円安効果3(生活水準引き下げ)

円安持続性には問題がないので安心して設備投資出来るとした場合、円安にさえなれば全般的に競争力が復活するのか?こそが一番の問題です。
価格差が1〜2割前後で競合している場合、1〜2割の為替相場の浮き沈みが大きな影響を与えます。
仮に10倍以上の値段格差がある場合、2〜3割程度為替相場が下がっても競争力回復には関係がないので、3月2日に書いたとおり逆に円安によって値上がりした部品や原材料を買うしかないので、貿易赤字は増えるし企業は製品値上げ(電力で言えば電気代の値上げに直結します)しなければやって行けなくなります。
これがインフレ期待論者の期待するリフレ効果でしょう。
回り回って人件費が置き去りに(本質的に後追いですから)されて企業全体が、賃下げ効果を享受出来る・・国民生活を犠牲にして競争力を復活する政策となります。
実際我が国の苦境は新興国に比べて人件費が高過ぎることにあり、アメリカは連続するドル下落の結果、製造業の復活をアッピールするのに今では中国苦並みに人件費が下がっていると豪語していることからも競争力の基準は人件費にあることが明らかです。
現地進出すれば足りるのでどんな優秀な機械設備を作っても機械化が進めば進む人の能力差よりは、人件費や地代等の差の比重が大きくなって来るからです。
この辺のパラドックスは、全自動化した場合を例にして05/16/05
「究極の機械化と国際競争力(人材の重要性1)」前後で書きました。
まして過去の貯蓄で生活しているリタイアー層にとっては賃上げさえないので、単純に老後生活費が縮小する・・貧困化が待っています。
円高が実質賃上げ効果があり、円安には実質賃下げ効果があると繰り返し書いてきました。
借金している国(1000兆円を越えかけている国の債務等)や企業は、インフレになれば返すお金が少なくて済むので大もうけですし・・1500兆円に及ぶ個人金融資産・・年金等の受給者・過去の資金蓄積者にとっては1割インフレで1割の債権目減りですから巨額損失です。
1割物価が上がれば、1500兆円の個人資産が一瞬にして150兆円目減りですから借り手(個人金融資産と同額の借り手があります)にとっては150兆円寝転んでいて大もうけになります。
円高に関するコラムで何回も書いてきましたが、為替相場変動の究極的効果はこれによって技術革新・本来の競争力強化を計るというよりは、国内人件費をそっくり上げるか下げるかあるいは負債を労せずして減らせる安直な期待効果しかありません。
これを実際に徹底的に実験して来たのが、韓国李明朴政権による大幅なウオン安政策でした。
大幅ウオン安政策の結果、サムスン等の巨大企業が世界企業に成長する一方で、国民は低賃金化・塗炭の苦しみ・・個人金融資産はマイナスで、若い女性の多く(9人に一人の比率と言われています)が世界中に売春婦として出稼ぎに精出すような状態になっていることは世界中周知のとおりです。
(フィリッピンの伝統的メード輸出より哀れです)
自国通貨安政策は、人件費減を通じて企業を太らせるものの、人件費削減を通じた国民窮乏化政策とほぼ同義と言えます。
国民が働き以上に高収入を得て贅沢している・・その結果貿易赤字が累積して危機的状態・・デフォルトリスクがあって、どこの国からも商品を売ってもらえなくなる危険が目前に迫っている場合には、国民に倹約して貰うしかありません。
倹約効果を出すには貿易収支赤字をそのまま受入れていれば、自国通貨安になって輸入物価が上がるので国民は購買力が下がり自然に消費を抑える・・生活水準を落とすしかないので合理的・ソフトな政策と言えます。
南欧諸国の危機解決にはこれしかないのですが、自国通貨をもたないために為替相場切り下げによる全般的水準引き下げ解決が出来ないので、増税・緊縮財政政策という強制力行使しか選択肢がなくて困っています。
我が国では、野田政権が消費税増税で活路を(財政赤字縮小→国債等の借金縮小や生活水準引き下げ)見いだそうとしました。
こんなことは為替相場の市場原理に委ねれば上記のとおり自然に解決出来る問題ですが、これを増税と言う強制力で対応しようとする発想(強制力に頼るには徴収業務や例外対応システム等関連経費・・公務員も増えます)自体が時代に合っていませんでした。
※円安=輸入物価上昇→インフレになれば、増税・増収しなくとも債務負担がその分軽くなるし、国民は生活水準低下で自然に支出を抑えることになります。
生活保護費支給水準の引き下げや社会保障給付の引き下げ等も強制的にするのは抵抗が大きくて大変ですが、これをしなくとも、物価が上がれば自然に(実質的に)引き下がります。
右翼左翼双方に最近流行の「新自由主義反対・市場原理反対」という教条的発想が、(大きな政府志向)市場に委ねれば自然に変化する柔軟なシステムを利用しない方向に自公民(与野党一致)共同で向かってしまったのではないでしょうか?

