アメリカンファーストとは?4(取引外交の限界1)

アメリカの通商政策は,クリントン政権〜ブッシュ〜オバマ政権と連続した保護主義強化の流れ(アメリカ経済の実際的落ち込みを背景にする)を受けているものであって、トランプ氏はこれを(手順を践まずに)乱暴・品なく言い表しているだけの違いです。
欧米の人権思想・自由平等主義と言っても、生産方式の近代化と関係していることを1月21日に書きましたが,欧米の自由平等の人権尊重のかけ声は,産業革命で先行した優位性を最大限発揮するための主張に過ぎなかったコトがアメリカの身勝手な保護主義の歴史を見ても明らかです。
欧米がアジア・アフリカ諸国より競争力があるときには自由競争・能力主義が正しいと言って,ドンドン侵略し、植民地支配する名分に人権を使っていただけのことであり、自分が競争に負け始めると相手国を不公正障壁のある国となじって高関税をかけるコトの繰り返しをしてきました。
自分が弱くなると,品質競争で負けているかどうかではなく結果として国際収支黒字国を許さない・・結果的に自国の既成国力の相対的低下防止目的ですから,現状固定の主張に外なりません。
自由競争とは実力に応じて地位も上下する前提です。
スポーツ選手で言えば実力の上下に応じてランキングも上下する、企業も株式市場で日々評価が上下する仕組みですが,結果重視のアメリカ基準によれば企業価値の上がっている企業は不公正なことをしていると認定し課徴金をとることになりますし、練習努力の結果前年より世界ランキングの上がったスポーツ選手は陰で不公正なことしていると認定し処罰してランクアップを認めない社会になります。
アメリカの言い分は自分の地位が下がるのは許せない・相手に輸出自主規制(あるいは相手国のいらないものをもっと多くの輸入)を要求する=相手選手に「負けろ」と要求する八百長試合の強制です。
昨日紹介した論文によると国力低下防止のために競争力向上を目指す・練習に励むのではなく、腕力で阻止する・強権発動主義を既に1970年頃から始めていたのです。
国際競争力維持強化には、このシリーズで書いている民度を上げるのが正攻法ですが、アメリカは戦前大恐慌時から国際競争を切り抜けるために民度を上げる方法については考えもしないで腕力で解決しようとする傾向が今も変わっていません。
逆に新興国台頭に対して、低レベル移民を多く入れて,低賃金競争をして来たから余計苦しくなって来たのです。
民度を上げることに努力しても「アメリカの民度では無理」と観念しているからでしょうか?
今では,アメリカの突出した強みは軍事力と巨大消費市場のみ,・・まさに中国のよって立つ足場と同じです。
この力を利用して市場に参入したいならば,かなり無茶な要求でも聞くしかないだろうと言う立場を前提に何かとイチャモンをつけては金を巻き上げる・・中国同様の恫喝外交がアメリカの基本でした。
これまでは、一応紳士のフリをして「衣の下に鎧を隠していた」(大統領は議会の突き上げを口実に自主規制を要求し,ピープルを煽って日本車をハンマーでぶちこわすテレビ報道をする・・口実をつけて巨額課徴金を凸など)のですが,トランプ氏になると格好つけていると間に合わないほど追いつめられて来た・・アメリカ経済に余裕がなくなったので,トランプ氏は,モロにダンビラを振り回し始めた印象です。
メキシコ国境に高い塀を作るのはアメリカの勝手ですが,その費用を持てと言うのは行き過ぎ・理不尽な強者の横暴です。
1月22日にアメリカは世界の警察官どころか,中国やロシア、トルコなどの地域大国の横暴をアメリカもやりたくなって来た・・仲間入りしたい本音がトランプ旋風の基礎だと書いて来たとおりの展開になって来ました。
アラブの石油でもスエズ運河でも,そこで騒げば世界は放置出来ない・・一時的には大きな効果がありますが,そう言うことをすれば長期の目で見た信用がなくなる点が大きなマイナスです。
だからアラブ石油連盟も石油禁輸の劇薬をその後1回も行使できていません。
中国がレアアースの禁輸をしたり反日暴動を仕組んだことは,そのトキには,溜飲が下がった気がしたでしょうが、その分大きなトラウマになって残って行く筈です。
日ソ不可侵条約違反の侵攻→シベリア連行も日本人は決して口に出しませんが,こういうことやる国と言う日本人のトラウマは数百年単位で消し去ることは不可能です。
ソ連がこれによって得た利益・・樺太・千島占領+奴隷労働強制の利益と数百年単位以上に及ぶ日本人のトラウマとどちらが得かの計算がたたなかったのです。
