サムスン頼りで良いか?5(サムスンの技術力)

以下は、サムスン研究論文一部引用です。
https://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Periodicals/Ajia/pdf/2006_03/01.pdf

韓国半導体産業の技術発展――三星電子の要素技術開発の事例を通じて――吉 岡 英 美
・・・三星電子は,DRAMの次世代製品開発(注2)の側面でも,16M(メガ=100万)世代で先行する日本企業に追いつき,1992年に開発に成功した64M世代以降,開発を先導する立場に立つようになった。
・・・微細化の過程では,前世代の技術では対応できない限界にぶつかることが常であり,これをどのように克服するかが開発課題になる。
既存の技術の応用で対応できなければ,新しい技術を創出してそれを装置化することが必要になるが,後述するように,製造装置に体化される新技術のアイデアは基本的には半導体企業(以下,デバイス企業)の側から発せられ,半導体製造装置企業(以下,装置企業)から出されることはない
・・・・韓国において「組立型技術」の高度化と世界市場での急速なキャッチアップが実現し韓国半導体産業の技術発展したのはなぜだろうか。
加工プログラムを製造技術の要と見れば,NC工作機の製造技術の主な担い手はオペレータであるのに対し,半導体ではプロセス・エンジニアが製造技術を担っている・・・製造装置に体化される新技術のアイデアを検討する「技術ニーズの検討」を行うのは,これまでのところ,デバイス企業のプロセス・エンジニアに限られるという点である。
他のデバイス企業が開発に関わった既存の製造装置を導入して,装置企業が推奨するプロセスとレシピを採用し,自前で調達するのがオペレータだけであれば,そのデバイス企業は「組立型技術」しか保有していないといえる。しかし,「プロセス開発」や「レシピ開発」に自社のプロセス・エンジニアが積極的に関与していれば「加工型技術」を保有しているものと捉えることができ,また「技術ニーズの検討」と「原理実験」まで行っているのであれば,そのデバイス企業は新技術を自ら創出する能力を持っていると評価することができるだろう。

とのことで一般に言われている中韓等の新興国による「技術ただ乗り論」(ただし私の勝手な命名で上記論者がそのように言ってるわけではありません)をサムスンのDRM進化に関しては否定しています。
誤解のないようにさらにいうと、上記論文はサムスンのしかも特定DRM技術進化に関しての分析であって、韓国のその他製造業・・造船や製鉄あるいは車等々現在失速中の製造業いっぱんに関しては以下に紹介する服部論文が当たっている可能性があります。
上記論文で前提として紹介されている私の命名するただ乗り論は以下の通り要約されています。

韓国の工業化の構造を技術的側面から捉えようとした服部によれば,韓国において技術の先端化が可能になったのは,機械類の「マイクロエレクトロニクス化や「メカトロニクス」化によって,製品の生産に必要な技術・熟練のかなりの程度が機械設備のプログラムに代替されたため,その製品を生産する企業の側に技術蓄積や熟練形成がそれほど必要とされなくなったことが背景にあるという。すなわち,技術・熟練が蓄積されていなかった韓国企業でも,資金を動員して「ME」化された最新型の機械設備を先進国から輸入することで,当該産業に参入し急成長することができたのである[Hattori 1999;服 部 2001b]服 部は,このような産業発展のパターンを「技術・熟練節約的発展」と名付け,韓国ではその成長の過程で技術・技能的な蓄積がないがしろにされてきたことを指摘している。以上の議論は,後発の韓国企業が生産のための中間財や資本財を韓国国内で調達することができず,そのうえ生産に必要な技術的基盤がなかった状態にもかかわらず,その製品の生産を開始し世界市場で急速なキャッチアップを果たすことができた要因として説得力をもつ。

