格差社会2(職務発明と労働分配率)

国全体のGDP・付加価値を合計して・・総人件費との比率・・労働分配率が下がった(上がっている場合にはトンと話題になりませんが・・)などと言う抽象的批判さえ言えば、片が付く時代ではありません。
平和主義と言いさえすれば、平和が維持できるものではないのと同じです。
ある企業内で考えても、発光ダイオード事件の報酬が低過ぎると裁判になりましたが、・・あるいはノーベル賞受賞した田中氏の例見ても分るように、世界展開する先進国企業では、貿易黒字よりも所得収支黒字が中心になっていることと比例して国内的に見ても今や現場労働の比重が低く、研究開発部門・知財を生み出す比重が高くなっています。
こういう人の高収入をやっかむ必要がない・・伸びる人や分野はどんどん伸ばしてやるべきです。
いわゆる職務発明の対価が会計上どう言う分類になっているのか知りませんが、労働対価であれば請負のように成果に関係ない筈ですから、・職務発明対価は研究成果によるのですから、人件費と言うよりも、発明の対価(特許権は発明者に原始的に帰属する→権利譲渡)ですから、企業にとっては土地代金のような譲り受けのコストであり人件費にはならないでしょう。
この種の人の受ける報酬がいくら増加しても労働分配率が上がるどころか(企業の総コストが一定であれば人件費率が下がります)逆に下がる仕組み・・高額報酬が労働分配率を計算する際の人件費から抜け出しているのです。
http://www3.grips.ac.jp/~ip/pdf/paper2004/MJI04055goto.pdf
「職務発明の「相当の対価」の法的性格と算定方法について」平成17年2月
 後藤 信之(MJI04055)
1はじめに 本論文の目的
「・・・発明の権利は従業者に原始的に帰属するという前提(発明者主義)の下で、無償の通常実施権を使用者等に与えると共に、特許を受ける権利や専用実施権の設定権を事前の取り決めによって一方的に使用者が得られる代わりに、その対価を従業者に支払わなくてはならない旨 35 条で定めている・・」
(3)「相当の対価」を巡る論点
①青色発光ダイオード事件(2004.1.30東京地裁判決)(稲垣注→200億円)
本件は、東京高裁の勧告により平成17年1月11日に、支払額約8億4,400万円(発明の対価は6億857万円、遅延損害金(利息)を含む)で和解が成立した。
②光ディスク事件
日立製作所元従業員が光ディスク読み取り機構の発明に対する対価を
求めて、東京地裁に提訴(要求額は 9 億 7000 万円)。2004 年の2審判決
では 1 億 6500 万円の相当の対価を認めた
③味の素アステルパーム事件
人工甘味料アスパルテームの工業的製法を発明した元研究所長が「相当の対価」を請求。2004年2月24日東京地裁は味の素に約1億 8900万円を支払うよう命じ、原告・被告共に控訴していたが、東京高裁にて1億5000万円で和解が成立した。」
職務発明の問題は生産性引き上げに貢献した人に対する正当な対価が支払われるべきであって、生産性向上に何の寄与もしない労働者が格差反対だけ叫べばいいものではありませんし、労働分配率だけ上がることはあり得ません。
職務発明対価は言わば生産工程合理化のために導入した機械設備のコストと同じで労賃支払いにカウントされない・・労働分配率で言えば分配率を下げる・逆の働きをしています。
このように一見企業内労働者のように見えても、知財の場合には人件費と別の支払い対象になる分野が増えています。
メデイアでも成功して高給取りになるとフリーアナウンサーやコメンテーターなどになって独立していくのが普通でこれは外注費になっていき、労働分配率から外れていきます
アップルで言えばジョブス氏の貢献によって世界中で大規模にスマホが売れましたが、大規模生産が出来たのはジョブズの知恵と中国の労働者が働いたからであって、アメリカの労働者がこれに何らの貢献もしていないでしょう。
アップルの高収益とアメリカ国内の労働分配率を比較して労働分配率が下がったと嘆く経済評論家はこの世にいないと思われます。
格差社会の広がり・・労働分配率の低下があるとしても、社会構造(被雇用者内で高額報酬を得る人〜単純労務に細分化してきた結果、高額報酬を得られる人は人件費扱いではなくなっていく)の変化の結果であって原因ではありません。
