東電の体質改善

他方滑稽なことですが、根回し無視と言うかそういう方向の能力が不足している筈の菅内閣自身ですら、東電から海水注入の事前報告ないし伺いがなかったとかでイチャモンをつけてせっかく始めた海水注入を東電が中止せざるを得なくなったと言う流れが(嘘か本当か不明ですが・・)1週間ほど政治問題になっていました。
緊急事態の連続で事前の根回しまでやっているヒマがなかったことは官僚体質で染まっている東電でも同じだったのでしょう。
政府は否定しているので深層は薮の中ですが、5月26日になって,東電の現場所長が上からの(無茶な)指示を無視して(自分の責任でやると言ったかどうか知りませんが、上の政治的メンツのやり取りで海水注入を止めたら大変なことになると言う判断でしょう)記録上は、上からの指示通り注入を停止したことにしたまま、実際は注入を続けていたことが判明しました。
彼こそ,国民の危機を救った国士ではないでしょうか?
東電は東電で,26日報道では、政府からの中止指示があったのではなく、そのときの会議の空気を読んで中止を命じたと変更するのですが、12日と言えば菅総理が東電の拙劣な対応を怒りっぱなしのときですから、中止命令はないとしても空気を読んだことはその通りなのでしょう。
ところで、政府関係者の不快感を見た・・空気を読むくらいで、原発被害が拡大するかどうかの瀬戸際となるべき冷却行為を中止するような重要決定を安易に出来るのでしょうか?
せっかく海水注入を始めたのをやめると大変なことになることは誰でも分ることですから、(私など素人でもどうせここまで来たら原発の再稼働見込みはないのだから,何故最初から海水注入をやらなかったのだと事務所で話題にしていたくらいです。
「せっかく冷やしているのをやめたらどうなる」と言うことですから、重要な命令を会議の雰囲気だけから勝手に命じるとは到底考えられない筈ですし、どうしても政府が事前相談がなかったと言う理由だけから中止しろと言うなら、大勢の前で「本当に中止して良いのですか?』と確認をとるのが普通です。
多数の会議出席者が誰もそんなやり取りを聞いていないとすれば、冷却をやめたら大変なことになるのが分っているのに国民の命運がかかっているような重要行為をその場の空気だけで何故決定したのかを明らかにする必要があります。
中止などと言う無茶な指示に驚いた現場所長が腹をくくって自分の責任で中止命令に応じなかったものと思われます。
東電では,上からの指示を無視した彼を処分することにするとして、如何にも政府命令があったかのような態度でまだ頑張っていますが、「空気を読んで命じた」と言う腰砕けの再発表自体から見て、政府命令で中止したと言う明確な以前の記者会見とは違い過ぎてどこかに無理があります。
大規模な機器や人員動員の注入作業中の中断は大変なことですから、実際に現場で注入をやめたら大混乱・大騒ぎになっていた筈ですので、現場判断で中止したかしなかったかは、直ぐに分っていた筈です。
実際に中止していないにも拘らず、記録上の中止指示データをそのまま、2ヶ月も経ってから恰も中止していたかの如く公表した東電も東電ですが、科学に素人の安倍さんが細かいデータにいち早く気づいて、データ発表と同時くらいに政治問題にしたこと自体怪しい動きです。
安倍氏の指摘で政治問題になると、東電はいつものように歯切れの悪い誤摩化し的発言(が多くて国民の不満を蓄積していたのですが・・・)ではなく、直ぐに記者会見して「政府の中止命令で止めた」と明言して応じました。
事前報告やお伺いがなかったことを問題視した意見があったかも知れませんが、事前お伺い・根回しの有無だけのためにこんな馬鹿げた指示を政府が命じたとは思えないのが大方の反応でしょう。
その場で文句を言われたこと・雰囲気だけを理由にして・・結果の災厄を無視した中止命令を下部に伝えていたとすれば、(個人的感情で)国家の命運を左右するようなマイナスに決まっている重要決定をしたとすれば、ことは重大です。
馬鹿げた中止を誰が決断・命令したのか・・そんな人材が重要事項を決定するべき役職にいるのは問題ですから、誰が命じたのかを先ず明らかにすることが必要です。
これを阻止した所長は賞賛されるべきですが,他方から言えばこんな明白に方向性の狂った命令があった場合、自己責任でトップの指示に反しても国家の災厄を阻止出来る人材・・反骨の人がトップから所長までの間で一人もいなかったと言うことです。
また東電社長が事故発生に対応して関西から急遽帰京しようとしたところ、新幹線が動かなくなったので航空自衛隊に頼んで一旦は離陸までしたのに、事前に防衛大臣の了承を得なかったことで大臣からのクレームで元に戻らされてしまい、却って帰郷がⅠ3日にずれ込んだことも東電による(と思われる)リークで分ってきました。
緊急時に何故陣頭指揮出来かったのかの言い訳を兼ねた現政権非難報道ですが、これに対して政府側のリークらしく東電社長は当日奈良に公用と称して実は奥さん同伴で観光旅行に言っていたと言うすっぱ抜きも出ました。
東電の危機管理準備がお粗末だったために政府(だけでなく国民感情とも)との関係がぎくしゃくしたのは事実ですが、(イラ菅と言うだけあって菅総理がイライラをぶっつけていたのは推測できますが・・・)怒られた恨みを晴らすために次々とすっぱ抜き合戦に熱心になっている印象です。
しかし東電は官僚的体質が強いと言え、政治運動体ではないのですから、電力事業をきっちりやる責任があるだけであって(肝心のことをしっかりやって国民に迷惑をかけないようにして欲しいものです)政争に自分から頭を突っ込んで限られたエネルギーを使っている場合ではないでしょう。
東電の体質改善が必要な印象です。

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