以上の通りですが、私の誤解に基づいて間違った引用をしている場合もあり得るので、詳しくは上記に入って直接確認ください。
サムスン自身が日米半導体交渉の結果、日本が技術革新意欲を失ったチャンスを生かし日本のベテラン技術者を技術顧問として招聘して手厚い指導を受けて自社技術にしていったのですから、政治の追い風を生かすかどうかは、長期的には企業の実力次第ということです。
日本のネットでは、欧米の反日攻勢に便乗してサムスンや韓国は「うまいことした」だけという一面的見方が主流ですが、上記によれば16メガバイト以降はサムスン独自の研究開発によるようです。
次の工夫ができるようになるまで日本技術者の努力・協力があったことは確かでしょう。
ただしこの成功は一般製造業と違って半導体・DRM産業の特殊性による(NCの例を引いて書いている箇所をちょっと引用しましたのでお読みください)ところがあるという分析ですので、サムスンがその他の半導体製造でもうまく対応できるかは別問題です。
6月1日に紹介したように、今後の半導体需要は非メモリ分野らしいですが、サムスンはこの分野ではほんの4%前後しかシェアーを持っていない・あまり得意ではないことがわかります。
サムスンが他のメモリ分野でも自前開発できる技術を持てるようになるかは、(今度は日本技術者の協力は考えにくいので)韓国人の総合民度によるでしょう。
日米半導体交渉妥結後も米国の脅威になるのは日本しかないという意味で、欧米によるジャパンパッシングは引き続き、いわゆる失われた20年と揶揄されていたのですが、リーマンショック頃から中国の台頭が目覚ましくなったので、米国は今度は対中パッシングの策を練り始めたようです。
昨日書いたようにアメリカはいつも腕力に任せて一方的強迫ばかりですから、日本に限らず世界中で恨みを買っていて敵を作って来たように見えます。
アメリカ式国際政治スタイルの延長で?新たな標的に対するために今度は手のひら返しで日本を大事な同盟国扱いに豹変したので韓国は戸惑っているでしょうが、プラザ合意以降約30年も欧米による日本叩きの潮流に安心して国内反日教育してきた手前、国民向けにどうやって方向転換して良いかわからない状態に見えます。
前朴大統領は前大統領(李明博)の始めた反日運動を継承するしない立場でしたから、就任当初から慰安婦騒動をさらに一歩進めたものの従来の日本政府と違って、安倍政権は安易な謝罪をせずに頑強にこれを拒否して来たので勝手が違ってしまい、しかも米政府の応援がいつの間にか消えてしまったのでやむなく日韓合意に応じました。
これが国民の怒りを買ったらしくあえなく失脚してしまい、このエネルギーを受けて文在寅大統領が政権獲得出来たのですから、彼が政権につくと日韓合意の骨抜きその他何か反日的行為をしないとおさまりのつかない状態+反米鮮明化するしかない状態で政権が始まりました。
文政権がアメリカの思惑無視で慰安婦問題の蒸し返し・徴用工問題の政治問題化とアメリカの意向をはみ出した南北和解に突き進むようになっている基礎状況というべきでしょう。

サムスン頼りで良いか?4

ここで、日本半導体産業が急速に凋落し韓国サムスンが半導体で躍進できた端緒?を少し紹介しておきます。
サムスン電子の大躍進は、それまで世界支配しかけていた日本の半導体生産を米欧バックにした半導体生産の韓国移転強制?による漁夫の利によるものという意見が多く見られます。
https://www.sankei.com/economy/news/130817/ecn1308170010-n1.html