金融業と言っても地域金融と国際金融があるように、弁護士にも国際派と地域で弱者救済・・リテールを追求する弁護士など色々あるように・・労働者といっても仕事の工夫をして役に立つ人と立たない人が昔からいます。
私の子供の頃のクラスには、教科書を読めない子もいたなど色んな能力の子供がごっちゃになっていました。
共通項は同学年・同一地域と言うだけでした。
小売店も個人商店中心の玉石混交時代と違い、明治以降デパート等の大型商店が発達し、戦後はスーパー〜コンビニ等になり個人物販店がほぼ消滅状態ですし、飲食店でも個人経営中心からチェーン店化が進んでランクづけがスライス化して来ました。
労働者も学歴が高卒中卒の違い程度でみんなごっちゃに働いて年齢差程度を基準に賃金を貰っていた時代と違い、今では一人一人の能力を査定して能力に応じて分配率が違う社会です。
子供が4〜5十年前から偏差値で分類・輪切りされるようになっていますが、「末端労働者」と一口に言っても労働者になる前からこの振り分けが極度に進んでしまった社会になっています。
期間工や派遣の時給は画一的と見えますが、採用側から言えば大量の対象者を細かくスライスして能力に応じて何千人単位で時給を決めているだけ・・作業効率の工夫を出来る人材は別に処遇しているし、よりもっと高度な工夫・・研究段階になれば、研究員となり院卒・研究者も内部階層化が進んでいます。
役に立つ点を見込まれて一定の出世する人にとどまらず、研究員の場合には、発光ダイオード事件のように何億と別途もらう人が出てきます。
ここまで来ると個人で賃金とは別に対価をもらうので、企業にとっては外注的コストですから労働分配率アップに貢献していません。
ところで、サービス業化が進むと労働対価が低下する傾向があるのは何故でしょうか?
この辺を解明しないまま、単に「労働分配率が下がっている」という教条的主張だけでは解決しません。
似たような傾向の意見では、昨日(27日)の日経新聞大機小機(19p)には、日経平均が民主党政権時代から2、5倍に上がっているが、経済実態とかけ離れていると批判しています。
引用すると以下の通りです。
「..旧民主党政権時代に8000円台で低迷したが今やその2、5倍になっている。・・他方実体経済では様子が異なる。消費もGDPも殆ど増えていない。今後この状態が変わるとも思えない。」
「株価は本来実体経済の今と将来を反映するはずだ。ところが今はこの2つが乖離している。」
続けて内容を読むと日銀や年金基金等による株式購入・・官製相場を懸念するもので、確かに問題がないとは思えませんが、書き出し及び内容のトーンを見ると如何にも現在の株価は実態と乖離し過ぎている・・官製相場で国民を誤魔化しているから将来に禍根を残す悪い政治ではないかという・・印象を受けます。

格差社会1(業種内格差)

勝ち組負け組と比較されて勝ち組に入っているようなイメージの金融業ですが、内部では負け組みの方が多いでしょう。
中小地場産業の衰退により金融業で多くを占める従来型の預金を集めて融資する程度の地銀や信金業態では低金利下では負け組です。
グローバル化について行けない旧来型金融事業者では、地域密着とか言っていますが、結局は小口金融→消費者金融(住宅ローンとカードローン)に活路を見出すしかない状態です。
サラ金に対する総量規制の穴埋め的特需で広がっていた銀行系カードローンも過熱気味=限界になって来ましたし、相続税対策などの勧誘によるアパート建築や住宅ローンの限界がくると金融機関淘汰が始まるでしょう。
格差社会の象徴として反感を持たれているのはグローバル化に成功しているファンドマネージャ−や為替のプロその他の一握りであって地銀や信金等とはまるで違う世界の業種です。
弁護士業界で言えば国際化・・M&Aその他で今風にごっつく稼ぐグループと、これについて行けないその他大勢・法テラス相談→受任や国選事件等の割当を中心としている弱者救済?グル−プに2極化して来ました。
個人事業主の減少によりこれらを顧客にする中間層の弁護士が細ってきたのです。
世上中間層の激減というとホワイトカラーのみ注目されますが、個人商店がスーパーやコンビニに押されてほぼ消滅→その他事業も大手の子会社ばかりで独立系の事業者が減って来たことも重要です。
地域の個人事業者の激減が、中小企業・・中間層を顧客にしてきた地銀・信金の経営基盤が崩壊して困っているように、中小企業とは言っても実は世界中で大手系子会社しか滅多に事業展開出来ない社会になってきたことが、格差・2極化を進めた原因です。
