政治生命をかけるとは?1

「政治生命をかける」とは自分の政治信念を貫徹するためには有力者に嫌われ、政治上不利な立場になろうとも、正義のために節を曲げずに主張を通し、選挙でも堂々と主張してその結果、「選挙で負けても悔いがない」というのが本来の意味でしょう。
多数派が正義不正義に拘らずその主張を通すためには、政治生命をかける必要がありません。
消費税増税反対を主張して政権を取った(国民から信任を受けた)党が、方針変更に対する総選挙の洗礼(国民の信任)を受けるのを明白に嫌がりながら、「増税に政治生命をかける」というのは言葉のまやかしです。
(誰かの委託を受けた行為ではない・・純粋個人の利害だけの行動ならば、豹変するのは勝手・君子ですが・・・)
少数派が正義のために行動するときに不利な扱い・・除名や資格停止などの不利益処分を受けるのを覚悟の上で行動するときに使う言葉を、多数派が奪ってすり替えて使い国民を誤導しているのです。
公約違反推進に多数の力を恃んで政治生命?をかける党首・・これをマスコミが「本来の語義・用法と違う・・国民を欺くもの」だと批判しようとせずに、むしろそれとなく応援している様子です。
(・・民主党が実現したマニフェストは少ないのでマニフェスト重視を言うのはおかしいという変な擁護論さえありますが、実現に努力して出来なかったのと反対の政策を率先して実行するのとは本質が違います。
あるいは反対する勢力をおとしめるためにそこにあるのは「個利個略しかない(政治的識見がない)」と言い、「すべてが選挙対策だ」とも言います。
しかし公約違反の与党やマスコミの大勢に反対するのが何故(何の識見もない)個利個略なのか、(普通は個人にとっては不利な選択です)またせっかく作り上げた与党を飛び出して孤軍奮闘(マスコミからも集中砲火を受けながら)で戦おうとしている人が何故選挙対策で動いているというのか、論理が見えません。
むしろ公約違反はおかしいと思いながら執行部に反対意見を述べる勇気のない政治家の方が、個利個略・選挙対策(自己保身)だけの人ではないでしょうか?
選挙目当てと言いますが、与党から飛び出して国からの補助金もない(1月1日現在での政党にしか補助金が出ない・・途中で分裂するグループに不利な制度です)状態で選挙をやるのは極めて不利なことは常識でしょう。
増税するか否かこそは数ある政治案件の中では、政治意見の中核であることは公理とも言えるほど歴史上明らかなことですから、増税反対かどうかを軸に行動基準を決めることが何故に政治的識見がない行為と言えるのか不明です。
財政赤字解消のために増税の必要性があるかどうかの意見とそれぞれの根拠・理由はこれまで書いているとおりいろんな意見があるのですから、自分(マスコミ)と論拠が違う相手を「識見がない・・バカだ」というのでは、大人の議論・・マスコミが取り上げるべき公平な報道とは言えません。
どちらの論拠が正しいかは選挙で決めることです。
論理のない批判が横行しているのは言うならば、誹謗中傷のたぐいを天下のマスコミが垂れ流していることになります。
党は党でそんな党首に任せられないと解任するどころか、公約を守れと反対する少数議員・・彼らこそ正義のために政治生命をかけていると言えます・・を除名してしまうような政党・・マトモな政党が世界を見渡しても歴史上あったでしょうか?
時代劇で言えば、お家乗っ取りを策す悪家老一味に敢然と立ち向かう正義の「士」少数派を誹謗中傷しているようなものです。
幕藩体制下で幕藩体制を覆すような主張が公然とされた場合、そのグループは幕藩体制と食うか食われるかの戦いをしない限り存続出来ないのは当然です。
信長や秀吉の支配下で信長や秀吉の支配方法に異を唱える以上は、信長や秀吉の支配領地内で存続が許されません。
民主主義体制を良しとする現行法体系下で、(これを覆そうと主張するならば一貫していますが・・これをやめる展望もないまま)民主主義の根本原理に反する行為をしている以上は、一種の反逆罪を犯している状態で、現行秩序上存在自体が許されない状態です。
まさに野田総理とその1党は政治生命をかけて自ら政治家を辞めるべき主張になります。
民主主義に根底から反する行為を賞賛するマスコミその他の勢力は、民主主義制度を否定する勢力に加担・そそのかす勢力と言わざるを得ないのではないでしょうか?