2013.8.17 09:21
日の丸半導体(2)日米協定 圧力が生んだ“管理貿易”
昭和60年代に世界のトップに立った日の丸半導体。DRAMを中心に世界シェアの5割超を握り、日本の半導体産業は絶頂期を迎える。だが、国の根幹を担う半導体産業の凋落(ちょうらく)を、米国は黙ってみていたわけではなかった。米政府は政治の力で圧力をかける手段に出た。
・・・米政府は日本市場の「構造的な閉鎖性」を糾弾。そのうえで301条を盾に、日本側の輸出自主規制と日本市場での外国製半導体受け入れを迫ったのだ。
繊維や鉄鋼、テレビなど、それまでの日米貿易摩擦では、日本が輸出で手心を加えるか、米国からの輸入に配慮するという歴史が繰り返されてきた。だが、今回の半導体交渉で日本政府は、これまでの通商交渉とは米国のいらだちは次元が違うと感じていた。
・・・軍需にも利用される半導体は経済だけではなく、国の安全保障上の問題となる基幹産業として米国が重要視しており、単なる工業製品ではなかったからだった。
軍需にも利用される半導体は経済だけではなく、国の安全保障上の問題となる基幹産業として米国が重要視しており、単なる工業製品ではなかったからだった。
協定締結後も、米国側の圧力は執拗(しつよう)だった。数値目標を「政府による約束」と解釈した米政府は62年には協定不履行を日本側に突きつけ、パソコンやテレビなどに100%の関税を課す対日制裁措置を発動する。
日本側は抵抗しつつも要求をのむしかなく、平成3年に改定された協定では外国製半導体について「日本市場のシェアを20%以上」とすることが明文化された。結果的に日米半導体協定という“不平等条約”は10年間続くことになる。

今の対中非難・・25%関税でも世界は大騒ぎですが、対日要求では応じなければ100%関税という無茶な要求・・日米開戦を事実上強制したハルノートの突きつけや終戦時のポツダム宣言を無条件で飲むかどうかの要求とほぼ同じ強引さです。
もっと遡れば、相手に対する強制力のない時点では、気に入らなければ、全面引きもり宣言をしたモンロー主義にも行き着く幼稚な姿勢です。
強引な交渉態度はアメリカの幼稚さによるものでしょうが、幼稚で無邪気なアメリカが力を持つようになると無邪気では済まされません。
世界が振り回されるようになった1929年頃からの大恐慌の対処の未熟さでしょう。
アメリカの対応が際立って悪かったので、今回同様に高関税連発に対して欧州も負けずに報復高関税をかけるエスカレートの繰り返しになったので、結果的にいわゆるブロック経済が生まれました。
世界中がブロック化すると囲い込む植民地を持たない新興の日独伊が不利な立場になったので独伊の場合には既存植民地の壁をこじ開ける→植民地の奪い合いに発展しました。
日本は欧州報復関税をかけることもなく、英米仏の植民地を奪おうとしたのではなく、どこの植民地になっていなかった・・手付かずに残されていた中国での日本の優先権を求めた・いわゆる対支21ヶ条の要求をしたのが始まりで、その後満州国建国へとなったのですが、元はと言えばアメリカの高関税政策によって始まった市場囲い込み競争が原因でした。
独伊のように米国市場を奪いに行ったわけではなかったのですが、米国も中国市場に野心を持っていたのに日本に先を越されたのが許せなかったので、「門戸開放・機会均等」を旗印にして猛烈に日本を敵視するようになっていきました。
自分たちは高関税で障壁を設けながら、日本には機会均等要求とは一方的主張です。
結果的に世界大戦に世界が引きずり込まれるようになったものです。
大恐慌勃発当時最も対処が良くて景気回復に成功していた日本が、最大の敵とされて最大の被害を受けた結果でした。
ここでは日米開戦原因論は主テーマでないのでこの辺で終わりにします。
こうしたDNAを受けているトランプ氏が、高関税の脅しでNAFTAや米韓FTAの一方的破棄の脅しで国際合意の事実上破棄を前提にした再交渉要求を求めたり、イラン核合意の一方的破棄など全て繋がっているものです。
アメリカはもまともな交渉能力がない・からか?モンロー宣言やまとまりかけたTPP一方的離脱か、過去の約束が不利となると強引すぎる要求でイエスかノーかを求めて「強迫」するしかない常習性が見られます。
日米半導体交渉では、結果的に数値目標と価格固定を決められたのですが、これではその後の技術革新による値下げ(半導体価格は一定頻度で4分の1の比率で値下がりするサイクルが知られています)が禁止→競合生産国より日本製だけ高くするしかないー日本からの輸出不能になり、韓国等第三国での生産しかなくなったという記憶(うろ覚えですので誤りがあるかもしれません)です。
この受け皿になって漁夫の利を得たのが韓国であり代表的企業がサムスンであり、車で言えば現代自動車・・日本の三菱自動車がエンジン等基幹部品を供給し技術支援して始まったものです。
ただし、サムスン電子飛躍に関する以下(明日)紹介する研究論文によれば、(上記のように政治の追い風があったとしても)キャッチアップ後のサムスン独自努力による研究開発の成果によるらしいです。
以下の論文によると従来は装置産業の提案力によっていたが、デバイス部門=加工組み立て部門・サムスン側の研究開発に基づく装置産業に対する協力要請に逆転・文字通理、下請け企業としてサムスンの研究成果に合わせた装置製造を要求されてこれに応じる関係になっているようです。
サムスンは下請けに価格競争させるために日欧企業に並行的に注文を出しているともかいています。
今でもサムスンは半導体製造装置を日本から買っているから(組み立てているだけだから)対韓輸出停止すれば良いという意見をたまに見かけますが、これらは表面を見ているだけ・・間違いのようです。

