格差修正37

弱者保護という名目の労働者保護が行き過ぎると、企業が国際競争力を失う結果、失業率の増大となって労働者に跳ね返って来るのが目に見えているのですから、総合的な結果に責任のある政治が要請されます。
衆愚政治下では、全体をどうするかの視点を欠いたまま、国際競争力低下による失業者増大に対しては失業保険の給付期間を長くしろ、生活保護・社会保障を充実しろという方向へ進み易いのですが、その負担をする元気な企業がなければ、これも続きません。
ギリシャやアメリカでは、不足分を海外からの借金で賄って来たので、弱小国のギリシャでは取り付け騒ぎが起きているのですが、借金が増えることだけが問題ではありません。
借金してでも高額賃金や高額社会保障を維持していると借金を増やし続ける訳には行かないので・・あるいは借金増を少しでも少なくするために国内企業にその負担をさせる方向になります。
今国会の増税路線もそうですが、財政が赤字になると国内に残った企業・国民・・取れる所からとろうとするのが普通の方向性です。
ギリシャの場合も緊縮だけではなく増税路線とセットになると、企業は(売上減の負担増ですから)二重苦になります。
この点は我が国でも同じで現在の世界標準と乖離した我が国の高率の法人負担問題の基礎構造です。
高負担の動きが強まると中国等に対する比較高額賃金に対して何とか対処して辛うじて国内に踏みとどまっている企業まで、高負担に耐えかねて逃げ出し始めます。
こういう流れになると負担者がさらに減って行き借金が雪だるま状になって行き、お先真っ暗です。
年金問題で最近書きましたが、少子化による納付者減よりは正規雇用の減少による年金負担者の減少が基本にあるのと同様に、社会保障全体の担い手・・企業が減って来ると残った企業に過大な負担がかかり・・国際競争力阻害要因になります。
ギリシャでは有能・元気のある方から順に国民の海外脱出騒ぎが起きているだけではなく、国内優良企業が逃げ出す方向になっていると報道されています。
労賃・社会保障水準は閉鎖社会の時代と違い、国際競争力の問題として考えなければ持続性がありません。
失業率が上がり受給者が増えるときには、(大勢で分配することになれば保険・拠出制度ですから拠出額が一定とすれば)逆に給付率を下げないと制度を維持出来ないので資金が不足します。
(衆愚)政治の世界では逆に「大変な時代だから給付期間を長くしろ」などと保障内容を引き上げる要求が強くなります。
失業給付や社会保障給付が増大すれば、誰がその資金負担するのかを考えて適正な水準に抑えないと却って失業者が増え続けてしまいます。
国内に残った企業の負担率(税や保険)を上げる一方では、高賃金に困った企業がせっかく人を減らして効率化したのに今度は減らした人の生活の面倒を見ろとばかりに失業保険等の高負担を求められると何のために余剰人員削減で事業の効率化を図ったのか分りません。
現役労働者の賃下げが出来ない社会構造を前提とする限り、(これがおかしいのですが・・・いくら批判しても簡単にあらたまらない風潮ですからその点を措くとした場合)新規参入者の非正規雇用化の拡大・どの程度の比率まで容認するか・その処遇についての議論は、円高・デフレ進行による実質賃金上昇に対する調整方法として、新規採用分の非正規雇用化によってどの程度まで国内総人件費調整効果を容認するか、高失業率をとるかの選択問題です。
非正規雇用の待遇改善としてドンドン各種強制負担を増やして行くと、人件費調整効果が減殺されてしまうので、企業にとってはいよいよ海外脱出への誘惑が強くなります。
非正規雇用の待遇改善は、(同じ日本人を分断するのは良くないことですから・私も待遇改善には賛成ですが・・)正規雇用の賃金引き下げとセットにした政策としてその中間で収めるようにすべきです。
既得権の高賃金をそのままにして非正規雇用の待遇改善だけの政策では、既にアジア近隣国の10倍単位の高人件費負担に苦しんでいる日本企業にとっては、我慢の限界を越えてしまうリスクがあります。

構造変化と格差36(衆愚政治1)