このマイナスイメージを日本人の心から消し去るには,得た利益の何百倍の努力が必要になる筈です。
ヤクザも1回大声を出して威張れば、その後普通の付き合いをして貰えなくなります。
アメリカは競争力低下に合わせて徐々に地位低下して行くのを素直に受入れるべきですが,地位低下を阻止するために強引なエゴの主張を続けていても、(すぐにはどこのクニもアメリカ打倒とは言えませんが,)その分着実にアメリカの威厳が損なわれて行くのに気が付かないのです。
先進国労働者が職を失って行く現状は,日本の歴史で振り返ると社会安定を重視する徳川政権による永代売買禁止令によって,明治までは農地売買が厳しく禁止されていた(無産者輩出を厳しく制限していたことになります)ことを紹介して来ましたが、明治政府による農地流動化政策によって,独立自営農民・中間層の多くが小作人や都市労働者に没落して行ったときと現在の状況が似ています。
この辺の流れについては,04/10/04「イギリスの囲い込みと我が国の自作農崩壊との相違・農村の窮乏化政策」08/26/09「土地売買の自由化1(永代売買禁止令廃止)」その他のシリーズで紹介して来ました。
明治維新の頃には、都市で新たな産業が勃興していて農地を失って都会に出た人も適応能力のある人は生活に困らなかったので,秩父困民党事件など地元に残った農民だけの散発的騒動で終わり、没落士族中心に各地の不平士族の乱になりましたが,それも線香花火で終わりました。
西欧のラッダイト運動がすぐに落ち着いたのと同じです。
今の先進国は新興国による低賃金競争に曝されて,従来どおり多くの中間労働者を抱え込む余力がなくなりつつあります。
知財等の発達があっても大規模工場縮小後の労働者の受け皿になれない・・力不足ですから、単純低賃金競争に入って行くと失業者が増える一方・・新しい受け皿産業が充分に育っていません。
根本的解決には日本のように個々人が工夫して,良い物を少量生産して行く社会+マルチ技能工を養成して行くしかないでしょう。
この努力を怠って廻りを強圧で押しきろうとするのですから、赤ちゃんが駄々をこねて一時的に自分の意志を通そうとているようなことでは文字どおり一時的線香花火に終わり将来性がありません。
中台関係を例にすれば,トランプ氏が中国を激しくパッシングしてくれてもそれは飽くまでも見返りを求める取引外交である以上、これに喜んで舞い上がるのは危険となります。
パッシングが強ければ強いほどパッシングされる国は交渉に応じるしかなくなると言うより,トランプが何を求めてパッシングして来たのかがすぐに分るので、正面抵抗するよりはトランプ氏の気に入る内容で妥結する方向に動くのが普通です。
過去数十年間ス−パー301条の脅しで世界中のクニが WTO違反だと言いながらも戦うことが出来ず事実上屈服して来た結果(1月26日にウイキペデイアの記事で紹介しました)を見れば明らかです。

アメリカンファーストとは?3(スーパー301条)

アメリカの戦前(大恐慌)戦後からレーガン政権下でのスーパー301条成立以降クリントン〜ブッシュ〜オバマに至る保護主義強化の動きについては、2013年1月の山城秀市氏著の「アメリカの貿易政策と保護主義」と題する論文
http://www.law.nihon-u.ac.jp/publication/pdf/seikei/49_3/13.pdfで詳述されています。
昭和40年頃から,繊維交渉など今のトランプ旋風同様に日本にとって大変だった動きを私が日々ニュース等で見聞きしていてうろ覚えで知っている経過が,そのままの記録として出ているので,事実経過を正確に知りたいお方は上記論文をネット検索して御読み下さい。
かいつまんで書きますと,戦後1960年台半ばからアメリカの貿易赤字が始まると,(70年代に入ってニクソンショックがあり)完全な自由主義から「公正貿易」自由主義と言う名の保護主義へと大きく傾斜して行く様子が紹介されています。
対日繊維交渉・または鉄鋼輸出から始まった各種の自主規制の強制・・一定率(2〜3%)以上の輸出増加を認めない・・一方で一定率の自主輸入を強制する・・一定以上の黒字発生の結果を基準に課徴金を掛けたり「不公正貿易国」と認定する仕組みの始まりです。
トランプ氏の強迫・・不公正貿易国の認定を黒字の結果に求めるやり方は、徐々に強化されていましたが,これが法的に完成したのが,88年に成立したスーパー301条です。