同様に弁護士の政治色激化は、個人事業主系・中間層系の顧客大幅消滅が大きな影響を与えているように見えます。
今や信金並みに地域密着・弱者に優しい視点で生き残るしかないグループが弁護士会の大多数を占める状況で、格差反対・・正義を標榜するしかない結果どんどん先鋭化して行きそうな雰囲気です。
地域的に見ると東京都心からの距離・時間に比例して不動産価格が安い結果、この時間距離に居住者・事業レベルも比例して行く→これらを顧客にする各種の事業内容もこれに制約される傾向があります。
弁護士業務も地域事業者や居住者を顧客とする以上は、地域の顧客分布から逃れることは出来ません・・この結果、若手を中心に弁護士業務も法テラス経由に頼る傾向が出てきました。
我々世代も、最初のうちは、公共団体の法律相談や国選事件等で腕を磨いてから個人事業主等を顧客にするようになって一人前になって独立したものでしたが、今は個人事業主や零細企業が地域からどんどん減って行く結果、法テラス相談から脱皮出来ない若手が多くなって来たようです。
個人事業主を主要顧客とする我々世代が引退すると弁護士業界も2極化(格差拡大)が進むでしょう。
急激な増員の結果、経験10数年前後未満の弁護士が6~7割を占める状況ですから、会内で格差に苦しむ人の比率が急速に高まっています。
生活保護申請を援助しながら明日は自分かも?という危機感がある・・人ごとではなく自分自身の問題になっているのです。
世間では弁護士が偏った政治意見で行動しているという意見が強いようですが、過去10年以上も日弁連会長選挙のたびにより急進的意見を唱える候補者の得票率が埼玉と千葉弁護士会で圧倒的に高い傾向が続いていたのは、都心を軸にした同心円的分布で同じ顧客地盤で働いていることによります。
6月26日日経新聞朝刊13pには、森・浜田松本法律事務所の弁護士がFT弁護士表彰 で部門賞を受賞したと出ています。
VB向けの資金調達方法・・新株発行条件の工夫をした点・・事業が軌道に乗ったら優先株に変換できるアイデア?・・が評価されたようです。
もしかして、この法律事務所内でも下積み的にデータ収集や分析作業に特化している弁護士の方が多数になっている・・同一事務所内格差が大きいかも知れません。
森・浜田松本法律事務所の本日現在のホームページによると以下の通りです。
パートナー(外国法パートナー1名を含む):101名
アソシエイト:233名
客員弁護士等:29名
外国法弁護士等(外国法事務弁護士3名を含む):29名
外国法研究員:1名
この事務所の評判ではなく一般論ですが、大手事務所は毎年大量採用しているにも関わらずそのまま人員増加数にならないのは、(サムスン同様に)その大方が5〜10年以内で(パートナーに昇格出来そうもない人が)吐き出されてしまうからであると言われています。
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/7733404.htmlによれば15年1月現在の採用数と現事務所在籍数は以下の通りです
順位(昨年順位)          (2015年)   (2014年)
1(1) 西村あさひ法律事務所   34人/501人  (25人/473人)
2(2) 森・濱田松本法律事務所  27人/359人  (32人/342人)
3(3)長島・大野・常松法律事務所 30人/321人  (19人/325人)
4(5) TMI総合法律事務所   27人/320人  (26人/294人)
5(4)アンダーソン・毛利・友常法律  22人/310人 (14人/310人)
6(6) シティユーワ法律事務所   6人/128人  ( 3人/126
このように弁護士という專門職業分野でさえも(同一事務所内でも)最先端で活躍するグループとその他に大きな分化が始まっています。 
大手事務所から吐き出されたり初めっから挑戦すら出来ない人は不満でしょうから「格差反対」に走りやすいですが、社会全体で見ればせっかく伸びる分野を叩く必要がありません。
旧来型商法にこだわっているグループに比べて、リスクを恐れずに新たな分野に挑戦するグループは(失敗して消えていく人の方が多いかも知れませんが)その代わり成功すれば一頭地を抜くのは当たり前です。
格差社会とは、鄧小平が改革開放政策採用に際して言ったことは、平等や格差を気にせずに稼げるものから まず走り出せば良いという意味ですから、格差発生を気にしていたら何も新しいことは生まれません。