国債残高の危機水準8(企業の資金)

4月20日に書いたように、国債発行残高が個人金融資産以下であれば安全には違いないものの、これを越えたら危険になるとは限らない・・危険を見分ける基準とは全く別ものなのに、マスコミはこれを強調し過ぎです。
放射能汚染に限らず、砂糖でも塩でも水でも一日どの程度の摂取なら(例えば一日当たりコップ一杯の水の量は)何ら問題がないと権威者が言ったとしても、1日に一杯以上の水を飲むと危険と言ったことにはなりません。
放射能の規制基準も短時間被曝は一定量を越えた被曝で危険なことが明らかとしても(これが放射線取扱者などの管理区域設定の基準です)長期間になるとまだ科学的には不明のままです。
この点に関する武田教授の意見には賛成出来ない(同氏の多くの意見には私は賛同していますが・・)ことを March 28, 2011「放射能の危険性2(管理区域)」前後のコラムで書きました。
放射線に関しては、訳が分らないと言うだけでは不安なので、さしあたり「これだけ少なければ問題がないに決まっている」と言ういい加減な基準で決めたものが一人歩きしているのが現状です。
これを少しでも越えると危険であるかのごとき印象になってしまい、今や世界中が非合理なヒステリー状況になっています。
コップ一杯の水の例・・「この程度なら議論にもならないほど安全でしょう」ということがいつの間にか危険基準に化けてしまっているように、我が国では元々の基準が違うのにこれをごっちゃにした論調が多すぎます。
究極的には個人金融資産が岩盤・担保と言えることと、当面の資金繰りとは違います。
国債需給に関しては、個人よりも国内各機関・企業の保有する流動性資金が需給の大きな部分を担っています。
企業の現預金は前年比4、6%増の205兆円となっています。
企業は、現預金からだけ国債を買うのではなく、長期投資としての国債保有もあり得るので、その動向・可能性も国債需給のメルクマールとすべきです。
通常の取引主体としては企業や金融機関
自体が資金の重要な出し手ですから、国債金利上昇圧力(札割れリスク)に関してマスコミが個人金融資産にこだわるのは合理的ではありません。
韓国の株式の外国人投資家保有比率のコラムでも書きましたが、韓国では金融機関でも外国人投資家比率が高いのですが、我が国でも金融機関に対する一定の外国人投資家がいますし、事業会社であるトヨタでもソニーでも同じです。
国債保有者はこうした外国人株主のいる金融機関や企業の比率が大きいので、必ずしも個人金融資産の範囲内に安定購入者が限定されている訳ではありません。
外国人株主や社債購入者の意見がある程度反映されるでしょうが、トヨタ等の意思決定には、やはり民族企業としての意思が濃厚に出るので、(経済合理性を越えた国内生産維持に対するこだわりを見ても分るように・・)個人金融資産だけが購入能力の限界ではなく民族企業や金融機関の総合購入力も緩衝勢力として存在することになります。
数字的に比喩すれば、3割の外国人株主がいる企業体では多数派を形成する日本人株主が、その3割の資本を自由に運用出来る資産に加えられることになります。

国債残高の危機水準7(対外純債権)