この枠組みが完成した結果、歴代大統領が「不公正」と言う名の保護主義・相手国パッシングの道具に使って来たた流れをトランプ氏が露骨に表現したもので、彼が突然言い出したことではありません。
元々スーパー301条で重要な役割りを果たすUSTR成立の歴史を見ると、ケネデイ政権で日本の「令外の官」的位置づけ・・国際的通商拡大のためのプロジェクトチームのような位置づけで設立されたものです。
その後ベトナム戦争による赤字拡大の結果、60年代半ば以降赤字が発生するようになると,「不公正貿易阻止」と称して対米黒字国相手に輸入制限目的交渉の役割が中心になって行き・・アメリカ国内政治の利害に直結する重要な役割にとなって議会公認・・法律上の正式機関に成長して来た歴史です。
アメリカ一強のときに貿易推進のためのチームから始まったものが、あっという間に真逆の保護貿易方向の運動体・・法律上の重要機関・・輸入制限のためのみに機能する政府機関が出来たことになります。
保護貿易とは,文字どおり後進国に先進国の製品が怒濤のように入って来ると後進国が自国産業を育てるヒマがなくなるので,自国産業育成保護のためにあるもので国際的にも正統性を認められています。
先進国が国際競争力のなくなった企業を温存するためにあるものではありません。
最強国と自称するアメリカがこれをやるのは後ろめたいので,相手国を不公正競争国と勝手に認定して逆に相手の進んだ産業を潰してしまおうとするものです。
第二次世界大戦では,アメリカの方が国際法違反していたのに、逆に日本人を戦犯裁判したのと同じ行動原理です。
日本で言えば通産省と別に黒子役の輸入制限目的だけで活躍する省が公式に出来たのです。
アメリカにとっては通商政策の方向性が輸出拡大よりは輸入制限をどうするかが多くのウエートを占めるようになったと言うことでしょう。
今朝の日経新聞朝刊にはフォードの動きが紹介されていました。
勿論真偽は不明ですが,曰くフォードはアメリカ国内でもピックアップトラックしか売れていない・・このために一般のクルマの関税率は10%であるが,ピックアップトラックだけ20%に維持している//これがTPPで関税が下がるとフォードにとって死活問題なのでTPP反対で必死に政権にすがっていると言う筋書きでした。
これがフォード+トランプのクルマ産業に対する大きな筋書きと言う推測記事です。
この真偽は別としてアメリカは国内企業の競争力強化段階が終わって,如何にして外国の強い企業の輸入規制で生き残るかが国内重要テーマになっている現状が分ります。
アメリカは表向き対共産圏競争のために自由競争の旗手を任じていましたが足元では着々と保護主義に向けてきりけていた・・輸出促進政策から輸入規制政策に70年代から舵が切り変わっているのです。
それでも70〜80年代にはまだ余力があったので,個別業界の輸入制限の要望・突き上げを、受けやすい議会(地元議員の利害)の保護主義圧力によると言う表向きの立場で処理していました。
アメリカの身勝手乱暴な保護主義政策が第二次世界大戦に至った反省から戦後ガット等の世界ルールが始まった経緯をふまえ、相手国との親善その他総合判断(対共産圏対策もあって)で大統領がいわゆる「制裁」には慎重姿勢で簡単に動かないのが原則的パターンでした。
これに対する議会側の法的強制装置として通商法301条が議会通過→大統領の拒否権などの応酬、・・多分これも対外パフォーマンス・・政治駆け引きを経てレーガン大統領の時に現行の強力すぎると言う意味の「スーパー」301条が成立したものです。
レーガンのドル高政策は経済原理で言えばアメリカの国際競争力低下の促進とセット(歩競争力低下に合わせてドル安になって行くのが経済原理なのに,逆張り政策です)ですから,言わば矛盾を抱えていた・・その分国内企業の突き上げ・・輸入規制を求める動きが厳しかったと思われます。
国際収支の調整は,本来為替相場の自由変動制によって,解決される筈ですが,レーガンはアメリカの威信・ドル高政策にこだわる・・輸入が増えて国内企業は持たない矛盾激化の象徴がレーガン大統領政権時のスーパー301条の成立でした。
ドル高政策で競争力が落ちる分を腕力で輸入規制する無茶・・超法規的立法だからスーパーと言う異名がついたと思われます。
でした。
無茶は続かないのですが,ソ連を叩き潰すまでの戦時特別法的性格・一時的制度のつもり(・・2年間の時限立法でした)だったかも知れません。
トランプ氏当選以降のドル高進行が弱小国から資金流出を招き経済崩壊を招くリスクがあることから分るように,ドル高政策は自国企業の競争条件としては不利ではあるものの、旧ソ連圏を破綻させる強力な武器でしたし・実際に成功しソ連崩壊を招きました。