非正規雇用の待遇改善を国内労働問題として理解して、要求を強めれば強めるほど人権擁護になるという単純な発想は、現在では国際的な経済一体性が強まっていることを理解しない過去の思考形態です。
弱者救済というかけ声ばかりで日本全体の経済をどうするかの視点がなく、目先の痛みを避ける政治ばかりでは国の将来がありません。
弱者の声が小さい時代には、要求出来るだけ多くしていれば少しは聞き入れてもらえる時代が長かったので、庶民や下々は声が大きいことが美徳のような時代が長く何の問題もありませんでした。
労働者の団結権その他労働権は対等に議論出来ない弱者を前提にしている制度です。
本当の弱者が大きな声で、街頭デモをして大きな声で誰それは辞めろと叫んでいても大目に見ていれば良いのですが、強者が誰か個人非難をしてビラなどを貼るのは穏当ではありません。
紅衛兵運動でも分るように中国では官製デモが基本ですが、こういうやり方は陰湿です。
庶民が何かの組織責任者になってみれば分りますが、責任者・・一定の決定権を持つ立場になると自分の要求を控えめにしないとうまく組織を維持出来ない立場になります。
民主化が進むと、庶民は庶民のままで政治決定の主役になりますから、庶民も権力者・責任者になったつもりで要求を控えめにしないと国家運営が成り立ちません。
権力を握ったものが組織のためよりは自分の利益優先では、組織が持たないのはどこの国・社会でも同じでしょう。
企業内でその企業がつぶれても良いような運動をしていたのでは困るように、国民も自分の国がどうなっても自分の給与さえ上げてくれれば良い・生活保護費を上げてくれたら良いと言う意見で政治権力を行使するのでは困ります。
国政運営者としての自覚のない人たちの意見が政治決定を左右するようになると、いわゆる衆愚政治が始まります。
現在の政治の迷走は(ギリシャに限らずどこの国でも・・)国家的視点ではなく弱者と称する人たちの大きな声(税金や公課を負担したくないが保障は充分に求める)に選挙に弱い政治家が右往左往しているところにあります。
言わば庶民が政治の主役になってから年数が浅い(どこの国でも戦後数十年のことでしょう)ので、どのように政治権力を行使して良いかの訓練を受けたことがないのに、個別問題に口出しをするようになれば、民主国家の政治が迷走し始めるのは当然です。
中曽根元総理は「声なき多数」・・サイレントマジョリティーを強調していたことがありましたが、今では、多数が全体に責任を持たない意見を主張する傾向が出て来ました。
我が千葉県弁護士会でも、ここ数年執行部提案がことごとく否決される事態が続いています。
会員が急激に増えたことによる事務量の増加に対応するには、事務室の拡大・・会館の建替えか移転・借りるしかないのですが、ここ数年「ああでもない、こうでもない」という反対論ばかりで毎回否決されています。
私はタマタマ日弁連選管委員のために総会と同時進行の選挙事務立ち会いのために別室での職務があって殆ど議論を聞いていないので議論の詳細は不明ですが、結果として重要なことが決められない状態が何年も続いています。
野球などスポーツの世界で比喩すれば、民主化のためと言って監督経験のない選手が何十人も集まって監督の采配に注文を付けているようなもので、良い結果になりません。
我が国には、「船頭多くして船山に登る」という警句があります。

構造変化と格差35(円高差益還元1)