 対外純債権額と言っても金融資産ばかりではなく、工場進出資金その他の投資資金が多く含まれているので、危機時に簡単に換金出来なくて金融資産そのものとは性質が違います。
日本国債の危機だからと言っても、いくら愛国心の強い企業家でもせっかく軌道に乗った海外工場を売却してまで、国債を買い支えるとは考えられません。
ですから、必ずしも対外債券が国債危機時の買い支え資金にはなりません。
個人金融資産を基準に考える立場を前提にすれば、正味=債務を引くと1000兆円前後しかないとすれば、現在既に国債その他政府(地方政府を含める)債務が約1千兆円に上るようですから、今でも既にプラスマイナス零または直ぐにもデフォルト騒ぎになっている筈です。
ところが将来の危機という議論(将来に備えて増税したいというマスコミ論調)しかなく、市場でも目先の危機は全く問題にならず、むしろ世界経済の乱調に対する逃避場所として外国人の日本国際購入が増えている状態です。
マスコミや学者の宣伝にも拘らず経済の実務では、国債の危機は個人金融資産残高と関係ないとする意見が大勢である証拠でしょう。
日本には事業資金・・すなわち企業の手元資金だけでも余剰資金が多く、3月23日の日経朝刊社説によれば、上場企業だけで余剰の手元流動性が60兆円にのぼると書かれています。
また同日の夕刊第2面によれば、3月23日発表の日銀の資金循環統計速報からの引用として日本国債に対する海外勢保有額が最大になったとの大きな見出しです。
外国人の残高比率は過去2番目の8,5%、78兆円で 、国内金融仲介機関の保有残高は601兆円、比率は65、3%とのことです。
合計で約74%ですから、残りは個人または国内金融機関以外の企業・団体が保有しているのでしょうか?
新聞の書き方は一部1年以上の国債に限った数字であったり、総額であったり一貫しないので保有部門別トータル国債総残高をあえて分り難く書いたような印象です。
同じ記事では個人金融資産残高は1483兆円で1年前比0、4%減となっています。
これは欧州危機による株式相場下落(および円高による海外資産の評価減もあるでしょう)によるものとの意見で、国内現預金額は2、2%増の839兆円になっています。
と言うことは、現預金以外の金融資産(年金や生保・証券投資残高など)が約600兆円ということでしょうか。
(企業にいくら資金があってもその株主の多くが外国人の場合実質的には外国人の持ち物ですから・・結局個人金融資産しか頼れない可能性があることをJanuary 13, 2012「海外投資家比率(国民の利益)1」で書きました。)
企業資金の究極のオーナーは個人でしかないので、経済学者・マスコミが個人の資力にこだわるのは安全基準としては堅いとしても、危険水準を見極める基準にはなりません。 

国債残高の危機水準6(国際収支の現状)

  個人金融資産とは別に対外純債権額という枠組がありますので、これを基準にする考え方もあります。
対外純債権・・貿易・サービス収支が仮に赤字になっても、経常収支黒字が続いている限り、そもそも国債残高がいくらであろうとも国内資金の移動でしかない以上何ら問題がないことを、April 9, 2012「国際収支4(赤字を何年続けられるか)で書きました。
上記ブログで書いたように貿易赤字且つ経常収支赤字になってから、対外純債権を何年で食いつぶすかの議論が本来の国債発行限度論となります。
年間いくらの赤字額で何年持ちこたえられるかを知るには先ず対外純債権がいくらかが重要です。
対外純債権額とは結局のところ、過去の貿易黒字の累積(元本合計)プラスその黒字で投資した収益の積み増し・・元利合計と言うことでしょうか?
そうとすれば、対外純債権額は、過去の貿易収支黒字の総和=対外投資元金であり、それに長期間の投資収益分をプラスしたものになります。
(ただしその間に円高になったりしますので、ドル表示の合計額でないと円表示の歴年黒字合計をしても分りません)
元金分は資本収支赤字の合計と言えないこともないでしょうが、実際には、貿易黒字が続いた国では、黒字を大きくし過ぎないために海外不動産を購入したり、個人でハワイその他に別荘を買っているなどの外、金地金や宝飾品の輸入を増やしたり貿易摩擦を緩めるために前倒しで飛行機を買ったりするなど、一定割合の膨らみ(イザとなれば、身の回りで売れるものを多く持っている)があるのが普通です。
当たり前のことですが、個人金融資産には持ち家や高級外車やヘリコプター、貴金属などの金融資産以外の高額資産を含めません・・。
戦後の食糧難の時代に資産家は高額な着物その他を換金しては食料品と交換したと伝えられているように、イザとなれば高額な絵画・美術品その他の資産は大きな力を発揮します。
債務整理等で相談に来る人たちはその逆で、修理や買い替えねばならないものを限度ギリギリまで先延ばししているので、数字上の債務より負けが込んでいる人が殆どです。
健康上も無理して働いていることが多く病気になり易い・・家具類は直ぐに壊れることなどを予定して生活設計を助言する必要があるのと似ています。
古いデータしか分りませんが、2012年になった今のところ、私の直感では約250兆円程度ではないかとおもわれます。
昨年は40年ぶりの貿易・サービス収支赤字と言っても日銀速報によれば-3兆2,496億円
ですから、経常収支黒字を無視し、その間の収益収入(4%利回りでも年に10兆円あります)を無視しても80年も赤字を続けられる勘定です。
まして日銀速報によれば、所得収支は140,296億円もの黒字だったようですから、移転収支赤字約1兆円を足してもまだまだトータルとして経常収支の黒字の方が約10兆円も大きい状態です。
ですから国債発行限度問題は経常収支赤字に転落してから、赤字の規模等を含めて議論すべきであって今から議論しておく必要は全くありません。
以下はhttp://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/preliminary/pg2011cy.htm 日銀速報からの引用です。
グラフはコピー出来ましたが、表の方はコピー出来ないので下記のpdfにリンクしていただければ、上記の細かい数字が表になっています。