ドル高政策のもたらす国内企業に対する不利の緩和政策・・ソ連経済崩壊させるまでの我慢ですから,2年程度の時限立法は合理的でしたし、同盟国にも説明のつく制度でした。
ソ連崩壊後(日本に遠慮がいらなくなったので?急激な円高政策・・対日ドル安政策)に転じたにも拘らずアメリカの恒常的競争力低下が止まらないので、これを緩和するために301条の精神?を延長?して現在に生き延びて来たようです。
「スーパー301条の復活」でウイキペデイアを見ると以下のとおりです。
「スーパー301条の復活
このスーパー301条は、前述のとおり1989、1990年限りのものであったが、1994年3月3日、アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンは、このスーパー301条手続きとほぼ同等の内容の行政命令を発出した。これは、通常スーパー301条を復活させる行政命令と呼ばれているが、厳密には法律の規定を行政命令で変更はできず(特にこの旨が授権されている場合はともかく)、この行政命令は、議会が法律によりUSTRに義務付けたものと同様の内容を、アメリカ合衆国大統領が、行政の最高責任者の権限でUSTRに命令しているものである。」
議会突き上げに対する大統領の抵抗排除目的の「スーパー」法でしたので、原則的に大統領府は自由貿易を守る旗印を掲げたままで謙抑的運用をして来た(表向きの)印象でした・・。
外交的には、内部突き上げが厳しいので・・と言う外交辞令に利用して来たのですが、クリントン大統領が議会の承認のいらない大統領令に署名したのですから本音が出たと言えます。
従来は議会の保護主義圧力を受けて大統領が対象国と大ごとにならないように交渉する表向きのパターンであったのが、トランプ氏は(就任したばかりですから)調査結果もなく個人的見解・直感で?大統領自ら特定国を名指し批判する点で異例であると言うよりも露骨すぎるやり方です。
昨日から書いているように元々不公正基準をアメリカが勝手に決めるものですから,調査してもそのときの権力の意向に合わせた基準で調査すれば結果は同じ・・中国のえせ法定手続採用同様です。
もともと、クリントン政権では議会の要求によるのではなく大統領が職権・行政命令でスーパー301条を復活させた以降は,ほぼ100%茶番劇に堕していました。
トランプ氏はそう言う茶番劇を棄てて、本音で「品なく」ズバリ言って来ただけの違いです。

アメリカンファーストとは?2(身勝手宣言)

トランプ新大統領の主張は,自国の競争力(民度)を無視した剥き出しの結果重視主義ですから,言わば能力主義の旗を降ろしたことになります。
自由主義社会とは日々の競争を通じて日々ランキングが変わって行く社会のことですが,自由な競争の結果勝った・黒字が出たら不公正貿易国認定し高関税を掛ける・・それがイヤなら自主規制,または「一定率の輸入を増やせ」と強制するのですから,これでは現状固定主義と言うしかありません。
このやり方は、「能力のある国や企業の挑戦・台頭を許さない」と言う意思表示とほぼ同じです。
自由平等の基本的人権思想は、能力面の自由競争を保証し、その結果生じるランキングの上下変動・能力に応じた出世や降格・淘汰を認める社会をめざすものです。
これを国家や企業に適用するのが市場経済主義であって、売り上げが伸びた結果だけ見てその企業を不公正企業と認定して課徴金や高関税を課し、企業利益や規模アップを抑止するのでは、能力主義の禁止または大幅抑制主義になります。
能力を伸ばさせない・・企業の浮沈を抑制し、過去の実績を基準にする=現状の国力・生産力固定主義=能力に関係なく家禄は一定だった江戸時代の世襲制の焼き直しになってしまいそうです。
アメリカは国家間競争だけ儲けを基準に制限しようとするものですが,この論理を国内にも及ぼせば,個人や企業が儲けが大きいと「お前は不公正競争しているに違いない」と言って,取り締まるのと同じです。
「国内ではそんなひどいことしませんよ!」と言うならば,何故「外国相手なら何をしても良いと」言えるのかが問われねばなりません。
欧米の言う人権や正義は市民・支配層間だけのことであったし,これを国民全部・ピープルに及ぼした現代でも、「外国人・異民族に対しては何をしても良い」という意識が強いから,(対日戦争では,一般人の大量殺戮を繰り返しました)国内外でためらいなく基準を変えられるのでしょうか?