サムスン頼りで良いか?3

「漁夫の利」期待によるサムスン電子株価復活に関する解説記事です。
bpress.ismedia.jp/articles/-/56515?page=2

瀕死のサムスンに「ファーウェイ排除」で吹いた神風
漂流する東アジアを撃つ(第13回)
2019.5.25(土) 右田 早希
ひとまず遠のいたサムスン電子「株価4万ウォン割れ」の懸念
サムスン電子株は、1年前の昨年5月25日は、5万2700ウォンをつけていた。それがこの1年で落ち続け、1カ月前の4月25日は4万4650ウォンまで下落。その後もさらに落ち続け、今週初めの5月20日の初値は、4万1650ウォンだった。
それが今週の終値(5月24日・・稲垣注)は、4万2800ウォンと、見事に持ち直したのである。
世界のスマホ業界関係者の間では、早ければいまの第2四半期にも「中韓逆転」が起こると予想されていたのだ。もし第2四半期に逆転しなくても、ファーウェイは、今年通年の出荷台数を2億6000万台と見込んでおり、今年通年の逆転は必至の状態というのが、業界関係者の共通認識になっていたのだ。
「5Gスマホ」に関しても、サムスンはファーウェイに較べて、大いに見劣りしている。
業界関係者の間では、「両社の5Gスマホは、ファーウェイとサムスンの勢いの差を象徴しており、長かったサムスン時代も終わりを告げる」という見方が強かった。
こんな状況下で、今週サムスンに、まさに「神風」が吹いたのである。
なぜサムスンは突然、復調したのか? 今週、何か目新しい新製品を発表したわけでもなければ、トップの李在鎔副会長が前向きの発言をしたわけでもない。あの文在寅政権の経済政策も変わっていない。