国債残高の危機水準5(海外保有資産はあてになるか?2)

中国や韓国などではイザというときのために大分前から金持ちから順に海外国籍取得が盛んですし、海外資金逃避が盛んです。
この意味するところは、国難・危機に際して逃げる準備・・3分の1〜半分でも海外逃避しておいてイザ危機が来たら残った資金も出来るだけ速やかに逃げ出そうとしているものであって、国難のときに買い支えるために海外に資金をプールしているとは考え難いところです。
大幅に値下がりすれば、儲けるための底値買いを入れることはあるでしょうが、それは純粋の(金儲け目的だけの)外国人投資家でも同じです。
中国(地域)の歴史は周知のとおり異民族の支配下にあったときの方が長いくらいですから、今一般に言うところの中国人というのは元々いない・・順次の被征服民がその地域にいただけですから、一族の紐帯以上のものがないのは当然です。
EUもいろんな国の集まりですが、一応民族別、国の原形を残したままの交流・一体化ですが、(ユーロ・通貨統合しながらも財政は別に行っている・主権が残る状態がその象徴でしょう)中国の場合、チベットやウイグルその他少数民族・自治区の例外がありますが、漢民族と言われる人たちは元はいろいろな人たちがごっちゃになっている点でアメリカ合衆国と成り立ちが似ています。
意外に思うかも知れませんが、アメリカにはムラ社会がない分、親族間の交際の密な社会です。
今から15年ほど前にニューヨーク郊外のある町のホテルに滞在しているときに、毎日のように朝食後ホテルでのレストランで長時間粘って・・朝食の後はコーヒーしか出ません・・コーヒーばかりがぶがぶ飲んでいたことがありました。
(アメリカのコーヒーは日本の麦茶みたいに薄くていくらで飲めるのです)
ボーイが通るたびに呼び止めるものですから、ボーイさんからMr.コーヒーと言われるほど仲良くなっていました。
(英語はマトモに話せなくとも気心は直ぐに通じるものです)
ホテルの部屋にいたのでは、都市型ホテルの弊で窓も狭いし狭苦しいのですが、レストランの窓際は眼下に道路が見えて行き交う車の流れを見ているだけで何時間でもボーッとしていられる良い場所です。
ある日いつものように夫婦で朝食後コーヒーを飲んでいると今日のお昼は貸し切りになっていると言うのですが、(英語は通じなくとも身振で何とか理解出来ました)困った顔をしてると結果的にお気に入りのいつも座っていた場所(コーナー)にいても良いと言って例外的に使用させてもらえました。
そのときレストラン中央部で集まって始まった貸し切りパーテイを見ていると、高齢の夫婦らしい人やその兄弟らしい人がいて彼らの子供夫婦や孫達の集まりらしく一族和やかにパーテイをしているのです。
後で聞くと、それは一族会みたいなものでアメリカではしょっ中こうした一族のパーテイを行っているそうです。
日本国民は、戦後地方から東京等大都会への人口移動の結果もあって、親族のつながりが薄れてしまいましたが、(今でも残るのは法事くらいでしょうか?)それでも愛国心というよりか郷土愛や同胞意識が強固ですからお金があるからと言って同胞を見捨てて海外国籍まで取得したい人が今でも少ない点は韓国人や中国人とは違います。
とは言え、それでも資金運用というものは合理的に行動するものですから、(前もって逃げ出さないまでも)海外に既に保有している資金をイザというときに国内救援のために逆ばり運用する人がどのくらいあるかとなると疑問なしとしません。
それどころか日本人でも国内株式が暴落傾向になれば自己防衛のために株式の損切りをするために売り急ぐ人が増え、銀行が倒産しそうになれば解約に走る人が増えるのはよその国とあまり変わらないのではないでしょうか?
現在国内企業が国内投資を控えて海外投資にシフトしているのも、その動きの一環と言えます。
ただし、繰り返し書くように日本国債も国内銀行の預金も円建てなので日銀券を印刷すればいくらでも払えることから、(円相場下落の心配は別として)国民は(預金保険の範囲内であれば)あわてて預金を解約する必要のない点が自国通貨を持たないギリシャとも違います。
国内金融資産だけは、既に質に取ったようなもので確かな資金と言えるからマスコミはこれを重視するのでしょう。

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