ところでトランプ氏個人批判が強いので誤摩化されますが,この種の主張はオバマ政権でも既に出ていて,一定率以上の国際収支黒字国を為替操作国と認定する基準を発表し,その対象に日本が入ると発表されていました。
ウイキペデイアによると以下のとおりです。
「為替操作国(かわせそうさこく)とは、アメリカ財務省が提出する為替政策報告書に基づき、アメリカ議会が為替相場を不当操作していると認定した対象国。
アメリカ財務省は、1988年から毎年2回議会に対して為替政策報告書を提出している。
2016年4月29日にはアメリカ財務省は為替介入を牽制するために為替監視リストを発表し、中国・台湾・韓国・日本・ドイツの5カ国が監視対象となった」
上記には監視対象国基準を書いていませんが、以下のロイターの記事のとおり当時の報道には,黒字額を基準にしていると報道されていました。
Business | 2016年 04月 30日 06:40 JS
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「米為替報告、日中独など大幅な黒字国5カ国を監視リストに」
上記のとおり不公正の監視対象国指定根拠は単に黒字が大きいか否かだけですから、大幅な黒字国の発生を許さない→将来黒字国の国力上昇の芽を摘む・・国力変動を認めない意思表示となります。
競争にはルールが必要ですから不公正競争が許されないのは当然ですが、何が不公正かを誰がどのように決めるべきかとなれば、国内の基準(・・例えば不正競争防止法など)はその国で決める・・主権の範囲内でしょうが、国家間の取引ルールの基準は国際合意で決めていくべきが当然です。
国内基準であっても,議会や相応の審議会などの議を経ないで権力者がイキナリ「鶴の一声」で決めるとなれば専制支配と同じです。
国際関係について、ある国が一方的に基準を作り他国に強制するのは、国内的に見れば独裁手法を取っているのと同様の評価を受けるべきでしょう。
不公正貿易に関する国際合意機構であるガットやこれを継承したWTOなどの国際合意システムが戦後発達して来たのは,強国(アメリカ)の横暴が第二次世界大戦の原因になってしまった反省から,これを許さないと言う国際意識の高まりによります。
折角営々と築いて来た国際合意をアメリカが無視して、どのクニを不公正貿易国と認定するかは、アメリカ政府のサジ加減・・黒字率を何%にするかの決め方次第でやって行くと言う横暴な宣言がトランプ氏の発表です。
中国で存続して来た専制支配の宣言とどう違うのでしょうか?
このような考え方の基礎になっているいわゆるスーパー301条に関する日本大百科全書(ニッポニカ)の解説スーパー301条 – Wikipediaの解説です。
「アメリカで制定された「1988年包括通商・競争力法」の条項の一つ。不公正な貿易政策をとる国を特定し、制裁措置を振りかざしながら譲歩を迫るための手続を定めている。具体的には、アメリカ通商代表部(USTR)がアメリカ製品の輸出を妨げている国と政策を特定し、それを改めるよう交渉し、交渉後一定期間内に満足できる成果が得られない場合は、関税引上げなどの報復措置がとられる。
 このような一方的な措置は、世界の貿易ルールを定めた世界貿易機関(WTO)協定の精神に違反していると国際的に強く批判されているが、アメリカ市場は巨大であり、理不尽と考えても交渉や譲歩を拒み続けられる相手国は少ない。」
今はスーパー301条が有名ですからこの時からアメリカの無茶が始まったかのように誤解している人が多いでしょうが、アメリカの身勝手な保護主義の動きは戦前から続いています。
大恐慌発生による不況脱出のためアメリカが高関税の口火を切って,西欧やカナダから直ちに報復関税を受けるなど(・・この関税強化戦争が第二次世界大戦の原因になったことは良く知られているとおりです)国際経済はガタガタになりました。
アメリカは元々社会的練度の低いクニですから、何かあるとすぐにショックを受けてしまい短絡的行動に走り易い・・極端な保護主義に走り易いクニであったことが分ります。
こうした我がまま主義ををモンロー主義とか孤立主義などとオブラートに包んで表現するので、私のような素人には気が付きませんでしたが,図体の大きなアメリカが自分が強いときには自由貿易の旗振りをしていて競争に負け始めると閉じこもり宣言・・図体が大きいので廻りが放っておけないことを良いことにわがまま放題やって来た歴史が分ります。
無茶であろうとも図体が大きくなりすぎているので国際ルール破りを除外する訳にはいかない・ボイコット=経済的に見ればイキナリ国際物流の断ち切り宣言ですから,廻りの迷惑は計り知れません。
日本で言えば対米貿易が数十%もありますから,お互いに相手にしないとなれば日本にとって大打撃です。
その上日本からの他国への輸出入もアメリカが絡んでいることが多いので,世界中がアメリカとの貿易を拒否すると世界の物流が大混乱します。
地域的に見ればスエズ運河が止まると大変なので,廻りが放っておけないのと同じです。
アメリカがいくら無茶しても世界中がこれをを拒否し貿易から除外出来ない所以です。

アメリカンファーストとは?1

世上若者の留学や移民願望が少ない・・「元気がないのが心配」と言う尤もらしい意見がマスコミに多い(・・韓国の移民願望が素晴らしいと言う意味でしょうか?)ですが、生活に困ったり精神的圧迫のきついクニから豊かで精神的にもゆとりのある魅力のある国に人が集まるのが普通・・逆にクニから逃げ出したい人が減るのは当然です。
マスコミが頻りにUターン奨励・・如何に素晴らしいかの記事をしょっ中出しますが、豊かな東京から仕事のない地方に移住したい人が少ないのは,若者が海外に行きたがらないのは元気がないから・・と言う実態無視のマスコミ意見と平仄があっています。
対日投資が少ないのを魅力がないからだと心配する経済記事も多いですが,金あまりの日本は対外投資をする国であって,外国から投資してもらわないと資金不足になるクニではありません。
昨年の対露交渉を見ても,焦点が日本企業の対露投資をどれだけ増やすか(国内の心配は投資だけ食い逃げされてしまわないかの心配論が中心でした)が日本の交渉材料であったことを見ても分るでしょう。
日露平和条約が仮に成立しても,ロシアによる対日投資・資本流入を期待している人がどれだけいるでしょうか?
