アメリカの国力源泉(資源→金融)

アメリカは自己の強みが資源にあることを良く知っていたので、中東の豊富な資源が分るとイギリスを押しのけてアメリカのメジャーが支配することによってなお資源支配していました。
後で西欧諸国のアメリカに対する怨みの深さを書きますが、営々と築き上げてきた中東の利権を奪われたイギリスの怨みは大きなものがあります。
スエズ運河国有化に対する英仏軍侵攻対するブルガーニンだったかによる、核攻撃の強迫に対して、アメリカが英仏防衛表明しなかったので、英仏軍は涙をのんで撤退しました・・この恨みの結果英仏が核独自保有戦略になった経緯を05/22/05「パックスアメリカーナ」1で紹介したことがあります。
戦後いろいろな確執を経て英仏の中東における伝統的影響力を駆逐して行き、アメリカが取って代わったことは事実です。
ところが、石油ショック・・アラブ主導の石油支配が確立されて来るとオペック・石油輸出国機構外(北海油田など)の資源開発が進み・・遂に世界各地で資源開発が進んで来て資源に関するアメリカの優位性が徐々に蝕まれて来ました。
中国のレアアース禁輸で分かるように、単価を上げる(その間の採掘技術の向上と相俟って)とあちこちで採算性が上がり採掘出来る国が多くなります。
資源支配力の相対化が、流れ作業的単純工業品製造レベルでも威張って来られたアメリカの発言力相対化・低下の主原因です。
「ベトナム戦争に始まってブッシュ政権以来のイラク・アフガン戦争では膨大な富みを使い果たしてしまい・・」とマスコミは言いますが、基礎的には資源+工業レベルミックスの優位性が減少して来たことによります。
アメリカの勃興は産業近代化進行レベルとちょうどマッチしていたアメリカ移民のレベルと資源事情・豊富な資源を強みに資源の近く(五大湖周辺)で近代産業立地の優位性が高かったので工業国化に成功したのですが、20世紀に入って大型船舶が普通になって石炭や鉄鉱石等重量物の長距離輸送の制約が減ると、資源輸入に頼る日独等の競争力が伸びてきました。
第1次大戦後石炭から石油に火力源が変わって来ると、石油を自給出来るアメリカの強みが強化されました。
日本では戦時中「石油の一滴血の一滴」と言われるほどの貴重品・・生命線だった・・ABGD封鎖ラインはこの「血の1滴を止めてしまう」もので日本は文字どおり「血路を切り開く」しかないところに追いつめられたのが日本開戦決意の直接の原因です。
石油ショック以降約40年経過で、北海油田やロシア、リビア、ベネズエラ、ナイジェリアなど世界各地で原油・石炭その他資源採掘出来るようになるとアメリカの資源大国+大量生産国+大量消費のミックス効果が相対化して来ました。
産業革命勃興期に適した豊富な資源・農地が地元にあるがほどほどの技術しかない点を補ったのが、当初南部の奴隷を使った綿花大量栽培であり・・ついで資源と結びついた北部工業基地→ベルトコンベアー方式による非熟練労働力の活用・・大量生産方式でした。
人海戦術〜非熟練者の大量利用・大量生産方式こそがアメリカ産業の特徴ですが、その成功は時間の経過で必然的に中国その他(アメリカレベルに達している)未熟練労働力の豊富な低賃金後進国への工場展開に結びつくので、アメリカの地位低下は予定されていた流れでした。
(日本やイタリアの場合元々資源不足のハンデイを高度な職人的技術力や文化力でカバーする国ですから、各種資源が世界中で取れるようになるのは却って有利です)
アメリカ製造業の復活をマスコミが騒いでいますが、要はシェールガス・オイル等の資源産業の再勃興と人件費の安さでは中国と肩を並べるようになったので「国内製造業が復活出来そう」と言う自慢話程度ですから,過去約1世紀のアメリカの強みが何であったかが分ります。
中東産油国を含めて後進国はこ資源を自分で利用出来る程度の労働力水準にさえ達していないので資源を売るしかないのが難点ですが、今では資源が安くいつでもいろんなルートから手に入るようになると国内である程度自給出来るかどうかは大したポイントではありません。
縫製工場で考えれば分りますが、動力源の電気等の値段差よりは中国→バングラディッシュのように低賃金地域で生産した方が競争力が高くなります。
輸送費の低廉化によって資源と大消費地の近接したアメリカで造る優位性がなくなりました。
この結果、自由貿易で日本に負け始めたニクソンショック以降アメリカの通商政策は、自由貿易の旗印に矛盾した(スーパ−301条など)強引な輸入規制(現地生産強制)日本叩きの連続でしたが、要は巨大消費地から閉め出すぞ!と言う脅しの連続でした。
4〜5日前に発表した為替操作国監視対象国基準を見れば分りますが、正義の基準ではなく結果(経常収支黒字比率)から見ると言う宣言です。
アメリカのヘゲモニー維持のためにする一方的規制は日本に対するだけではなく、アメリカの個別産業を脅かす限りドイツもフランスもミナ理不尽な懲罰?アメリカへの輸出閉め出しの脅しに応じざるを得ない結果を招いてた来た点は同じです。
この辺の西欧諸国のストレスは日本人が想像している以上に大きなものがあるようです。
(日本は戦争に負けた以上仕方ない・・と言う気持ちが心の底にありますが、西欧は元同根・同族意識があるから余計(「成金め!と言う反発意識があって)面白くないでしょう)
個別利害を乗り越えた経済共同体EU設立のエネルギーはアメリカの理不尽に対抗するには大きな市場を作るしかないと言う強迫観念・・ストレスと無縁ではなく、徐々に対中貿易比率を上げて行くなどアメリカに対する貿易比重を下げる努力して来たように見えます。
(韓国パク大統領の中国寄り政治活動によって韓国の対中・対米貿易比率を良く知っている人が多いでしょうが、フォルクスワーゲンの燃費偽装事件でドイツ車のアメリカでの販売比率の低さに驚いた日本人が多いでしょう・・西欧諸国も今やアメリカよりも対中国の方が貿易比重が上がっている国が多いのが現実です)
度重なるアメリカの強引な要求に対する不快感の表明が、アメリカの要請を蹴っ飛ばした西欧諸国によるAIIB設立参加でしょう。
これに対する意趣返しが,この数週間前から大騒ぎになっている「タックスヘイブン」パナマ文書暴露・・中国とロシア及び西洋諸国大物中心に発表されている不思議・・と巷間言われています。
イランに対する制裁もアメリカの軍事力によるのではなく、アメリカの制裁に従わないとアメリカでの巨大市場で銀行業務・・金融取引が出来ないと困るので、世界中の金融機関がイランとの金融取引を停止するしかなかったことによります。
サウジの怒りを知りながら何故いきなり制裁解除することになったかと言うと・シリア情勢などいろんな情勢が当然重なっていますが、その他に、イランとの取引が金での決裁などになって来た外、地下銀行システム(例えば韓国が原油を買った代金をイランへ送金出来ませんがその分を韓国内銀行に預金しておく・・イランが韓国から何か輸入すれば韓国内預金から差し引くなど)にシフトとして来たので・銀行決済システムやドル決裁秩序に穴があくのに耐えられなくなったからとも言われています。
アメリカの発言力・・無茶を通す力の源泉は、巨大消費地・・購買力によります。
今や国力・発言力は、生産力よりは消費力→ひいては短期的には金融支配力にかかっています。
消費を支える金融支配の関係を明日以降書いて行きます。

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