と、24日の週末株価下げどまり傾向は、追い上げてくるライバル失速による「漁夫の利」期待効果によることを解説しています。
自己革新によらず「漁夫の利に頼っている」だけでは、他の競争相手の出現に脅かされるので一時しのぎに過ぎないでしょう。
漁夫の利を得て時間を得た間に、新技術革新に成功できるか次第でしょう。
スポーツは実力社会なので分かりよいですが、能力差が開いているとライバルが何かの失格行為や怪我等で半年〜1年出場停止になってその間に本来2〜3位の能力しかない選手が1位になれてもライバルが復帰したり次世代が台頭してくるとその追い上げにまたついていけなくなります。
競争予備軍は無数にいるものです。
中韓両国は、プラザ合意以降鮮明になった欧米による日本パッシング政策に呼応する形で日本の技術摂取に勤めて高度成長路線に入りましたが、日本はこの10年前後技術移転を絞り、中韓以外の東南アジアやメキシコへの生産(技術移転とセット)移転を加速するようになりました。
この10年ほどは日韓の技術移転は細る一方になっていたのです。
これが今まで見てきたように韓国各分野の業績不信・構造的生産力低下に繋がっていると見るべきでしょう。
技術移転が減ってきたので、もう日本の世話になる必要が無いと言うの(間違った意識)が韓国の反日運動の原動力でしょうが、実は技術移転が細っても韓国が次世代技術を自前で再生産していけるようになったかは別問題です。
韓国が中進国の罠にすぐ陥らなかったのは、それまで中進国の罠におちいった国々は、欧米の援助で中進国になった国々ばかりですが、欧米は人種差別意識が強くまともな技術移転をしなかった・・・安い労働力を利用するだけだったことによります。
日本の場合は、誠心誠意中韓の人々が自分たちでいろんなものが作れるように教えこんできた違いがあります。
欧米の植民地では、現地人は読み書きできないままに・欧米人との教育格差拡大を通じて「自分たちは欧米人にかなわない」という無力感を植え付ける支配に徹してきました。
日本は朝鮮や台湾で日本本土同様に義務教育制度や大学も設置して現地人の能力アップに努力したのとの本質的違いです。
上記のように日本は現地進出した場合、同胞並みに熱心に教えてきた実績があるので、技術移転が細ってもまだその余韻というか磁石効果が残っている関係が大違いです。
これがすぐに中進国の罠に陥らなかった違いです。
子供の頃磁石にクギをぶら下げて遊んだ記憶を例にすれば、本物の磁石を切り離してもある程度そのクギに磁力が残っていてまだ別の釘をくっつける磁力が残っているのを見た記憶でした。
中韓が、残った磁力効果を利用して自分で新技術を生み出せるのか?移転してもらった磁力がなくなればおしまいかの問題はこれからの結果次第です。
10年以上経過してようやく磁石が切れる段階がきて、さあどうなるか?お手並み拝見という段階での日韓公式?手切れ間近です。
中国は反日暴動をして見たものの公害環境技術やエネ技術等まだ日本の協力がいると分かって数年前から日本への擦り寄りを始めたところで米中対決になったので、味方をふやす必要もあって、猛烈な日本擦り寄りが始まりました。
韓国だけが国内事情で辞められない?からかまだ反日で邁進中ですが、肝腎の米国が中韓を利用してのジャパンパッシングをやめて、今度は日米蜜月→中国敵視政策に切り替えたので、韓国の立場は二階に上がって梯子を外された状態です。
プラザ合意以降、欧米一丸となった反日攻勢(いわゆるジャパンパッシング)に便乗して、韓国中国が文字通り漁夫の利を得ていた30年に及ぶ世界反日環境がオセロゲームのように白黒反転してしまったのです。
この環境激変対応力がないために、韓国の首を締め始めたということでしょう。
中国が台頭に連れて中国自身がおおっぴらに米国の「鼎の軽重を問う」動きを始めました。
この辺は、習近平氏が太平洋二分論をオバマに持ちかけたときにその意味をこのコラムで書いたことがあります。
その後尖閣諸島への信仰姿勢を見せたり南シナ海の公海で実力埋め立て強行→軍事基地工事を進め、既成事実化するなど、実力行使が目立ってきたので、ついに不公正貿易慣行という側面からのアメリカ国民一丸的な対中対決ムードが高まったものです。

サムスン頼りで良いか?2

半導体設計といえば最近英アームのファーウエイに対する供給停止に発表のニュースが世界を駆け巡ったばかりです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45419600Z20C19A5910M00/

英アーム副社長「米規制を順守」、ファーウェイ取引中止を示唆 2019/5/29 18:03
日本経済新聞 電子版
台北=伊原健作】英半導体設計大手のアーム・ホールディングスのイアン・スミス副社長が29日、台湾・台北市で日本経済新聞の取材に応じ、米の輸出禁止措置を受けた中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)との取引について「米の規制を順守しなければならない」と述べた。ファーウェイを「価値あるパートナー」としつつ、取引を停止したことを示唆した。