資本も労働力も芸術家の集まるクニも、いずれも需要供給の関係で決まる原理は変わりません。
中国人はクーリーとして最下層に入って行き、フィリッピン人はメードや看護婦として入って行きますが,韓国で売春婦輸出が盛んですし、ロシア人の売春婦輸出も盛んです。
それぞれ民族別に売り物・・能力・適材に応じた国際人材展開をしているとすれば、輸出産業が資源に頼っているか売春婦に頼るかなどの現状から国民レベルが分るし貧困度合いも分かります。
中国人のしたたかさと言うよりも,良いものを作れないとしてもそれなりに最低の力仕事に従事する(苦力と言う熟語が示しています)程度の一定の勤勉さをもっていることが分かりますし、韓国・ロシア人にはそこまでの下積み労働能力も身に付いていないので、最低労働能力すら不要の売春婦の出稼ぎに頼るしかないと言うことでしょうか。
我が国3k職場で見ても中国からの実習生が韓国系よりは多い印象です。
ロシアの売春婦の世界進出増加はソ連崩壊後の平均寿命急低下と平行しています。
売春婦は最古の職業と言われますが、我が国でも江戸時代あるいは昭和恐慌時に農村部が売春婦の供給源だったように、近代的職業能力・訓練不要・・手っ取り早い職業(収入源)です。
ロシアは資源大国ではあるものの近代職業能力・民度レベルでは国際競争力がない・・売春婦輸出が有力外貨獲得源になっている現状を表しています。
現在トランプ氏がロシア売春婦とのスキャンダルでプーチンに脅かされていると言う情報が(真偽を巡って)駆け巡っていますが,国際交渉においても有力な武器として利用するクニです。
信頼性は別としてウイキペデイア「韓国の売春婦」の記事によれば、以下のとおりです。
「1989年のYMCAの調査では、売春女性の数は、15~29歳の女性620万人の約1/5に当る120万~150万人にもなり、売春業の年間総売上高は国民総生産(GNP)の5%に当る4兆ウォンを超えるという報告が出ている[5]。
韓国の男性の相当数は「買春は社会生活の一部」と考えており、女性家族部がソウル大学女性研究所に依頼して実施した2010年性売買実態調査によると、買春経験者は49%で、買春回数は8.2回だった[6]。」
アメリカは勢いが衰えたと言うだけで食って行けないから国外脱出するとか,外国に売春に出掛けるほど落ちぶれていません。
海外脱出の必要まではないが競争相手が「入って来て白人の職を奪うのは困る」と言う前段階の状態ですから、イギリスの移民反対同様の不満です。
19世紀頃に中国人相手に職を奪われると騒動を起こして2級市民と言う区分をつくって解決したような状態ですが、今ではいくらなんでも人種差別法を作ることが出来ません。
さしあたり「アメリカンファースト」と言う標語で誤摩化していますが,選挙戦で最初に言っていたこと・移民排斥・追い出しが本音でしょうし、その先は言えないにしても「白人ファースト」が口に出せない本音です。
白人中間層の支持が圧倒的になっているのは、この本音に共鳴しているものと思われます。
「アメリカンファースト」と言っても「人民ファースト」ではありません。
彼の本音は人民の中の白人ファーストにあるからです。
移民によって建国されたアメリカで新参者拒否・移民排斥では、数千年単位で苦楽を共にして来た民族共同体意識の裏付けがありません。
差をつけるには,先着順・・10年前〜20年前・・どこで切るか難し過ぎて無理がありますが,白人か否かの基準ならば千年単位の紐帯を基準に出来て簡単なので,アメリカでは人種差別が西洋よりも厳しくいつまでも残った原因です。
EUのトルコ加入申請に対するあれこれの嫌がらせを見れば分るように要は,異教徒はイヤと言うことでしょうが,信教の自由を建国理念として独立したアメリカでは,そこまで本音を言えなかったので、白人ファーストと言う人種差別を隠れ蓑にして来たのでしょう。
欧米主宰の国際条約(オリンピックを含めて)は、本音としてキリスト教徒間の合意であってこれを異教徒にどこまで準用(・・おこぼれ・・オブザーバー参加資格を与えるか?)するかと言う関心で運用されて来た・・私はこの関心でウエストファーリア条約以降の国際合意の歴史を書いている途中です。