人の真似できないことで新機軸を出して成功するのを、非難するのは間違っています。
努力せずに才能もないのに親の7光で格差があるのはおかしいですが、努力が成功した結果の格差発生が悪いことのように非難されるのは不思議です。
実はオートメ化・IT化(ソフト関係者の取り分)、ロボット化、資本家その他いろんな業種内で、勝ち組負け組が起きているので業種別に言えない時代・・業種内競争・・業種内格差拡大時代が来ていると言うべきでしょう。
実は労働者内でも分化がもっと早くから進んでいます。
正規・非正規の分類がその代表ですが、その前から公務員と大手中小従業員の違いホワイトカラーとグレーカラーの違い、サービス業と製造業従事者の違い、専門職でも医師や弁護士等と職人との違いなど色々と分化して来ました。

労働分配率の指標性低下2(省力化投資と海外収益増加)

6月24日の日経新聞「大機小機」の主張を引用しておきましょう。
「・・・第二次安倍政権誕生と同時に始まった今回の景気は拡大56ヶ月を迎え、経常利益は史上最高を更新し、産業界は好況を享受している。雇用報酬は横ばいで民の暮らしは豊かになっていない。今回の景気は[産高民低]だ。・・「消費低迷の背景として人口減少や社会保障の将来の不安、デフレマインドの定着などが上げられている。だが、注目すべきは労働分配率が今回の景気回復局面で急低下し・・・たことだ」「労働分配率の低下は先進国共通の傾向の現象だ」「・・労働分配率が変わらなければ・・消費も多いに盛り上がっていた筈だ・・昨今の先進国の消費低迷と低成長の背景ではないか」
と書いています。
労働分配率は国内総生産に寄与した関係者間の分配の問題であり、企業の好況は海外収益を含めた概念ですから、この比較するのはすり替え的で論法です。
労働分配率については、以下に簡潔に解説されています。
http://www.shimoyama-office.jp/zeimukaikei/keieisihyou/keiei7.htm
労働分配率とは、付加価値のうち人件費の占める割合をいいます。
労働分配率=人件費÷付加価値
付加価値とは、企業が生産、販売等の活動により、新らしく生み出した価値をいいます。 簡単にいえば、材料を1,000万円購入し、工場で製品を製造し、その製品を5,000万円で販売した場合、付加価値は5,000万円-1,000万円=4,000万円となります。
付加価値の計算方法は、主に次の2つがあります。


このように、付加価値とは言わば粗利であって加工するための間接・直接のコストが入っています。
中国がGDPアップのために需要無視でドンドン公共工事していてもGDPだけは増える関係です。
上記の通り控除方式では、製品にするための工場設備等の経費が控除されていませんから、付加価値には昨日書いたように機械設備の費用が含まれている・・設備費用が多くなればなる程付加価値に占める労働分配率が下がる関係です。
加算方式の場合にも、機械設備等のコスト等は金融費用や減価償却費等として加算されますから同じです。
先進国であれば機械設備投入比率が上がり労働力投入量を減らすのが普通→付加価値に占める労働寄与率が下がる→労働分配率が下がります。
また豊かな先進国では企業の海外展開に比例して個々人も金融資産が増えているので、消費力は個々人の金融資産や知財収入等を含めて総合的に考えるべきです。
労働分配率は国内で付加価値を創造した分・・GDPの分配率の問題であって、海外収益どころか国内収益・企業収益とすら直截リンクしていません。
GDPは利益と関係がない・・中国で言えば需要無視の鉄道や道路マンションをいくら造ってもGDPそのものは増えます。
GDPが重視されたのは、無駄な投資をする企業や国はないと言う暗黙の前提があったからです。
自由市場で競争する企業でも見通しを誤って無駄な投資になる場合がありますが、その代わり市場から手痛い報復を受けます。
中国の場合市場競争がないので政権が続く限りソ連と同じで無駄ワオ強制できますが、長期的に見れば、「無駄なものは無駄」・・国民の損失になるでしょう。
国際比較の知能テストや学力テストでも、予め生徒に問題を練習させておくような不正をする国がない信頼で成り立っていますが、これをやる国が増えると国際比較が成り立ちません。
労働分配率に戻しますと利益ではなく設備等のコストを含めた概念ですから、喩えば、IT化やロボットや機械設備投資の結果生産量が5倍になっても労働者の寄与率は下がることはあっても上がることは滅多にありません。