ファーウエイは、米国の遮断があっても自力でなんとかできると発表直後の冷水を浴びせる発表でした。
アームの設計抜きにはファーウエイが自力対応はほぼ不可能だろうというのが大方の当時の解説でした。
ただし供与済みの契約は使えるだろうが、日進月歩の設計対応ができないとすぐに行き詰まるということのようです。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/052300376/

広岡 延隆 上海支局長 2019年5月23日
「米国製と同様の半導体チップを製造する能力はある」
21日、華為技術(ファーウェイ)の任正非CEO(最高経営責任者)は中国メディアの取材に応じてこう述べた時、その翌日に半導体製造の開発・設計の前提がひっくり返るとは思っていなかっただろうか。
米調査会社のIDCによれば2019年第1四半期のファーウェイのスマートフォン世界シェアは米アップルを抜き、韓国サムスン電子に続く2位。だが、ARMの技術が利用できなくなれば、ファーウェイのスマートフォン事業は大きな打撃を受ける可能性が高い。グーグルによるOS(基本ソフト)「アンドロイド」の輸出禁止に際しても「ずっと開発してきた独自OSを提供すればよい」と動じなかったファーウェイだが、ARMの技術だけは当面代替が不可能だとみられるからだ。  ARMは省電力半導体設計に強みを持ち、現在のスマートフォン向け半導体チップの大半は同社技術を採用している。米クアルコムや米アップル、韓国サムスン電子、台湾メディアテックなど、半導体チップメーカーはARMの設計情報のライセンスを受けずには事実上ビジネスを継続できない。そしてファーウェイの半導体開発を担う中核子会社、海思半導体(ハイシリコン)もARMの技術に頼っていた一社だ

6月1日日経新聞朝刊10pには、米半導体設計支援ソフト世界大手米シノプシスの供給停止発表が報じられています。
同記事によれば、知名度は低いが半導体設計支援ソフトでは世界標準を握る企業らしく各種技術は日進月歩の現在、昔のように数十年で大きな差が出るような悠長なことではなくなっています。
同記事では、「ソフトは高度で複雑な半導体設計には不可欠で、精度を高めるために毎週のように更新され保守サービスが止まれば、設計にトラブルが生じかねない」と書いています。
日本の京浜急行沿線(蒲田付近)の数〜10人規模の町工場の製品が世界の有名製品の部品になっているという話題が時折紹介されますが、今はこの種のサプライチェーンが網の目のようになっているので、大手さえ支配すれば勝負ありという時代ではなくなっています。
大震災や風水害等でサプライチェーンが寸断されると大量部品供給企業だけトヨタなど大手が目配りしていても、この種の(価格的に大したことのない)微細な仕入先まで災害対応していなかったのでそこが止まってしまう(例えば山間の小さな工場が土砂崩れで全壊したり従業員が被災すると)と全体の製造が止まってしまうような例が言われていました。
資源で言えば、鉄鉱石や原油は重要ですが、微細な利用しかないレアアースがないと電池も何も動かないというのと同じで目につく大量資源だけが重要ではありません。
人間も五臓六腑だけでなく、ちょっとした血管や神経の異常でも歩けなくなります。
企業はトップや優秀営業マンだけでなくいろんな役割の人(きちんとエレベータ保守するなど縁の下の力もち)で成り立っている・人間皆平等の理念が現実化し始めた時代突入です。
サムスンは電子系総合企業でしょうが、半導体でその儲けの大部分を占めていると言われ、半導体産業のようなイメージですが半導体でも色々あり、その中でもいろんな分野に専門分化していることがわかります。
特化した部門が時流の追い風に乗って成長することが多いのですが、その中で大企業にまで成長できるのは、その分野の消費量が多い分野で成功した場合のようです。
時流に乗ってもあくまでニッチの場合、世界の9割を占めても一般知名度も低いし、何十万人も雇用し国家貿易額の何%も占める大企業にはなり得ません。
サムスンは資源で言えば鉄鋼石や原油のような「産業のコメ」と言われた半導体製造で成功したので世界企業になれたのです。
ファーウエイはサムスンより後で世に出た分、半導体製造に足場がなくソフトから始まっている分、スマホその他のサービス分野での食いつきが早いというかサムスンよりも敏捷なイメージで、あっという間にサムスンスマホを追い越す勢いを示していました。
それだけに米国に危険視されることになったのですが、私が2019-5-22「徴用工訴訟と国内法論理(米中対決の相似形?)2」で、サムスンが米中対決の漁夫の利を享受できるのではないか?と憶測を書いていましたが、私同様の憶測する人が多いらしく、瀕死状態だったサムスン復活期待感で株式相場が5月24日に反発していたようです。
ファーウエイの失速が一時的なもので、自力更生の逆バネ効果でサプライチェーン自前構築に成功し、却って先進国からの輸入に頼らなくてもやれるようになる・飛躍のバネになるか?
ファーウエイ失速の隙をついてサムスンが漁夫の利を得て開発の遅れを取り戻せるか・・ただライバルの窮地に喜んでいるうち、ファーウエイが復活したり他のライバルが現れて再びうろたえることになるかはサムスンの能力次第です。
たまたまファーウエイに追いつき追い越されかけただけなのか、サムスンの人材では今までは世界の流れにやっとついて行けたが、この先の開発能力がない・・あと半年〜1年の時間があっても競争参加できないかの問題です。