(いわゆるサミットだって欧米の首脳会議に日本も参加させてやるから有り難いと思えと言う意識が濃厚です・・平忠盛が武人でありながら昇殿を許された故事が想起されます)
アメリカの歴史を見ると、人種差別騒動が起きる原因はいつも職を奪われる不満に端を発していますが,これを言うと奪われる方が、怠け者または能力が低い・競争に負けていることを自白するようになるので奪われる底辺層はいつも中国人差別、日本人迫害など人種差別に持って行ったようにも見えます。
アメリカでは伝統的に人種差別意識が激しいように見えますが,先住移民の労働能力(3kに耐えられるかも含め)が低いから後から来る移民に対する反撥が激しくなる→これを簡略化する運動が人種差別運動になって来たものと思われます。
白人とアジア人の差別・・苦力に対するように「2級市民」制度復活ならば,西洋で一緒にやって来た・・白人同士の長年の紐帯を基準に出来ましたが,今の時代・人種差別をいくらトランプ氏でも正面から主張出来ない様子です。
19世紀に「キリスト教徒以外ダメ」と言えなくなっていたのと同様に、21世紀の今では,白人以外はダメ・・「2級市民権にしろ」とは言えません。
共和党候補指名選挙中に言っていた対テロ対策を名目にしたアラブ人差別が言えなくなると、先着順・・10〜20年前に来た人と最近来た人と差別しろ・・「既得権を守れ」と変えたいのでしょうが、それでは、20年経過と21年経過の1年だけの差でで何故大きな差別できるのか不明で、自分勝手な損得の利害だけですから,エゴ剥き出しの主張と受け取られます。
そこでトランプ氏は「不法入国移民だけ」とか「犯罪者だけ」とトーンダウンして来たように見えます。
ただ,既に充分な底辺労働者が入ってしまったので,この程度の移民追い出し・しかも言うだけで(見せしめ的に数人〜数十人摘発したとしても)実効性は難しいでしょうから,国内労働需給は締まりません。
そこで当選後始めたキャンペインは,輸入高関税・輸入にとられている国内需要の穴埋め策=国内生産回復策です。
就任式までは個別企業恫喝を繰り返しましたが,1月20日の就任式以降は,日本との貿易不均衡は不公正だと言うマクロの主張に転じました。

アングロ・アメリカンルール2(和魂洋才)

アメリカや中国・韓国その他世界中が、大きな声で叫び続ければ勝ちみたいな価値観で生きているので、我が国だけが黙って我慢して「諸外国の公正と信義」を信じて生きて行くのは大変辛いものですが、日本人は普遍の正義(神のさばき)を信じて生きて行くしかありません。
レベルの低い人と一緒になって言い合いするのって日本の価値観から言えば自分のレベルを下げるだけです。
とは言え罵りあい程度なら黙って耐えていれば良いのですが、侵略されるとなれば別ですから、明治以降必死に軍備増強に努めていたのですが、敗戦を機会に本来の日本の価値観に戻るから(侵略戦争であったと非難するならば・・)諸国民も道義に基づいた行動をして欲しいという(皮肉)です。
憲法に「公正と信義」を書いたのは、敗戦時の特異な精神状況化で一時の興奮で書いたものではなく、明治まで持っていた我が国固有の価値観をこのときこそ闡明した(獰猛な欧米諸国も道議に従って欲しいと皮肉った)ものと言うべきでしょう。
幸い戦後現在までアメリカの庇護下にあったので日本は欧米の獰猛な侵略から逃れるための軍備が不要になりました。
「窮鳥懐に入らば猟師もこれを射たず」の実践でアメリカの懐に入ってしまったのです。
その代わりアメリカの許容する範囲であれば韓国も中国もやりたい放題やれますから、李承晩ラインを勝手に引いて竹島を占領したり、近年始まった尖閣諸島問題は中国の発展に応じてアメリカ離れを始めた日本に対する威嚇として裏でアメリカが糸を引いて日中韓の離間策を講じていると見るべきでしょう。
湾岸戦争もフセイン大統領がクエート進行をアメリカに内々打診したらアメリカは問題にしないような信号を出したのでフセインが侵攻を始めたものでしたが、やってみるとイキナリこれを口実にアメリカの攻撃を受けてしまったものでした。
今の世界ではどこの国でも何かするときにはアメリカ政界に根回ししてどの程度まで許容されるか打診してから始めるのが普通です。