アメリカや韓国みたいに極端に市場経済化一辺倒で非正規雇用を増やして賃下げを実現するのはどうかと思いますが、我が国のやり方はすべての分野で時間がかかるものの微温的変化でこの程度は円高進行によるデフレ(実質賃上げ効果)と相俟って忍耐の範囲と言うべきでしょう。
我が国はこの後で書いて行きますが和魂洋才・・欧米価値観に真っ向反対することも出来ずある程度合わして行くしかない社会ですから、ま、付き合いとしてこんな程度と見るべきでしょう。
本来の「絆」、痛みの分ち合いであれば、既存労働者も円高差益分の給与引き下げに応じてみんなが就職出来るようにするのが理想的ですが、絆が大切とは言うものの自分の給与下げは1円でも応じたくない人が多いので、自然退職を俟って新規採用を抑える・・必要分は非正規雇用化して解決するしかなくなっています。
今回の大震災でも絆が大切と良いながら、そのための増税・・廃棄物引き取りはいや・・と言う人が多いのが困ったところです。
為替相場によって経済が振り回されないようにするには、円安になればその分賃金を引き上げ、円高になって実質賃金引き上げになった分を自動的に引き下げるのが合理的です。
(電力料金が為替・原油相場で自動変化する仕組みが大分前から導入されていますので賃金も技術的に出来ないことではありません。)
これをしないまま差益を取り得にしておくことに無理があります。
これまで何回も書いているように、為替相場は上がっても輸入品が下がるなど経済的には中立ですが、国内に差益のあるグループと差損のあるグループが生じて、その調整が出来ない・・不公正を放置する前提だから円高が企業に不利に働くのです。
円高傾向のときには従業員が円高差益を懐に入れて企業が損する仕組みですが、ここを抜本的に正常化することが必要です。
これが正常化しないままに放置するのは、一種の不公正の放置ですから、公正さを求めて差損のある企業は海外に逃げるしかなくなってしまいます。
企業が逃げると雇用が減る・・ひいては社会保障給付を受ける人が増えるのに負担する現役労働者が減る→いよいよ企業負担が増える→海外に逃げる企業が更に増える悪循環でこのままでは国力が疲弊する一方です。
年金や社会保障の赤字の大きな原因は、年金や保険料の支払い者不足に帰する・・その原因は少子化というよりは失業者増(支払者から失業保険や生活保護受給者への変換・子供手当など受給者増)ひいては正規雇用者減(支払者減)にあることは明らかです。
この点に着目して非正規雇用にも保険加入を義務づけようとする動きが出て来たのですが、企業にしてみれば、正規雇用と同じ負担では人件費比率が高まってしまいます。
企業にとっては既存労働者の給与引き下げ出来ない分非正規雇用者と混ぜることによって全体で人件費比率を引き下げようとして努力してきた意味がなくなります。
正規・非正規の格差をなくすためには、(正規の水準を非正規に合わす・・あるいは双方賃金が歩み寄るなら問題がありませんが・・)全体として円相場に対応した給与水準の連動制度を作らない限り無理・・海外脱出しかなくなってきます。
たとえば毎年4月1日あるいは半年経過ごとに、前期の円相場を(計算の仕方はいろいろでしょう)基準に自動的に前期末給与を改訂し、これを基礎にしてベースアップするかしないかを企業の業績ごとに自分たちで決めて行けば公平です。
為替連動性にすれば円相場に企業が一喜一憂する必要がありませんし、円安期待やインフレ期待など無駄な(非生産的)議論がなくなります。

構造変化と格差34(社会保障負担)


ちなみに中国で昨年から賃上げ要求のストライキが頻発していますが、最も工業化の進んだ広東付近でのことですが、報道によると月給2〜3万円程度を一割近く上げろという要求が中心だったのですから、今でも我が国の工場労働者の10分の一以下くらいの水準でしょうか?
月収だけではなく我が国はボーナスその他が手厚いので(年金や退職手当)月収や年収だけでは一概に言えませんが、年収に直すと我が国の正規雇用者の平均年収は4〜500万円程度ではないでしょうか?
ここで念のために平成12年2月発表の賃金センサスを見ておきましょう。
賃金センサスは学歴や年齢・男女別・企業規模など細かく分類されているので(・・交通事故損害賠償などで実用的に弁護士が使っている統計ですが、この場合、具体的職種が重要ですので細かく分類されています)一概には言い切れませんが、全産業平均を見てみると4〜500万見当が妥当な印象です。
ちなみhttp://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/IssituRieki/Chingin.html「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)による「平均賃金」」は、平成22年分まで見易く加工しているので、これによると全産業男女学歴計では年収466万円となっています。
ギリシャ・南欧経済危機問題は、新興国の台頭による国際競争に落ちこぼれた結果、国内の失業救済のために政府が介入して公共工事や福祉等に精出して来た結果ではないでしょうか。
賃金を国際競争力以上に高止まりさせて、その結果増えた失業者を従来の高賃金をベースにして政府が面倒見る政策は、せっかく国内に残っている国際競争力のある元気な企業に対する(税だけではなく保険名目の)高負担を強いることになります。
高賃金の従業員をせっかく技術革新等で削減しても、失業保険や各種社会保障負担がその分増えるので、国内企業の負担は6割にしか減りません。
例えば1000万人の国内労働者を事業効率化あるいは海外展開によって、100万人減らしても、企業には失業保険として6割の給付負担が残る計算です。
直接には、個々の企業にとっては失業保険掛け金はみんなで負担するので率はもっと低いのですが、国全体で6割給付しているから国全体・全企業では6割負担になっています。
しかも不況長期化に比例して失業保険給付期間の延長傾向になります。
同じことが年金や健康保険すべてで始まっているので、ここ20年近く保険等の掛け金率(企業負担率)が0、何%ずつで、増税とは言わないでマスコミも問題にせず水面下でジリジリと上がる一方です。
例えば千葉の例で言うと協会健保(中小企業中心)に関しては平成22年度は8、17から9、31に上がり、23年9、44%、24年4月までは9、44%だったのが9,93%まで上がりました。
このように厚労省が簡単に負担率上げが出来ない国保・国民年金(雇い主がいませんので・直接国民相手です)で、赤字化が進行して大騒ぎになっているとも言えます。
国民や企業にとっては保険と名が着こうが強制的にとられる点では税と本質的には変わりませんが、税でないので、国会で(厚労省に一任した法律は当然あるでしょうが)毎回の議決なしに厚労省が勝手(勿論審議会等を経て大臣認可方式ですが・・)にいくらでも上げて行くような印象です。
マスコミは企業負担としては法人税を問題にしていますが、社会保障関連負担の増加も大きな問題です。
円高で苦しんでいる企業の負担ばかり増やしているのでは、却って元気な企業もつぶしてしまうか海外脱出を加速させてしまうので早晩無理が来ます。
元気な企業でさえ海外に逃げる状態では国内新規開業は減る一方となります。