設備の合理化で生産量が5倍になった結果支払う相手の大方はロボットや設備投資代金であって、労賃をこれに比例して増やすのは無理があります。
「労働分配率低下が先進国共通の現象」と言うのは当たっているでしょうが、設備投資等が増えれば付加価値に人件費率が下がるのは当たり前・・それと消費停滞とは直截関連しません。
コストが人件費だけの労賃がほぼ100%の社会(極端な場合、いくら働いても海外から収奪される植民地社会)と国内生産は機械化が進み、国内生産が減ってもその代わり海外収益に頼る割合が高くなる・個人金融資産の蓄積の大きい先進国社会との違いを無視しています。
共産党系のスキな搾取論を言うならば、国際的比較では今でも成り立つ議論のような気がします。
先進国が自国内労働・国内生産以上の生活を出来ているのは、その差額分を(知財・金融その他の名目で)「後進国から搾取している」からと言う論拠の1つとしては意味があるでしょうが・先進国内の所得分配論としては、時代錯誤論です。
先進国では、産業間(業種内の業態) 格差こそが問題でしょう。
古くは1次産業〜2次産業〜3次産業への移行(場所的には都市から農村への所得移転策がその1形態です)が重視されましたが、今は同じ2次産業でも重厚長大から軽薄短小へ程度の大まかな振り分けから、部品系の消長に移っていますし電子機器からIT関連へともっと細かな分類が必要な時代です。
ロボット産業と言っても分野別にいろいろです。
部品と言ってもどんどん進化して行くので電池のように元は機械等の構成品に過ぎなかったものが、今や電池の中の細かな部品を作る企業が部品業界であって、電池は完成品扱いではないでしょうか。

労働分配率の指標性低下1(省力化投資と海外収益増加)

働き以上の高給取りが100人減れば、その分製品コストが下がり国民全般が物価下落の形で受益し、業種的には利益率が改善される資本家やIT関連やロボットその他の製造装置販売関連が受益していることになります。
資本家や金融のプロ、IT技術者の高額受益は税として還元する・インフラ整備や図書館や文化施設・社会福祉資金になっているのが先進国ですが、生活保護やフードスタンプなど恩恵の配給のレベルアップよりは自分で稼ぎたい人が多いでしょう。
以前から書いていますが、同じく月30万円で生活する場合に、福祉支給によるのではなく、自分の働きで生活したいのは正しい欲求です。
従来同一企業内だけで労働分配率を議論して来たのですが、新たなパラダイム発生により今やサービス業と製造業・IT、ロボット産業・製造装置製造業界・配送関係などの異業種・社会内で調整が行なわれる必要が生じて来たと思われます。
6月24日日経新聞朝刊17p「大機小機」では、従来型分析・・労働分配率低下を重要指標として先進国共通のマイナス動向であるかのように論じています。
これまで書いて来たように、世界の工業基地として国内需要を満たすだけではなく世界への輸出分を含めた生産基地であった先進国では、プラザ合意以降日本を先頭にに東南アジアその他で生産しての迂回輸出が始まり、次いで2000年代にはいると消費現地生産が主流となって来た結果、輸出向け分の生産が縮小して行きその内逆輸入が始まれば、国内生産がジリジリと縮小傾向をたどるようになったのは当然です。
ただし、日本の場合最終品組み立て工程を新興国へ移したのみで部品等を輸出する産業構造に変化した結果、製造業はアメリカほど大きく衰退しませんでした。
それでも、濃く汗院のジリ貧が避けられないのでリーマンショック直前頃・・05/26/07「キャピタルゲインの時代17(国際収支表2)」のコラムで約10年間の国際収支表を紹介したことがありますが、今後キャピタルゲインの時代が来る//当時で年間約18〜19兆円の国際収支黒字の約半分が貿易黒字で残りが所得収支黒字でした。
そして現在では、昨年も約20兆円の黒字でしたが、その殆どが所得収支の黒字であって貿易黒字はあったりなかったりの繰り返しでほぼゼロ→17年5月の発表では貿易赤字でした。
このように国内生産による稼ぎはジリジリと減っている状態です。
2007年5月のコラムで儲けの半分が所得収支(海外からの利子配当所得)になっている以上、プラザ合意以前の輸出(国内生産)だけで稼いでいた時代に比べて、国内生産による儲けが減っているのだから、企業利益に対する国内労働に対する労働分配率が減るのが当たり前・・資本収入が多くを占める時代が来ると言う意見を書いたことがあります。