サムスン頼りで良いか?1

自動車業界全体売り上げが年間7、8%も減れば、株価大幅下落材料でしょう・・自動車系韓国代表企業である現代自動車だけで見ると9、3%減と大幅ですし、27日のデータでは営業利益率も激減状態ですが株価大幅安のニュースを見かけないのが不思議です。
ちなみに米中対決の結果、世界経済大激震といっても、最大の悪影響を受ける中国に与えるマイナス影響が1%か?という予測が出ていますが、この程度で世界中が大騒ぎです。
たとえば以下の予測です。
https://www.msn.com/ja-jp/news/money/
ダイヤモンド編集部,竹田孝洋
2019/05/09 06:00

米中貿易の25%関税、「全面対決」なら中国の成長率は1%低下する

上記に比較すれば雇用創出力の大きい自動車生産業界が、7、8%もの生産減であれば、本来大騒ぎになっても良い規模です。
韓国では問題の根源がニュースにならないものの、国内は大学新卒の就職難で大変だし、家計負債増加が激しく徳政令が次々と出る状態が続いている様子です。
18年までの販売縮小の流れと違って、19年にはいってから国内車の売れ行きだけが伸びているのは不思議です。
製品の品質・競争力向上ならば、国外でも伸びるはずなのに国外減少傾向が続いているのですから、昨年来の低迷危機感による政府の景気テコ入れ策が効いたのかもしれません。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61617?site=nli

韓国の経済成長率がマイナス0.3%に(速報)10年ぶりの最低値を記録
生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
韓国銀行が4月25日に発表した「2019年第1四半期実質国内総生産(GDP)速報」によると、2019年第1四半期の経済成長率は対前期比マイナス 0.3%と、世界金融危機だった2008年第4四半期の経済成長率がマイナス3.3%になった以降、およそ10年ぶりの最低値を記録した。
民間および政府の消費支出は対前期比それぞれ0.1%と0.3%ずつ増加したものの、輸出は半導体をはじめとする主力製品の不振が続いた結果2.6%も減少し、さらに設備投資は10.8%も減少した。

