理の突出した意見だとして批判していました。
マスコミが指導力のある政治家を求めるならば、菅発言内容の当否こそ批判の対象であって事前根回しのない発言かどうかを見出しに載せるべきではありません。
(内容に関する意見・論評を避けているのは、マスコミに論評能力・識見がないからでしょうか?)
マスコミにとって総理発言内容・・これから日本の進むべき方向への意見・・内容が支持出来るか出来ないかを明らかにして論陣を張るべきであって,もし支持出来る方向性ならば関係閣僚が総理の指導・指示に従って速やかに対応するように意見を書くべきです。
そのマスコミの意見と違うならば、それを主張すべきであって,これを全く言わないで・・内容の当否よりも根回しがあったか否かを批判のテーマにしているのはマスコミのあり方としても問題です。
根回しの有無にこだわっているマスコミが、一方で総理の指導力を求めているのもおかしな話です。
報道態度を総合するとマスコミの言う指導力とは、密室での根回し能力に帰するようです。
閣僚の合意を取り付けてから発表する方式・・閣僚は官僚が出来ると言うことしか同意しない・・こんなことの繰り返しを指導力と言うマスコミはどうかしています。
これでは新たな時代に迅速に適応するには無理があって国際社会のスピードに追いついて行けないので,この根回し社会からの転換こそが求められているのではないでしょうか?
このために橋本内閣以来,総理権限の強化が進められて来ました。
また行政指導・事前協議の方式から決別して、許認可要件を透明化して先ず実行して行き,司法の場で事後に決着を付ける方式にかなり前から変わっています。
この次に書いて行きますが、我が国の歴史に根付いていた根回し・合議制社会は会社制度の発達で事実上・・トップダウン方式に変容を遂げているのですが、政治の世界でも徐々に根回しに頼る方式を縮小して行くべきだと思っています。
ところで、脱原発その他の大きな政治決断は既得権益が絡むので、ボトムアップ形式では新たな方向への転換が遅くなり、国際社会の動向に遅れますので,指導力が必要ですが、危機管理能力は指導力の問題ではなく事前準備の問題です。
ここをマスコミや世間が誤解して何か大事件があると大統領や総理の危機管理能力が問われたり賞賛されたりしていますが,大きな間違いです。
たとえば、国境侵犯事件が起きた場合、直ちにスクランブル発進して、相手が抵抗したらその次にどうするかについては,予めマニュアルを作り訓練しておいたか否か・・すなわち現場対応力にかかってきます。
危機即応力は大統領や総理の力量とは何の関係もなく、日頃から訓練した現場指揮官の能力です。
何も用意しておかないで総理が一々指示してそれからどの飛行機が出て行くかなど決めてから飛行機に燃料を入れて発進していたのでは間に合いません。
原発危機に際しても手際良くやるには、根回し・・10年単位の時間をかけた手順整備と訓練が必要ですから、これがなかったとすればいきなりの指示しかなく,丁寧な根回しなどやっているヒマがないのは当然です。
要するに危機管理とはトキの政権の問題ではなく歴代政権の積み上げの問題であって,トキの政権の能力を問うようなものではないのです。
原発対応の巧拙は、菅内閣以前の政府や東電が事前に練り上げていた危機管理システムが正しく機能したか否かに帰することになります。
事前に用意していた危機管理システムが機能していれば,格好付けだけのために現地視察して既に決まっている手順を前提に格好よく号令していれば、次々と結果が出て指導力があったと賞賛されることになります。
政治家に本来必要とされている指導力は長期的ビジョンを示してこれに向けて関係機関を指揮して行くことですが,本来の指導力に関係ない短期的処理能力をマスコミは指導力と宣伝していて、本来必要な指導力を発揮しようとすると根回しがないと批判していることになります。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。