今年の5月13日にも書いています。
企業も儲けの海外比率が上がれば上がるほど、国内労働の寄与率が減っているのだから、国内労働者に対する企業収益との比較では労働分配率が下がるのは当然です。
比喩的に言えば、海外生産による儲けが1000億円で国内生産の儲けが100万円しかない・・収支トントン・あるいは100億の赤字であるが、過去の蓄積による配当や知財等の収益(営業外利益)及び海外収益の送金で何とかなっている場合、国内労働者に海外儲けの6〜7割も配れないでしょう。
トヨタなど海外収益の大きい企業の場合国内製造業の単体では、仮に90単位しか賃金を払えないのに海外収益や知財・金融利益などによる穴埋めによって100の賃金を払っているパターンが考えられます。
アメリカではその地域がダメになればゴーストタウンにして移転して行き、職人の技能が引くkレバベルトコンベアー方式で対応する何ごともアンチョクです、新興国の方が人件費が安いとなれば、国内に踏みとどまって何とか生き延びようとするよりは研究開発部門を残すとしても労働現場は人件費の安いところへ移転してしまうドライ・安易な生き方ですから、日本のように部品輸出で生き残るという工夫が乏しかった印象です。
この4〜5日の動きでは、トランプ氏の迫力に脅されて今年1月頃にメキシコへ工場新設中止発表したフォードが小型車フォーカスの生産を今になって中国生産に移管し、より大きな工場新設を発表したことが話題になっています。
今朝の日経新聞1面の春秋欄では、トレンプ氏の威光のかげりを反映しているとも言われていますが・・。
トヨタに代表されるように日本では、国民・同胞の生活維持が第一目標ですから、何が何でも国内工場を温存しながら海外展開する工夫・・これが部品輸出に転機を見いだしたのですが、アメリカでは丸ごと出て行くので、製造業従事者が極端に減ってしまい低賃金のサービス業従事者が増えてしまいました。
企業が(社内失業を)抱え込まない社会・・アメリカでは給与としては生産性以上を払えないが、国全体で見れば放置出来ませんので、後進国から大手企業や金融等の分野で配当金が入って来るのでこれを税金で取って分配する・社会保障資金になっている面があります。
例えばGMが中国で儲けたと言っても国内GM工場労働者に国内生産性以上の給与を払ったり余計な人員を抱え込まない・・失業者がいくら増えても企業利益は税で政府に収めればそれで責任を果たしていると言う考え方でしょう。
こうなると本当に海外収益を国内還流しているか・・法人税の実効性が重要になって来るので、税逃れ・タクスヘイブンが大きなテーマになって来たと見るべきでしょう。
先進国では多かれ少なかれこう言うパターンになっていますから、企業利益増大に比して労働分配率が下がる一方に決まっている・・労働分配率低下を社会正義に反するかのように主張する論法は経済実態にあっていません。
そもそも、労働分配率の議論は従来の定義では企業の儲けを基準にするのでははなく、国内付加価値.総生産・GDPに対する労賃分配率を言うものですから、海外での儲けが増えていることとは関係がない議論です。
24日日経の「大機小機」は、全体の基調としてアベノミクス以来企業の好況(海外収益を含めた概念)が続いているのに労働分配率が下がっているから消費が盛り上がらないと言う紛らわしい論旨を展開しています。
海外収益増加による好況の場合には国内労働者はその収益に関係していないのですから、企業全体の収益増に対する国内労働者の配分比率が下がるのは当然です。
国内収益100%の企業が10%売り上げ増になれば、その増収増益に寄与する労働者がほぼ10%増えるとすれば比例関係です。
しかしこの後で書くように国内完結企業でも、増収に寄与する労働力量が変わらず最新機械設備やロボット導入あるいは画期的新製品開発による場合もあります。
これらの場合、増収増益による収入の大半は機械設備・発明対価等の代金に消えて行くのであって、機械化等によって現場労働者が逆に2〜3割減ることが多く労働寄与率・分配率は逆に下がります。
消費力のテーマであれば、高齢化が進むと高齢者の労働収入は減っているが、現役時代に蓄えた金融資産による収入・・海外債券を含めた金融収入その他と年金等が収入の大部分を占めているのですから、年金生活者が好景気で月に10万円でも働くようになると、消費力は働く前に比べると大幅増になります・・労働分配率と何の関係があるでしょうか?
