共謀罪反対と証拠収集反対論7

名義貸し借り自体も、発覚すると詐欺罪で検挙されます・・この辺はオレオレ詐欺等で多数の判例の運用が積み重ねているので、今更これは詐欺ではないと争うことは出来ませんので、配下組員の預金口座名義を借りること自体に大きなリスクが生じます。
(正確には、通帳の貸し借りが犯罪ではなく虚偽名義での口座開設が詐欺罪になると言う意味です)
銀行預金も一定金額以上になると払い戻しや送金するには、本人確認書類の呈示を求められます。
いまは保険証を借りて行けば済むとしても、マイナンバー後は、免許証などがないと個人識別番号・・これは顔写真付きになります・・の提示を求められますので、大親分が預金通帳や保険証を配下組員から取り上げておいても一定金額以上は勝手に出し入れ出来ません。
(家に忘れて来た場合などには、今後も当面は保険証等で代用出来るようになるように思いますが、正確にはどうなるかは今後の設計次第ですから何とも言えません。統一番号化した情報漏洩のリスクは、情報持ち出しリスクばかりではなく、自己情報アクセス権の保障によって、本人成り済ましを如何に防ぐかも重要と思われます) 
漏洩リスクを除けば、マイナンバー法施行による実質的利害関係人は明らかです。
監視社会になるかどうかと言う表向き・きれいごとの利害ではなく、これまで野放しになっていたいろんな分野の不正行為があぶり出されることから、多くの利害集団がバックになって必死に反対運動の後押しまたは期待していた可能性があります。
マイナンバー法の運用が始まると世の中がどう変わるかですが、行政情報の国内一元名寄せ可能になることによって、行政庁間の照会手続が簡素化します。
国民への日常的な影響は監視社会化の心配よりは、統一識別番号の結果、一人でいくつも違った名義の預金が出来なくなる・・不正口座利用が難しくなることです。
すなわち生活保護支給決定等社会保障のための調査や捜査機関による照会・証拠収集手続が簡略スムースになることが不満なのではないでしょうか?
捜査機関は犯罪の疑いがなければこの照会が出来ない点は、従来どおり・・11日に照会した刑訴法のとおりで変わりありませんから、監視社会になると反対しているグループは、捜査機関がイザとなれば迅速に証拠集め出来ることに反対理由があるように見えます。
最近では、監視社会化反対・総背番号制スローガンが色あせて来たせいか、巨額のコンピューター投資・・利権構造反対と言う方向に風向きが変わっています。
話題が防犯カメラやマイナンバー法にそれましたが、過去の動きがイザとなれば、工場内出入記録等で何時何分ころにどこにいたか分るように、携帯やメール発信場所・電話等のいじった場所の動きが分刻みで判明する時代が想定されています。
宅急便や郵便物の配送の時間的動き、路線バスの到着時刻の予測・・現在運行場所の表示装置など・・枚挙にイトマがありません。
ベネッセ情報漏洩事件では、このような精密な記録化の結果、どう言う形で漏洩したかが客観的に秋アカになり、短間隔でのチェック体制の不備があれば、もっと被害が早く分り、漏洩量が少なくて済んだのではないかと逆に批判されている時代です。
監視社会化進行を期待しているのが良いかどうかは別ですが、行政に限って既存情報の統一運用・効率化を批判するのは無理があります。
近代初期に無理があった人の動きの克明な記録化が進んでいる現在・いろんな立証が容易なりつつあります。
共謀立証も客観証拠の収集が容易になりつつあり、共謀段階で検挙をしてもえん罪リスクが減って来たのが確かでしょう。
これも悪く言えば監視社会化の御陰ですから、GPS利用その他防犯カメラや通信傍受・・事件後の通信記録提出その他ひっくるめて「監視社会化反対」のスローガンも共謀罪反対論の大きな柱になっています。
えん罪を防ぐ目的から言えば、証拠の客観化を推し進めるべきですが、反対論者は証拠の客観化よりは、(共犯者の供述に頼らない)客観証拠を収集させない目的意識の方が目立つ印象です。
勿論私の誤解かも知れませんが・・・最新技術の発達が、客観証拠になる多くの可能性が出て来ました。
これら新技術が出る都度片っ端から収集手続に反対する運動をしているように見えます。
証拠の客観化が進まないで証拠法則が停滞したまま、共謀法だけ出来ると、検挙が後手に回る状態になり兼ねません。
近代刑法と思想処罰禁止がセットであったように、犯罪要件定義と証拠法則はセットの関係があるからです。

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