アメリカは民主主義を守るための戦いだったと称して日本に原爆を落とし、その他何百万(大げさかな?)の一般人を焼夷弾で焼き殺し続けたのですが、日本のマスコミはアメリカでは野田総理が激励されているかのような(高官などとぼかした言い方)報道です。
アメリカは自分の都合に合わせてあちこちの軍事独裁政権を支援してきましたし、自分に都合の良いときだけ民主主義のための戦いと言い出す自分勝手な国ですが、・・いくらご都合主義のアメリカだとしても、民主主義制度の根幹を破壊する野田総理の暴挙をそこまで応援するかな?と疑っています。
元々野田総理は訪米直後から消費増税へのボルテージがイキナリ上がって来た傾向があって、アメリカに吹き込まれてやっているらしいとも言われていますし、反米的色彩の強かった鳩山・菅政権に比べてアメリカの覚えが目目出たいのは間違いがないでしょう。
ところで何故アメリカは日本の消費税率上げに熱心だと言われるのでしょうか?
(勿論正式表明をする訳がないので噂・憶測に過ぎませんが・・)
今までのアメリカの行動からして、日本を良くするために熱心になることは殆ど考え難いので、合理的な理由としては増税させて日本経済の停滞・駄目にしてしまうことを期待しているらしいことくらいしか推測できません。
増税=内需縮小という図式は間違い・・消費の増減には関係がない・・むしろ増税分を100%支出に使えば消費が上がるという意見を以前March 19, 2012税収2と国債1」以降書いています。
増税目的が赤字解消のための増税の場合、その分支出が増えないで資金を市場から引き上げるだけになるのでマイナス消費になりますが、国債=せっかくお金の使い道のない人が出してくれた資金で所得再分配しているのに、これを税で貧者からも徴収して金持ちに返してしまう・・金持ちからの所得再分配をやめるというのですから、財政赤字解消のための増税ほど馬鹿げた政策はありません。
財政赤字解消のために増税が必要という論理は、現在社会で必須の所得再分配機能を理解しない意見であって破綻していることになります。
国債保有者が外部にある場合、(他人からの借金で豊かな生活をしている場合)所得再分配資金を削って(外食を減らすなどして)でも赤字解消が必要になりますが、身内が持っている場合(家族の誰かが外食費を持ってくれている場合)赤字解消の必要性ががないばかりか、寄付同様の所得再分配機能があって、むしろプラス要因になっているのです。
約1000兆円の国債残高=同額の資金が、今まで余裕のある金持ちから所得分配金に使われて来たことになり目出たいことではありませんか?
綺麗な道路維持や保険の赤字も生活保護・子供手当もみんなこの資金があってこそ支給されて来たし、これが我が国の国民の同胞意識・一体感の基礎になっていることを上記コラム以降で連載しています)
世の中には間違った(私の意見とは違うと言うだけです)経済理論が横行しているので、アメリカもその気になっているのでしょうか?
しかし、日本経済が停滞し、ジリ貧になってもアメリカにとって何の得もないのですから、この種の議論(増税反対論者の流布するアメリカ陰謀説とも言うのかな?)も眉唾です。
せいぜいアメリカ主導のIMF官僚の好きなテーマ・・彼らはいつも、馬鹿の一つ覚えのように緊縮健全財政政策論であることは分りますが、学者というのは過去の事例研究しか知らないからそうなるのであってアメリカの陰謀でも何でもない・・智恵が足りないだけです。
ちょうどIMF専務理事が来ていて、増税による赤字解消努力を賞賛するような発言が新聞に載っています。
やはり、ここは外国の思惑(外国からの支援を受けているという議論も一方ではアメリカの後ろ盾があるという宣伝にもなるし、他方では本筋から離れた誹謗中傷の一種にもなります)を基準にせずに、純粋に我が国の民主主義制度を守るのに有益か否かの視点だけで考えるのが、賢い方法でしょう。

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