企業の好況と個人の消費力を比較するには労賃の増減だけはなく個人金融資産の増加率を含めて比較しないと意味がないでしょう。
多くの若者が少額でも株式等への投資できる制度が出来ていて若者ですら、証券投資している時代です・・そして日本全体では世界中から利子配当等の所得が年間20兆円近くあるのですから、金融資産・知財収入その他を見ないで労賃だけ見ても実態が分りません。

サービス社会化5→低賃金化1

中進国・近代工業製品がある程度行き渡っている社会での消費レベルアップには、文化力の裏付けが必要です。
これがない限りパクリ文化ではどうにもならない限界・・先進文化圏の日本へ旅行するしかない状態に陥っていると見るべきでしょう。
東南アジア諸国の人が日本へ旅行に来るのは、日本の地方の人が東京や京都へ旅行するような気持ちなっていると書いて来ましたが、豊かになれば文化発信地の魅力が高まるのは必然です。
17年3月18日にちょっと書きましたが、量から質への転換にはより良い物を受容すべき文化力が必須です。
一人二人の傑出した芸術家が理解するだけではなく、これ受入れる庶民大衆の底力・民度が重要です。
国民を貧しくしておいてこれをイキナリ求めるのは無理があるので、中韓は手っ取り早い内需拡大策・・民度を問わない住宅ローン拡大・・不動産バブル拡大に方向を定めて来たように見えます。
アメリカも建国以来のニワカ成金社会ですが、民度の低さをカバーするために大きな家(自宅にプールがあるなど)を建て、世界中から美術品を買い集めて誇る傾向がありましたし、日本でも土地成金が先ずやるのは自宅の新築でした。
これを韓国の金融事情から見ておきましょう。
内需拡大どころか、庶民債務が急膨張している状態が明白です。
債務膨張・・将来への不安や不満爆発が、朴大統領弾劾騒動の底流でしょう。
http://ameblo.jp/katsumatahisayoshi/entry-12225329042.html・16年12月9日付けによれば以下のとおりです。
『朝鮮日報』(11月25日付)は、「家計債務、1世帯平均1000万円、29%が債務増」と題して、次のように伝えた。
(4)「15年の家計債務が前年比で増えた世帯では、1世帯平均で1億1000万ウォン(約1050万円)の債務を負っていることが分かった。韓国開発研究院(KDI)が発表した報告書によると2015年に、14年よりも家計債務が増えた世帯は全体の29%で、平均4470万ウォン(約426万円)の増加だった。家計債務が増えた世帯の平均債務は、14年初めの6600万ウォン(約630万円)から、15年初めには前記のように1億1000万ウォン(約1050万円)に膨らんだ」。
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf2016年第3四半期の資金循環(速報)
上記のとおり日本の場合「日銀16年9月末の統計によると家計金融資産残高は約1750兆円」で増える一方ですが、韓国では逆に借金まみれです。
一世帯1000万円の借金と言っても、韓国と日本とは所得水準が違う上に韓国は財閥で知られるように超格差社会ですから大金持ちには借金がなく庶民に借金が多いのが普通ですから平均の報道では実態は分りません。
日本でも金融資産1750兆円の合計よりは、分布を知りたい点は同じです。
分布と言ってもメデイアのスキな富裕層が何%と言う抽象的分布ではなく、たとえば、個人資産50〜100万の人が何人、100〜200万円の人がおよそ何人2〜300万の人が何人と言う分布です。
これを公表してくれれば、それを見た人が自分の判断でいろんな組合わせで集計して考えられます。
これがないので・・公表されているかも知れませんが私のようなネット弱者には簡単にアクセス出来ないので、1週間ほど前に書いたようにネットニュースでは、自己の主張・報道事実が虚報(最近虚報や歪曲報道による世論誘導リスクが高まっている点も考慮して)でないことを示す意味でも、(財務省◯◯の発表によれば・・などと言うときには)直ぐにもとのデータに飛べるようにリンク先を表示しておくべきです。
ここでは、ナマのデータ不明のママ、韓国では財閥系との格差社会と言う抽象論を前提に意見を書いています。
中国は国有企業債務を増やしても国民の給与は減らさない・内需・・クルマ販売など好調を維持していますが、韓国はそんな余裕が無いので、マトモニ庶民の債務膨張・懐直撃と言う違いでしょうか?
