証拠収集反対論4(防犯カメラ3)

防犯カメラは、事件があっても捜査機関に開示するだけであって、一般公開が予定されていません。
公道の場合は捜査機関の設置ですから、一般公開されることは元々あり得ません。
こうして見ると肖像権やプライバシー権侵害の危険と言っても、捜査情報収集必要性との兼ね合い・・社会安全のために国民が自己情報をどこまで提供すべきかの問題に絞られて来ることが分ります。
言わば(一般の人が見るのは構わないとまでは言わないけれども・・)捜査機関が見るときだけ、肖像権が問題にしている実質をどのように評価するかではないでしょうか?
防犯カメラはベネッセ情報漏洩事件でも分るように、情報持ち出し防止のためのセキュリテイー対策上、あるいは食品衛生管理上多くの企業内で設置されている筈です。
毒物等混入事件が起きると、末端商品番号等から、特定工場での製造品・ある時間帯に絞られるとその流通過程に誰が関与したかを調べるために先ずは社内調査として防犯カメラ等や出入記録・ファイル等へのアクセス記録などのチェックが始まります。
このように現在社会では、商品や人の動きやパソコン等へのアクセス記録等が時々刻々に記録されていることが、犯罪等が起きたときにその後付け調査を(刑事のカン・・思い込みに頼るのではなく)客観化し、犯行時刻の特定やその時間帯に出入した人の特定などを容易にしています。
こうした記録化の一環として防犯カメラや電子記録があるのです。
元々防犯カメラは一般公開される性質のものではなく、店内や路上で殺人事件等があったときに犯行の状況や犯人割り出しのための社内調査や捜査機関に対してだけ再現協力するものです。
スーパー店内や公道歩行中の写真の場合、捜査に利用されることに対して犯人が文句言う権利があると主張する人はいないでしょうから、そのときに近くを歩いていた(事件無関係の)通行者が自分の写真を一緒に見られるのがイヤだ反対する人が実際に幾人いるかがポイントです。
何方かと言えば嫌と言う人でも、反対運動までしてイヤだと言う気持ちがあるかと言えば、更にその比率が減るでしょう。
仮に百人に一人いたとしても、その程度の反対がある程度で防犯カメラの写真を刑事事件の証拠にしてはいけない・・許されないとすべきかどうか、犯罪が起きたときの犯人特定のために利用することとその人のプライバシーや肖像権保護との比較考量・・政治で法基準を決める問題です。
写真ではなくとも、事件現場に居合わせた人を例にすると、捜査機関から質問されれば普通の市民であれば快く協力して自分の見たときの状況説明したり、そのとき偶然撮影した写真等の提供に応じるのではないでしょうか?
トイレや自宅内のくつろいだ場所などとは違い、公道を歩くときのプライバシー性はかなり低いと言うべきです。
公共の福祉のためにどこまでプライバシーを制限して行くかは、比較考量→まさに政治が考えて法制化して行くべき問題で法律家の分野ではありません。
法律家はプライバシーや肖像権問題もあるからその点を考慮して決めて下さいと意見を言う立場がありますが、その均衡点を決めるのは政治→法律です。
憲法で保障されている各種基本的人権も公共の福祉のためには制約を受けるのは憲法上の常識でそれに対する反対論を聞きません。
プライバシー権・肖像権などは言わば新参の基本的人権でその内容〜外延もはっきりしていない状態のために我々弁護士もプライバシーとか肖像権と言われるとよく分らないことから、つい尻込みしてしまいます。
尻込みしているのは、肖像権が他の基本的人権より強力だからではなく、むしろまだ弱い権利で境界がよく分っていないことが原因になっているに過ぎず、他の人権よりも強力と言う意味ではありません。
世間の人も新しい概念なので自分がむやみに反対すると「時代遅れ」と言われないかと言う程度であって、冷静に考えれば表現の自由・理由もなく逮捕拘留されない権利や拷問を受けないことなどの伝統的人権とは「格」・重みが本質的に違うことが分る筈です。
その上で公共の福祉との兼ね合いで、どこまで知らぬ間に写真をとられているのを我慢すべきかの政治判断・・それによる法制定判断です。
国民意識がどの辺にあるかが決め手ですが、捜査協力のためとは言え、身体拘束されることまではイヤだと言う人が多いでしょうが、数時間程度の事情聴取なら協力しても良いと言う人が多いのではないでしょうか?
スーパーやコンビニへ行ったときや道路を歩いているときの防犯カメラの写真を警察に見られる程度のことならば、自分に何の手間ひまもかからないので、反対したい人が100人中一人、2人程度か、あるいは半分以上の人がイヤだと思うかは政治家・・国会の判断です。
犯罪を犯した人が見られるのはイヤなのは誰でも分りますが、犯人の意向ではなく、一般の人がそんなに多く反対しているかどうかの問題です。

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