例えば我が国のドル売り介入程度の行為でさえ秘密・その国の専権とは言え、アメリカから積極的な協力・賛意は得られないまでもどの程度まで許容されるかなど何の打診もなしでやれるものではありません。
いろんな国際行為にはいわゆる根回しが必要ですが、軍事行動となればアメリカを中心とする世界主要国の対応を内々打診してから行動するのが必須です。
まして、アメリカの事実上の統治下にあった朝鮮戦争中・直後の韓国が李承晩ラインを設定し竹島占領の実力行使をするのに、アメリカの意向を無視してやれる訳がありません。
日韓間の恒久的反感醸成に効力があると見たアメリカが内々ゴーサイン(どころか教唆)を出していたのは間違いがないでしょう。
尖閣諸島問題、南沙諸島問題もアメリカの反応に対する打診抜きで中国が実力行使に踏み切っているとは到底思えません。
この種の世界政治でははっきり意見を言わないのが普通ですが、「それは中国の問題で我が国は関係ありません・・」程度の「お勧めメニュー」を提示していたので中国は強気に出たら、国際的な総スカンを食って困っているところでしょう。
湾岸戦争のフセイン大統領同様に中国を陥れるアメリカの策略に中国が簡単にのってしまったのです。
明治維新以降、植民地にされないように、英米・〜米英の獰猛な価値観に仕方なしに参加して来たが、憲法前文は「諸国民の公正と信義」を信頼して本来の日本固有の価値観に戻ると宣言したものです。
以下、憲法前文からの引用です。

憲法前文(昭和21・11・3・公布 昭和22・5・3・施行)

「・・・・日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

・・・われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」

上記のように「誓」ったものの、国際政治は黙って耐えていればとおるような甘いものではありません。
韓国や中国に言いたい放題言われて辛いことは辛い(李承晩ラインや竹島占領なども黙ってきました)ですが、日本が何も主張せずに黙々と国際貢献して来た戦後60年以上の実績、個々の国民の誠実な人柄が、今や世界中でじわじわと信用されるようになっているのも事実です。
(アフガンでもイラクでもイランでも日本の信用は絶大ですよ・・)アフガンゲリラ事件が起きて日本人が被害にあったときにわざわざゲリラ側が日本人を巻き込んだことを詫びる声明を出していましたがそうした信用があります。
まさに憲法の理念が現実化・・大きな声で主張したり暴力に訴える方が恥ずかしいという我が国の作法が世界の紳士淑女の間では浸透しつつあるように見えます。
話がそれましたが、世界制覇している米英流経済活動に参加するしかないとしても、ひどことはひどいことですから、韓国のように、骨の髄までその気になる必要はありません。
我が国は付き合いで参加するとしてもそれは飽くまで方便であるべきで、和魂精神・同胞意識に裏打ちされた緩和策が必要です。
中途半端な市場経済化であっても妥協策である以上、国民にとっては当然不満でしょうし、企業から見ても国際水準にズバリ合わせれない点が不満でしょうが、妥協策とはそう言うものです。
妥協がイヤだとして労働側の主張が強まり生産性以上の高賃金で高止まりしていると、3月3日「デフレと不人気政治」に書いたように、企業には海外移転の逃げ道があるので産業空洞化=大量失業で日本経済は大変なことになります。
3月3日の日経新聞朝刊では、(この辺りの基本文章はこの頃に書いてあったことになります)パナソニックが太陽光発電の変換率を世界最高の24%にするメドを付けたと大きく報じられていましたが、その生産工場はマレーシアに設置するとのさりげない記事になっていました。
パナソニックの巨額赤字転落には日本中でショックを受けたばかりですが、仮に新製品で巻き返して利益面で復活しても国内工場が縮小・廃止して海外生産中心・・逆輸入になれば、国内空洞化・・労働需要の減少は止まりません。
1ヶ月ほど前の記事では本田も九州工場で作っている2輪車を全量海外に移管し国内に逆輸入する計画が発表されていました。

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