中国は国民を大事にするしかない・大量失業は政権転覆リスクですから不動産バブルであれ、とも角雇用維持・・経済破綻先送りに必死ですが、韓国の場合大多数の大手企業が外資に握られている点が大違いです。
企業・資本家・外資としては、国民がどうなろうとも、赤字なのに債務超過・配当を我慢してまで給与を払うインセンチブがないでしょう。
韓信海運のように雇用やクニの信用等を守るより、あっさりと破産させてしまうドライな経営です。
ここで2017/03/19「サービス社会化4とバブル1」まで書いていたサービス社会化のテーマに戻ります。
アメリカの製造業雇用数減少に戻しますと、先進国の場合中国の解放以来新興国へ製造基地移動の流れが起きたのと平行して先進国内自身でも工程の合理化・・全自動化やITの発達でドンドン工程が省力化されて行く・・工員や中間管理職が不要化しつつあります。
1〜2年前でも鹿児島県だったかで、工場誘致してもホンの数人〜10人程度しか雇用がいらないと言う報道がありました。
農業も水田その他大規模化・・合理化すればすればするほど、従事人口が減ってしまうジレンマがあると言う秋田県知事だったかの話が何年か前に出ていました。
大量雇用の製造業が機械化して労働力不要化して行くと、大量雇用の受け皿になれるのはいまのところ、サービス業くらいしかありません。
この辺は、先進国、中進国を問わず世界共通の構造的大問題です。
金融のプロや学者、IT技術者も一定数必要ですが、製造業から吐き出された何千万人も入らない・・ここでは、圧倒的多数の職場を書いています。
従来1000人の工員が働いていた工場が労働者5〜10数人で済むようなれば、その利益を資本家が受けるほか、IT化やオートメ化製品製造業者や製品単価下落で消費者も恩恵を受けます。
デフレ圧力を「良いじゃないの」と言うと経済学を理解していないとバカにされそうでみんな黙っていますが、合理化による単価下落・品質向上は一人当たりより良い生活が出来て良いことです。
新幹線料金が目玉が飛び出るほど高くて大金持ちしか利用出来ないよりは、料金が下がって庶民も使える方が生活水準が上がることが明らかです。
世界の工場機能が先進国から新興国へ順次移転して行く場合も、先進国消費者は価格下落の恩恵を受けています。
平均賃金が前年比同でも物価が1割下がっていれば、国民の生活水準がⅠ割上がったことになります。
元々のサービス業従事者にとっては、前年比同または何%か収入が上がっている場合、不満がありません。
物価が1割下落してもサービス業への転職による収入減がそれ以上に大きい人から見ればこの不満が大きく格差反対論の原動力になります。
中間管理職で年収1000万超だった人が、希望退職に応じて年収数百万のサービス業従事者になるとその格差に精神的にも耐えられないでしょう。
日本では中間層の追い出しを激しくしていません(定年退職を待って次の補充を減らすやり方が主流です)ので、この種の人がアメリカほど多くないことから格差反対論が広がらない原因です。
働き以上の高給取りが100人減れば、その分を国民全般が物価下落の形で受益し、業種的には資本家やIT関連やロボットその他の製造装置製造販売関連が受益していることになります。

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