May 6, 2019,「家計債務膨張3(韓国15)」で貿易黒字を紹介した時に、貿易黒字というのは輸出が増えて景気が良い場合もあるが輸出が減っても国内消費・内需がそれ以上減ったことで黒字になることがあるという前提の意見を書きましたが、韓国代表企業・・現代自動車の連続業績低迷・他産業も似たようなものでしょうから、ついにGDPにその結果が出ました。
今まで韓国代表企業である現代自動車の業績推移・・低迷を見てきたように、韓国経済は日本をコケにしたことによって何となく成長限界が来たようです。
財政出動・・補助金等で国内景気維持→売上げが持ち直している→国外で売れなくなっているのでは、韓国人にとっては将来が不安でしょう。
ただしこれらは造船業界の破綻に始まる20世紀型産業の衰退であり、新たにサムスンに代表される電子系産業が躍進している(特に米中対決でサムスンは漁夫の利を占める?期待がある)ので韓国は大丈夫という見方もあるでしょう。
しかし上記日生基礎研究所のレポートには以下のような指摘があります。

半導体メモリー分野ではサムスン電子とSKハイニックスが健在し、韓国企業の世界シェアはDRAMが70%以上、NANDフラッシュメモリーが40%以上を占めている。しかしながら、非メモリー半導体分野における韓国企業のシェアは3~4%で、世界1位の米国(60~70%)はもちろん、ヨーロッパや台湾にもおされている。
半導体メモリーがデータを記憶して保存する機能があることに比べて、非メモリー半導体はデータを処理して演算・制御する機能を持っている。従って、今後各国政府が自律走行、AIなど第4次産業革命をさらに推進することを考慮すると、半導体メモリーより非メモリー半導体の成長可能性が高いと言える。サムスン電子は非メモリー半導体分野での劣勢を乗り越えるために、今年の4月に、2030年前までに非メモリー半導体分野に133兆ウォン(約13兆円)を投資すると発表した。

上記によると、今後の成長分野である非メモリ半導体シェアーがわずか3〜4%に過ぎない弱点が指摘されています。
資金投入さえすれば成功するならば、大企業は勝ち続けるはずですが、そうは行かないのが現実です。
非メモリ半導体関連をもう少し見ておきます。
http://mottokorea.com/mottoKoreaW/KoreaNow_list.do?bbsBasketType=R&seq=83058

韓国半導体の弱点…非メモリ市場、シェアわずか4%
サムスン、非メモリ部門に133兆投資
市場調査会社のIHSによると、中国の非メモリ市場でのシェアは2013年の3.1%から昨年は5%に、5年のあいだに1.9%ポイント跳躍するあいだに、韓国国内メーカーのシェアは6.3%から4.1%に、むしろ2.2%ポイント下落した。韓国が「半導体強国」と自負するが、しかし実際に考えてみれば「メモリ大国」にとどまっているという指摘だ。
非メモリ半導体産業にはファウンドリ(受託生産)とファブレス(設計専門企業)、モバイルアプリケーションプロセッサ(AP)、イメージセンサーなどが含まれる。
しかし、ファブレスの競争力は米国と日本はもちろん、中国にも遅れている状況だ。ファブレスは韓国が競争力を持つメモリー半導体とは性格が全く異なる。メモリー半導体は大規模な設備投資が必要なデバイス産業の特性を持っている一方で、ファブレスは創造的な回路設計能力が要求される。
ICインサイツによると、米インテルや米クアルコムなどを保有している米国は、2010年以降はずっと70%に近いシェアを維持しており、中国は2010年に5%から昨年は13%に8年間で3倍近くにシェアを引き上げた。

売上げ基準では世界のファブレス企業の上位10社のうちの2社が中国企業だが、韓国企業は上位50社に入ったところが1社に過ぎないほど規模は零細だ。韓国最大のファブレス企業であるLGシリコンワークスは昨年、7918億ウォンの売り上げを記録するにとどまった。それすらもこれまで着実に製品を発売してきたイメージセンサー部門で比較的善戦しているだけだ。
市場調査会社のIHSマークィットによると、昨年のイメージセンサー市場でサムスン電子は売上げ基準で19.6%の市場シェアを示し、日本のソニー(49.9%)に次いで2位に上がったと推定される。

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