構造変化と格差33(新自由主義7)

インフレ待望論者は、基本的には円安待望論と重なっているのですが、貿易赤字待望論は一人もいないのですから、円キャリー取引のようなイレギュラーな事態を予定しない限りマトモな主張とは言えません。
経常収支黒字の積み上げ→円高→実質賃金率引き上げになる関係ですが、黒字が続くということはその円相場でも黒字を稼げる企業の方が多いことになります。
(特に日本の場合、資源輸入による円安要因が働くので加工品の競争力に下駄を履かせてもらっている関係です・・2011年には原発事故による原油等の大量輸入で貿易赤字・円高が修正されましたが、製造業の競争力がその分上乗せになる関係です)
黒字による円高で悲鳴を上げる企業は、国内平均生産性に達していない企業のこととなります。
(この辺の意見はかなり前に連載しました)
生産性の高い企業が一定水準の円相場でもなお輸出を続けると貿易黒字が続きます。
その結果更に円高になりますので、これについて行けない・生産生の低い順に国内人件費の実質アップを回避するためには海外移転して国内高賃金雇用を避けるしかありません。
生産性の低い企業が海外工場移転した分、国内雇用の需要が減る→その結果国内労働市場では需給が緩み労働者の経済的立場が弱くなるのは当然の帰結であり、これはまさに経済原理・正義の実現と言うべきです。
労働者は自分の生産性を上げない限り(中国等の10倍の人件費を貰う以上は10倍の生産性が必要です)円高の恩恵だけ受けて痛みの部分を受入れないとしても、時間の経過でその修正が来るのは当然・正義です。
ところが人件費に関してはストレートに円相場の上下率に合わせた賃下げが出来ないので、その代わり経営者としては労働者を減らして行くしかありません。
既存労働者の解雇は容易ではないので、新規採用をその分抑制する・・あるいは新規工場を国内に設けずに海外に設ければ、現役労働者を解雇しなくとも新規労働需要が減少して行きます。
大手企業・・例えばスーパーやコンビニを見れば分るように大量店舗閉鎖と新規出店の組み合わせで活力を維持しているのですが、新規出店分を海外にシフトして行けば自然に国内店舗・従業員が減少して行きます。
大手生産企業も新規設備投資とライン廃止の繰り返しですが、新設分を海外にシフトして行くことで新規雇用を絞っています。
新規雇用に関してはこうして需要が減る一方ですから、現下の社会問題は、既得権となっている高賃金労働者の保護が新規参入者にしわ寄せして行くことになっていることとなります。
(この外に定年延長による新規雇用の縮小問題は別に書きました)
既得権保護・・これをそのままにすれば新規参入者が狭き門で争うことになります。
・・減ったパイを少数者が独り占めよりはワークシェアリングとして、短時間労働者の増加・・大勢で分担する方が労働者同士にとっても合理的ですし、短時間労働者は需給を反映し易いので企業にとっても便利なので新規雇用分から少しずつでも非正規雇用に切り替えるしかなくなって行きました。
この結果正規雇用が減って行く・・中間層の縮小となりました。
海外移転が急激ですと急激な雇用減少が生じますが、非正規雇用の増大はこれを食い止めるための中間的選択肢(・・一種のワークシェアー・・あるいは給与シェアーと言えます)の発達とも言うべきです。
解雇権の規制を厳しくして既存労働者の保護がきつくする(定年延長論もこの仲間です)ばかりで、他方で非正規雇用を禁圧あるいは白眼視・・何かと不利益扱いすると、却ってこれによって国内に踏み留まれる企業まで出て行かざるを得なくなるリスクがあります。
非正規雇用→一種のワークシェアーは、急激なグローバル化による賃下げ競争の緩和策になっていることを無視する議論は無責任です。
かと言って非正規雇用自体が良い訳ではない・・若者の未熟練労働力化を放置しているわけにはいかないので工夫が要ります。